ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「と」part2

 ←132「茶飲み話」 →FS「imagine」
フォレストシンガーズ

いろはの「と」

「刀光剣影」

 いい年になってから生まれたひとり息子だからか、父も母も穏やかだった。母は口うるさいほうだったが、親子喧嘩もしたことはないし、夫婦喧嘩も目撃したことはない。子どもには見せないようにしていたのでもなく、本当に喧嘩はしない両親だったようだ。

 ひとりっ子なのだからきょうだいもいなくて、類は友を呼ぶで友達もわりにおとなしくて、弾は大学生になるまでは喧嘩というものをほとんど知らずに育った。

「なんなちや。なんか文句でもあるんか!!」
「ああ、文句はあるんで!!」
「文句があるんじゃったらゆうてみろ!!」
「じゃったら言っちゃるがのぉ!!」

 かたや土佐弁、かたや広島弁で、ふたりの男が喧嘩をしている。口喧嘩の段階ではあるが、放っておくと気の荒い奴らが取っ組み合いでもはじめそうで、弾は割って入った。

「やめ!! っちゅうねん。話し合いせえや」
「うるさい。おんしにゃ関係ないだろ!!」
「そうじゃ!! わりゃぁ引っ込んでろ」

 広島弁のほうは知らない奴だが、土佐弁は弾の友達、小笠原英彦だ。大阪出身の弾も大阪弁で割り込むのだから、東京の公園で時ならぬ方言口喧嘩が勃発している。なんだなんだ? とばかりに見物されていた。

 大阪人にだって土佐弁や広島弁はこんなときには荒く聞こえる。東京の人間にはなおさらだろう。
 
 東京の大学に入学して親しくなった、高知の小笠原英彦と大阪の実松弾、今日は天気がいいので外で昼食を……と語らってふたりでここに来た。外で食べるとはいってもレストランに入るのではなく、弁当屋で買ってきた昼食だ。

「男同士で弁当食ってるって、侘しいのぉ」
「俺は侘しくないよ。弾ちゃんと弁当食うのは楽しいじゃないか」
「弾ちゃんと呼ぶなっ!!」

 日ごろから弾は大阪弁だが、英彦は標準語で話そうとこころがけているらしい。が、弾がお茶を買おうと自動販売機に向かっている間になにが起きたのか、英彦は土佐弁全開になって広島弁男と牙をむき合っていた。

 こんなときにはもうひとりの友人の本庄繁之がいてくれたらいいのだが、生憎、今日は彼は学校に来ていないようだ。

「ヒデ、なにがあったんや?」
「説明なんかしてる暇はないちや!!」
「そない興奮するなって」
「うるさい!! 実松、どけ!!」

 突き飛ばされそうになってからくももちこたえ、弾は周囲を見回す。この公園は学校からは近いのだから、助っ人があらわれてくれないだろうか。合唱部のキャプテンの本橋さんだったら喧嘩に参加しそうだから、温厚な先輩がいい。乾さんがベストだけどな。

 とは思っても、そう都合よく誰かがあらわれるわけがない。弾は躍起になって英彦の腕を引っ張り、な、落ち着け、やめろって、と言い続けていた。

「おまんはそれでも男か?!」
「げにそうだの。わりゃぁそれでも男か?!」
「なんやとぉ?」

 それでも男か、と言われると、弾も熱くなってしまった。こらこら、やめんか、弾。おまえまで参加してどないする?! と心でもうひとりの弾が止めているのだが、おう、やるんかい、と広島弁の男が言い、それでこそ男やきに、と英彦にも言われると、やったるわい!! 気分になってしまった。

「実松は俺の味方やきにな」
「味方じゃのなんじゃのぉぁどうでもええんだ。やったるけんのお」
「おお、やるか」

 ああ、あかん!! と冷静な弾は言っているが、こうなるとどうにもこうにも止められなくなってしまった。やるしかないのか? と内心でパニクりながらも周囲を見回すと、助けにきてほしかったはずの本庄繁之の姿が目に入ってきた。

「ヒデ、あっちにシゲがおるで」
「シゲ? ああ、泉水ちゃんもいるな」
「なんやふたりして困ってないか?」
「そんな感じだな」

 むこうのほうに繁之がすわりこんでいる。その近くで身をかがめて、繁之になにやら話しかけているのは瀬戸内泉水だ。繁之は死ぬほどもてないらしいのだが、幼なじみで同じ三重県から上京してきた女友達の泉水がいるのだから、弾としてはうらやましかった。

「ほんとに困ってるな。あっちのほうが先だよな」
「そうや、行こう」
「ああ」

 ふたりして繁之と泉水のほうへ走っていこうとしていたら、広島弁男が英彦の前に立ちふさがった。逃げるんか?! と凄まれた英彦は、じゃかましい!! どけ!! と一喝して彼を突き飛ばす。広島弁男はそれだけで吹っ飛び、なんや案外弱いんやな、ってか、ヒデはほんまに強いな、と感じつつ弾も走った。

