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小説389(You Give Love A Bad Name)

 ←FS超ショートストーリィ・繁之「冬の酒」 →FS過去物語「Without you」
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フォレストシンガーズストーリィ389

「You Give Love A Bad Name」

 
1

 バンドをやっている連中は、心底音楽が好きだ。業界ずれしすぎて音楽イコール金という思想になってしまっている奴もいるようだが、俺の周囲のバンドマンたちはみんな、音楽が好きだ。
 ギターのGOAが集めてきたうちのメンバーたち、ドラムのPACK、ベースのYUU、キーボードのTOM、俺から見れば年上のおっさんミュージシャンたちも、頭の中身や性格はともかく、とにかくとにかく音楽が好きで、音楽の話をしたりセッションをしはじめたりすると止まらない。
 おっさんたちに較べれば、俺はそれほどには音楽が好きではない。
 十六歳の年にGOAにスカウトされて、「ブラッディプリンセス」のヴォーカリストになった俺。俺は他のメンバーよりもかなり若くて女の子みたいで、あのころはひょろんひょろんしていたから、ドレスを着せて性別不明で売ろうと言われたりもして、歌もいいけどルックスが最高だと思われて選ばれたのだろう。
 GOAのコネがあったからプロにはなれたが、売れずにいたころに社長に言われた。
「VIVI、ドラマに出ろ」
 うちの事務所には大スターの桜田忠弘がいる。桜田さんの引きもあったのかもしれなくて、俺にドラマのオーディションを受けろとの話があった。
 あのときの俺はストレス太りで腹が出てきていて、必死でダイエットしたものだ。俺がオーディションに臨む役柄というのは、三十すぎても細くて小柄なフォレストシンガーズの木村章のロッカー時代だというのだから、ぼってり腹では一発で落とされる。
 事務所の社長の奥さんのアドバイスも受け、社長には叱咤激励され、メンバーたちには冷やかしまじりの応援を受けた。なにかしら食おうとすると、VIVI、太るぞ、断食しろ、と言われる。食おうとしていたハンバーガーを取り上げられて、おにぎりと取り替えられたこともあった。
「VIVIはぱっと見よりはぽちゃっとしてるとは思ってたけど、ほんとだな、腹に贅肉がついてるぜ」
「うん、こうすると刺激を受けて脂肪が減るんじゃないのか」
「うわ……やめろーっ」
「VIVI、俺を背負ってジョギングするか」
「げぇ、無理」
 なにをされたのかを細かくは言いたくないが、メンバーたちも協力してくれて減量に成功し、腹も引き締まり、腹筋も強くなった。オーディションにも受かったのだから、周囲のみなさんには感謝している、と言っておこう。
 そうしてフォレストシンガーズをモデルにしたドラマ「歌の森」のキャストに選ばれ、近頃のメイン仕事は木村章を演じることになっている。現時点ではアキラは大学を中退して、ギリーという女の子バンドのヴォーカリストになっているシーンの撮影中だ。
 女の子四人と男がひとりのギリー。現実では「ジギー」だったそうで、「ギリー」では意味がなくなるのだが、アマチュアバンドなのだからやむを得ないらしい。
 デヴィッド・ボゥイの「ジギースターダスト」とはなんの関わりもなくなってしまった女の子バンドで、女の子たちに疎外されている男ひとり。俺は疎外されるというよりはいじられていたが、おっさんバンドにガキがひとりだったから、アキラの気持ちはわからなくもない。
「おっさんとはなんだ。俺らは二十代だったぞ」
「俺は今もギリギリ二十代だよ」
 メンバーからは異論も出そうだが、俺の気分としてはそうだったのだ。
 ギリーがちょっとだけ仕事をさせてもらっているライヴハウスのオーナー役が、桜田忠弘。彼は本物のおっさんだが、面倒見がよくて親切で、昔から俺に目をかけてくれていた。
「桜田も出たいって言ってたんだけど、フォレストシンガーズの学生時代が主なストーリィだから、桜田には誰を演じるとしても無理がありすぎるんだな。それでも出たいって言うから、役を作ってもらったんだよ」
 さすが大スター、桜田さんだったらそんな無理も通るのだ。社長はそう言い、桜田さんは俺に言ってくれた。
「アキラ役、決まったんだって? よかったなって言っていいんだろ」
「仕事ができて金がもらえるんだから、よかったよ」
「おまえは歌一筋で生きたいのか?」
「そこまでは考えてないし、役者なんてやったことないから不安だけど、なんとかなるでしょ」
「俺にだってできたんだから、なんとかなるさ」
 なんとかなるさ、の精神ではじめたものだから、共演者には嫌味を言われたりもした。
「こっちはこれが仕事なのに、遊び半分みたいなド素人がいるといい迷惑だわ」
「……すみません、遊び半分のつもりはないんだけど、素人なのはたしかですから、見守ってやって下さい」
「桜田さんにそう言われちゃしようがないわね」
 そんなときにもとりなしてくれたのは桜田さんで、もしかしたら彼はあのベテラン女優のご機嫌を取るために、キスくらいしてあげたのかもしれない。
 
