企画もの

茜いろの森六周年です

 ←いろはの「ろ」part2 →FS天空物語「スーパームーン」
みなさま、いつもいつもありがとうございます。
正確な日付は忘れてしまったのですが、六年前の九月下旬に「茜いろの森」がオープンしました。
まさしく「光陰矢の如し」。早すぎる……

今後とも「茜いろの森」を、フォレストシンガーズを、他にもたくさんいる別キャラたちも(俺たち、そのほか大勢かよ、と怒っているそこのキミ、ごめんね)どうぞよろしくお願いいたします。

6周年企画

「Six years old」

1・隆也

 ランドセルの色とは決まっているものなのだろうか。
 来春には小学校に入学するせいなのか、近頃隆也は小学生たちのランドセルが気になるようになってきた。女の子は赤、男の子は黒、どうして?

「私立の学校だと規則でこれって決まってるところもあるみたいだけど、公立は好きな色でいいはずだよ。隆也の行く学校は制服もないんだから、ランドセルは自由だね。男の子は黒、女の子は赤っていうのは、昔からの慣習じゃないかね。ほら、あの女の子はピンクだよ」
「あ、ほんとだ」

 三年生くらいか、隆也よりは大きな女の子が綺麗なピンクのランドセルを背負っているのを見て、規則で決まっているのではないと隆也も知った。

「ばあちゃんは隆也の好きな色を買ってあげるよ。ただし、あまり奇抜な色にすると、同じ学級の子に笑われるかもしれないね」
「笑われるの?」
「かもしれない」
「ばあちゃんは何色のランドセルだったの?」
「昔は女の子も黒だったよ」

 祖母と手をつないで、雪の降る金沢の町を歩く。ばあちゃんが小学生だったのって何十年前だろ。ばあちゃんは百歳くらいなんだったら明治時代だろうか。それとも、明治の前の慶応かな。
 しわしわっとした小さな祖母の手と、さらに小さな隆也の手。こうしてつないでいるとあったかい。子供は風の子なんだから、と手袋をはめるのを許さない祖母の手のぬくもりが、隆也にはたいへんに心地よかった。

「デパートに見にいこうね」
「それまでに何色にするか、考えておくよ」
「そうだね」

 今年の誕生日プレゼントはランドセルに決定。


2・真次郎

七歳年上なのだから、兄たちは中学生になった。四月には小学校の一年生になる真次郎は、ランドセルや学習机を買ってもらい、文房具もそろえて入学式を待つばかり。真次郎が学用品に「もとはししんじろう」と名前を書いているのを手伝ってくれながら、敬一郎と栄太郎、双生児である兄たちが話していた。

「真次郎の一歳の誕生日にさ、エイちゃん、覚えてるか?」
「なんの話?」

 エイちゃんと呼びかけたほうが敬一郎だ、と理解はしても、一瞬ののちにはまぎれてしまう。同じ顔、同じジャージの上下、声変わりしておっさんみたいになった声も同じの一卵性双生児だ。

「一歳になったら空手の技をかけてもいいかなって言ったじゃん」
「ああ、一歳ではまだ早いって、母さんに止められたんだ」
「そうそう、三歳くらいにならなきゃ駄目だってさ」
「三歳でも駄目だって、父さんは言ったんだよな」
「六歳になったんだから、もういいだろ」

 ふたりしてにやっと、真次郎を見る。真次郎は反撃に出た。

「なに言ってんだよ。オレは今でもいつだって、兄ちゃんたちに空手の技をかけられてるよっ」
「あんなものは空手ではない」
「遊んでるだけだ」
「おまえが小学生になったら、本格的にな」

 兄たちは六歳から空手をはじめたと、真次郎も聞いている。真次郎は三月生まれなので、一年生になる今春、六歳になった。父も兄たちも末っ子にも空手をやらせたかったらしいが、母が反対して、真次郎はピアノを習うことに決まった。

 六歳の六月から習い事をはじめるのがいいとの言い伝えがあるのだそうで、二ヶ月ほどすれば母に連れられて、ピアノの先生宅に通うことになる。ピアノなんて女の子みたいだな、と本人も思わなくもないのだが。

