ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「モモクリ三年」

 ←FS俳句・短歌・超ショートストーリィ2015/12 →花物語2015/十二月「揺れて雪柳」
201509092058553dcモモクリたおる
イラスト:たおるさん

フォレストシンガーズ

「モモクリ三年」

 理解しにくい感情は僕にはいくつもあるが、そのひとつ。モモちゃんもよく言う。本橋さんも乾さんも怒ると怖いけどかっこいい。

「シゲさんは?」
「シゲさんの怒ったところ、見たことないよ」
「木村さんは怒るよ」
「怒った木村さんは怖くもないしかっこよくもないな」
「三沢さんは?」
「三沢さんって怒っててもわかりにくくない?」

 言えてる。僕の奥さんは人間観察に長けているのだ。

 高校を卒業してフリーターをしていた僕は、よその店でアルバイトしていたモモちゃんと知り合った。ひとつ年下のモモちゃんも高卒フリーターで、僕のあまりのドジぶりに母性本能を掻き立てられたのか、つきあおうよ、と彼女のほうから告白してくれた。

 告白してくれたのはモモちゃんからだったから、プロポーズは僕がした。こんな僕をよくも大切な娘の夫として受け入れてくれたのだから、モモちゃんの両親には感謝している。

 同じころにオフィス・ヤマザキの社長にスカウトされて、モモちゃんと僕は若い夫婦デュオとしてデビューした。栗原桃恵と栗原準のフルーツパフェ。事務所の先輩であるフォレストシンガーズの三沢幸生さんの命名は「モモクリ」。いまやファンの方までが僕らをモモクリと呼ぶ。

 デビューしてから三年足らず。その間に僕は何人の年長者に叱られただろうか。時には年下のひとにも叱られた。アイドルシンガーの男の子だとか、女優の卵だとか、そんな若者も僕を見るとお説教がしたくなるらしい。

「クリ、これだけは厳命しておく、仕事のときには泣くな」
「……わかりました」
「モモ、クリが仕事のときに泣いたらひっぱたけ」
「はい、わかりました」

 社長に命令されている僕を、どことなく面白そうに見ていたモモちゃん。

「あなたが栗原準くん? か細いのねぇ。私よりも体重が少ないんじゃない?」
「そんなことないですよぉ。ニーナさんはグラマーだけど、腕や脚なんかは細いんだもの。クリちゃんのほうが重いですってば」
「クリちゃん、体重は何キロ?」
「クリちゃん、時間がないんだよ。急ごう。じゃあ、ニーナさん、失礼しまーす」

 事務所の看板スター、杉内ニーナさんに困らされていた僕を、窮地から救ってくれたモモちゃん。

「だからね、人には失敗ってものがあるの。私だって何度も失敗はしたよ。だけど、同じあやまちを繰り返すってのはね……クリちゃん、聞いてる?」
「はい、聞いて……」
「聞いてます、って語尾をはっきりさせる返事をしてね」
「……はい」

 フォレストシンガーズのマネージャーである山田美江子さんにお説教されていたら、一緒に詫びてくれたモモちゃん。

「クリちゃん、私、見てたよ」
「な、なにを?」
「ステージでぼーっとしてたでしょ。モモちゃんがフォローしてくれたからよかったけど、あのときそばにいたお笑い芸人さんにいじられたりしたら、クリちゃんだったら泣くんじゃない? しっかりしてよね」
「は、はい……ごめんなさい」
「玲奈ちゃん、そんなにきつく言わなくてもいいんじゃない?」

 事務所の事務員さん、玲奈さんにも叱られていたら、かばってくれたモモちゃん。

「おまえがクリ? おまえ、大人? あのさ……」
「わ、わっ……わっ、やめて下さいっ!!」
「……んんと……ええと……」

 なぜ僕らが社長にスカウトされたのかといえば、オフィス・ヤマザキではナンバーワン人気だったビジュアル系ロックバンド、燦劇が休止してしまったからだ。なのに燦劇のメンバーは時折事務所に顔を出す。僕を苛めたがるナンバーワンはファイで、僕をつかまえていかがわしい真似をしようとした。