 本橋真次郎→三村真次郎
 乾隆也→石川諭
 本庄繁之→琢磨士朗
 三沢幸生→川端としゆき
 木村章→VIVI

 小笠原英彦→戸蔵一世
 山田美江子→阿久津ユカ

「歌の森」のメインキャストはこうなっている。上の五人がフォレストシンガーズで、下のふたりはもとメンバーとマネージャーだ。小笠原英彦は一般人なので、小川清彦と名前が換えられている。愛称はキヨである彼だけが、わりあいに名の知れた俳優が演じている。なんでもフォレストシンガーズが作ったDVDでも、戸蔵さんは小笠原英彦を演じたのだそうだ。
 他は新人やら無名やらの俳優で、川端としくんなんかは未成年だ。多少は性格の悪い奴もいるが、一応は全員ともなじんで親しくなった。
 今日はゲストが来ている。彼らはフォレストシンガーズのファンなのだそうで、桜田さん同様、頼んで出してもらっているのだと本人が言っていた。アイドルの相川カズヤとたっくん。たっくんの本名は知らないが、綺羅☆螺というアイドルグループのメンバーだ。
「俺、木村さんには嫌われてるんだよね」
 話しかけてきたのはたっくんだった。
「嫌われてんのか?」
 ふたりともにアイドルシンガー、カズヤはソロでたっくんはグループのメインヴォーカリストである。年齢も本職も近いせいか、俺と同じ楽屋になった。
「なんで嫌われてるの?」
 ともに俺よりは高いが、背も低いほうで細い。俺は癖のある顔をしていると言われるが、たっくんは万人受けしそうな可愛い顔、カズヤはすこし翳のある年上の女に好まれそうな顔だ。木村さんに嫌われていると言ったたっくんに、カズヤも俺も同じ質問を向けた。
「俺が歌、うますぎるからだって」
「おまえ、そんなに歌がうまいの?」
「VIVIさん、知らないの? たっくんの歌はすげぇんだよ」
「知らねぇよ。そしたらおまえら、ブラッディプリンセスの歌、知ってんのか。俺の歌、聴いたことあんのか」
 ないない、とたっくんは首を横に振り、カズヤは言った。
「俺はあるよ。VIVIさんが木村さんを演じると聴いて、ブラッディプリンセスも聴いてみた。VIVIさんは俺よりはうまいけど、たっくんにはかなわないね。キララのCD、かけてみる?」
「持ってんのか? いらねぇよ」
「じゃあ、生で歌ってあげる」
 いらないと言っているのにたっくんが歌い出し、カズヤは続けた。
「アイドルってのは歌は下手でもいいって言われてるでしょ。VIVIさんは俺の歌だったら知ってる?」
「サルサ・ロマンティカだったら知ってるよ」
 大ヒットしたのだから、いやでも聴こえてきていた。
「あの歌、カラオケで素人が歌ったんだよね。そんときに俺もそばにいて、俺も歌ったんだ。そしたら素人のほうが得点が高くてさ……そんなもんだよ」
「ふむふむ、それで?」
「それでね、フォレストシンガーズってのは歌はうまいよね」
「そうだな。このドラマのメインキャストは、歌が歌えるってことも重要視されたらしいよ」
「そうだよね。だからさ、木村さんにしても自分たちが歌が上手だってのを誇りに思ってるわけ」
「ああ、そっか。だからか」
