ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「HERO」

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フォレストシンガーズ

「HERO」


 数年前から乾隆也と本橋真次郎のデュエットを、時折お客さまに聴いてもらうようになった。
 年に数回、大勢のシンガーが出演するライヴの一組として、ふたりで歌う。春になったら野外ライヴに乾隆也&本橋真次郎のデュオが出演すると決定して、乾とふたりでその選曲をしていた。

 こうしていると思い出す。多摩川の河原で乾が言ったのは、俺たちが大学二年生の年だったか。おまえと俺とは運命が結びつけたふたりなんだ、ずっと一緒にやろう、と言われて、気持ちわるっ!! と思ったのだった。

「デュエットでやるのか」
「おまえと俺がふたりでっていうのは、インパクトに欠けるだろ。どっちかの顔がいいっていうんだったらまだしも、それほどの顔もしてないし。歌は誰にも負けないつもりだけど、ルックスは凡庸だもんな。だからさ、他の男を入れてグループにしよう。卒業までにメンバーを固めよう」

 うむ、いいこと言うな、とそっちには俺も賛同した。
 フォレストシンガーズのハーモニーは絶品だと、アマチュア時代から言われてきた。それでもインパクトは足りなかったからなかなかデビューできず、デビューした後も長く売れなかったのだ。それでもそれでも、本橋真次郎のソロだとか、乾と俺のデュオだとかだったら、デビューの可能性もなかったのかもしれない。

 五人でプロになってから十年、このごろようやく俺たちも世間に認知されてきた。俺のピアノや乾とのデュオでもライヴができるようになってきた。
 ここまでは到達したからって満足なんかしない。天井ははるか高みにあるはずなのだから、もっともっと上を目指そう。そう思っていたら、乾が言った。

「久しぶりであの大衆食堂、行ってみないか。なんとなく思い出して前を通ってみたら、今でも続いてるみたいだったよ」
「どこの店だ?」

 デビューしてから五年ばかりは、フォレストシンガーズってなに? お笑い? と言われていた。なのだから、五人そろって街を歩いていても注目もされない。東京でだって地方でだってどこでも平気で五人で闊歩していた。
 スタジオ付近の飲食店にも五人で、あるいはひとり、ふたり、三人ほどで入っていって、おいしそうに食べてくれるから気持ちいいわ、サービスしとくね、なんて言ってもらったものだ。

 特によく食うシゲが気に入っていたラーメン屋。
 北海道出身の夫婦がやっていて、稚内生まれの章を息子のように気にかけてくれた洋食屋。
 ブリ大根があったんだ、と乾が嬉しそうに言って連れていってくれた和食の店。
 からくてうまくて肉がたっぷりのカレー屋は幸生が大好きだった。
 ここの餃子はうまいけど、にんにくがきついからな、なんて言って、食いたくてもガマンしたことの多い中華料理屋は俺のイチオシだった。
 
 気軽で安くて盛りのいい店を俺たちもひいきにしていた。

 そんな店にはあまり行かなくなっているうちに、閉店したところも多い。代替わりした店も多いが、このスタジオ近くの大衆食堂「ひびき」は続いているのだそうだ。

 ひびきかぁ、歌に通じるよな、と言い出したのは誰だったか。三沢さん、喋ってばかりいないで食べなさい、と叱られたり、木村さん、食欲ないの? と気遣ってくれたり、シゲさんはこれじゃ足りないでしょ、ごはん、たくさんにしといたよ、と言ってくれたりしたおばさんは、今夜は姿が見えなかった。

 閉店時間間際だからか、お客は他にはいない。あのおばさんは俺たちがシンガーズだと知っていて、サインしてよ、と言われてテーブルに五人の名前を彫った。それがそのまま残っているテーブルで、乾と向き合った。

「昔もここで、ヒーロー談義ってしたよな」
「ウルトラマンの話か」
「それもしたな。近頃はああいう話は前ほどしなくなったけど、おまえにはヒーロー願望があるだろ」
「なくはないな」

 ガキのころには、大きくなったらウルトラマンになりたかった。乱暴者の兄貴たちに育てられたのもあり、男は強くなくてはいけないと心から信じていた。

 男は強くなくてはいけないとは、今も思っている。世界中のすべての、俺よりも弱いものをこの手で守りたい。だけど、俺はヒーローなんかじゃない。俺はちっぽけな人間なのだと、大人になるにつれて思い知らされていき、ならば俺は歌で世界を救おうと……いや、歌は救いになんかならないかもしれないが、ただ、歌いたいと思うようになっていったのだ。

