番外編

FS超ショートストーリィ・四季のうた・初秋・隆也

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フォレストシンガーズ・超ショートストーリィ・四季のうた

「秋の風」

 目にはさやかに見えねども、おどろく。この短歌の中でおどろくのはこの音だ。

「聞こえるか?」
「え? なにが?」
「おどろくとは言っても「驚く」のではないみたいだな。気がつくというのが近い」
「なんの話? 乾さん、なに言ってんの?」

 九月の朝の陽射しは強い。晴天だと気温も高い。

 昨夜、酒場で会った彼、ひと回りも年下のアイドルである麻田洋介を我が家に連れていったのは、ケーキのせいだ。隆也は甘いものが嫌いなのだが、事務所の後輩が買ってきてくれたのだ。ご迷惑をかけたお詫びです、と言われて差し出されては、無下には断れなかった。

 おまえだったら食うだろ? うんうん、食う食う。
 ケーキを食べさせるために、洋介を連れて帰った。

 ご迷惑といわれれば、麻田洋介にもしっかりかけられている。年長者は若者に迷惑をこうむってなんぼかな、と隆也としては達観しているところもあるので、きちんと反省しているのならばおおらかに受け止める。ケーキは後輩の反省のしるしだったのである。

「俺も若いころには、大人に迷惑をかけたんだもんな。いまだにかけているのかもしれない」
「乾さん、さっきからなに言ってんだよ。なにに驚いたって?」
「この音だよ」

 マンションに連れていった洋介は大きなホールケーキをひとりで半分ばかり食べてしまい、食べる合間にはうだうだ愚痴をこぼしていた。フォークを置いた途端に、はー、腹いっぱい、と呟いてこてっと寝てしまったのだから、彼は赤ん坊と変わりない奴なのだ。

 残ったケーキを朝食代わりにして、全部平らげてしまった洋介を見ていると、隆也のほうが胸焼けしそうだった。自分はコーヒーだけ飲んで、洋介とふたりして外に出る。タクシーをつかまえられる場所まで歩く道で、ああ、秋が来ていると気がついた。

「おまえもミュージシャンだろ。いや、ミュージシャンっていうか……音楽に携わる者だろ」
「うん、ま、俺だってアーチストだよ。あのさ、乾さんの話ってつながりがないっての? 乾さんってひとりでわかってるみたいだけど、俺にはわかんないんだよ。なんのこと?」
「聞こえないか?」
「だから、なにが?」

 アーティストとアーチストは意味が違うのだと、隆也はおのれを納得させてそこは聞き流す。秋の訪れを知らせてくれる風の音のほうが大切だ。

 秋来ぬと 目にはさやかに見えねども
  風の音にぞおどろかれぬる

 この短歌を丸ごと口にしても、洋介ならばきっと、なんだそれ? としか反応しないだろう。
 だからいい。若者たちにかけられている迷惑の詳細も今はどうでもいい。風の音をしっかり聴きとろうと耳を澄ましている隆也の横で、なんなんだよ、意味不明だよぉ、と洋介はぼやき続けていた。

END







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