ショートストーリィ(FSいろは物語)
いろはの「は」part2
いろは物語part2
「華やいで」
ひとりで繁華街に出かけるのはちょっと……と思ってしまうのは、やはり私は田舎者だからか。三重県から大学に入るために上京してきて、借りてもらったアパートの近くには幼なじみのシゲが暮らしているから心強くはあっても、シゲとデートみたいに出かける気にもならないし。
そう思っていたら、授業がはじまると友達ができた。東京生まれで、父親の仕事の関係で各地を転々としたものの、最近になって東京に戻ってきたという高田諒子。諒子は東京そのものに臆したりはしないので、泉水、遊びにいこうよ、と気軽に連れ出してくれた。
「泉水ちゃんって彼氏はいるの?」
「いないよ。諒子ちゃんは?」
「私もいない。泉水ちゃんには前にはいたんでしょ?」
「高校のときにはいたけどね」
「キスくらいした?」
「まあね」
十八歳の女の子がふたりでしているとしては、ありふれた会話だろう。女の子の最大関心事は恋愛なのかもしれない。
「男の子の友達ってのは泉水ちゃんにはいる?」
「いるよ。本庄繁之っていって、故郷の三重県では家が近いの。シゲんちは酒屋で、シゲんちのお母さんとうちの母は仲が良くて、小さいころからいっしょに遊んでた」
「彼氏ではないの?」
「ちがう」
ね、ね、どんな男の子? と諒子は好奇心いっぱいで尋ねる。
「じゃがいもってか、イノシシハムってか」
「イノシシハム? なにそれ? でも、なんとなくわかるかも」
泉水ちゃんはどこに行きたい? と諒子に訊かれて、近頃のトレンドであるらしいお台場と答えた。お台場はごく最近になって賑やかになってきた場所で、繁華街というのでもないのだろうが、田舎者には眩しいようなスポットだ。
レインボーブリッジが見えるあたりにすわって、諒子とお喋りする。ハンバーガーやフライドポテトを買って食べながら、東京ではじめてできた女友達とのひととき。広々として晴れ晴れとして、いい景色だった。
「三重県だったら、泉水ちゃんのおうちは海に近いの?」
「うちは内陸部。奈良県に近いの」
「そうなんだ。三重県ってわかりにくいよね」
「そうだろうね。三重県ってどこにあったっけ? ってよく言われるよ」
「方言ってあるの?」
「あるある。うちのあたりは大阪弁に似てるかな」
転勤族の娘である諒子は、日本の地理をよく知っている。それでも三重県はわかりづらいらしいのは、関西人や中部人以外ならありがちだろう。
「諒子はどういうところに住んでたの?」
「関東以外だと都会が多かったな。札幌でも博多でも暮らしたよ。東京に戻ってくる前には仙台にいたの。父も母も出身は東京だから、東京がいちばんいいみたい。でも、また転勤はあるかもしれないんだって」
「諒子も行くの?」
「もうついていかないよ」
一応は東京が故郷だけど、曖昧だなと諒子は笑う。田舎者とは故郷のある人間なのだから、それはそれでいいものなのかと私も思った。
「泉水ちゃんはサークル活動は?」
「私はバイトに忙しいから、サークルはやってないんだ」
「高校のときは?」
「合唱部にいたんだけど、親に言われたんだよね」
我が家から通える大学に行くのなら、小遣いだってあげられる。けれど、東京の大学だと小遣いまでは出せないよ、だった。
「私は東京に来たかったから、バイト生活を選んだの」
「そっかぁ。そしたら歌はうまいんでしょ。歌ってよ」
「私はうまくはないよ。シゲはうまいけどね」
「泉水ちゃん、やっぱりシゲくんのこと、好き?」
「嫌いではないけど、好きっていうのの種類がちがうんだよ」
話題があっちに行ったりこっちに来たり、とりとめもなく話しているのが楽しかった。
「あ、雑誌の撮影じゃない? テレビかもしれないね」
「ほんとだ」
レインボーブリッジをバックに、長身で細い女性たちがおしゃれな服装でポーズを取っている。泉水ちゃんも背が高くてスタイルいいんだし、モデルのバイトをすれば? と諒子がふざけた提案をしている。背は高いけど、スタイルなんかよくないし、と流しつつ、私は撮影風景を見つめる。
こういうのも都会ならではだなぁ。華やかだなぁ。
いつかは私もこんな風景にしっくりなじむ、都会の女になれるんだろうか。そうしたら、故郷には帰りたくなくなってしまうんだろうか。
IZUMI/18歳/END
「華やいで」
ひとりで繁華街に出かけるのはちょっと……と思ってしまうのは、やはり私は田舎者だからか。三重県から大学に入るために上京してきて、借りてもらったアパートの近くには幼なじみのシゲが暮らしているから心強くはあっても、シゲとデートみたいに出かける気にもならないし。
そう思っていたら、授業がはじまると友達ができた。東京生まれで、父親の仕事の関係で各地を転々としたものの、最近になって東京に戻ってきたという高田諒子。諒子は東京そのものに臆したりはしないので、泉水、遊びにいこうよ、と気軽に連れ出してくれた。
「泉水ちゃんって彼氏はいるの?」
「いないよ。諒子ちゃんは?」
「私もいない。泉水ちゃんには前にはいたんでしょ?」
「高校のときにはいたけどね」
「キスくらいした?」
「まあね」
十八歳の女の子がふたりでしているとしては、ありふれた会話だろう。女の子の最大関心事は恋愛なのかもしれない。
「男の子の友達ってのは泉水ちゃんにはいる?」