 喧嘩は嫌いではなかったし、めったに誰にも負けないと思っていた。喧嘩だって強いのはいいことじゃないか。腕力は武器になるのだと本気で信じていたけれど。

「暴力で解決しようなんてのは愚の骨頂だよ。人間には口がある、言葉がある、話しても無駄な相手や状況もあるだろうけど、まずは言葉で闘うんだ。俺はその主義だよ」
「けっ、女みたいなことを言いやがって……」

 乾の台詞に反発はしたものの、彼の口こそが俺たちを救ったということは何度も何度もある。ヒーローってのは肉体的に強いばかりじゃいけないんだな、と教えてくれたのは、ここにいる乾隆也だったのかもしれない。

 今夜は幸生がいないのもあって、言葉少なに食事をした。
 豚のしょうが焼き定食と、鮭の塩焼き定食、つけものと味噌汁と野菜の胡麻和えもついた定食を食べ終わると、オヤジさんが口を開いた。

「この店、もうじきたたむんですよ」
「ああ、そうなんですか」
「なつかしいなぁ。あのころってあんたたちはまるで売れてなかったでしょ」
「あ、そうですね」

 してみると、オヤジさんは俺たちが誰なのか知っていたらしい。

「そのサインはあんたたちがこの店の常連だったってしるし。気がつく人もいるんですよ。テーブルは我が家に運んで家宝にしようかな」
「それは大げさでしょ」
「そうかなぁ。ね、乾さん、私のお願い、聞いてくれますか」
「俺たちにできることでしたら」

 予想通りに、歌ってほしいとのお願いだった。
 食事をしながら俺が考えていたこと。ライヴでも乾とデュエットするつもりの歌。それをオヤジさんに聴いてもらおう。店をたたむ直前に来られてよかった。オヤジさんが歩み出すのであろう新しい生活への餞のつもりもあった。

 
「例えば誰か一人の命と
 引き換えに世界を救えるとして
 僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ

 愛すべきたくさんの人たちが
 僕を臆病者に変えてしまったんだ

 小さい頃に身振り手振りを
 真似てみせた
 憧れになろうだなんて
 大それた気持ちはない
 でもヒーローになりたい
 ただ一人 君にとっての
 つまずいたり 転んだりするようなら
 そっと手を差し伸べるよ」

 ヒーローの定義も人それぞれなのかもしれない。けれど、男はいつだって誰かのヒーローでありたいものだ。そうでもない男もいるのかもしれないが、そんな奴は知らない。俺はそうありたいのだし、このオヤジさんだって、乾だってきっと。

「ずっとヒーローでありたい
 ただ一人 君にとっての
 ちっとも謎めいてないし
 今更もう秘密はない
 でもヒーローになりたい
 ただ一人 君にとっての
 つまずいたり 転んだりするようなら
 そっと手を差し伸べるよ」

 このキミってのは、俺にとっては美江子かな? オヤジさんには奥さんなのか。乾は誰だ? そんな女、いるのかな。もしかしたら今はいないのだとしても、おまえにそんな女が出てこないはずはない。いつかはきっと、まちがいなく出てくるさ。

END





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~ Comment ~

こんにちは~

お。真ちゃん&隆ちゃんのツーショット話だ(^^) 幸ちゃんが焼きそうだな。
昔、学生時代に通った店とかって、確かに時々行ってみたくなりますよね。私も京都時代に通った場所は半分くらい無くなっているけれど(あるのは王将と天下一品の本店かぁ~)、ふと京都に行くとその場所を確認しに行きたくなります。風景が変わっても何だか懐かしい。
そんな特別な店にこうして「凱旋」できるのはいいですよね。何年経っても覚えていてくれるものなんですよ、不思議なことに。でも時は過ぎていく……
ヒーロー、うん、特別なことをしなくてもヒーローだよね。歌を届けて、誰かを想うことができたら十分。丁度マコトはいつだってタケルのヒーローだよって話を書こうとしてたところだったので、シンクロで楽しかったです(^^)

大海彩洋さんへ

こんばんは~
コメントありがとうございます。

若いころ、私もよく京都に行きました。
神戸と京都と両方行ったりもして、元気だったなぁ。
王将は関西あちこちにありますね。若いころにはあそこの餃子が好きでしたが、いまやもうしつこいのを食べたいとは思わなくなりました。

マコトはタケルのヒーロー。
いいですね。
にゃん(=^・^=)

最近の男は誰かのヒーローとして闘いたい願望の薄いのもよくいるようですし、なんで俺ばっかり闘うの? そんなの損じゃん、だったりもして、女が闘え、だったりもするようですが。

真次郎は古い男ですので、誰かのために戦いたいのです。
けれど、彼にできるのは歌うことだけ。
それでも、「歌うこと」で名を挙げていけるのですから、やっぱり凡人からすると才能というものは羨ましいです。

先輩たちの絆には俺は入っていけないんだよな。
ユキが指をくわえて、そんなふたりを遠くから見ています。
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