「シゲ、どうした?」
「泉水ちゃん、なんかあったんか?」
「ああ……ヒデ、実松くん……」

 同じ大学だから、弾も泉水を紹介してもらって友人と認識はされているようだ。繁之はむすっとしていて、泉水が説明してくれた。

「知らないおじいさんに因縁つけられて、シゲが突き飛ばされたんだ。足をくじいたみたいだから、私がおんぶしてあげるって言ってるのに……」
「そら無理やろ。シゲは重いで」
「私はけっこう力持ちだけどな」

 背も高くてたしかに力はありそうだが、女の子に七十キロ近くもある繁之を背負うのは無理だろう。弾が背を向けると、大丈夫なのに……とぼやきながらも繁之は身をあずけてきた。

「うん、たしかに重い。シゲ、食い過ぎやろ」
「別に体重は増えてないよ。俺はもとからこんなもんだ」
「シゲは実松にまかせよう。泉水ちゃんは俺が背負ってあげようか」
「私の足はなんともないの。いらないよ」

 どうせやったら俺も泉水ちゃんを背負うほうがいいな、と弾も思うが、英彦のように軽々しく口にはできない。繁之は弾の背中で、ごめんな、悪いな、と恐縮していた。

 重いのは重いのだが、さきほどの状況……あれをなんというのだったか。そう、「刀光剣影」だ。
 状況が切迫していて、いつ戦いが起こってもおかしくない殺気立った雰囲気のこと。刀が光って剣の影がちらりと見えるという意味から、そういう四文字熟語ができた。

 そんな状況を打破してくれたんだから、繁之の重さなどなにほどでもない。英彦もあんなことがあったのは忘れたかのように、泉水と楽しそうに話しながら弾のあとを歩いてきている。

 広島弁男は……と見ると、遠くからこちらを眺めているものの、近寄ってくるようにはない。女の子がいるからかな? 女の子の力ってこんなときには強いんやな。泉水がなにをしたわけでもないのだが、弾は内心で彼女に感謝していた。

dan/19歳/END







スポンサーサイト


  • 【132「茶飲み話」】へ
  • 【FS「imagine」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

久しぶりのヒデちゃん!
そして、喧嘩してる(笑)弾くんはお初なんですがヒデちゃんのお友達とは!どんな人なんだろう……興味が湧きます(*´艸`*)

方言いいですよね。私は関西生まれで関西の大学に行ったんで自分が浮いてる感じはしなかったんですが、東京の大学行った友達は関西弁保存会とか入ってました(笑)
土佐弁いいですね~広島弁も好きです♪もちろん大阪弁も!ただ泉州?あたりの言葉はキツくて苦手かも(^_^;)

そしてまさかシゲちゃんに女友達が!貴重だ!泉水さん貴重!
しかもオンブしてくれるとか(笑)流石にそれはちょっとムスッとなりますよね(笑)
今回のお話は面白くて笑ってしまいました(笑)
久しぶりにヒデちゃんシゲちゃんコンビが見れてほっこりしました~

そして刀光剣影って言葉を学びましたφ(..)メモメモ
勉強になります。ありがとうございますm(__)m

あかねさんが書かれるお話はキャラの個性がちゃんと出てるし、お話の流れも自然でうらやましいです。私も雑な文章じゃなくてこんな風な綺麗な流れのあるお話が書けるようになりたいです(。>﹏<。)

たおるさんへ

コメントありがとうございます。

実松弾、若いころから大阪のおっちゃんタイプ。体格や顔立ちはシゲに似た感じで、大学生時代には、シゲ、ヒデ、実松のアホトリオでした。

弾という名前がかっこよすぎて似合わなくて恥ずかしがってますので、「弾と呼ぶな」と怒るのです。

たくさんキャラがいると、そのときどきでマイブームってありません? 弾がマイブームだったころにはけっこう彼を書きましたが、最近は時々です。

関東人に囲まれると、笑いのノリなんかがちがうなぁと思います。
幕末ファンの集まりで、「大阪が首都になっていたとしたら、ニュースも大阪弁で読むようになったのかな。なんとかでんねん、とか?」なんて言われたこともありますよ。

でんねん、なんて言わへん、っちゅーねん。(^o^)

広島弁って面白いですよね。
関東の言葉は語尾が上がっていき、関西の言葉は下がっていく。九州は一本調子で、広島は上がったり下がったり、って印象があります。

瀬戸内泉水も時々、マイブームになると書いていました。
このタイプの女性とは私はあまりお友達にはなれないかもしれないけど、書く分にはなかなか好きです。

キャラの個性が……なんて言っていただけるととーっても嬉しいです。
でも、たおるさんの文章はまったく雑なんかじゃないですよ。読みやすくてわかりやすくて素敵な文章です。

内容も、現在、連載しておられる例のあの運転手……じゃなくて、あの怖いもの知らずの女性が主人公のあれも、サスペンスを高めていくのでとてもお上手ですし。

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【132「茶飲み話」】へ
  • 【FS「imagine」】へ