番外編

FS超ショートストーリィ・四季の歌・真次郎「春の鳥」

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フォレストシンガーズ・超ショートストーリィ・四季のうた

「春の鳥」

 空を見上げて思わず呟いた。

「幸生、どこにいるんだ?」
「ホオジロですよ」
「ホオジロって鳥ですか?」
「ええ。幸生ってのは?」

 いえいえ、と笑ってみせると、見知らぬ男性が俺の横に並んだ。

「どこかでお会いしたような……あなたもよいお声ですね」
「ありがとうございます」

 怪しい人物ではないだろうし、かなり小柄だから、万が一剣呑な男だったとしても俺が勝つ。

 高原のホテルに泊まり、朝の散歩に出てきて出会った男性だ。おじいさんに近い年頃に見える、登山ルックの男性。彼から見たら大柄な俺のほうが怪しい奴かもしれない。

「本橋真次郎と申します」
「本橋さん……お名前にも聞き覚えがありますが……私はこういう者です」
「ご丁寧にどうも」

 バードウォッチングの会、青葉地区リーダー、青葉滋。もらった名刺にはそう綴られていた。

「青葉って姓なもので、青葉地区のリーダーになれと命じられたんですよ。会社は定年退職しまして、近頃はバードウォッチングが生き甲斐みたいなものでして……」
「いいご趣味ですね」

 アオバシゲルって、バードウォッチングの会の幹部みたいな人間には似合いの名前だ。
 朝の高原には鳥の声が満ち満ちている。青葉さんは鳥の声の聞き分けがつくらしく、あれはアオバズク、あのきーっとした声はカケス、あれはコサメビタキですな、と教えてくれた。

「ホオジロってのは俺の仲間の三沢って男と声が似てるんですよ。カナリアや文鳥の声も似てるかな。いい年した男なんですけど、声は小鳥みたいなんです」
「本橋さんと三沢さん……もしかして……」

 うちの妻がファンなんですけど、フォレストシンガーズの? 青葉さんが恐る恐るといったふうに尋ねる。ちがいますよと言う必要もないので、俺はうなずいた。

「そうなんですね。いやぁ、歌い手さんらしくいいお声だ。妻も連れてきてやればよかったな。本橋さんにお会いできたら卒倒しますよ。お仕事ですか」
「仕事で来て、近くのホテルに泊まってるんです」
「プライベートのときに悪いんですが、よろしかったら……」
「サインですか。喜んで」

 見た、聞いた鳥をメモし、イラストも描かれたノートを開いてもらってサインした。青葉さんが描いたというイラストも達者だった。

「ありがとうございます。本橋さんもリーダーですよね」
「立場は同じなんですね。こちらこそ、ありがとうございます」
「私も妻の影響でフォレストシンガーズを聴くんですよ。三沢さんの声はたしかに、小鳥みたいですよね」
「でしょ? あいつの声帯は成人男性としては特異なんですよね。ところで、鳥ってどうして鳴くんですか?」

 ノートを返すと、青葉さんが話してくれた。
 鳥が鳴く理由はなんとなくは知っていたが、専門家の一種である青葉さんの講義を聞いてみたかったのだ。

「一般的に鳴くのはオスですね。メスへの求愛や縄張りを守るための声で、主に春から夏にかけての繁殖期には、長いメロディの美しい鳴き声が多くなるんです」
「ああ、じゃあ、俺たちの歌に似てるんだ」
「そうですね」

 すると、幸生の声がああなのも特異でもないのか。あいつはナンパの得意な軟派な男なのだから、求愛というか女を口説くためというか、小鳥みたいな声でさえずるのも得意なのだ。妙に納得した俺の耳に、ホオジロだと聞き取れるようになった声が届く。

 ああ、そうだな、おまえも肯定してるんだよな、ユキオホオジロくん。

END









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~ Comment ~

NoTitle

こんばんは。
青葉滋………確かにwバードウォッチングの会の幹部にいそうですね。笑

キャラクターの声ってどう表現したらいいのかいつも迷うので、なるほど~と思いながら読ませていただきました♪
幸生くんの特徴と鳥の鳴く理由がうまく結び付けられていて、読後の後味がとっても良かったです^^

夢月亭清修さんへ

コメントありがとうございます。

「青葉繁れる」って、井上ひさし氏の小説を思い出します。
高久昇さんって方もいましたね。
名前にはこだわりがありますので、けっこう説明してしまったりします。

フォレストシンガーズを書くと決めたときに、彼らはシンガーズなのだから、外見よりも声の描写に力を入れようと思ったのです。
とはいえ、おっしゃる通り、声って表現しにくいですよね。

四苦八苦して、小鳥のような声にたどりついた次第です。
もっとヴォキャブラリーがほしいです。

ユキホオジロw

そうかあ、ユキちゃんの声ってそんなにきれいで高音なんですね。(章よりも?)
ユキホオジロ^^ そういう白いホオジロもいますね。あれはユキちゃんなんだね!
一年中求愛して、さえずってる・・・。なんか想像して笑えてしまいました。
このおじいさんの探鳥ノートに、今日はシンちゃん鳥の観察メモもつくのかな?

ホオジロの声は春っぽくていいですね。
昔の人はあの声を、「一筆啓上つかまつり候」って言ってるように聞こえたそうです。
確かに、そう聞こえるのが面白いです^^

limeさんへ

いつもありがとうございます。

幸生は喋っているときには少年っぽい声ですが、歌うと女の子のような甘い甘い声も出せます。
章は歌っているときも、声は高くても男でしかないって感じ。

キーは章のほうが高いですが、幸生のほうが綺麗な優しい甘い声。
ううう、声の描写ってほんとにむずかしいですよね。

一筆啓上つかまつり候。
だとか、
テッペンカケタカ、って鳴く鳥もいるんですよね。
鳥の声を人間の言葉に置き換える、人間の想像力も面白いですよね。
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