ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「そんなおまえに恋をして」

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フォレストシンガーズ

「そんなおまえに恋をして」

 過日、ライヴの三沢幸生コーナーで幸生が新曲を披露した。そのおまけのような形で歌ったのがこれだ。「そんなヒロシにだまされて」。否、「そんなアキラにだまされて」である。

「おまえが好きだと 耳元で言った
 そんなアキラにだまされ
 渚にたたずむ

 踊りが上手で ウブなふりをした
 そんなアキラが得意な
 エイト・ビートのダンス

 泣いたりしたら いけないかもね
 ディスコティックは 夜通し熱い
 だから一言下さい
 恋の行方はメランコリー
 だからお前はステキさ
 愛が消えてく 横須賀に」

 横須賀出身の幸生なのだから、横須賀の歌を書くのだと言い言いしていた。これはぱくりというかパロディというか、ヒロシをアキラに変えただけだが、横須賀の歌だとは俺は意識していなかった。

 ステージの袖で乾とシゲと俺の三人で、幸生の歌を聴いていた。章はひとり離れた場所で聴いていて、どんな顔をしていたのかは知らない。あとから幸生になにかしら言ったのかもしれないが、俺は知らない。こっちはこっちで三人三様、なるほどだったり、まったくあいつは、だったり、幸生らしいぜ、だったりした。

 ヒロシとアキラ、語呂もぴったり。三文字の男の名前だったら隆也でもいいわけだが、隆也は似合わない。だったらユキオにしろよ。そしたらなんの問題もないのに。

 もっとも、アキラでも仲間なのだから特段問題はない。ファンのみなさまにも受けていたのだから、俺も幸生に小言は言わなかった。

「小粋なリードで私を誘った
 あんな男が今さら
 許せるでしょうか
 
 二人の仲は 永遠だもの
 ジュークボックス鳴り続けてる
 だから彼氏に伝えて
 口づけだけを 待っている
 胸の鼓動が激しい
 サイケな夏を 横須賀で」

 本日はケーブルテレビの録画撮りのために歌っている。この間のライヴで聴きましたよ、もう一度、生で歌って下さいよ、とディレクターにそそのかされて幸生がソロで歌っていた。

 昨今はそもそも歌番組は少ないが、ケーブルテレビにはJ-POP専門チャンネルがあって、積極的にはテレビに出ない、というのか、ヒット番組には呼ばれない我々も使ってもらえる。フォレストシンガーズはテレビ拒否ではないが、テレビよりも生身の我々が伝わりやすい、ライヴとラジオのほうに現在では力を入れていた。

 ケーブルテレビの番組は自由度も高いようだし、なにかの特集という場合もよくある。ライヴの宣伝をさせてもらえることもある。
 今日の番組の趣旨は俺にはわかりにくく、アイドルも出演していた。

「本橋さん、こんにちは」
「ああ、相川くんか。きみはうちの女房と会ったりしてるんだろ。きみのあの、あの曲が好きだって女房が言って……ほら、なんだっけ?」
「なんでもいいですよ」

 子どものころからアイドルには興味がなくて、大人の俳優のファンになったという、大人ぶりたい少女だったのが俺の妻だ。現在では我々のマネージャーであり、マネージャーネームとでもいうべき旧姓の山田美江子で仕事をしているのもあって、近頃の美江子はアイドルから見るとおっかないおばさんであるらしい。

 フォレストシンガーズっていうと説教おじさんの乾さんと、うるさい山田さんと、げんこつを使いかねないリーダーの本橋さんがいる、と若い奴らには敬遠されているふしもある。

 が、この相川カズヤは、フォレストシンガーズのファンだと公言してくれているらしい。そう言ってもらうと俺も嬉しくて話しかけたのだが、カズヤはつまらなそうな顔をしていた。

「えと、ほら、ほらほらほら、ここまで出てきてるんだよ。美江子が好きだって言ったきみの歌……」
「いいですよ、もう。どうせ僕は下手ですから」
「それは関係なくて……そうだ、東京ロマンチカ」
「ええ?」

 なんだよ、それは、と横から乾が口出しした。

「東京ロマンチカってのは昭和ムード歌謡のグループだろ。俺のばあちゃんが好きだった時代のシンガーだよ。相川カズヤくんのヒット曲は、サルサ・ロマンティカだ」
「似てるじゃないか」
「後半は似てるけど……ま、カズヤくんの年頃だと、東京ロマンチカっていわれてもなんにも感じないだろうけどね」
 
