ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS天空物語「銀河のロマンス」

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フォレストシンガーズ

「銀河のロマンス」

 美しいメロディが流れてくる。
 甘くてロマンティックでスローテンポなこの曲……俺の母が大好きで、若いころの思い出がいっぱいに詰まったレコードを持っていた。

 その歌だ。子どものころに母がかけていたレコードで覚えてしまった。俺は勉強はできなかったけど、まるで孟母のような母の影響で歌好きに育ったのかもしれない。
 そんな息子が大人になってシンガーになって、母が好きだった歌をステージでカバーした。

 ああ、そうだ、歌っているのは我々じゃないか。
 だけど、この歌はCDにはしていない。ライヴで隠し録音でもされた音源がネットで流れているのか。ここはどこだ? パチンコ屋か。

「銀河にうかべた白い小舟
 あなたと訪ねた夢のふるさと

 シルビー・マイ・ラブ シャララララ
 シルビー・マイ・ラブ マイラブ

 アイ・ラブ・ユー もえるほほに
 美しい愛のくちづけ

 青いしずくは月の涙
 恋するぼくらのため息にゆれる」

 なんて綺麗な声……ソロは俺だ。夢うつつでは隠し録音だのネットだのパチンコ屋だのと現実的に考えていたのが、完全に覚醒してからのほうが非現実的になった。

「ユキ、起きたの?」
「え? ああ、おはよう、シルビー」

 なんだなんだ、これは? 俺、映画撮影でもやってたっけ?
 いや、フォレストシンガーズでは映画に出演したのは乾さんだけで、本気で出てみたい俺は未経験だ。なのに、どこかに横たわっている俺を心配げに覗き込んでいる美女は、お姫さまのようなドレスをまとっていた。

「シルビー、鏡を持ってる?」
「いいえ」
「俺はどんな服装をしているの?」
「……どうしたの、ユキ?」

 困り顔で俺を見る美女を、俺は自然にシルビーと呼んでいる。シルビーは白と銀の白雪姫のようなドレスを着て、首飾りや耳飾りやティアラなんかもつけている。清楚な美貌の華奢なプリンセス……あなたは俺の恋人?

 見下ろしてみた自分自身の服装も、白と銀のプリンスルックだ。顔が生まれたまんまだったらちょっと難ありだが、男っぽい体型はしていないので、こんな服装も似合わなくもないだろう。少なくとも本橋さんやシゲさんよりは似合うはず。

「うたた寝しちゃってたのかな。もう大丈夫だよ。心配しないで」
「そう?」

 そっと抱き寄せると、ほっそりした身体が俺にもたれかかってくる。肩を抱いた手の指を伸ばして触れてみた乳房は、やわらかくて重量感もあった。

 歌詞のまんまに俺たちは、銀河に浮かべた小舟に乗っている。これは宇宙船なのか? 見た目は公園の池に浮かぶボートのようだが、最新鋭の装備をそなえたスペースボートなのだろう。自動操縦なのか、遠隔操縦でもしてくれているのか。

 ユキ、ボートを操縦して、と言われても困るので、そういうことにしておこう。現実的なことを考えるのはやめて、俺は周囲を見回した。

 腕の中には華奢な美女、シルビー。俺は白い衣装をつけた王子さま。ザ・タイガースの映画にこんなシーンがあった気がする。さしずめ俺は若き日のジュリーだ。
 ジュリーであっても名前はユキ。ブルーブラックの宇宙にきらきらきらきら、星屑こぼれる星の海を、お姫さまとただふたり、ボートで漂う。こんなロマンティックな夢、二度と見られないだろうから満喫しよう。

 夢? そうだろ。夢以外のなんなんだよ。
 楽観主義は俺のポリシーである。悪いほうには考えないことにして、シルビーを抱きしめて星空、もしくは星の海のデート。きらきら宝石みたいな流れ星が長い尾を引いて落ちていき、いやがおうにもロマンを高めてくれる。

 振り向くと大きな大きな月が見えた。月は真上にあるのではなく、俺たちの背中にある。小舟が月に近づいていくと、青いしずくがシルビーの金髪にかかった。

「月の涙……? あれ?」
「いやっ、熱い!!」
「月の涙だなんてものじゃなさそうだね。シルビー、伏せて」

 池に浮かんだボートのようなものなのだから、屋根はない。操縦桿なんてものもない。あったとしても俺には操縦できないのだから無意味だが、このボートはどこに向かっているのだろう?