 なんの歌だかは知らないが、たっくんの歌声がB.G.Mになっている。たしかに、アイドルソングだとは思えないほどにハイクオリティだ。そのせいでたっくんを嫌うとは、木村章も心が狭い。
「VIVIさんは……」
「ああ、呼び捨てでいいよ。カズヤは誰のファン?」
「俺は前からフォレストシンガーズのファンだったんだけど、それ以上に美江子さんのファンなんだ」
「美江子さんってマネージャーだろ。おまえ、おばさん趣味?」
「美江子さんはおばさんじゃないよ」
 むっとした顔をしているカズヤにはかまわず、たっくんが歌い続ける。これはフォレストシンガーズのデビュー曲「あなたがここにいるだけで」だ。フォレストシンガーズの中でもブラックティストをかもし出せばナンバーワンの本橋さんがソロを取る曲を、たっくんはスムーズに歌いこなしていた。
「くそ、ほんとにうまいな。ま、いっか。カズヤはドラマにはよく出てるんだろ」
「うん、だいぶ慣れてきたよ」
「主役を張るクラスなのに、今回は脇だよな」
「出たかったんだよ。俺はもっとフォレストシンガーズに近づきたいんだ」
「美江子さんへの下心?」
「そんなんじゃないけど……」
 下心を持ったところで、美江子さんは本橋さんの奥さんだ。俺も会ったことはある美江子さんの実物と、彼女を演じるつんとした美人の阿久津ユカの顔がだぶって見えた。
「うー、喉が渇いた。カズヤ、お茶ちょうだい」
「はいよ」
 歌い終えたたっくんに、カズヤがペットボトルを手渡す。俺、うまいでしょ? と言いたげなたっくんに、俺は返事をしてやらなかった。
「たっくんもこのドラマに、おまえが出たかったんだよな。なんで?」
「うーん、なんでだろ。フォレストシンガーズのおじさんたちには興味あるんだよね。俺も三沢幸生役だったらできるんじゃないか。オーディション受けたいって言ったんだけど、事務所から許可が出なかったんだよ」
 ゲスト出演としての役柄は、たっくんが稚内にいる木村章の弟、龍。アキラよりは十二歳年下だから、時々出てくる龍は子役が演じているのだが、たっくんのスケジュールの都合上、十六歳の龍の場面を撮影するのだそうだ。
 一方のカズヤはギリーのファンである美少年役。この役柄のモデルはレイラのレイだと聞いている。俺はレイを知っているが、カズヤとはまったくタイプがちがう。モデルなのだから同じタイプではなくてもいいのだろうが、俺には違和感があった。
「俺は一瞬映るだけだし、友情出演みたいなもんだけどね」
 たっくんが言い、カズヤは俺に尋ねた。
「ブラッディプリンセスはデビューしてから、何年たつの?」
「五年くらいかな。全然売れないから、GOAなんかはブラッディプリンセスは遊びでやってるみたいなもんだね。他の三人も他の仕事をしたりして、VIVIだけは潰しがきかないからどうしたもんかなって、そんで役者の仕事をさせられるようになったんだよ」
「役者って不満?」
「不満じゃないけどさ」
 売れない歌手だけでいるよりは、稼げるようになっていい暮らしをしたい。だけど、桜田さんのようなスターになりたいわけでもない。アイドルになんかなおさらなりたくない。俺はなにをしたいのか、なにになりたいのか、もうひとつわからないでいた。


