番外編

FS超ショートストーリィ・四季のうた・章「秋の露」

 ←ガラスの靴53 →130「きみだけが」
フォレストシンガーズ・超ショートストーリィ・四季のうた

「秋の露」

 
 テーブルには日本酒のボトルとグラス、日本酒に合うらしき肴の数々。俺はビールのほうが好きだが、フルーティな日本酒なんてのもいい。吟醸酒や純米酒のつめたいのならば嫌いではないから、早く飲みたかった。

 さしみも魚も肉も野菜もある。ごぼうの味噌漬けや和風ポテトサラダや、玉子焼きやら焼き鳥やら、空腹でもあるから食うほうにも早く早く気分だったのだが、乾さんがなにやら吟じはじめた。
 なんだ? 漢詩か?

 勧君一杯君莫辞   君に勧む一杯君辞する莫れ
 勧君両杯君莫疑   君に勧む両杯君疑ふ莫れ
 勧君三杯君始知   君に勧む三杯君始めて知らん
 面上今日老昨日   面上今日昨日より老い
 心中酔時勝醒時   心中酔時は醒時に勝る
 帰去来頭已白    帰りなんいざ頭已に白し
 典銭将買酒喫    銭に典して将り用いて酒を買いて喫せん

 俳句や短歌の好きなうざい奴だとは知っていたが、今夜は趣向がちがっている。

「白楽天です」
「さすがに乾さんですな。どうですか、乾さん? うちの県の観光大使をつとめていただけませんかね? 乾さんは石川県出身でしたっけ? すると、やはり故郷のほうから……?」
「いえ、そんな話はいただいてませんが」
「だったらぜひうちに」

 おそらくは本橋さんも幸生も、どうだっていいから早く飲ませろよと思っているはずだ。シゲさんなんぞは腹の虫が騒いでいるだろうが、そこは大人の対応で、いいですね、なんて言っている。

 漢詩なんてものに興味はないし、飲めない酒や食えない料理は目の毒なので、俺はさりげなく席をはずして庭に出た。
 
 東北のとある県の観光協会が設けてくれた酒席だ。我々もこんな席に招かれるようになったんだな、おっさんになってきたからと、有名になりつつあるからだろう。海の幸、山の幸、酒、うまそうなものがいっぱいなのに、早く食いたい、飲みたい、乾さんがよけいなことを言い出すから……。

 ガキみたいにぶちぶち言いつつ、庭に下りていく。金沢の乾さんの親の家も、これに近い広壮な庭があった。稚内の木村家とはえらいちがいだ。乾隆也と木村章の人間性の差も育ちの差ゆえなのか。

「……あ、綺麗だな」

 葉っぱにたまった露は透明にきらめいていて、露ってのは酒の別名じゃなかったっけ? と思うといっそう早く飲みたくなってきた。

END








 
  
スポンサーサイト



【ガラスの靴53】へ  【130「きみだけが」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

章の気持ち、わかるなあ~^^

ご馳走や美酒を前に、お預けを喰らった感じ?
きっと漢詩が似合う秋の日だったんだろうけど。
私も漢詩とか全く分からないから・・・。
そう言えば古文でやったな~。
ちょっとパズルのように返り点とか・・・。
味わうまでには程遠かった気がします。
やっぱり育ちが・・・><

でも葉っぱのつゆを見て物思う章も、情緒ありますよね^^

NoTitle

私は日々のストレスは身体を動かすか酒を飲むか。
・・・まあ、そんなところですけどね。

意外にこうやってコメントしているときも酒を飲んでいたりします。
( 一一)

limeさんへ

いつもありがとうございます。

おなかがすいているのにおいしそうな料理とお酒を前に、野暮な先輩が漢詩を吟じる。
うー、苛々。
私も章の気持ち、わかります。

乾先輩はきっと、俺の役目はここではこんなふう……なんて、そう判断したのでしょうね。
食べながらやれば~?

シンとかシゲとかいうひとは情緒欠乏、隆也は情緒過多。
幸生の情緒はおかしな方向に向かい、章にはほどほどに情緒はあるものの、ひねくれてますので素直にあらわさない。

といったところです。

そうそう、シゲには情緒はなくもないのですが、自分の感覚に自信がない。
シンのほうも詞を書くんだから、なくもないんですけどね、そんなの男らしくないだろ、とか思っているのかもしれません。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
週末のひととき、お酒、飲んでいらっしゃいますか?

私は先月は三回も飲んだので、今月は自重しています。
飲むと睡眠一直線になってしまいますし、すこしだけ飲むとむしろ眼が冴えますので、一杯だけ、とかはしないんですよね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ガラスの靴53】へ
  • 【130「きみだけが」】へ