ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS天空物語「10パーセントの雨予報」

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フォレストシンガーズ

「10パーセントの雨予報」

 
 新しく餃子専門店がオープンした。宇都宮餃子研究会のメンバーとしては食べにいかなくちゃ。
 そんなら研究会の有志で、とはいかなくて、ふたりで行こうよと山田美江子を誘った。OKしてくれたから僕は嬉しくて、美江子ちゃんも嬉しそうだったはずなのに。

 高校に入ってクラブ活動を選ぶことになり、僕は迷ったあげくに料理クラブに入部した。料理クラブは女子が大半で、それでも何人かはいた男子で固まっていたら、自己紹介するように言われたのだった。

「キドコロ・イズルです。城所出って書くんで、キドコロデさん? なんて読まれたりもするんですけど、キドコロ・イズルですから」

 運動なんかしたくない、文系のクラブもうざい、料理だったら将来のためになる、僕は高校を卒業したらコックになりたいから、クラブでだったら無料で勉強できるだろ、さまざまな理由で料理クラブに入っている男子たちとも親しくなっていくにつれ、ひとりの女の子が気になるようになってきた。

 彼女は同い年の山田美江子。宇都宮の高校なのだから、名物の餃子を研究しようと言い出した先輩がいて、クラブのみんなでおいしいと評判の餃子を食べにいき、さりげなくコツを盗んできて学校の調理実習室で再現したときに、彼女とペアになった。

「うちのお母さんは働いてるの。私には妹がひとりと弟がふたりいるし、お父さんは料理は得意じゃないから、私が週の半分くらいは夕飯を作るようになったんだ。それでテレビの料理番組を見たり、料理の雑誌を買ったり、お母さんや近所のおばさんに教わったりしてるうちに楽しくなってきて、料理好きになったのよ」

 皮に餃子のフィリングを包みながら、美江子ちゃんの話を聞いた。しっかりしてるんだなぁ、手際もいいなぁ、それに、横顔が凛々しくて綺麗だな。

 気になる存在だった美江子ちゃんを好きになり、料理クラブのうちの有志で餃子研究会を作ると決まって、美江子ちゃんが入ると知って僕も参加した。つきあってほしいとはまだ言っていないが、今日はふたりきりでのはじめてのデートだ。今日こそ告白しなくちゃ。

 なのに、なぜだか美江子ちゃんの機嫌が悪くなってきている。
 どこそこの餃子もおいしいよ、お母さんの作る餃子のタレもいけるよ。だけど、にんにくはあとから効くよね、楽しそうにそんな話をしていたくせに。
 
「なにを考えているの
 きみの瞳の中には
 10パーセントの雨予報 涙が隠されてる

 Everyday you are my angel
Everyday you are my devil
 移り気に惑わされて僕だって雨のち晴れ
 Everyday you are my angel
 Everyday you are my devil
 気まぐれはきみの魅力のひとつさ」

 そんな歌が頭をよぎる。気まぐれもきみの魅力のひとつさ、と微笑んで美江子ちゃんを抱きしめて、キスできるようになったらいいな。

「ここだ。遠かったね」
「遠かったというよりも、城所くんがきちんと調べてこないからでしょ」
「うん、ごめんね。それで機嫌が悪くなってた?」
「機嫌は悪くないけど、新しい靴だから足がちょっとだけ痛かったの」

「ごめんね。ここはおごるから……」
「高校生がおごったりしなくていいんだよ」
「……じゃあ、帰りのお茶くらいはおごらせて」
「……うん、ありがとう」

 行列に並んでいる間はそんな話をして、想像していたほどには美味でもない餃子を食べて、帰りにドーナツショップでコーヒーとドーナツを前に、僕とつきあって、と打ち明けた。

「……うん、いいよ」
「ありがとう」

 照れてうつむいてしまった僕と、ご機嫌ナナメはどこかへ飛んでいってしまったように、晴れやかに笑っていた美江子ちゃん。
 時がこんなに早くたつなんて、あのころの僕は考えてもみなかった。
 考古学を学びたくて僕は奈良の大学に進学し、美江子ちゃんは東京に行き、高校を卒業したら離れ離れになると知っていたら、あのころの僕はどうしただろうか。

 知っていたとしてもどうにもならなかったかもしれない。
 十八歳で別れ別れになってから、十年以上になるのか。僕は三十二歳になり、考古学とはひとかけらも関連性のない流通業界の内勤サラリーマンになっていた。

「城所さん、お返事は聞かせてもらえないの?」
「あ……ああ、明日でいいかな。明日、帰りに「ブルースカイ」で」
「うん、待ってるから」

 コピー機のところで顔を合わせた同僚の角田さんが、固い表情で話しかけてくるのに素早く返事をした。彼女とは一年ほどつきあっていて、彼女のほうから先日、結婚を考えてほしいと言われたのだ。三十代の男女が交際していれば結婚話が出るのは当然だろうが、僕としては戸惑っていた。

