番外編

FS超ショートストーリィ・四季のうた・真次郎「冬の鯉」

 ←花物語2015/十二月「揺れて雪柳」 →FS「Bitter Smile」
フォレストシンガーズ・超ショートストーリィ・四季のうた

「冬の鯉」

 コイノマチサッポロ。
 ではなくて、コイノマチツワノ。

 この「コイ」は恋ではなく鯉だ。カープだ。

「フォレストシンガーズ、恋から愛へ」というアルバムを出した。その宣伝もさせてもらうために、みんなで深夜のテレビに出演した。フォレストシンガーズはまったく売れていないので、テレビ出演のお声はほとんどかからない。事務所の社長が必死になって売り込んで、バラエティ番組に出してもらったり。

 ごく稀には歌番組の「今週の注目曲」コーナーに出してもらうことはある。
 顔と名を売るにはテレビがいちばん、という社長の主張にもうなずけるし、俺たちには社長に異を唱える権利も資格もありゃしない。テレビをメインとするシンガーにはなりたくないが、売れたい。

 売れていない証拠には、津和野の町を五人で歩いていても、まるで注文も浴びない。
 
「恋が昇華して愛になるんですよ。このコイはカモンでもなくてカープでもなくてラヴですね。乾さん、カープが昇華するとなんになるんですか」
「鯉の滝登りをしてこいのぼりになるんですよ」
「ふむふむ、ほどなる」

 番組では幸生と乾が受け狙いの応酬をしていた。

 あれを見て笑ってくれたひとは何人いるのだろう。百人くらいいるかな。フォレストシンガーズの関係者やら、友達なんかは見てくれただろう。

 今日はラジオ出演のために、五人で津和野にやってきた。津和野の町には水路が流れていて鯉が泳いでいる。津和野川の鯉ならば聞いたことはあったが、町中にまで鯉が泳いでいるとは。

 島根県の隣の県をフランチャイズにしているプロ野球チームのファンなのもあって、俺は鯉には興味がある。
 そして、なにを見ても我々フォレストシンガーズになぞらえたくなる。

 鯉が滝登りをしてこいのぼりになるのならば、稚魚のようなフォレストシンガーズはなにになるのだろうか。フォレストは「森」だから、ちっちゃな森が大きく大きく育って密林みたいになるのか? 林は森より規模が小さいが。
 うん、きっと熱帯雨林になるんだ……いや、これも林か。巨大森になるんだな。

 風が吹いてぶるっと来る。幸生と章はガキみたいに、水路の鯉を追いかけて走っていく。乾とシゲも先に行き、俺は最後尾を歩く。歩くばかりじゃなくて、もうすこししたら走ろうか。

 元気に泳げ、冬の鯉。
 寒さに負けるな、冬の俺たち。

SHIN/26歳/END







スポンサーサイト


  • 【花物語2015/十二月「揺れて雪柳」】へ
  • 【FS「Bitter Smile」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【花物語2015/十二月「揺れて雪柳」】へ
  • 【FS「Bitter Smile」】へ