ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS天空物語「北風と太陽」

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フォレストシンガーズ

天体シリーズ

「北風と太陽」

 生まれたところを遠く離れて、という歌がある。高知で生まれて神戸で暮らしている俺は、故郷から遠く離れているわけではないが、心情的に遠い。

 両親の反対を押し切って歌手になろうとし、その道の半ばで恋人の奸計に陥れられて夢を捨てた。
 できちゃったと言った恋人の恵は妊娠してはいなかったのだが、できてないんだったら結婚をやめるとも言えないのはおかしなことでもないだろう。

 仲間たちと結成したアマチュアシンガーズを脱退し、結婚して妻の父親が経営する会社で働き、娘ができ、俺は俺なりに幸せだと思い込もうとしていたころに、フォレストシンガーズデビューを知った。

 勝手に焦れて妻と離婚し、娘とも別れて旅に出た。数年間は故郷と東京から離れたくて、主に北国をさすらっていた。俺には過去なんかないふりをして、故郷もないような顔をして生きていたから、ずっとずーっと高知は遠い土地だった。

 最近になってフォレストシンガーズとも和解したというか、もとより彼らのほうは俺をなつかしみこそすれ、裏切り者だとも思っていないと知って俺の一方的なこだわりも薄れ、そろそろ故郷に近寄ろうかなぁと考えつつも腰を上げず。

 勤務しているのが神戸の電気屋なので、パソコンは安く買える。おたくに近いほどに詳しいアルバイト青年が教えてくれたのもあって、インターネットもはじめた。
 フォレストシンガーズをネタにしてブログを書いたり、彼、高畑新之助の指導の下、ネットであれこれ情報を得たりもするようになった。

 あの夜も俺はインターネットで、故郷の風景を眺めていた。ガキのころにはいつも遊んでいた桂浜。泳ぐには波が荒すぎるが、見ているだけで気持ちよくなれる浜辺だ。写真だけでは物足りなくて、出かけていきたくなる。親父やおふくろは元気かな……弟は……妹は……故郷の光景は当然、家族につながるのだった。

「……行きにくいもんな。そのうちに」

 正月はすぎてしまったから、来年にでも。

 おのれに言い訳してそのサイトを閉じ、フォレストシンガーズ関連サイトに行ってみた。フォレストシンガーズも有名になったもので、公式サイトは当たり前としても、ファンサイトがたくさんある。うっかり開いて本橋さんと章の抱擁シーンイラストを見てしまって目が腐りそうになったのもあり、用心しつつも面白そうなサイトにアクセスしてみた。

「誰が言ったの?」
「そんなこと言うの、木村に決まってるじゃん」
「そうだろうな。章くんだったら言いそう」
「それって言い間違いでしょ? わざと言ったんじゃないんだから、木村さんを責めるのはかわいそうです」
「いやいや、思ってなかったら言わないよ」
「本音だよ。本音がぽろっと出たんだって」
「言ってはいけない、いけない、と思ってると、言っちゃうものなんだよね」
「木村章らしいよね」

 掲示板でファンが書き込みによる会話をしている。木村章がなにやら言ったらしいが、なんだろう? 章がなにか言ったというのは周知の事実だとの前提のもとでの会話なので、元ネタを知らない俺には意味不明だ。

 どこかに詳しく載っていないかと検索してみたら、別のファンサイトでそれらしき記事を発見した。

 声優たちとシンガーズたちが歌うという年末のテレビ特番に、フォレストシンガーズが出演した。年末には俺は勤務先のヒノデ電気のオヤジさんの家にいて、オヤジさんとおかみさんと、息子の創始と三人で飲んだり食ったり、例の高齢歌番組を見たりしていた。いや、高齢ではなく恒例の。

「僕の好きな番組があるんやけど、お母ちゃんはこれを見たいんやもんな。どうせあんなん見てたって、途中で早く寝なさいとか言われるんやからつまらん。ヒデさん、ゲームしようや」
「ああ、ええぞ」

 創始とふたり、早めに彼の部屋に入ったのであるが、創始の言う僕の好きな番組とはこれだったのかもしれない。創始はゲーム、アニメ、声優のおたくである。

 ヴォーカルグループは歌はうまいものだ。声優にも達者に歌える者は多い。声優とは器用であるらしいとは、俺も創始に教えられて知るようになった。
 つまり、年末恒例歌番組とはちがって、こっちは歌のうまさで勝負!! とでもいう番組だったのか。フォレストシンガーズはあっちには出してもらえないようだが、こっちには選ばれていた。

「いやぁ、あの番組、好きだったんですよ。俺はガキだったから、野球の好きな親父がチャンネル権を持っていて、俺はアニメとか見せてもらえなかったけど、たまには見られました。師恩さんってあれに出てらしたんですよね」

 この発言は木村章。

「主役の声ですよね。あのヒーローかっこよかったな。なつかしいなぁ、昔の番組ってなつかしいですよね」
「大人になったらアニメは見ませんか」
「見なくなりましたね。師恩さんは……」