 なのだからそのせいで機嫌が悪くなったのでもなさそうだが、カズヤはなんとなく俺を敵視しているように感じる。目つきがよくない。こいつの顔は若いころの章にちょっと似ていて鋭いので、睨まれると俺の性格上、喧嘩売ってんのかよ、と言いたくなるのである。

 十歳以上も年下のアイドルにそんな反応を示してどうする、本橋真次郎、ってなもんで、カズヤの目つきは気にしないことにしていた。そのカズヤが、幸生の歌を聴いて話しかけてきた。

「アキラって木村さんですか」
「いや、そういうわけでもないんだけど……フォレストシンガーズに章がいると知ってるひとはそう思うよな」
「そんなカズヤにだまされて……って歌ってもらってもいいですよ」
「カズヤって誰? って話題になったりして……名前を変えたらたくさんのバージョンができそうだな」

 ふたりして笑ってから、さらっと質問した。

「おまえ、なんで俺を睨むんだ?」
「美江子さんが好きだからです」
「……は?」

 彼もさらっと答え、立っていってしまった。
 相川カズヤが美江子を好き? カズヤって二十一じゃなかったか? 面倒見のいい姉貴みたいな感覚で美江子が好きなのだろうか。

「カズヤくんと「落花流水」で会ったよ」
 だとか、
「カズヤくんが行きたいって言うから、大学を案内してあげたの」
 というような報告は美江子から受けているが、まさかついでに浮気とか? ないよなぁ、ないないない。そんな想像は美江子にもカズヤにも失礼ではないか。

 二十一歳の男と三十五歳の既婚女が不倫をしていて、男は女の夫たる俺を敵視する。ないないない、ドラマじゃあるまいし。

 自分でも言う通り、下手な歌を歌いはじめたカズヤを見やりつつ考える。美江子に訊いてみたら、わかりやすく説明してくれるだろう。
 入れ替わりに戻ってきた幸生が俺の隣に座り、俺は幸生に話しかけた。

「あの歌……」
「そんなアキラにだまされて?」
「こういうの、どうだ?」

 歌ってみるのはまずいだろうから、メモにして幸生に手渡した。

「横須賀に愛が消えていくと
 おまえは言うけれど
 あれは愛だったのか?
 おまえの勘違いじゃなかったのか

 おまえが好きだと耳元で言ったけれど
 愛なんかじゃなかったよ
 俺とおまえには、消えるような愛はなかったから」

 ふむふむ、アンサーソングか、と幸生がうなずき、俺は言った。

「それとも、捨てられたのは俺のほうだろ、って歌詞にするか」
「ヒロシにだまされたって言ってる女は実は悪女で、逆から見た歌詞にするんですね」
「大先輩の持ち歌だから、安易に使うのは無理だろうけどな」

 こっちの会話はマイクに拾われることもないので、幸生とのやりとりに熱が入ってカズヤを忘れていった。

「そんなミエコにだまされて……」
「ミエコにするな」
「そんなキョーコにだまされて」
「シゲが気を悪くするぞ」
「そんなイズミにだまされて」
「泉水ちゃんだったら怒らないかな」

 身近な女の名前をあてはめて、アンサーソングを考える。俺たちはすっかり、そっちの世界に行ってしまっていた。

「あなたが好きだと耳元で言った
 そんなジュンコにだまされ
 渚にたたずむ」

 仕事中なので一旦その会話を中断し、五人でスタジオに戻ってから、幸生が歌った。

「ジュンコはやめてほしいな」
「あれぇ、乾さん? ジュンコって女性にだまされた経験あるんですか」
「ジュンコとヒロシって、一時は日本でいちばん多い男女の名前だって言われてたんだぜ。そんなヒロシにだまされたのはジュンコ、そういう意味で歌ってみたんだけど……」

 ジュンコって女……昔々、そんな名前の女と乾がつきあっていたような記憶がある。けれど、それを言えば五人がつきあったことのある女の名前を全部排除しなければならないのだから、キリがないではないか。

 わざとなのか、章は「そんなアキラにだまされて」については触れず、パロディもしくはアンサーソングの話題に花が咲く。
 
「キョーコにしようよ、それだと平和だよ」
「恭子は面白がるかもしれないけど、俺が歌いにくいよ」
「シゲさんはリードは取らないんだから平気でしょ」
「……キョーコ、キョーコ、ってベースヴォーカルで恨みがましく呟くとか」
「章、おまえは俺に恨みがあるのか」
「シゲさんじゃなくて幸生に……いいよ、その話はあとでな」