2

 未成年は省いてみんなで飲みにいこうかと相談していたら、その未成年が言った。
「だったら僕はごはんだけで帰りますから、仲間はずれにしないで下さいよ」
「私もごはんだけで帰るから、としくん、一緒に帰ろうね」
「そうですかぁ。感激だな」
 歌の森のメインキャスト七名。俺以外は大物役者になりたいと考えているのだろう。プライベートの隅々までを詮索したりはしないが、役者志望だと当たり前だ。ただ、彼らは音楽も好きなようだった。
 女と未成年は酒の席にはつきあわないと言うので、まずは七人で食事に行った。未成年、川端としのりは三沢幸生役だ。身長は俺よりはやや高く、あどけなさの残る愛らしい顔をして、甘党だと言っているせいなのか、実物の三沢さんよりはふっくらしていた。
「VIVIさんってビジュアル系なんですよね。どういう歌なんですか」
「ビジュアル系ったってみんなが同じじゃないよ。俺たちのアルバムを聴け。ネットでだったら買えるよ」
 ドラマの三沢幸生も未成年なのだから、今のところはとしくんがもっとも主役の実年齢に近い。彼は俺の隣の席にすわり、十八の三沢幸生もこんな感じだったのかな、と思えるガキっぽい顔で話しかけていた。
「ブラッディっていうだけあって血まみれなんでしょ。怖いかも」
「歌は怖くないよ。ホラーじゃないんだからさ」
「ホラーな歌か」
「ホラーじゃないっつってんだろ」
 いや、GOAの書く歌はホラーっぽくなくもない。
「ホラーなんだったら、ホラー映画の主題歌とかに使ってもらえるといいですよね。ムソルグスキーの「禿山の一夜」なんかは、ホラーっぽいかな」
「なに、それ? 禿山の一夜って映画?」
「ファンタジア、知りません?」
「それも映画か」
 横から、山田美江子役の阿久津ユカが説明してくれた。
「ファンタジアはディズニー映画よ。「田園交響曲」だとか「時の踊り」だとか「魔法使いの弟子」だとかってクラシック音楽をモチーフにしてるの。VIVIくんは見たことない?」
「俺は映画って見ないな。禿山の一夜ってのは?」
「それもファンタジアで使ってるクラシック音楽。としくんはクラシック好き?」
「そうです。クラシックがいちばん好きだけど、音楽はなんでも好きですよ。ユカさんは?」
「私もクラシックは好き。ピアノ曲がいいな」
「僕は交響曲が好き。前に三沢さんが僕んちに遊びにきてくれて、猫好きの三沢さんのために、猫の曲を聴かせてあげたんです」
「わぁ、私も猫、好きよ」
「うちには猫が六匹、いるんですよ」
「きゃあ、いいなぁ」
「ユカさんも見に来ます?」
「いいの? 行きたぁい」
 きゃあきゃあわあわあと猫の話をしてから、ユカさんが言った。
「VIVIくんも木村さんに会ったんだよね」
「うん。ロックの話、したよ」
「みんな、自分が演じるひとに会ってるみたい。あたしも山田美江子さんに挨拶はしたけど、なんか怖いっていうか、っていうか、あんまり話はしたくないような、ゆっくり話してみたいような……」
「複雑な気分? なぜですか」
 としくんが質問し、ユカさんは応じた。
「っていうか、あたしは本橋さんに会いたい。本橋さんってピアノが上手でしょ。本橋さんのピアノ、聴きたいな。彼のソロライヴには行ったのよ。ライヴではポピュラー曲だの本橋さんのオリジナルだのを演奏してたけど、リストやシューベルトが聴きたいな」
「ユカさんって本橋さんが好き?」
「大好き」
 力強く答えてから、やーね、ファンなだけだよ、とユカさんは言いつくろった。