 そのあと、章はおそらく、過去の番組が云々と言いたかったのであるらしい、と記事は続く。ところが、章はぽろっと言ってしまったらしいのだ。

「師恩さんは過去のひとだから」

 なるほど、章らしいセリフだ、と俺も納得した。
 師恩という名の声優が主役のヒーローの声の出演をしていたテレビドラマは、俺たちが子どものころに人気があった。俺も弟の鋼と一緒に見ていて、母や妹には不評だったのを思い出した。

 そのあとは歌番組を見ていない俺は知らないが、その場の空気が凍ったらしい。生放送なので取り繕いもできず、さすがの乾さんも幸生もフォローできず、歌に行きましょう!! となって、師恩氏とフォレストシンガーズがヒーロードラマのテーマソングを歌った。

 ヒーローものの好きな本橋さんがメインとなり、師恩氏もうまいので歌は上出来だったようだが、番組を見ていた視聴者の間では、章の発言を巡って論議が起きている。俺が最初に見た、「誰が言ったの?」からの一連の会話の真相はこうだった。

 言っちまったもんはしようがないがかや、フォレストシンガーズ側が師恩さんに詫びを入れたのかどうか、師恩さんがどう対応したのか、俺は知らないが、美江子さんや社長が謝罪に出向いたのかもしれない。俺にとってはどうってこともない出来事に思えた。

「……あれ、これ、師恩さん?」
「そうや。ヒデさんも知っとって?」

 それから半年くらいすぎて、創始とテレビを見ていたら、正月すぎに噂になっていたベテラン声優が出ていた。師恩さんの顔は当時ネットに出回っていたので、俺も覚えていた。

「最近、再ブレイクしてるんやて」
「けっこう男前やもんな」
「だいぶ忘れられたのに、なんでか売れてきたらしいで。あ、そや、フォレストシンガーズや」
「フォレストシンガーズ?」

 この世界はなにがきっかけで爆発的にブレイクしたり、再ブレイクしたりするかもわからない。創始が言うには、あの木村章発言でアニメや声優のファンが師恩さんに再度注目するようになった。師恩さんは老人に近い年頃だが、渋いルックスのダンディな男なのもあって、久しぶりに売れてきているらしい。

「北風と太陽……逆バージョンかな」
「北風と太陽? 僕も知ってるけど……」

 日野家の子ども部屋の書棚から、創始が子ども向けの本を抜き出す。そこには「北風と太陽」の物語が綴られていた。
 
 北風と太陽が力比べとして、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。

 まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。
 次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から上着を脱いでしまった。
 
 勝負は太陽の勝ちとなった。
 そのあとに、親や教師向けらしき解説も載っていた。

 これには、また別の話もある。北風と太陽がした勝負は最初は旅人の帽子をとることだった。最初、太陽は燦燦と旅人を照り付けると、旅人はあまりにもの日差しで帽子をしっかりかぶり、決して脱がなかった。次に北風が力いっぱい吹くと、みごと簡単に帽子は吹き飛んでしまった。その次に行った勝負は旅人の上着を脱がす勝負だった。この勝負の結果は周知の如くである。

 この別の話の教訓は、何事にも適切な手段が必要である、ということである。一方でうまくいったからといって、他方でもうまくいくとは限らない。その逆も然り。しっかり、結果を見据えて、手段を選ぶべきである。

 怪我の功名ともいえるが、師恩さんと章の顛末は、この物語に似ている気がした。

「むしろ章は、師恩さんの恩人やったんかもしれんな」

 フォレストシンガーズのみんなと会っても、この話題は口にはしなかった。誰も言わないのだから俺が言う必要もないと判断して、俺も知らないふりをしていたのだが、その後にシゲに言ってみた。

「……ヒデ、知ってたのか?」
「知ってたけど言わんかった。いいほうにころんだみたいだから、話題にしてもいいだろ」
「いや、参ってるんだよ」
「シゲが参ることはないだろ」

 いやいや、と頭をかいて、シゲは声を低めた。ここは神戸の静かなバー。フォレストシンガーズが神戸でライヴをやったので聴きに行って、ふたりだけでささやかな打ち上げをやっていた。

「……章が言ったことになってるだろ」
「ああ」
「あれ、俺なんだよ」
「……おまえが?」

 真相の真相があったとは、まったく知らなかった。
 ネットで記事になっていたのとほぼ同じセリフを口にしたのはシゲ。が、日ごろの言動のせいなのか、あんなことを言うのは章に決まっていると広まってしまった。

 よいことでもないので大々的に訂正するわけにもいかず、章は腐るし、シゲは困る。章はほっとけほっとけと本橋さんは笑い飛ばし、幸生はわざと章に意地悪を言う。乾さんも間に立って困っていた。だからこそ俺のいる場でも話題にはならなかったらしい。

「章が北風でシゲは太陽……ふむ、そうか」
「北風と太陽がどうしたって?」
「いいんだけどな」

 それでも結局は、師恩さんのためになったのだからいいではないか。部外者は無責任にもそう思うのであった。人気商売の者は売れてなんぼ、なのだから。

END









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~ Comment ~

NoTitle

太陽と北風。。。。
確かに手段は大切ですね。
今こうして振り返ると・・・結構勉強になりますね。。。
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

こうして振り返ると、とおっしゃるってことは、子どものための物語はけっこう勉強になるって意味ですよね?

童話やおとぎ話はたしかに、噛みしめるといろいろためになりますよね。
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