 やはり章はふて腐れているようだが、我々の中では女をだまして捨てるのはアキラが適任なのだからしようがない。しかし、アキラとキョーコにするとたしかにシゲは歌いにくいだろう。
 さて、女の名前はなんとしようか。どういう方向の歌詞にしようか。夜が更けても我々の議論は果てしなく続いて、カズヤの一件は完全に忘却の彼方に去っていった。

END







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~ Comment ~

NoTitle

ぷぷ。そんなアキラにだーまされー、で始まり、生で歌ってくれちゃうなんてサービス良いっと思ったら。
そんなミエコ~、そんなキョーコ~^^ 
あげくのはてに、アキラとキョーコ・・・いあ、シゲさんのこと考えたよね。

それにしても、カズヤの件はうやむやになって良かった。
でないと、シンちゃんが暴れていたかも・・・?
もう、あかねさんのストーリー、微妙に危険です~(^^;)

NoTitle

実は最近こっそり美江子さんのお話あさってたので、今回も山田さんが出ていて嬉しいです(^^)

幸ちゃんさすがですね(笑)
そんなアキラにだまされて~(笑)
章くんの名前出すあたりがナイスです( ´∀`)bグッ!

恭子さんの名前はシゲちゃんのむっとして困惑した顔が思い浮かんで笑えます。

そして、美江子さんとカズヤくんの関係……
たぶん大丈夫だと思いますが、美江子さんそんな年の離れた相手に好かれるとは(*ノェノ)キャー きっと出来る大人の魅力が溢れてるんですね( ´∀`)bグッ! うらやましいー

けいさんへ

コメントありがとうございます。

サザンってあまり好きじゃないんですけど、この歌は好きです。サザンのオリジナルではいちばん好きですね、たぶん。

微妙に危険というのは、真次郎の性格ゆえでしょうか?
もしかしてどこかの温泉でカズヤと一緒になったら、裸の大乱闘とか……ぷぷぷ( ´∀` )

カズヤは小柄で華奢なほうですから、本橋先輩には絶対に勝てません。
でも、彼、本当に美江子が好きなのですよ。
だから本橋さん、嫌い、という感情なのです。

たおるさんへ

コメントありがとうございます。
美江子のお話、探して下さっていたのですか。
嬉しいです。
彼女はフォレストシンガーズの中では準主役くらいですから、数は少ないですね。

この前の「「Velvet voice」にもちらっと出てきますが。

おまえが好きだと耳元で言った……そんなアキラにだまされ……近いうちに「そんなアキラにだまされて」もアップする予定です。

カズヤはほんとに美江子が好きなのです。彼は年上趣味で、しっかりした三十代女性が好みなのですね。
だからってどうなるものでもないのはわかっていますので、本橋さん、憎らしい、嫌い、になっているようです。


NoTitle

音楽と言うものは確かに深いですよね。
音・・・ということもありますけど、歌詞にも非常に意味がある。
私はあまり音楽にのめり込む性格でもないですし、リズムとテンポを好む方なのであまり歌詞は頓珍漢ですけど。
しかし、歌詞を読んでその意味を考えて、音楽を聞く。
それがまさにエンターテインメントですよね。
そのことを思い出させてくれる小説ですね。

あかねさんへ!!

今週も宜しくお願いいたします。!
昨夜来の雨、小雪も上がり気温も上がってきた本日です。!
あかねさん地方は如何がでしょうか!
お元気で小説を書かれていることには感服至極ですねー。!

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

私は文字人間ですが、音楽なのですから、そりゃあメロディは重要ですよね。
クラシックやジャズのメロディのほうを主題にして小説を書いておられる方もいて、私とはアプローチの方法がずいぶんちがうなと感じたことがあります。

メロディから惹起されるイメージをを小説に……たまにこころみてみますが、やっぱり私には歌詞から連想した物語を書くほうがやりやすいです。

荒野鷹虎さんへ

コメントありがとうございます。
大阪はかなりあたたかいですよ。

日本代表と台湾との強化試合などもやってますが、阪神の選手がゼロなので、見ていても熱心になれない今日このごろ。
早くペナントレースがはじまってほしいですよね。
オープン戦ではやはり物足りません。

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