ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS過去物語「Without you」

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フォレストシンガーズ

「Without you」

 
 携帯電話を持っていないから、彼女の大学の前で彼女を待っていた。俺を見ていやな顔をされたら、その時点で諦めようか、それでも一度は押してみようか、そんなことを考えながら、ただ、彼女を待っていた。

 合唱部の行事で出向いたよその女子大で、合唱サークルのメンバーと知り合った。女子大なのだから女声合唱サークルで、うちの男子部のメンバーたちは、彼女たちの美しい歌声にうっとりしていた。うちの大学の合唱部は、男子部、女子部に分かれていて、女子部の女声合唱を聴く機会はよくあったのだが、ここの合唱サークルはレベルが高いと俺も感じていた。

 そうして交流していて親しくなった、ひとつ年上の純子さん。俺が大学三年、彼女は四年で、気の強そうなくりくりした瞳をした、やや小柄で均整の取れたプロポーションをしたひと。彼女は女子大合唱サークルの主要メンバーであるようで、きびきびてきぱきしているところにも魅せられたのだった。

「あ、純子さん……」
「んん? 乾くんだったよね。どうしたの?」
「あの……帰るんですよね」
「そうだよ」

 幸いにも彼女には連れはいない。俺の名前を覚えてくれていて、いやな顔はしない、好感触だ。これは押さなければ。

「よろしければお茶、いかがですか」
「お茶よりもごはんがいいな。おいしい店、あるんだよ」
「食事ですね。それでもいいっていうか、嬉しいです。ご一緒しましょう」
「いいんだけどさ、その口のききかたは気に入らないな。私が年上だからって敬語を使うんだったら、つきあってあげない」
「ため口でいいんだったらそうします。いや。そうするよ」
「よろしい」

 こっちが年下だということも覚えていてくれた。ますます好感触だ。
 彼女の大学の門の前で待ち伏せて、どこにでもありそうな学生街を通り過ぎ、駅も通り過ぎて住宅街に入っていく。そこには大き目の邸宅の一部をレストランにしたらしき、「CASA・CHIKAMATSU」という店があった。

「ここの奥さんもうちの大学の卒業生で、金持ちと結婚して学校の近くに住んでるの。奥さんの道楽が高じてレストランを開いたのよ。南欧料理っていうのかな。スペインやイタリアの料理、おいしいよ。ちょっと高いけど、いい?」
「俺に払える程度だったら……」
「払えるんじゃない? じゃあ、入ろう」

 二十歳の俺と二十一歳の純子は、酒だっておおっぴらに飲める年ごろになった。白ワインをカラフで、それから、これとこれとこれを……と純子がオーダーする。品のいい中年女性がこのレストランのマダムなのか。純子とは顔見知りらしい応対をしていた。

「乾杯。乾くんってワイン、好き?」
「好きか嫌いかってほど、飲んだことはないな。だけど、白ワインはうまいと思うよ」
「乾くんは大人になったら、ワインの似合う男になりそうかもね」
「ワインの似合う男ってどんな男?」
「去年、フランスに行ったときにさ……」

 去年はフランス、一昨年はイタリアに旅をした、と純子は話す。高校の卒業旅行にはシンガポールに行き、今年は北欧に行く予定だと、海外旅行の話を淀みなく語ってくれた。

「で、乾くんはなにが言いたかったの?」
「あ、うん」

 食事が終わってデザートとコーヒーになる。俺はケーキは嫌いだが、こんなときにデザートをパスするのは野暮かと、同じものでいい? と尋ねた純子にうなずいた。運ばれてきたコーヒーをひと口飲み、俺は言った。

「あなたを好きになったんだ。つきあってもらえませんか」
「……ま、そういう流れになるよね」
「予想通り? だろうね」

 男につきあってくれと言われるのは慣れているのか、もしかしたら彼氏がいるのか、ごめんね、と言われる覚悟も決めていたら、純子は言った。

「私って美人でしょ」
「ああ、まあ、もちろんあなたは美人だけど、俺はあなたの外見に恋をしたってわけでもなくて……」
「だったらどこが好きなの? 中身なんかまだ知らないじゃない」
「それはそうなんだけど、あなたのそういうところかな。俺がつきあってほしいと言ったらそう切り返す。俺はそういう女性が好き……これは失礼だね。そういうあなたが好きなんだよ」

