ショートストーリィ(花物語)

2016/花物語/一月「お正月の花」

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2016花物語

 四月「菜の花畑」
五月「カーネーションの日」
九月「白粉花に秘めたるは」

思いがけなくも三部作になったのは、limeさんとdanさんがご感想を下さり、疑問を呈して下さったおかげでした。ありがとうございます。今回、最後のつもりですが……もしかして最後のつもりの予定は未定?

 このストーリィは読むといやな気分になられるかもしれませんので、そういうのがおいやな方は避けて下さいませね。

 
一月「お正月の花」

 宅急便だからって疑いもせずにドアを開けると、今どきどんな目に遭うかもわからない。由菜は用心しいしい鍵をはずした。

「お届けものです」
「……ああ、どうも」
「ここにサインをお願いします」

 疑わしい点は皆無の中年女性配達員と事務的なやりとりをして、由菜はマンションの部屋に包みを持って入った。両手で抱えられる大きさの意外に重たい荷物は、デパート内のフラワーショップから配送されていた。

「花か……佐登子おばさんから、だね」

 二十代のうちは思う存分遊んでから、二十八歳くらいになったらお見合いでもして結婚しようか。両親に頼めば収入もよく、性格も見た目もほどよい男を探してきてくれるだろう。結婚は現実なのだから、現実生活にどっぷり浸かってしまう前に、好みのタイプの男とも遊ぼう。

 その主義を実践してきたので、由菜には何人ものボーイフレンドがいた。大学生から四十代まで、主にルックスで選んでいたのだから、裕福な男が援助交際をしたり、水商売の女と遊んだりするのに近かった。

 が、女には男と絶対的にちがう箇所がひとつだけある。二十五歳の夏、由菜はその事実に気づいた。

 そのときには遊び相手は五人いたのだが、ひとりはホスト、ひとりは大学生、ひとりは劇団員、ひとりは外国人英語教師、全員ルックスはよかったが、結婚できるような男ではなかった。そうなると必然的に残るひとりしかいない。彼は四十歳の冴えない会社員で、おまけに地方の高卒という最悪スペックの男ではあったのだが、よい点もあった。

「彼、親がいないのよ。両親は離婚して、お母さんが彼を育てたらしいのね。お母さん以外の身内とは絶縁しているらしいし、お母さんももう亡くなってて天涯孤独ってやつだね。めんどくさくなくていいでしょ? 収入は最低だけど、私も働くわ。子どもはうちの母が見てくれるだろうから、母に預ければいい。そんなときに旦那の母親がいたらうるさいかもしれないけど、いないんだからそこだけはいいじゃない?」

 とにかく、由菜は中絶はしたくなかった。胎児が別の男の子どもである可能性もあるが、外国人とはここ二ヶ月くらいはベッドをともにしていないのだから除外できる。細かく計算してみたら、父親の可能性はふたりに絞られる。ふたりとも血液型が同じなのもラッキーだった。

 血液型だけではなく、DNA判定をすればばれるかもしれないが、昭彦の子どもである確率は五十パーセントだし、DNA判定まではしないことに賭けよう。万が一があれば離婚したってかまわない。

 中絶はしたくない、未婚の母もいやだ、となると、できちゃった婚を選ぶしかなかった。

「できちゃったのよ、責任取って、結婚しようよ」
「……由菜って結婚願望あったのか? 俺でいいのか?」
「昭彦さんの子どもなんだもの。結婚するのがベストでしょ。心配しなくていいよ。産休と育休は取るけど、母に預けて働くから。昭彦さんの給料で私が専業主婦になったとしたら、子どもがかわいそうなのはわかってるからね」
「あ、ああ、そうか。うん、そしたら結婚しよう」

 結婚願望はないと常々言っていた昭彦だが、由菜は若くて美人で収入だって悪くない。昭彦にとってはいい話のはずだ。昭彦サイドには反対する者はいない。由菜の親は難色を示してはいたものの、妊娠したと言われれば認めざるを得なかった。

「由菜って他にも男はいるんじゃないのか?」
「そんなのいないわよ。私は二股はしないって言ったでしょ。昭彦さんこそ、彼女はいないの? 過去はいいけど、いるんだったらちゃんと縁を切ってね」
「彼女はいないよ」
「前に言ってた、佐登子さんって人は?」
「佐登子さんは母親がわりだよ。それに、もうばばあだよ」

 両親が離婚し、昭彦は母親に引き取られて故郷で高校まで卒業した、とは本人から聞いていた。地味ではあるが整った容貌を持つ、長身で清潔感のある昭彦は、彼の周囲の女たちには、見た目は悪くないけど結婚する相手ではないよね、と評されているようだった。

 学歴も資格もない女が地方で息子をひとりで育てていくのは大変で、昭彦の母は掛け持ちで働いていた。なのだから、息子にかまっている暇はあまりない。そんな昭彦の面倒をなにくれとなく見てくれたという母親の友人、佐登子についても昭彦から聞いていた。

