ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS天空物語「流れる雲に」

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フォレストシンガーズ

天体物語

「流れる雲に」

 見渡す限り緑の丘に寝そべって、思い思いに空を見上げる。
 CDジャケット撮影の合間の小休止だ。こんなときに決まって口火を切るのは三沢幸生で、手をマイクの形にして乾隆也の口に近づけた。

「乾さんはあの雲を見てなにを思いますか?」
「流れていく浮雲……浮雲って人の来し方を思い起こさせるんだよな。俺たちも三十数年生きてきて、ちょっとだけ人と変わったこともしてきた。それなりに人と出会い、人と別れ、想い出を作ってきた。そういったことどもが、あの雲のように胸の中を去来するわけだ」
「雲の俳句とか短歌とかは?」

 沈黙してしまったのは、隆也が自分で短歌を詠もうとしているからか。隆也の頭の中には既成の短歌や俳句も詰まっているのだが、自らも詠みたがる。幸生には俳句や短歌の良しあしはわかりづらいが、乾さんのはたいしたこともないような……シゲさんは目をくらまされて尊敬してるみたいだけど、と思わなくもない。

 たとえへっぽこ短歌しか詠まなくても、俺も乾さんを尊敬してますよ、幸生は心で言い訳しながら、質問する相手を木村章に切り替えた。

「章は雲のロック?」
「雲のロックか」
「雲って英語でなんて言うの?」
「Cloud」

 おー、章ちゃん、さすが。中学生レベルだろうが、などと言い合っている幸生と章をほっぽって、隆也は雲を見つめて考える。日本の歌には雲をテーマにした歌詞はよくあるが、短歌は……ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲……これは秋だから、初夏の今にはふさわしくないし……。

 我が想い 風に飛ばされ 散る雲のごと

 蜘蛛の子が散る光景が浮かび、隆也は頭をぶるっと振る。幸生と章も、ピンクスパイダーって歌があるよな、と言い合っているから、クモが蜘蛛になるのは日本人ならありがちなのだろう。

「ひこうき雲、浮雲、ホウキ雲、夕焼け雲、流れゆく雲を見つめて、寒雲、ピンクの雲、水の中の雲、雲空の悪魔、パラ色の雲……シゲ、他にもあったっけ?」
「本橋さんはよくそうたちどころに雲の歌のタイトルが出てきますよね。俺には浮かびませんよ」

 空に雲は浮かんでるけどね、と幸生が横から言う。本橋真次郎は他にも雲を歌った歌はないかと頭を悩ませていて、隆也は雲の句だか短歌だかをひねっているらしい。俺の先輩たちって歌っていうと熱くなるんだよな、と本庄繁之は感心してしまう。

 章と話をしながらも、真次郎と繁之の会話も聞きかじっている。乾さん、できました? と隆也にも質問を向ける。幸生もすごい奴だ。俺はそんなにあちこちに頭が回らない、と嘆きつつも、繁之も考える。

 雲……かぁ。

 ぽっかり浮かんで悠々と流れていく雲は、白いふかふかの綿のようだ。雲から綿を連想するとはありふれすぎている。これだから俺には詞も書けないんだと繁之は悲観してしまう。

 刻一刻と形を変える雲。あれは息子の好きなキリンみたいだ。こっちは事務所の玲奈ちゃんが作ってくれたテディベアに似ている。あっちは妊娠中の妻が横を向いた、ぽこっとしたお腹のようだ。むこうでぷくぷくっとふくらんだ雲は、焼き立てのパンみたい。昨日、妻が焼いてくれたパンは美味だった。

 腹が減ってきたな、仕事がすんだら自由時間だから、お土産を買って早く帰ろうか。この丘のふもとに売っていたちくわ……あ、あの雲は竹輪に似ている。うまそう。

 ぼーっと空を眺めている繁之が、腹減った、と呟く。なんだ、シゲは食いもののことを考えていたのか。真次郎も繁之とともに空を見上げ、俺も俳句でも詠めないかなと考えてみた。
 が、そんなものは詠めそうにない。歌詞も浮かばない。曲だったら浮かんできそうだ。雲が形作った白い仔犬を追いかけていく少年は……幼いころの真次郎だろうか。
 
「洋楽のメロディは思い出せるんだけど、歌詞のほうは咄嗟には出てこないのが多いな」
「章はロックだったら英語は得意だろ」
「得意でもないよ。おまえよりはましだけどさ」
「俺よりも英語がひどいシンガーは、きっといないぜ」

 いばって言った幸生をこづいておいて、章が歌い出した。

 I know you said
That you don’t like it complicated
That we should try to keep it simple
But love is never ever simple
No

「おっ、One Direction !!」
 幸生が叫び、結局は雲の歌の大合唱になった。

 Here we go again
Another go round for all of my friends
Another non stop, will it ever end
Here we go again
Another go round for all of my friends
Another non stop, will it ever end

We’re never coming back down
Yeah we’re looking down on the clouds

END









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~ Comment ~

NoTitle

雲で何が見えるかは人次第ですからね。
そういったところに人の心が現れるというものですからね。
確かに雲から浮かんでくる歌もあるでしょうね。
そういうところから曲作りが始まるのも妙ですね。
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

LandMさんへ2

いつもありがとうございます。
2というよりも、2乗の感謝でございます。

なにを見ても小説のネタを探している私。
アマチュアでもこんなふうなのですから、プロのミュージシャンだと自然に曲が浮かびそう。

浮かぶ雲、浮かぶ歌、
ですね。
私ももっと浮かんでほしいです。

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