番外編
FS超ショートストーリィ・章「冬の犬」
フォレストシンガーズ
超ショートストーリィ・四季の歌
「冬の犬」
哀れっぽさの漂うあの鳴き声は、犬だ。犬の遠吠えってやつだろうか。狼もあんな声で鳴くんだろうか。
「犬虐待だよね」
「虐待になるのか?」
「だって、この寒いのに犬が外にいるわけでしょ? 近頃は犬は家の中に入れてやらないといけないんですよ」
「大型犬でも?」
「そうですよ。だから大型犬は家が広くないと駄目なんだ」
猫おたくなのは知っているが、犬も嫌いではないらしい幸生が、先輩たちを相手に講釈している。幸生は大型犬はでかいから可愛くないと言うが、実は動物全般が好きなのだ。あまりの動物好き人間は人嫌いだったりするらしいが、幸生は人間も好きなのだから、身体が小さいわりにキャパの広い奴なのか。
ライヴをやるために訪れた真冬の街。西のほうなので積雪はまずないらしく、稚内生まれで雪を憎んでいるといっても過言ではない俺は、その点はほっとする。あったかいから犬を外に出してるんだろ、と言いたいところだが、今夜の戸外はけっこう冷えそうだ。
犬……犬……冬の犬。なにか思い出しそう。
近頃はライヴツアーに出ても、五人が思い思いに別行動をすることのほうが多くなった。今夜は珍しくひとつの部屋に集まって、本橋さんが飲もうぜと言い出し、シゲさんも喜んでルームサービスで熱燗を注文し……とやっていたのだ。俺は日本酒は好きではないので、あまり飲まずに窓辺に寄ってぼーっとしていた。
遠い昔なのだから、稚内の冬か。そうすると当然雪だらけ。そんな中に小さな俺がいる。小さすぎて、章という名前もまともに言えなかった幼い俺。
そんな俺に吠えかかる犬。犬も大きくはなかったはずだが、怖がりの俺には巨大な猛獣に見えて怯え切ってしまっていた。
怖くて怖くて泣いていた俺を助けてくれたのは誰? 母だったのか父だったのか、そうではなくて、綺麗なお姉さんだったような記憶がある。
人生初の記憶みたいなものなのに、綺麗なお姉さんだったとだけは覚えているなんて、章らしいな、と幸生に笑われそうで口にはできない。
冬の夜は更けていき、犬の吼え声も途切れていく。思い出した故郷はうら寂しくて、色彩のない真冬。そんな景色を彩る綺麗なお姉さん……ったって、三十年前の綺麗なお姉さんはもうおばさんか。なんてね、そうやって現実的に考えるなよ、章。記憶の中の美人は永遠に綺麗なお姉さんのままなんだから。
END
超ショートストーリィ・四季の歌
「冬の犬」
哀れっぽさの漂うあの鳴き声は、犬だ。犬の遠吠えってやつだろうか。狼もあんな声で鳴くんだろうか。
「犬虐待だよね」
「虐待になるのか?」
「だって、この寒いのに犬が外にいるわけでしょ? 近頃は犬は家の中に入れてやらないといけないんですよ」
「大型犬でも?」
「そうですよ。だから大型犬は家が広くないと駄目なんだ」
猫おたくなのは知っているが、犬も嫌いではないらしい幸生が、先輩たちを相手に講釈している。幸生は大型犬はでかいから可愛くないと言うが、実は動物全般が好きなのだ。あまりの動物好き人間は人嫌いだったりするらしいが、幸生は人間も好きなのだから、身体が小さいわりにキャパの広い奴なのか。
ライヴをやるために訪れた真冬の街。西のほうなので積雪はまずないらしく、稚内生まれで雪を憎んでいるといっても過言ではない俺は、その点はほっとする。あったかいから犬を外に出してるんだろ、と言いたいところだが、今夜の戸外はけっこう冷えそうだ。
犬……犬……冬の犬。なにか思い出しそう。
近頃はライヴツアーに出ても、五人が思い思いに別行動をすることのほうが多くなった。今夜は珍しくひとつの部屋に集まって、本橋さんが飲もうぜと言い出し、シゲさんも喜んでルームサービスで熱燗を注文し……とやっていたのだ。俺は日本酒は好きではないので、あまり飲まずに窓辺に寄ってぼーっとしていた。
遠い昔なのだから、稚内の冬か。そうすると当然雪だらけ。そんな中に小さな俺がいる。小さすぎて、章という名前もまともに言えなかった幼い俺。
そんな俺に吠えかかる犬。犬も大きくはなかったはずだが、怖がりの俺には巨大な猛獣に見えて怯え切ってしまっていた。
怖くて怖くて泣いていた俺を助けてくれたのは誰? 母だったのか父だったのか、そうではなくて、綺麗なお姉さんだったような記憶がある。
人生初の記憶みたいなものなのに、綺麗なお姉さんだったとだけは覚えているなんて、章らしいな、と幸生に笑われそうで口にはできない。