「真次郎は空手はやらないんだから、俺たちがきちんと教えてやるよ」
「楽しみにしてろ」

 抵抗しても無駄なのは知っている。一年生になるのが気が重くなってきたが、オレにはピアノがあるし……うん、やっぱりピアノでよかったな。家でも習い事の場でも空手、空手なんてまっぴらだ。改めてそう感じた真次郎だった。


3・美江子

 今どき、四人きょうだいは珍しいだろう。長女美江子、六歳、長男敏弘、四歳、次女佳代子、一歳。その上に母の胎内にはもうひとりの子どもが宿った。

「美江子は三人の妹や弟のお姉ちゃんになるのよ。しっかりしてね」
「佳代子だってお姉ちゃんになるのに、しっかりしなくていいの?」
「佳代子はまだ赤ちゃんみたいなものじゃないの。敏弘は男の子なんだから、頼りにできるのは美江子だけよ」

 頼りにしないでよ、と言いたいところであるが、言ったら母を怒らせるだけだろう。お姉ちゃんになんか生まれてきたくなかったな、が美江子の本音だった。

「美江子、買い物にいこうか」
「いいけど……あれ? 私とだけ?」
「そうよ。美江子が一年生になる準備の買い物だから」
「……うんっ!!」

 春が近い日曜日、父に下の子たちをまかせて、おなかがちょっぴり目だってきた母とふたりだけで出かける。僕も行きたぁい、と敏弘が駄々をこね、佳代子は眠いのか、父に抱かれてぐずっている。父はふたりの子どもたちをあやしながら言った。

「美江子はいいなぁ。お姉ちゃんだからこそ真っ先に一年生になるんだよな」
「……うん」

 お姉ちゃんにもたまにはいいこともあるんだよね、であった。


4・幸生

 一年生になるのは嬉しいが、幸生には哀しいこともあった。

「幸生くんは横須賀○○小学校に行くの?」
「そうだよ。タマキちゃんもでしょ?」
「あたしね、受験するの」
「受験?」
「私立の小学校お受験」
「へぇぇ、そうなんだ」

 去年の秋、コイビト同士の珠季ちゃんがそう言った。私立の小学校に行くというと妬む女の子もいるから、女の子の友達には内緒。幸生くんにだけ教えてあげるの、だそうだった。
 その理屈は幸生にはよくわからなかったが、内緒なのだったら他言はしない。タマキとユキオのふたりだけの秘密だ。

「受験、受かったよ」
「……よかったね」
「だけど、幸生くんとはバイバイだね」
「……そうだね」

 哀しいのはそれだ。同じ幼稚園の初恋のひと、はじめてつきあった相手とさよならしなくてはならなくなる。同じ幼稚園の一年下には妹の雅美もいて、雅美に気づかれないように珠季ちゃんと仲良くするのはスリルがあってたいそう楽しかったのに。

「はい、あげる」
「ありがとう」

 バレンタインには珠季ちゃんがチョコレートをくれた。幼稚園にチョコレートを持ってくるのは禁止なのに、小さなものをこっそり幸生にだけ渡してくれた。

「珠季ちゃん、好きだよ」
「うん、タマキもユキちゃん、好き」

 間もなく六歳になる幸生にはもうひとつ、大きな秘密ができた。誰にも絶対に言わない、大切な秘密は、珠季ちゃんとのファーストキス。


5・章

「一年生になったら、ひとりでなんでもしないといけないんだよ」
「おまえは泣き虫だから、しゃんとしないと友達に笑われるぞ」
「お父さん、そんなに脅かさないで」
「いいや。章にはこのくらい言っておかないと……」

 一年生になったら、一年生になったら、友達百人できるかな、などという歌があるが、章の両親は義務や責任についてのことばかり言って聞かせようとする。

「一年生になんかなりたくないよ」
「あれぇ? どうして?」

 幼稚園で女の子たちに囲まれていたときに、つい愚痴をこぼしたら、彼女たちは口々に言った。

「あたしは楽しみっ!!」
「あたしもっ!! 赤いランドセルにキティちゃんのついたの、買ってもらうんだ」
「キティちゃんのランドセルなんてあるの?」
「あるけど、あたしはスヌーピーのほうがいいな。札幌へ買い物に行くの!!」
「あたしも買ってもらおうっと!! あたしは東京へ買い物に連れてってもらうんだ!!」
「あたしはおばあちゃんに、イタリア製のランドセルをもらったんだよ」