 大学を卒業してから遠回りをしたので、現在の会社に就職したのは二十五歳の年だ。就職記念にノートパソコンを買ってインターネットを見るのにはまって、フォレストシンガーズというデビュー間もないヴォーカルグループの公式サイトを発見した。

 興味を持ったのは、彼らが美江子ちゃんと同じ大学の出身者だったからもある。彼ら個人個人が短文を寄せていて、そのうちのひとり、木村章がこんなことを書いていた。

「なにしろみんな、長年のつきあいですから。マネージャーの山田美江子さんも同じ大学の同じ合唱部だったんですよ。ま、なにはともあれ、フォレストシンガーズをよろしくお願いします」

 マネージャーの山田美江子? 山田美江子ってそれほど珍しい名前でもないけど、あの、山田美江子だよな? マネージャーというと表には出ないのだろうけど、美江子ちゃんが……彼女には似合いの職業って気がする。

 気が強くてしっかりしていて、僕はなんであってもかなわなかった美江子ちゃん。同い年なのにお姉さんみたいで、彼女には弟がふたりもいるのもあって、僕も弟みたいに思われていた感があった。

 それからは僕はフォレストシンガーズを応援している。ライヴに行くほどでもないし、もしも行ったとしてもマネージャーに会うことはできないだろう。今さら美江子ちゃんに会いたいとも思わないが、CDを買ったり、ケーブルテレビにフォレストシンガーズが出ているのを見たりもしていた。

「美江子ちゃんは結婚したのかなぁ。マネージャーが結婚したってニュースにもならないかな」

 うちに帰ってパソコンを起動し、久しぶりでフォレストシンガーズ公式サイトにアクセスする。最近では彼らは不定期に日記を書いていて、三沢幸生の署名のあるこんなコメントが出てきた。

「発表します、リーダーが結婚します。
 相手はうちのマネージャーでーす」

 こんな形でならば、マネージャーの結婚も話題になるのか。リーダーといえば本橋真次郎、僕は彼には一面識もないが、僕と別れたあとで美江子ちゃんがつきあっていた男なのだろうか。背が高くて男っぽくて、豪放なイメージのある奴だ。

 大学のときからつきあってるんだったら、長すぎた春だね。なんだっていいから幸せになってほしい。僕も……明日、「ブルースカイ」で角田さんにOKの返事をしようか。「ブルースカイ」という店名から、この歌を連想した。


「裸足のまま踊りたいね 今日はブルースカイ
 白い雲はアクセサリー 流れていく
 乙女心は不思議さ 雲行きがすぐ変わるよ
 さっきまでは幸福の高気圧さ」

 なつかしい歌が流れてくる。隣を歩く乙女はずっと美江子ちゃんだったわけでもなくて、僕にだって別の彼女はいたけれど、最終的には角田さんになるのか。
 美江子ちゃんと本橋、角田さんと僕。本橋さんの職業柄、そんなことは起こりえないのだろうけど、どこかの街角でカップル同士ですれちがってみたい。お互い、女心には苦労させられるよね、と本橋さんと目配せし合ってみたい。

 ずーっと僕は、フォレストシンガーズと美江子ちゃんのファンでいるからね。
 むこうは僕らになんか気づかないかもしれないけど、そうして目で語りかけてから、美江子ちゃんから離れていきたかった。

END






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~ Comment ~

NoTitle

これ読んでて餃子が食べたくなりました(笑)

美江子さんの昔の恋愛話! 
美江子さん昔から料理したりしてしっかりしてたんですね。敏腕マネージャーの素質が見え隠れします!私とは大違いだ(-_-;)

昔の恋人ってどうしてるのか気になるもんですね。フェイスブックとかで昔の恋人とまた繋がって恋が再加熱するって聞いたことあります。

「町角でカップル同士ですれちがってみたい。お互い、女心には苦労させられるよね、と本橋さんと目配せし合ってみたい。」
って部分なんだかほんわかしました(笑)

城所さん(きどころって読むんですね、知りませんでした)のノスタルジックな淡い恋心みたいな、微妙な感情もスラスラ書き上げるあかねさんはすごいと思います。私も見習いたいm(__)m

また遊びにきます♪

たおるさんへ

コメントありがとうございます。
宇都宮って行ったことがないんですよ。美江子の故郷だから一度は行って、餃子モニュメントとやらを見てみたいです。

たおるさんは餃子、お好きですか?
私は水餃子のほうがいいかな。焼いたのはちょっとしつこくて、匂いもきついですものね。

最近はSNSでモトカレやモトカノの動向を見るっていうの、あるみたいですね。
モトカレやモトカノと再会して完全に友達として復活する。私はそれはアリだと思うのですが、イマカレやイマカノからしたら気に入らないかな。

フォレストシンガーズのみんなや、こういう職業のひとのモトカレやモトカノは、テレビやなんかで今の姿を見てどう思うんだろ。そういうのに興味があって、時々書いてみます。

私が書くのは想像だけですけど、たおるさんにそんなご感想をいただいて嬉しかったです。
美江子にもファンがいると知ったら、本人はどんな気持ちになるのでしょうね。

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