「ファイさんっ!! 私の夫になにをするんですかっ!!」
「お、ごめん。モモちゃんって可愛い顔しておっかねえんだ……」
「クリちゃん、大丈夫だからね、泣かないでね」
「モモちゃあん」

 あのときもモモちゃんが毅然と止めてくれて、ファイさんは呆れていた。あのせいでよけいに、僕は彼に苛められるようになったのであるが。

「あれぇ? べそかいてんの?」
「クリちゃんって二十歳すぎてるんでしょ? 信じられない」
「乾さんにお仕置きしてもらわないといけないね」
「そうだね。乾さんに電話しようか」
「うわーん、それだけはやめて」

 年下の少年少女にも苛められて、そんなときにはモモちゃんは一緒になって、乾さんに言いつけるからね、などと言う。僕がいちばん怖いのは、乾さんなのか本橋さんなのか。

「そうなんだよ。俺も昔は、先輩たちによく叱られたんだ。本橋さんはげんこつでごちっとやるだろ。痛いんだけどからっとしてて、いてぇなぁ、ですむんだ。乾さんは平手でほっぺたを張る。あれはそう痛くないんだけど、じわっとくるんだよな。陰湿なんだよな」
「乾さんは陰湿じゃないよ。誰が悪いんだよ」

 木村さんが言い、三沢さんが言い返して喧嘩みたいになって、シゲさんが止めていたこともあった。
 しかし、木村さんの言う通りだ。僕は本橋さんに叱られても乾さんに叱られても泣いてしまうけど、木村さんは泣いたりしなかったのかな。叩かれても冷静に分析していたんだったら、僕よりはずっと精神力が上。そんなの当たり前か。

 フルーツパフェのファンだという男の子にモモちゃんがからまれて、僕は怖くて震えていた。そこに乾さんが登場して男の子を説得してくれ、彼が立ち去ったあとで乾さんに頬を叩かれた。僕の最悪の記憶のひとつだ。

「力で立ち向かってくる者からモモちゃんを守れなかったら、おまえには夫と名乗る資格はない」
「……だって……」

 泣くしかなくなった僕を、モモちゃんは抱きしめてくれた。

「しようがないよね。クリちゃんはそんな子だもの。クリちゃんはそれでもモモちゃんの夫だよ。だけど……」
「モモちゃあん……」

 ほんとにもう、乾さんって気障。あんな台詞よく言うよ、と僕を抱きしめながらモモちゃんが言っていた。モモちゃんの顔が見えないだけに、言葉と心が裏腹だと読み取れた。

「あたしは本橋さんにひどく叱られたことがあるんだよ」
「……ああ、あのとき」

 夫婦喧嘩をしてふたりともに家を飛び出し、僕は知り合いの家にころがりこんだ。モモちゃんはひとりでお酒を飲みにいき、危機に陥ったのだそうだ。助けてくれた本橋さん夫婦にお説教されて、あのときは怖かった、とモモちゃんは舌を出した。

「そういうのが、怖いけどかっこいいっての?」
「そうだよ。本橋さんも乾さんもかっこいいじゃん」
「そうかなぁ」

 怖いというのはよくよくわかる。けれど、僕には本橋さんも乾さんもかっこよくは映らない。ただただ怖い。
 ね、モモちゃん、モモちゃんって本橋さんや乾さんに憧れているんだよね。彼らを年上の男性として、憧憬やら思慕やらを抱いている。きみの夫がこんな男なのだから、僕はモモちゃんのそんな感情を責めたりはしないよ。

 責めはしないけど寂しいな。僕では一生、モモちゃんに仰ぎ見られるような存在にはなれないから。
 ううん、でも、いいんだ。モモちゃんと僕はこんな夫婦でいいんだ。世間一般の古い夫婦像なんて、僕らには無関係なんだよね。

