ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS過去物語「エンジェルヘア」

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フォレストシンガーズ

「エンジェルヘア」

 草木も眠る丑三つ時、のはずだ。土佐銘酒を土産に持ってやってきた本橋さんのアパートで、昨夜は乾さんとシゲと幸生と俺の五人で飲んで話して泊めてもらうことになり、最後に寝ついたのが俺だった。

 寝つきは悪くて寝起きはよくて、睡眠時間が少なくてもいいらしい乾さん。
 同じく睡眠時間を多くは欲しないが、寝つきは悪いわけではなく、その気になればいつまででも起きていられる、寝起きもたいへんに機嫌がいい、というか、常に機嫌のいい幸生。

 酒には強いのだが、寝つきはいいので満腹したら寝てしまうシゲも、寝起きもいい。
 やや寝起きは悪いが、寝つきはいい。酒は将来は強くなるに決まっているが、二十二歳では鍛え方が足りないので俺よりは弱い本橋さん。

「小学生だから酒が飲めん? ほがなだきなことでどうする?! 土佐の男は酒が飲めんと生きていけんぜよ。ちくっと飲めや」

 親戚のおっちゃんにそう言われて飲まされ、止めようとする母を父が止め……という育ち方をしてきたので、俺は酒は強い。父は未成年の俺にだって土佐の日本酒を送ってきたが、二十歳をすぎたら喜んでたびたび送ってくるようになった。

 そんな俺が酔って寝てしまうほどだったのだから、昨夜はみんな、けっこう飲んだはずだ。その通りで、酒のにおいと男の匂いが部屋に漂っている。
 なのに、ごそごそしている奴は誰だ? それほど厳重に鍵をかけているのでもなさそうだから、泥棒? 本橋さんが部屋の隅にバットを置いているのは知っているから、そおっと起きて取りに行こうとした。

「……幸生?」
「しーっ!!」

 起きていたのは幸生だ。
 目ざとい乾さんは気づかずに寝ていて、本橋さんも豪快ないびきをかいている。同じく寝ているシゲの枕元で、幸生が小さな灯りひとつでなにやらしようとしているのだった。

「……おまえ、そういう趣味が……うげぇ、言いたくもないぜよ」
「ぜよぜよって、どういう趣味ですか?」
「薔薇の葬列という……いや、おまえの趣味は知ってるけどな」

 時々、幸生は乾さんにキスを迫る。ヒデ、シゲ、頼む、と乾さんに言われ、ふたりがかりで幸生を引き剥がして、そのまんま放り投げたことも何度かあった。
 しかし、あれはジョークだったはずだ。百歩譲って本気でやっていたのだとしても、幸生のタイプは乾さんではないのか。シゲだったのか。

「ヒデ、早まるな」
「おまんは誰に向かってほがな口のききようをしとるちや?」
「ヒデさん、土佐弁が全開になってますよ。あのね、落ち着いて」
「落ち着くのはおまえろうが」

 耳に口を近づけてきた幸生が言うには。
 養毛剤のCMを見て疑問が起きたのだそうだ。髪を剃ってしまった頭に超強力養毛剤をふりかけたらどうなるか? その疑問を解決すべく、シゲの頭でためそうとしているのだそうな。

「おまえなぁ、そんなことして、はえんかったらどうするちや?」
「超強力養毛剤ですよ。効果がなかったら代金はお返ししますって、ドラッグストアに書いてあったのを買ってきたんだもん。はえるっしょ?」
「おまえはシゲの髪を剃るつもりなんだろ。それで髪の毛がはえてこなくて、そうして代金を返してもらったとしても、どう責任取るんだ?」
「ごめんって言ったらダメですか」
「……あほっ!! ぼけっ!! たわけっ!! だらっ!!」
「だらってなに?」
「乾さんに教わった、金沢弁の「阿呆」じゃっ!!」

 むろんこの会話は、内緒話でやっている。幸生も俺も声が高いので、興奮してくると叫び声になってしまう。俺が幸生の耳元で叫ぶと、幸生は気絶するふりをした。

「やっぱダメ? そしたらヒデさんの頭でしようよ」
「いやだ。おまえがやったらいいじゃないか」
「いやです。絶対にやだ」

 スキンヘッドシゲさん、見たくない? と幸生が誘惑的な質問をする。そりゃあ見たい。見たいが、酔って寝ている友達の髪を剃るような悪辣な真似はしたくない。俺は断固として幸生を止め、幸生も渋々うなずいた。

