ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「へ」part2

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フォレストシンガーズ

いろは物語part2

「へまな奴」

 キャバクラというのかクラブというのか。稚内から上京して予備校に通い、どうにかこうにか大学生になった俺は、東京の盛り場には慣れていない。息抜きと称して浪人時代にも遊びはしたが、金もなければ暇もないんだから、たいしたことはしていなかった。

「いいか、龍、おまえみたいな世間知らずの田舎者には、東京は怖いところなんだぞ。気をつけろ」
「……きゃああ、章が一人前に弟に説教してるよ。きゃああ」
「うるせえんだよ、幸生っ!!」

 というような三沢幸生さんと、俺の兄貴の木村章とのやりとりもあって、東京ってのは怖いところなんだなぁ、との漠然とした知識はあった。
 けれど、俺だって成人したのだし、仕送りも振り込まれていたのだから、一度くらい豪遊……はできないかもしれないが、ぱっと遊んでみたかった。

 ふらふらと繁華街を歩いていたら、引っ張り込まれた店が、キャバクラというかクラブというか、だった。クラブだったらもっとおしゃれだろうから、安物のキャバクラか。

 酒の味なんか知らないから、高級なのか安物なのかもわからない。店の女に囲まれて、その女たちも酒を飲み、あれよあれよという間に勘定が嵩んだようで、請求金額を見せられて目の前が真っ暗になった。

「金が足りない? そんならツケにしてあげるから、学生証を置いていって」
「そんな……」

 無駄な抵抗は効き目もなく、俺は外に出た。金をもっていけば学生証は返してもらえるようだが、その金がない。親に無心するか、兄貴にねだるか。どっちにしても怒られるだろうな。哀しい気分で歩いていたら、さきほどの女たちのうちのひとりに声をかけられた。 

「かわいそうにね。純情な学生さんをひっかけるなんて、うちの店ってあくどいわ。お姉さんがなぐさめてあげようか」
「いらねえよ」
「……あたし、あなたが気に入ったのよ。綺麗な顔をしてるし、純情そうな男の子ってタイプなの。可愛がってあげるから。商売っけはないのよ」

 商売っけないんだったら、なぐさめてもらうんだったらいいか、傷心の俺は彼女の言葉にふらっとよろめいてしまった。

「木村龍くん? あたしはリラ。女子大生なんだけど、あの店でアルバイトしてるの。龍くんよりはちょっとだけ年上ね」
「なぐさめるってどうするの? 俺、すっからかんだよ」
「おなかはすいてない? ラーメン、おごってあげようか」
「……ありがとう」

 ふたりでラーメンを食って、ホテル代だって大丈夫だよ、と言われて、その気になった。

「龍くん、はじめてなの? リラ、感激」
「感激なんかするもんか?」
「だって、あたしもはじめてだもの。はじめて同士の綺麗な恋なのよ。感激じゃないの」
「……どこが綺麗なんだよ」

 彼女の顔はまあまあ綺麗だが、これは化粧のおかげなのか。ベッドでも化粧はしたままで、俺には彼女がはじめてなのかどうかわからなかったが、いくらなんでも本当のはずがない。
 なんだか虚しいなぁ。男の初体験なんてこんなものなのだろうか。好きな女の子としたかった、なんて、そんな夢を見ていたわけでもないけれど。

「じゃあね、請求書にプラスしておくから」
「は?」
「またいらしてね」

 別れ際にリラはそう言い、ひらひらと手を振った。

「そういうわけで……金がないんです」

 どうしようもないから兄貴にすがろうと、フォレストシンガーズのスタジオを訪ねていった。兄貴はいなくて、本橋さんと乾さんに正直に打ち明けた。うつむいてぼそぼそと喋ってから顔を上げると、ばっちーん!! ときた。

「いてっ!! 本橋さん、ひどいよ。え? 乾さん?」
「若気のあやまちってのは誰にだってあるさ。酒はまだいいけど、その先が悪い、女性とベッドに入るってのはそんなもんじゃないだろ、なぁ、幸生?」
「おっしゃる通りです」