 モモちゃんにだって数えきれないほど叱られて、そのあとで僕を抱いてあやしてくれた。怒っているモモちゃんは怖いけど……怖いけどかっこいいっていうんじゃなくて、怖いけど可愛いっていうんでもなくて、鬼子母神みたいだっていうのか。

 うーん、むずかしいな。

 だけど、なんだっていいんだよ。モモちゃんは怖いけど……そう、怖いけど好き、怖いけど愛してる。それでいいんだよ。モモちゃん、僕は一生きみについていくから、見捨てないでね。

END







スポンサーサイト


  • 【FS俳句・短歌・超ショートストーリィ2015/12】へ
  • 【花物語2015/十二月「揺れて雪柳」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

わーわー!ありがとうございます!
また使ってもらえて頑張って書いて良かったです!!(>_<)

うわ!この絵すごい上手い!誰が書いたの?(おい

ごほんっ

クリちゃん相変わらず怒られて泣いてますね(笑)
クリちゃんなんかスポーツやったりボーイスカウト入ったりしたらちょっとは逞しくなるんじゃ。あ、でも逞しいクリちゃんはクリちゃんじゃないか(^_^;)
泣き虫さんじゃなかったらモモちゃんとも夫婦になれなかっただろうし、デビューもなかったかもしれない。うん、何がどう転ぶか分かりませんね。

こちらのお話ブログで紹介させてもらいますね!
ちょっと今クリスマスのモモクリちゃんをイメージしたんですが、クリスマスまでに間に合うかな……間に合ったらお渡ししますね!(あまり期待しないでくださいね(^_^;)

たおるさんへ

たおるさーん、僕のことをわかって下さってありがとうございます。
ボク、これからもたおるさんを頼りにします。
すりすりすり、とクリがたおるさんにすりよっています。

私のほうこそ、いつも本当にありがとうございます。
たおるさんのブログでも紹介して下さって、感謝感激です。

もともとは、夫はこうあるべき、妻はこうあるべき、なんて、いまだに言うひとがいる、ってことに反発したようなところもあって、こんなカップルを作ってみたのでした。

今では私が楽しんで書いてますが、こんな夫婦がいてもいいですよね。

クリスマスのモモクリですか。
わぁ、楽しみ!!
ご無理はなさらないで、でも、描いてもらえると最高に嬉しいです。
クリスマスに間に合わなくてもいいではないですか。
描けたらぜひ、見せて下さいね。
お待ちしています!!

NoTitle

クリちゃん、もう泣き虫なのがキャラ化してきていて、これはこれでいいのかも、って思っちゃいますよね。
その分モモちゃんがしっかりしてるんだから。
男は強くなくちゃとか、もう時代遅れなのかも。
そもそも、女の方が強いんですもんね。動物学的に言って。
きっとモモクリはバランスが取れてるんですよ。

たおるさんのこのイラスト、やっぱりかわいいなあ。
色遣いが、クリーミーマミとか思い出させる^^(あれ、なんかちょっとまにあっくで好きだったんだけどw)

limeさんへ

うっうっ、うううっ、limeさん、僕を認めて下さってありがとうございます。
これからは頼りにしていいですか?

と、クリがlimeさんになつきにいこうとしています。
クリは頼りになる女性がタイプなのです。

でも、そうですよね。
なにも夫が強くなくてはいけないなんて決まっていない。
モモは中途半端とはいえ、こんな夫のために強くなろうと努力しているのですから。

しかし、私はクリみたいな男とは結婚はしたくないなぁ。
ま、モモクリはベストカップルってことにしておきましょう。

たおるさんのイラスト、ほんとに可愛いですよね。
クリーミーマミって知らなかったので検索してみましたら、たしかに、雰囲気は似てますね。
この感じ、モモクリを描いてもらうにはぴったりですよね。

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【FS俳句・短歌・超ショートストーリィ2015/12】へ
  • 【花物語2015/十二月「揺れて雪柳」】へ