茜いろの森

□ ショートストーリィ(フォレストシンガーズ) □

FS過去物語「Valentine's Day kiss」

フォレストシンガーズ

「Valentine's Day Kiss」

「山田さんは誰にチョコレートをあげるんですか?」

 無邪気な顔をして質問したのは、オフィス・ヤマザキに入社したばかりの事務員さん、玲奈ちゃんだ。短大を卒業して間もない二十歳。ああ、なんて若いんだろ。私よりも約十歳年下だ。

「あの日からよ恋のチョコレート
 銀紙そっと開いて
 気持ちを確かめて

 誰もみんな素敵なロマンスしちゃうの

 バレンタインデー・キッス
 バレンタインデー・キッス バレンタインデー・キッス
 恋の記念日

 シャララ素敵にキッス
シャララ素顔にキッス
シャララ素敵にキッス
シャララ素直にキッス」

 あれぇ? 山田さん、はぐらかしてる? 玲奈ちゃんが可愛く小首をかしげる。私だって二十歳のころにはね、こんな歌なんか歌って……玲奈ちゃんはこんな古い歌、知らないでしょ? 私だってリアルタイムでは知らないよ。

 ん、でも、私、二十歳のころにラヴラヴチョコを彼氏にあげたことなんかあったっけ?
 小学生や中学生のころには、ヴァレンタインなんて馬鹿馬鹿しい、というポーズを取っていた。高校生になると彼氏ができたから、彼にだけはあげたっけ。

 ヴァレンタインのころには私の誕生日がある。大学生になってはじめてのその日には、ちょうど大好きなひとに捨てられたばかりで、義理チョコイベントになど参加する気にもなれなかった。

 大学生の間は合唱部の男性たちに、義理チョコだったらあげた。
 卒業してからはアルバイトを転々としていて、職場によっては義理チョコのやりとりをしているところもあり、しないところもあり、で、どこがどうだったのか記憶にない。

 フォレストシンガーズのマネージャーとして働きはじめてからは、オフィス・ヤマザキの関係者にお歳暮がわりみたいにプレゼントしたことはある。フォレストシンガーズ全員に義理チョコをあげたこともある。

 でも、彼氏にチョコレートなんかあげた覚えはない。ヴァレンタインよりも私の誕生日。そっちのほうが重要だったから、なんて、私って自己中かも。

「山田さん、彼氏いるんでしょ」
「玲奈ちゃんが訊きたいのは結局、そっちよね」
「ねえねえ、いるんでしょ」

 他人の恋愛にも興味津々の年頃である玲奈ちゃんに、うふふふ、とごまかしの笑いを向けておいて、考えてみる。
 去年の夏だったよね。三十過ぎてお互い独身だったら結婚しようよ、と海辺で言ったのは。私、もうじき三十になるんだよ。本橋くんもその一か月後には三十歳になるよね。

 そんな話をするきっかけになったキスも、結婚しようか、なんて言葉もジョーク? 戯言?
 もしも私が本橋くんにチョコレートをあげて、本命チョコだよ、と真剣に言ってみたら、彼はどうするんだろう? 想像だったらできるけれど、実行には移さない、たぶんまちがいなく。

 だって、私は本橋くんと結婚したいのかどうか、わかっていないのだもの。

 ずーっとずーっとそうだったように、私たちは友達のままのほうがいいの? 友達が恋人に変わり、やがて夫婦になるという、そんなのも悪くはないけれど。

 だから、私は今年は誰にもチョコレートはあげない。
 あなたと私がどうなるのか、しっかりと方向が決まるまでは、誰かとキスもしない。来年のヴァレンタインキッスの相手は……誰になるのか決まるまで、キスはお預け。

mie/29歳/END







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Information

Date:2016/02/12
Trackback:0
Comment:2
UserTag: * 
Thema:ショート・ストーリー
Janre:小説・文学

Comment

* NoTitle

確かに年齢を重ねると誰にあげるかも重要になりますね。
まあ、決まった相手がいればいいでしょうけど。
そういうわけにもいかない人もいますからね。
最近は友チョコや自分チョコもありますからね。
多様化しているのでどうとも出来ると思いますが。
2016/02/15 【LandM】 URL #- 

* LandMさんへ

いつもありがとうございます。

LandMさんはチョコレートはもらわれました?
そんなイベントは馬鹿馬鹿しい、と思う方もいらっしゃるようですし、やっぱりチョコレートをもらうと嬉しい方もいらっしゃるようですし、もらう側もいろいろですね。

義理チョコはあげるのももらうのもめんどくさい、との気持ちもわかりますし、楽しんでる方はそれでいいですしね。
2016/02/16 【あかね】 URL #- 

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