 ふーん、と呟いて、目に強い光を宿して俺を見つめる純子。彼女の目力ってやつはかなり強力だ。純子はチョコレートケーキをお行儀がいいとはいいにくい仕草でほおばった。

「おいしい……私、性格悪いよ」
「……ん、そうかもしれないね。いや、だけど、そういうあなたが好きだ。俺は性格のいい、素直でまっすぐで純情可憐な清純なお嬢さんなんかよりも、あなたみたいな女性が……あなたが好きなんだよ」
「なによ、なに笑ってんの?」
「いやいや、ごめん」

 だけど、おかしくて、笑いが止まらない。私、性格悪いよ、ってのはどういう意味だろう。性格の悪い私なんかとつきあうと、乾くんは怪我をするよとでも? それはそれでたいした自信家だ。

 あるいは、性格の悪い私なんかとつきあうのはやめておきな?
 こんな性格の悪い私を受け入れてくれるの? 私は性格が悪いんだからあんたを振り回すけど、それでもいいのね。だったら私のわがままやなんかも全部、丸ごと受け止めて。

 そう言いたいのか。

 なんだっていい。好きになったひとは、外見だって中身だってひっくるめてすべてが好きだ。だから俺は純子に告白したのだから。

「わかりました」
「なにがわかったの?」
「あなたの性格の一端はわかったよ」
「そんなに簡単にわかってたまるかってのよ。隆也くん、あなたっていうのはやめて」
「きみ?」
「純子って呼び捨てにしていいよ。よし、気に入った。つきあってあげるよ」
「ありがとう」

 女性とつきあうのは三人目だから、三度目の恋といっていいのだろうか。二十歳をすぎたのだから、これからが本物の大人の恋……大人になっていくための恋だろうか。
 純子の性格がどう悪いのか、なんとなくしかわからないが、俺の性格だっていいともいえない。なによりも理屈っぽくて、想像力だって過多なのかもしれない。

 互いのそんなところをすこしずつ知っていき、許し合えて成長し合える恋人たちになれたらいいな。理屈っぽい俺は、恋のはじまりにそんな期待をしていた。

END









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~ Comment ~

NoTitle

「携帯電話を持っていないから、
 彼女の大学の前で彼女を待っていた。」

うん。
私の世代からしても懐かしいですね。
今の世代だとこれを読むとどう思うのだろうか。。。
・・・とちょっと考えてしまった。

設定が昔だからいいのか。


いや、本当にそうなんですよね。
昔は携帯電話を持っていなかった。
メールアドレスの交換の風習もなかった。
だから、学校の前でまつ。
それも一つの楽しみであり、恋の戦いでもあった。
待ってみて。
その恋する人のために待つこと自体が戦いであり、楽しみでもあった。
そういう若いころの気持ちをちょっと思い出させてくれるところもあって。
こういうところがあかねさんの小説が大好きな理由なんだろうな。
・・とっちょっと考えました。

すばらです!!
(/・ω・)/

LandMさんへ

すばら、って、素晴らしいという意味でいいですか?
大好きだと言っていただけたのも嬉しいです。
いつもありがとうございます。

中学生の子に「私が子どものころにはパソコンなんてなかったよ」と言ったらちょっとびっくりされましたので、これを若い若い方が読んでくれたら、え? ケータイ持ってない大学生なんているの? と驚くかもしれませんね。

フォレストシンガーズは時を止めていますので、こういった機器の進歩も日進月歩で、このころだったらこれ、あったんじゃないの? と思われることもあるかもしれませんが、見ないふりしてやって下さいね。
(^^;)

私の若いころなんて、ほんとにケータイはなかったし、想像もしにくかったですよ。
それだけに楽だったかな。ケータイってめんどくさい面もありますものね。
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