 ボートの底に伏せたシルビーに覆いかぶさって、時々しぶいてくる青いしずくから守ろうとする。しずくは首筋や髪にかかると熱いのだ。髪の毛にくっついて固まってしまった青いものに触れてみると、髪がごそっと抜けた。

「うげげ。ハゲちまうよ。シルビー、この舟、月から遠ざかれないの?」
「知らない……ユキ、怖い」
「うん、俺も怖いかも」

 しずくのみならず、背中になにかが当たった。流れ星というものは現実には石塊なのだから、小さいやつでも降り注げは石ころをぶつけられているようなものだ。見ている分にはロマンでも、そのただ中にいると脅威なのだった。

「ユキ、助けて」
「誰か、助けてくれよぉ……乾さん、乾さん……」

 逃げ出すわけにもいかず、俺はシルビーを抱いているしかない。誰も助けてはくれないから、いつしか乾さんの名前を呼んでいた。

「……幸生くん、幸生くん、どうしたの?」
「あ……う、うーん……シルビー!!」

 冷や汗をかいて飛び起きたら、俺を覗き込んでいる女性がいた。シルビー……ではない。あのこわれそうなプロポーションをした本物の金髪のプリンセスではなく、小太りの茶髪の女の子だった。

「シルビーって誰? 幸生くんったら、二股かけてるの?」
「ちがうよ。俺にはマユちゃんだけさ」
「寝言でシルビーって言ってたよ」

 やはり夢だったのだ。危機から逃れられたのは嬉しいような、どうにかしてシルビーのために闘いたかったような……。

「シルビーなんて名前は日本人にはないでしょ」
「そしたら、キャバクラの女の子とか?」
「銀河って名前のキャバクラ……」
「ほんとにそうなの? 最低!!」
「いや、ちがうって」

 どうやってマユちゃんと知り合ったんだったか。ナンパしたのだったか? 昨夜はしたたか飲んだようで、記憶が曖昧になっている。俺のことだからおおかた、どこかの店でひっかけたゆきずりの女の子を誘ってホテルに来たのだろう。

 弁解するのも面倒になって、俺は起き上がって煙草に火をつけた。

「銀河の国のプリンスになって、プリンセスと宇宙デートをしてる夢を見てたんだよ。ピンチになっちまってどうしようかと思ってたら目が覚めた。それでうなされてたんだろうけど、俺はプリンスよりもプリンセスのほうが似合うかもな」

 おまえがすがる俺の胸はこんなにも薄いけど……なんて歌も思い出す。俺はヒーローになんかなれっこないんだ。

「俺がシルビーの役をやって、乾さんがプリンスのほうがいいかもな」
「乾さんってフォレストシンガーズの、だよね。幸生くんって乾さんが好きなの?」
「好きだよ」
「ホモなの?」
「ホモじゃないって、昨夜証明しただろ」
「まぁ、一応は」

 その最中は楽しい。あらゆる手段を用いてマユちゃんを満足させることに心を砕き、彼女が果てれば俺も果てる。けれど、こんな関係には虚しさがつきまとうから、あんな夢を見たのか。俺は夢の中でも……誰かに救いを求めていた。

 自業自得の遊びのくせにさ。どうやって助けてもらうんだよ。乾さんに知られたら叱られるぞ。遊ぶのは自由だけど、情けない、ってさ、殴られるよ。

 だのに俺は……二本目の煙草に火をつけて煙の行方を目で追っていると、マユちゃんも立ち上がる。俺の胸にすがってもくれず、彼女は身支度をはじめた。

「帰るの? もう朝なんだよね。昨夜はありがとう。気をつけて帰って」

 小さなため息をひとつ残して、返事もせずにマユちゃんが出ていく。マユって名前にしても本名なのかどうか。なんにしても、マユとシルビーは同じく、ただのゆきずりのひと。俺はもう一度眠ろうか。今度はシンプルに、銀河のロマンスの夢が見られるといいな。

 平穏なロマンスだったら、乾さんに救いを求めたくもならない。いっぱしの大人のツラをして女遊びをする奴が、いつまで先輩に頼ってるんだよ、って、自己嫌悪に陥らなくてもすむのに。


END








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~ Comment ~

NoTitle

汁ビー……じゃなくてシルビー(なんでこんな変換!)は、夢の中の美女で、マユはゆきずりのぽっちゃり女の子なんですね?
もう、ユキちゃんたら、本当に女の子好きなんだから。
ぽっちゃりした女の子を抱きながら、スレンダーな巨乳美人の夢を見て、その美女に「乾君、好きだよ」なんて言う(笑)
ユキちゃんだなあ~。
こういうカオスなところ好きです。

で、結局ユキちゃんは、誰の傍に居るのが一番幸せなんでしょうね。
正直に言いなさい~w

limeさんへ

いつもありがとうございます。
ユキです。

最近うちのママはなんだかんだとありまして、みなさまのところにちゃんと訪問できていないのですよね。まずはお詫び申し上げます。

うむ、俺、カオスですよね。たしかに。
このストーリィは俺の若いころですから、今はこんなことやってませんよ。やってませんってばぁ。

ん、こら、章、出てくるな。よけいなことを言うな。
はい、ほんとにやってませんから。
冷や汗。

俺は誰のそばにいるのが一番幸せか、ですか?
フォレストシンガーズのメンバーとして歌っているときかなぁ。
または、うーんと年上の心の恋人、弥生さんに焼いてもらったお好み焼きを食べて、他愛ない話をしているときかもしれません。

恋がしたいよぉ。
limeさん、素敵な女性を紹介して下さい。

だそうです。
。。。。。。。ですよね。
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