 もしかしたら乾さんは起きていたのかもしれないが、俺が止めたからそれでよかったのだろう。俺までがその気になっていたら、乾さんに幸生ともども叱り飛ばされたかもしれない。
 きっちり止めたからなにごとも起こらず、翌日はシゲと乾さんと本橋さんはバイトに行き、幸生と俺は大学に行った。

「部室に行ってきたの? なんか用事だった?」
「用事はないんだけど、もう部室に行くことってあんまりないだろ」
「そうだね。じきに卒業だよね」

 合唱部室に行くとミコちゃんがいて、三人で飲みにいった。その話をすると恵は妬くのだろうか。怒らせると厄介なのでそこには触れず、ふたりしてメニューを覗いた。

「エンジェルヘアってなんだ?」
「極細スパゲティ」
「髪の毛ほどに細いのか?」
「そこまででもないけど、どしたの? ヒデ、なんなのよ?」
「いや……たまらん」

 笑いがこみあげてきて我慢できなくなってきた。
 本当は俺も見たかった、シゲのスキンヘッド。そこに超強力養毛剤をふりかけると、天使の髪の毛のようなふわふわブロンドがはえてくる。
 その頭にミートソースでもかけて……なんてところまで想像してしまうと、おかしくてたまらない。笑っている俺を恵が不思議そうに見ていた。

「エンジェルヘアパスタ、食べてみる?」
「俺は太いパスタがいいよ」
「じゃあ、タリアテッレとか?」
「きしめんみたいな麺? 俺は讃岐うどんのほうがいいなぁ」
「ヒデったら、うどんと較べないで。言っとくけどずるずるすすらないでね」
「そのくらい知ってるちや」

 たまにはおいしいもの、食べようよ、イタリアンがいいな、と言った恵につきあって入ったイタリアンレストラン、酒は高いワインと外国ビールしかない。日本酒と釜揚げうどんのほうがいいなぁ、しつこく言ったら怒らせそうなので、俺はシゲの頭にはえたエンジェルヘアを想像して気を紛らわせていた。


HIDE/21歳/END










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~ Comment ~

NoTitle

エンジェルヘアのシゲちゃんwww
シゲちゃんのスキンヘッドも笑えますがwww
幸生くん面白いこと思いつきますね(笑)前々から養毛剤って効くのか疑問でしたがそれをシゲちゃんの頭で実践しようとするあたりがすごいです(笑)
いやー笑わしてもらいました(笑)

そうそう!前のコメ返読みました!ラブラブ話、リクエストしたら書いてくださるんですか!本当ですか!!嬉しいです!ヽ(=´▽`=)ノ
どうしようどうしよう。誰と誰でやってもらおうかな♪
シゲちゃんと恭子さんは読んだし……。あ、ヒデちゃん!ヒデちゃんラブラブは想像出来ないのでどんな風になるのか興味あります((o(´∀`)o))ワクワク
良かったら書いてみてくださいませ!

たおるさんへ

コメントとお返事、ありがとうございます。
では、そういうことで書いてみます。
どんなお話になるのかは……しばらく待って下さいね。
ご期待に沿えなかったらごめんなさい。
と、先にあやまっておきます。

だいぶ前にこのストーリィの原型になる話、書いたんですよ。
私も養毛剤ってほんとに効くのか? なんて思っていたものでして。

笑ってもらえて嬉しいです。
この発想は幸生らしいですよねぇ。
ほんとにやらなくてよかったね、シゲ?

NoTitle

酒を飲む習慣は遺伝するけど、酒の強さまで遺伝するのか・・・?
・・・と思って考えると。

統計学的に日本人の5~6割はお酒に強い体質の遺伝子が備わっている・・・という話だったような気がします。縄文人の遺伝子を持っていると、酒が弱くて、弥生人の遺伝子を持っていると酒が強いだったかな。。。
だから地方によって酒の強い人が集まっている場所もあるということですね。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

人はたしか、アルコールを分解する酵素のようなものを持って生まれてくるんですよね。受け売りですし、確固とした記憶ではありませんが。

それをひとつ持ってる人、ふたつ持ってる人、ゼロのひとがいる。
両親ともにゼロだったら、子どももゼロだからお酒は駄目な人間になる。
ということは、まちがいなく遺伝ですよね。
私はたぶんその酵素をふたつ、持ってます。

高知や沖縄の人は全体にお酒が強いみたいですから、たしかに土地柄もあるのだろうと思いますよ。


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