 
 ユカさんととしくんは連れ立って帰っていき、男五人で次なる店へと向かう。男五人は役者の会話をしているので俺としては入りにくいのだが、今夜はとことんつきあうつもりだった。
「さっき、ユカちゃんとなにを話してた?」
「クラシックの話とか、猫の話とかさ」
 年齢は二十代半ばってところだろうか。阿久津ユカは劇団に所属する無名の女優で、CMやサスペンスドラマの端役の仕事だったらあると言っていた。きつい感じではあるが美人なのに、売れないんだなぁ、俺と似てるのかなと俺は思っていた。
 彼女について尋ねているのは三村真次郎、芸名からもわかる通りに本橋真次郎役だ。長身でがっしりしていて、体格と声が本橋さんに似ていた。
「本橋さんがどうとかって聞こえたよ」
「彼女は本橋さんのファンなんだってさ」
「それは俺も聞いたよ。なんかなぁ……単なるファンっていうんでもなくて、憧れの対象なのかな。俺はやっぱ美江子さんとはいちばん親しいって役だから、ユカちゃんともよく話すんだ。彼女は本橋さんの話ばっかりしてる。本橋さんのソロライヴに行ったって言ってただろ」
「言ってたね」
「そんとき、俺も一緒に行きたいって言ったんだよ。だけど断られた。横を向いてあんたの顔があったら笑えるから駄目、だってさ。ひどくねぇ?」
 そんなにひどい顔か? と俺も三村を見つめる。彼はコメディアン志望だったのだそうで、お笑いに進むと似合いそうな滑稽な顔だともいえる。そう思うと俺も笑ってしまって、三村のげんこつが飛んできた。
「いてぇな、なにすんだよ」
「ドラマの後半では章と幸生は本橋にぼかぼか殴られるんだよ。慣れとけ」
「そんな理屈はないだろ」
「うるせえんだよ、笑うな」
「八つ当たり」
「なんだと?」
 まあまあまあまあ、と言って割り込んできたのは、乾隆也役の石川諭だ。白皙の美青年とでも言うのか。あいつはどうも気に食わない、と三村が言っていたのを聞いたことがあった。
「そこまではまだ進んでないけど、ドラマみたいだな。本橋、抑えて」
「うるせえんだよ。俺は本橋じゃない」
 酒場の大きなテーブルは、十人ばかりで囲めそうだ。三村は残りふたりのいるほうへと行ってしまい、石川が俺の横にすわった。
「俺は本橋真次郎になりたい、って言ってたよ」
「三村くんが?」
「そうだよ。阿久津ユカさんに惚れられたいんだろうな」
「マジで恋してんのか」
「そのようだね」
 なぜか石川は余裕で笑っている。なにか言いたそうではあるが、面倒なので訊かないでいると、マスターがカウンターのむこうで言った。
「石川くん、あとで一曲、歌ってよ」
「今でもいいですよ」
 この店に案内してくれたのは石川だ。彼は大学の演劇サークルに所属していて、サークルの仲間たちがこぞってオーディションを受けた。そのうちで受かったのは石川のみだと自慢げに言っていたのを聞いた。この店のマスターはサークルのOBだそうで、安くしてくれると聞いてやってきたのだった。
「フォレストシンガーズの歌ですよね。じゃ、乾さんがソロを取る「ミッドナイトミスト」を」
「うんうん、いいね」
 マスターが満足そうに言い、石川がマイクを手にする。彼の声は乾隆也に似ているが、顔がよすぎるって乾さんが言うんだよ、と笑っていた。歌も下手ではないが、これだったらたっくんのほうが達者だ。俺は本職のヴォーカリストなのだから当然だが、石川よりも歌ははるかにうまい。
「なんだかな、俺も気に入らないよ、あいつ」
 その声は、本庄繁之役の琢磨士朗だ。外見的には彼がもっとも本物に似ていると、誰もが口をそろえる。
「自慢ばっかだろ」
「そうなのかな」
「そうだよ。顔がいいからってさ」
「だけど、乾さんって雰囲気はあるけどイケメンってわけでもないだろ」
「そう言うひともいるけど、俺は乾さんはいい男だと思うよ。なんて言うのかな……」
 しばし迷った様子になってから、琢磨が言った。
「乾さんは中身がいい男なんだよ。石川は上辺だけだろ」
「そこまでは知らないからな。石川だって乾さんだって、三村くんだってあんただって」
「そりゃそうだけど、イッセイさんはどう思う?」
 三村はテーブルの端っこでひとりで飲んでいて、小川清彦役の戸蔵一世が立ってきた。彼はこの中では最有名ではあるが、相客に声をかけられるほどではないようだ。
「俺はフォレストシンガーズのみなさんとはつきあいがあるから知ってるよ。木村さんはVIVIに似た癖のある男だ。中身としてはVIVIが木村さんにいちばん似てるかな」
 喜んでいいのか、がっかりしたらいいのかわからなかった。
「外見は琢磨くんがシゲさんに似てるけど、性格はちがう。三村くんと本橋さんには似たところがあるな。三沢さんは……としくんじゃガキすぎるかな。ユカちゃんは美江子さんと内外両方で似通う部分がある」
「もうひとりは?」
「悪口は言いたくないな」
 琢磨の問いをさらっと流してから、イッセイは酒のグラスを口に運んだ。
「乾さんはいい男だよ。フォレストシンガーズのみなさんは、それぞれちがった性格だけどいい男だ。もっとも、俺だってそう言えるほど知ってるわけでもないけどね」
「いい恰好言っちまって……」
「いいからさ、琢磨くん、飲めよ。VIVIも」
 短期間で恋愛模様も生まれてきているらしい。ユカさんはメインキャストの中では紅一点なのだから、そんなこともあるだろう。他にもいる女優たちをめぐっての恋のさや当てもあるのだろうか。俺もそのうちには、誰かを好きになったりするのだろうか。
 恋愛模様のみならず、確執もできてきているらしい。若い男女が集まっていればありがちだろうけど、面倒ではあった。


