ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「imagine」

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フォレストシンガーズ

「imagine」


 間抜けなメロディが鳴り響く。
 母の影響でガキのころから大好きなGS。プロのシンガーになってからは興味が深くなっていき、仕事柄、マイナーなGSやらレアなレコードやらにも手を伸ばすようになって発掘した曲だ。

 ケータイの着メロは自分で作れるのだそうで、そういうことに詳しい知人に作ってもらったのが、現在の俺の着メロになっている「きらきら星のロマンス」。超マイナーなグループが歌う超マイナーな曲だ。こんな間抜けなメロディではメジャーになれるはずがない、と納得できる間抜けさがいたく気に入ってしまった。

「こんな電話番号、知らないな」

 少なくとも俺のケータイのアドレスには入っていない番号だ。ランダムにかけてきた勧誘とか営業とかまちがい電話とか? と思ったのだが、暇だから出てみた。

「この番号はただいま、使われておりません」
「……三沢さん?」
「はい、そうですが」

 可愛い女の子の声、若い声。記憶の奥底を刺激する声。俺は耳がよくて記憶力もいいから、印象的な相手は忘れない。ああ、この声は……気づいた途端にずきんときた。

「愛子ちゃん?」
「へぇぇ、わかるんだ。あたしは三沢さんにはケータイナンバー、教えてなかったよね」
「聞いてないよ。俺もきみには教えてないでしょ」
「親父の筋から聞いたのよ」

 二年ほど前だったか、大学の後輩のダイちゃんに誘われて、もとGSのメンバーであり現音楽評論家である団塊の世代の男性の、ミニライヴを聴きにいった。
 彼が誘ったからステージに上がって歌を歌い、俺があんまり上手だからってひがまれて彼の気を悪くさせ、俺も気まずくなって途中で店から出ていった。俺があんまり上手だから……彼があんまり下手だから……事実なのだからしようがない。

 外に出たら雨が降っていた。次第に大雨になっていく景色の中で出会った女の子。
 家出してきたという彼女を俺のマンションに連れて帰り、一週間同居した。俺は野良猫を拾ったつもりのつもり。彼女は俺の下心に気づかないふりをして、性的な出来事はなにひとつ起きなかった。

 その子が愛子ちゃんだ。偶然ともいえるしそうでもないと言える、愛子ちゃんは俺がライヴを聴いた男性の娘だった。
 なのだから、親父というのはその男性だ。父親は音楽関係者なのだから、フォレストシンガーズの三沢幸生の電話番号を調べるのは可能なのだろう。なぜ今さら? ではあるのだが。

「遊びにいっていい?」
「いいけど……」
「今夜は大丈夫?」
「今だったらマンションにいるよ」

 そしたら行くね、と言い残して、愛子ちゃんは通話を切った。

「Imagine there's no heaven
 It's easy if you try
 No hell below us
 Above us only sky
 Imagine all the people
 Living for today...」

「Imagine there's no countries
 It isn't hard to do
 Nothing to kill or die for
 And no religion too
 Imagine all the people
 Living life in peace...」

 どれにしようかな、と迷って選んだ、ジョン・レノンの歌声が流れてきた。
 男の下心を知らないほどに、無邪気な女の子ではないはずだ。俺が彼女にとっては都合のいい男だから、適当に利用しようと思っているだけ。わかっちゃいるけど、彼女は俺を信じて慕ってくれている、だから夜に平気で遊びにくるのだと、こっちも信じておこう。

 女を見ると視線がよこしまになってしまう俺だけど、こんなふうに俺を信じてくれて慕ってくれる女の子だったら、友達ってのもいいかなぁ、と。

「どうぞ」
 ミルクティを出すと、愛子ちゃんは言った。

「幸生さん、聞いてよ」
「なに?」
「あれから彼氏ができたんだ。彼、ブルースをやってるギタリストで、うちの親父と彼の親父は若いころには知り合いらしかったんだよ」

「グループサウンズ?」
「そうなの。幸生さんの興味ある世界でしょ? それも話したかったんだけど、彼がさ……」

 つまるところ、愛子ちゃんは恋愛相談がしたくて俺のマンションに遊びにきたのか。ま、そんなところでしょ。これでがっくりするとは、彼女の年上の男友達ってポジションはつとまらないぞ。
 では、俺は愛子ちゃんの相談に乗らねばならない。ため息をつきたくなったのをこらえて、ふむふむ、それで? と身を乗り出してみた。

「結婚したいとは思ってないよ。うちの母さんを見てたら、結婚なんてまっぴらだもん。だけど、あんなにふらふらした男とつきあってていいんだろうか」
「そんなにふらふらしてるの?」
「あたしもふらふらしてるけどね」
「ふらふらしてないってのはどんななんだろ」

 三十すぎて女の子に都合のいい男扱いされて、そんならせめてやらせろよ、とも言えずにいい奴ぶって、そんな俺もふらふらしている。ふらふらしててどうしていけない? とも言い切れなくて、だけど、俺、愛子ちゃんと一緒にいると心地いいなぁ、なんて思ってしまって。

「眠くなってきたよ。帰るのもめんどくさくなっちゃった」
「前にはここで寝たんだもんな。寝てもいいよ」
「ん、そうする」

 章がここに入ってきたらびっくりするだろうな。幸生、おまえ、こんな可愛い子を泊まらせてなにもしないのか? 頭が変になったんじゃないのかって。
 したいのはやまやまなんだけど、なぜか愛子ちゃんとはこんなふうになってしまう。俺も枯れてきちまったのかな。他の女性だとそうでもないんだけど、愛子ちゃんが相手だとそういう意味で頭が変になっちまうんだよ。こんな仲もいいだろ。いい……のかなぁ。

 壁にもたれてうとうとしていた愛子ちゃんは、むにむに言いながらベッドに這い上がっていく。CDがおしまいになって、俺は愛子ちゃんの寝顔に歌ってみた。

「Imagine She who is next is my sweetheart.
 えーっと……でもでも……」

 いい加減な英語で歌って途中からは日本語になって、でもでも、彼女は年下すぎて、彼女にはオトコがいて、俺は別に彼女に恋してるわけでもなくて……と、果てしなく言い訳をしていた。


END






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~ Comment ~

NoTitle

ま、人それぞれ事情があります。
その事情の上で付き合っているので、アレコレ言うのも無粋!!・・・というのが大人ってものですね。

LandMさんへ

こちらもどうも、ありがとうございます。

ふたりの人間がいて、ふたりともに私たちはこれでいいんだ、と思っていたら、それがベストですよね。
たとえどんな関係であれ、他人があれこれ言うものではない。

でも、言いたがるのが人間で。
当事者たちも、これでいいと思っていても微妙にすれちがう、それも人間、かな。

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