 六十歳のおばあさんなんだから、まさかなにもありゃしないよね、とは思ったが、昭彦が佐登子に花をプレゼントしているのを知り、なにやらいやな気分になった。

「私を佐登子さんに会わせてよ」
「なんのために?」
「佐登子さんは昭彦さんのお母さんがわりなんでしょ? 昭彦さんの実のお母さんは亡くなったんだから、親に挨拶にいくかわりみたいなものだよ。挨拶したいの」
「そんなこと、しなくていいさ」
「私と会わせたくないって、やっぱり身体の関係があるとかだから?」
「あるわけないだろ、あんなばばあと」

 過去のことならばいいけど、現在進行形ならばいやだ。由菜が強く要望すると、昭彦も折れてくれた。

 電車に乗ってふたりで訪ねた初秋の地方都市。寂しげな町の小料理屋の女将、佐登子。水商売の女性らしく綺麗にしていて、六十歳よりは若く見えたが、いくらなんでもあんなばばあと、と笑う昭彦の台詞に嘘はないと思えた。過去にはなにかあったのだとしても、終わっているのだったらいい。

「ふたりっきりでお別れの挨拶、してくれば? 最後に抱いてあげれば?」
「おいおい、だから言ってるだろ。あんなばばあと……」

 「一杯いかが、佐登」という名の店を出てから由菜が言うと、昭彦はおもてに嫌悪の色を浮かべた。

「そうかなぁ? 未練ありそうだったよ。昭彦さんにはないとしても、あのおばあちゃんにはあるんじゃない? 私は先に帰るから、ゆっくり別れを惜しんでおいで」

 そう言って、佐登子は昭彦に背を向けた。本当に、まさかあんなばあさんと、と思ったからこそできた行為だった。
 その佐登子からの花の贈り物。なにを送ってきたのか。毒だとか剃刀の刃が入っていたりして? 半ば本気で疑いながら包みを開くと、黄色い花が出てきた。

「結婚してはじめてのお正月を迎える新婚さんに、お正月の花を贈ります。
 今年は赤ちゃんも産まれますね。孫ができるみたいで、私も楽しみにしています。 
 どうか末永くお幸せに」

 めでたいお正月の花、福寿草。佐登子は他意もなく送ってくれたのだろうか。花を見つめていた由菜は、パソコンを起動してみた。インターネットで花言葉を検索すると、容易に見つかった。

「sorrowful remembrance」

 福寿草の英語の花言葉、「哀しき想い出」。佐登子はこの花言葉を知っていて送ってくれたのか。他にも福寿草には「幸せを招く」、「永久の愛」などもある。日本ではそもそも縁起のよい花だからお正月に飾るのだろう。

 これはイヤミな贈り物? それとも祝福? 両方? 


END


あとがき

 えー、由菜(湯女ですからね)という名前をつけた時点で、私はこの主人公に好意を抱いていませんでした。
 ですから……なのですね。
 不快になられた方、読まなかったらよかった、と思われた方、どうもすみません。

 








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~ Comment ~

NoTitle

別にできちゃった結婚をする気にはならないけど。
由菜の結婚のやり方はちょっと共感できないじぇ。。。
( ̄д ̄)

ここまで行くと結婚しないと幸せになれないっていう
呪いにかかっているとしか考えられない。


いや、そこの辺を狙ってあかねさんも描いているとは思います。
色々なパターンの結婚の在り方や恋愛の在り方を描くことができるあかねさんは本当に素晴らしいと思っている。。。
・・・という感想の裏返しと思ってくれれば良いです。

LandMさんへ

こちらにもありがとうございます。

結婚したかったというよりも、できちゃったんだから産みたい。
未婚の母はいやだから、父親である可能性のある男で手を打とう、と。
ひどいですよねぇ(^o^)

ある意味、これも女の本能なのかもしれませんね。

「菜の花畑」を書いたときから、私は昭彦は好きではなかったのですね。それが意外に好意的にとらえてもらったもので、続編が増えていき。
でもやっぱり昭彦は好きではないから、こんな女と結婚することになってしまいました。

意外とうまくいくカップルかもしれない。
かなぁ。
どうでしょうね?

NoTitle

「菜の花畑」の続きまだあったのですね。
この由菜はどこからみても嫌いです。私も最近は大分柔らかく
なって....自分でも進歩? したと思っているのですが。
そして昭彦も嫌いになりました。ばばあばばあと感じ悪いです。
今までの彼には子供だった頃の純粋さのかけらが少しは見えて
それが私の中では救いでした。
あかねさんは多分こんな二人を意図的に書いているとは思うの
ですが。
そして佐登子さんもいい加減この人たちに構うの止めたらいいのに。
それとも本当に母の心境になったのでしょうか。
福寿草の花ことばイミシンでふっと笑ってしまいました。

danさんへ

いつの間にかシリーズになったこれ、お読みいただけて嬉しいです。
ありがとうございます。

私もこの由菜は嫌いです。ひとかけらも共感できません。
実は昭彦もずっと嫌いで、danさんをはじめとする好意的なご感想には戸惑っていました。

でも、彼のばばあ発言が真意かどうかは謎ですよぉ。
とフォローしておいてやろう♪

こんな夫婦のもとに生まれてくる子がいちばん、かわいそうですよね。
うんうん、強く生きるんだよ、由菜の産む赤ちゃん。

佐登子は、おっしゃる通りです。
もうこんな人たちに構うのはやめるという意味でも、このシリーズはおしまいにしますね~。
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