3

 おー、VIVI、ドラマの仕事はどうだ? うまく行ってるか? 疲れた顔をしてるじゃないか。わやわやと男たちの声がする。本来、俺がいるべき場所。確固としてそう言えるほどでもないのかもしれないが、俺は役者の世界よりもこっちがいい。
「ビジュアル系ってどんな音楽? ってよく訊かれるんだけどさ、簡単に答えるにはなんて言えばいいんだよ」
 この店はミュージシャンたちの溜まり場だ。他のバンドの奴らもいるが、YUUを発見したので近寄っていった。
「俺らのやってる音楽」
「ったって、ブラッディプリンセスは誰も知らないんだぜ。なあなあ、ユーさん」
「ん?」
「ユーさんってビジュアル系がやりたくてやってんの?」
「当然だろ」
 この答えはまちがいなく嘘だと思う。俺という逸材を見出したGOAが、ビジュアル系をやろうと言ったのではないか。俺がいなかったらブラッディプリンセスはビジュアル系らしくはない。化粧を取ればあとの四人はごついおっさんなのだから。
「可愛いおまえのためならば、俺だって化粧するよ」
「そんなことは聞いてないっての」
「お疲れか、VIVI、俺が癒してやろうか」
「いらねぇっての」
 頭を抱き寄せられて、YUUの胸にくっつけられる。やめろ、離せ、ともがくのは癖になっているが、こうしていると兄貴に甘えている気分に、ほんのちょっとだけならなくもなかった。
「やめろぉ。甘えるんだったら女がいいよぉ」
「ここに入ってくると襲われる恐れがあるから、女は入ってこないんだ。VIVIは俺が守ってやるから大丈夫だよ」
「……あのさ、このごろ俺、役者の仕事ばっかでさ……まともに歌ってないんだよね」
「俺の膝で歌うか」
「ふざけんな。セッションやろうよ」
 ここにはミュージシャンがいっぱいいるじゃないか。アンプだって楽器だってあるじゃないか。俺はYUUの腕から抜け出して、店の一画のスペースに立った。
「俺が歌うから、みんな、なにか演奏してよ」
 そここにいるミュージャンが目配せをかわし合う。なにをやる? と話し合っている奴らもいる。間もなくBONJOVIの曲のイントロが聴こえてくる。誰かがヴォイスチェンジャーを使って、手の込んだイントロもやっている。俺はどこかから回ってきたマイクをつかんだ、

「An angel's smile is what you sell
You promise me heaven, then put me through hell
Chains of love got a hold on me
When passion's a prison, you can't break free

You're a loaded gun
There's nowhere to run
No one can save me
The damage is done

Shot through the heart
And you're to blame
You give love a bad name
I play my part and you play your game
You give love a bad name
You give love a bad name 」

 音楽って中毒性があるんだな。人の心がよりいっそう燃え上がる禁じられた恋のように? 俺も今ではすっかり、ロックのとりこになっているらしかった。

END







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