冬の夜は更けていき、犬の吼え声も途切れていく。思い出した故郷はうら寂しくて、色彩のない真冬。そんな景色を彩る綺麗なお姉さん……ったって、三十年前の綺麗なお姉さんはもうおばさんか。なんてね、そうやって現実的に考えるなよ、章。記憶の中の美人は永遠に綺麗なお姉さんのままなんだから。
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未分類

~ Comment ~
limeさんへ
いつもありがとうございます。
時々、庭に犬がいるご家庭もありますが、全般的には犬はおうちの中ですよね。
ですから、我が家は犬は無理です。
猫と犬と両方と暮らして、その二匹が仲良しってのが夢なんですけどねぇ。
たしかに遠吠えも聞かなくなりましたね。
恋猫の変な声は聞こえて、うちの猫がいつもそわそわしています。
うちのは女の子ですが、避妊済みですので、恋には縁がないのです。
幸生は猫科がいちばん好きですが、怖くない犬だったら好きです。
章は動物には興味なくて、綺麗なお姉さんが好きなのです。
( ´∀` )
時々、庭に犬がいるご家庭もありますが、全般的には犬はおうちの中ですよね。
ですから、我が家は犬は無理です。
猫と犬と両方と暮らして、その二匹が仲良しってのが夢なんですけどねぇ。
たしかに遠吠えも聞かなくなりましたね。
恋猫の変な声は聞こえて、うちの猫がいつもそわそわしています。
うちのは女の子ですが、避妊済みですので、恋には縁がないのです。
幸生は猫科がいちばん好きですが、怖くない犬だったら好きです。
章は動物には興味なくて、綺麗なお姉さんが好きなのです。
( ´∀` )
冬シリーズ
それぞれの冬物語、楽しかったです(*^_^*)
季節に対する思い出も気持ちもみんなそれぞれ。でもどこかで繋がっている、そんな感じがして。
何より、ゆきちゃんが猫だけじゃなくて犬もウサギも何でもいいよ、ってのがゆきちゃんらしい。そんなゆきちゃん、きっと乾君が最後の最後は手を握ってくれそうですよ(あ、もちろん友情ね)。だって、この5連作の最初の乾君が猫で始まって、何より「幸生がいたら」なんて思いだしてくれて、言うことないじゃん!って思いました(*^_^*)
それぞれの冬。色んな思いを抱いて、暖かくして過ごしてくださいね!
季節に対する思い出も気持ちもみんなそれぞれ。でもどこかで繋がっている、そんな感じがして。
何より、ゆきちゃんが猫だけじゃなくて犬もウサギも何でもいいよ、ってのがゆきちゃんらしい。そんなゆきちゃん、きっと乾君が最後の最後は手を握ってくれそうですよ(あ、もちろん友情ね)。だって、この5連作の最初の乾君が猫で始まって、何より「幸生がいたら」なんて思いだしてくれて、言うことないじゃん!って思いました(*^_^*)
それぞれの冬。色んな思いを抱いて、暖かくして過ごしてくださいね!
大海彩洋さんへ
冬の動物たちシリーズ、シゲだけお酒。
全部読んでいただけたのですね。とーっても嬉しいです。
ありがとうございます。
そういえば自分で書いていて、隆也、幸生がいたら……って、やっぱりラヴラヴなのよね、なんて笑っていました。
え? ちがう? いいじゃないの、照れなくても。
(^^;)
動物が好きすぎて人間が嫌いという人、友人にいるんですけどね。
そんな極端じゃないんだったら、動物好きはいいですよねぇ。
全部読んでいただけたのですね。とーっても嬉しいです。
ありがとうございます。
そういえば自分で書いていて、隆也、幸生がいたら……って、やっぱりラヴラヴなのよね、なんて笑っていました。
え? ちがう? いいじゃないの、照れなくても。
(^^;)
動物が好きすぎて人間が嫌いという人、友人にいるんですけどね。
そんな極端じゃないんだったら、動物好きはいいですよねぇ。
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NoTitle
友人の家もそうだけど、遊びに行くたびに抱き付かれて引き倒されて、なかなかハードです(笑)
ハスキーのような犬なら寒さも平気だけど、高級ミックス犬なんかは大きくても寒さに弱いみたいですから、そうなっちゃうみたいですね。
ユキちゃんは犬も好きなんですね。
章は、犬の記憶は曖昧?
でも綺麗なお姉さんに助けてもらった記憶は、大事に取っておかないとね^^
田舎にいた時は、猟犬が多かったので遠吠えなんかも聞いたけど、今はみんなしつけの良い高級犬なので、聞かなくなりましたね。
ちょっと、狼みたいな遠吠えきいてみたいなあ^^