「いるよ。本庄繁之っていって、故郷の三重県では家が近いの。シゲんちは酒屋で、シゲんちのお母さんとうちの母は仲が良くて、小さいころからいっしょに遊んでた」
「彼氏ではないの?」
「ちがう」
ね、ね、どんな男の子? と諒子は好奇心いっぱいで尋ねる。
「じゃがいもってか、イノシシハムってか」
「イノシシハム? なにそれ? でも、なんとなくわかるかも」
泉水ちゃんはどこに行きたい? と諒子に訊かれて、近頃のトレンドであるらしいお台場と答えた。お台場はごく最近になって賑やかになってきた場所で、繁華街というのでもないのだろうが、田舎者には眩しいようなスポットだ。
レインボーブリッジが見えるあたりにすわって、諒子とお喋りする。ハンバーガーやフライドポテトを買って食べながら、東京ではじめてできた女友達とのひととき。広々として晴れ晴れとして、いい景色だった。
「三重県だったら、泉水ちゃんのおうちは海に近いの?」
「うちは内陸部。奈良県に近いの」
「そうなんだ。三重県ってわかりにくいよね」
「そうだろうね。三重県ってどこにあったっけ? ってよく言われるよ」
「方言ってあるの?」
「あるある。うちのあたりは大阪弁に似てるかな」
転勤族の娘である諒子は、日本の地理をよく知っている。それでも三重県はわかりづらいらしいのは、関西人や中部人以外ならありがちだろう。
「諒子はどういうところに住んでたの?」
「関東以外だと都会が多かったな。札幌でも博多でも暮らしたよ。東京に戻ってくる前には仙台にいたの。父も母も出身は東京だから、東京がいちばんいいみたい。でも、また転勤はあるかもしれないんだって」
「諒子も行くの?」
「もうついていかないよ」
一応は東京が故郷だけど、曖昧だなと諒子は笑う。田舎者とは故郷のある人間なのだから、それはそれでいいものなのかと私も思った。
「泉水ちゃんはサークル活動は?」
「私はバイトに忙しいから、サークルはやってないんだ」
「高校のときは?」
「合唱部にいたんだけど、親に言われたんだよね」
我が家から通える大学に行くのなら、小遣いだってあげられる。けれど、東京の大学だと小遣いまでは出せないよ、だった。
「私は東京に来たかったから、バイト生活を選んだの」
「そっかぁ。そしたら歌はうまいんでしょ。歌ってよ」
「私はうまくはないよ。シゲはうまいけどね」
「泉水ちゃん、やっぱりシゲくんのこと、好き?」
「嫌いではないけど、好きっていうのの種類がちがうんだよ」
話題があっちに行ったりこっちに来たり、とりとめもなく話しているのが楽しかった。
「あ、雑誌の撮影じゃない? テレビかもしれないね」
「ほんとだ」
レインボーブリッジをバックに、長身で細い女性たちがおしゃれな服装でポーズを取っている。泉水ちゃんも背が高くてスタイルいいんだし、モデルのバイトをすれば? と諒子がふざけた提案をしている。背は高いけど、スタイルなんかよくないし、と流しつつ、私は撮影風景を見つめる。
こういうのも都会ならではだなぁ。華やかだなぁ。
いつかは私もこんな風景にしっくりなじむ、都会の女になれるんだろうか。そうしたら、故郷には帰りたくなくなってしまうんだろうか。
IZUMI/18歳/END
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未分類

~ Comment ~
LandMさんへ2
こちらにもありがとうございます。
大阪人はあまり東京には憧れない。
芸能人になりたい子は東京に行きたいかもしれませんが、関ジャニも吉本もありますから、大阪でもなれなくもないかな。
他にも東京でないと駄目なこと、ありそうですけどね。
作家になりたいなら東京に出てこなくちゃ、と私も言われたことがありました。
けれど、他の地方の若者は都会に憧れますよね。特に東京。
そうそう、都会は便利なのですよ。
「東京は公共交通機関が発達している。大阪はまだまだだから、東京みたいにしなくちゃ」なんて選挙の前に候補者が演説していましたが、大阪人は現状の交通機関でほぼ満足しています。
特に自家用車もいりませんしね。
大阪人はあまり東京には憧れない。
芸能人になりたい子は東京に行きたいかもしれませんが、関ジャニも吉本もありますから、大阪でもなれなくもないかな。
他にも東京でないと駄目なこと、ありそうですけどね。
作家になりたいなら東京に出てこなくちゃ、と私も言われたことがありました。
けれど、他の地方の若者は都会に憧れますよね。特に東京。
そうそう、都会は便利なのですよ。
「東京は公共交通機関が発達している。大阪はまだまだだから、東京みたいにしなくちゃ」なんて選挙の前に候補者が演説していましたが、大阪人は現状の交通機関でほぼ満足しています。
特に自家用車もいりませんしね。
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NoTitle
都会は華やか・・・なのかな。
私は私の生き方をしているから、それで目立つことはないですけど。
ネットだとそういうのが平等になっている気がします。
都会にいても、田舎にいても。
私は私の生き方は変わらないと思う。
しかし、都会は憧れるものですし。
その関係で人が都会に流れているのも事実。
都会は便利ですからね。。。
( 一一)