 うしろにいた三沢さんに向かって乾さんは言い、三沢さんはなぜか恐縮していた。

「よし、わかった。龍、働け」
「働くの?」
「今日は俺たち、徹夜で仕事をするんだ。龍は雑用係、小間使いだ」
「……アルバイトだよ」

 そうする以外の道がないのならば、フォレストシンガーズのスタジオでアルパイトするしかない。こき使われてへとへとになって、それでも、一晩のバイトにすれば破格なギャラをもらえたから、キャバクラのツケは清算できた。

「あら、龍くん、ちゃんと払えたんだって? えらかったね」
「……あんたは俺を待ち伏せしてんのかよ」
「そんなわけないでしょ。うぬぼれないの。行く?」
「どこへ?」
「この前と同じコース」
「行くわけないだろっ!!」
 
 振り払ってもリラはついてくる。甘い声が俺のうしろで聞こえる。毒食らわば皿までって言うじゃない、一度やったんだから二度でも三度でも同じじゃない。あたし、よかったでしょ? あんたもよかったよ。もういっぺん寝ようよ……

「いやだ、いやだいやだ、俺は金がない」
「金なんかどうにでもなるってば。学生なんでしょ? 親もいるんでしょ」
「親になんか言えないよ」
「ねぇ、龍ってば、行こうよ。ラーメンはホテルにも出前してもらえるよ」

 馬鹿だ、間抜けだ、俺はリラに引きずられてしまった。

「今夜は持ち合わせはないよね? あたしが払っておくから、請求書、回ってきたらよろしくね」
「学生証なんか渡さないぞ」
「あたしはそこまでは言わないわ。キミを信じてるから」

 真っ赤な口紅をほっぺたに押しつけられて、リラは帰っていった。
 そしてまた、俺は今日もとぼとぼ歩いている。また金か。ほんと、東京って怖い。リラって女は魔女みたいだ。

 同じことをまたもやしでかしたと話したら、今度は本橋さんに殴られるだろうか。本橋さんのほうが乾さんよりも力が強いだろうから、殴られる痛みは倍くらいになりそうに思える。どうせ殴られるんだったら、身体が小さくて力のない兄貴のほうがましかな。

 二度と、もう二度と絶対に、あんなことはしない。そう約束して、兄貴に小遣いをもらおう。二度としないためにはどうすればいい? リラには会わないように、絶対に、もう二度と会わないようにする、それしか俺には考えられなかった。

END









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~ Comment ~

NoTitle

東京は怖いところ!!
・・・・私もあまり東京には旅行でしか行かないからな~~~。
いや、私は田舎でほのぼの暮らす方がいいじぇ。。。
(*´ω`)

NoTitle

あ~~、一回ならば社会勉強で許してあげるけど、二回目は馬鹿ですね^^(そんなに良かったのかな?)

でも男だもの。ちょっと仕方ないかなあという気も・・・。

ここで乾君たちが助けてくれたのは本当にラッキーでしたね、龍君。でもきっと二度目はないよ><

顔がきれいなんだし、ちょっと真面目に暮らしてたらすぐに彼女なんてできるはず。嘘八百のお姉さんなんかに(きっとサバ読んでるし)引っかかっちゃだめよ~~。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
東京って怖いとこなのかなぁ。
私には実感はありませんが、やはり言葉がちがうので、笑いのノリなんかもちがうので、やりにくい気はしますね。

西の国のほうが暮らしやすいです。
やっぱり大阪がいいです、私は。

limeさんへ

コメントありがとうございます。
これを書いていてつくづく、アホ、龍ってアホ。
一度ならずも二度までも……アホアホアホ、と溜息をついていました。
こんなアホ弟がいたら、自分のことを棚に上げても、章兄ちゃんも怒りたくなりますよねぇ。

でも、幸生は妹に説教しようとしても聞いてもらえなくて、逆に説教されたりしていますので、だいぶ年下の弟がいてちょっとはいばれ章がうらやましいんですよね。

龍はルックスはいいんですが、やはりアホなせいか、なかなか彼女ができません。
可愛い女の子を紹介してやって下さいな。

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