 そこに割り込んできた男の子が、オレなんか北極製のランドセルだ、と言う。別の男の子もやってきて、オレはガンダムのランドセル、オレは本物のロボット、オレは兄ちゃんにナナハンのプラモデルを作ってもらったんだ、などと言いはじめる。

 ランドセルは関係なくなって、男の子たちの自慢合戦になってしまって、女の子たちがしかめっ面になる。あああ、みんな呑気でいいなぁ。オレは憂鬱だよ、と章はひとり、そっとため息をついた。

 
6・英彦

 三つ年下の妹の美咲が、兄ちゃんはえいなぁ、とうらやましげに英彦の机を撫でる。それから母のおなかも撫でて、美咲はおなかのほうに話しかけた。

「兄ちゃんばっかりずるいきに。なぁ、アンナちゃん?」
「美咲も学校に行くようになったら買うてあげるよ。それより美咲、あんた、もうこの子に名前をつけたんか?」
「うん。妹のアンナちゃん」
「男の子やったらどうするぞね?」
「女の子に決まってるもんっ!!」

 母が三人目の子どもを産むと知らされたときから、英彦は弟だと言い、美咲は妹だと言った。父も母もどっちでも嬉しいと言う。お兄ちゃんばっかりランドセルや机を買ってもらってずるい、とひがんでいる妹のためには、英彦としても女の子のほうがいい気もしてきた。

「遊びにいってくる」

 赤ん坊の話で妹の気持ちをそらせてくれた母に告げて、英彦は外に出た。慣れた場所だから、六歳の英彦だってひとりで海に遊びにいってもへっちゃらだ。海はとても楽しくて、時には恐ろしい場所にもなると知っていた。

「明日、入学式やきに……」

 テレビの青春ドラマのように海に向かって叫ぼうかと思ったのだが、ちょっと恥ずかしいのでやめにして、英彦は小声で海に決意表明をした。うん、オレ、がんばるから!! 


7・繁之

 在校生代表のひとりとして、新入生たちを迎えてくれた新四年生の中に、姉の希恵の顔を見つけた。両親も来てくれていたから、そのせいでよけいに緊張が高まって、繁之は校庭でまごまごしてしまっていた。

「本庄くん、こっちよ。一年生の男の子はこっち。はい、ここに並んでね」
「……はい」

 そんな繁之を列に導いてくれた先生。小さな六歳児には見上げるほどに背の高い女性だった。父よりも高いのではないかと思えた長身の先生の優しい笑顔が、繁之の目に焼きついた。

「あれが俺の初恋だったんだよ」
「……一年生のシゲさんのほうが、今よりは粋だったんじゃない? 初恋なんて言葉を知ってた?」
「知るわけないだろ。泉水があとで教えてくれたんだよ」

 三十歳をすぎても繁之は、小学校の入学式といえばあのシーンを思い出す。幸生や章と飲んでいて、そんな話題になった。

「幸生は?」
「一年生の想い出かぁ。そのちょっと前のさ……」
「そのちょっと前っていうと幼稚園だな。俺も幼稚園っていえば……あの子、名前は覚えてないけどチョコレート……」
「気持ちの悪い微笑みを浮かべるな、章」
「うるせえんだよ。おまえの話は、幸生?」
「むふふ、内緒」

 おまえの笑顔はもっと気持ち悪い、おまえよりましだ、と罵り合っていた幸生と章が、ふと繁之を見た。

「ってか、シゲさんの想い出の中には必ず、泉水さんが出てくるんだよね」
「他にはいないから……っと、失言」
「失言でもないさ。章、その通りだよ」

 自分で認めておいて、繁之はウィスキーグラスに口をつける。あの入学式からはるかに時が過ぎて、繁之は父親になった。長男の広大の小学校入学のほうが、繁之の入学式よりも近い。我が息子はその日にはどんな思い出を作るのだろうか。

END

注:フォレストシンガーズは全員三月生まれですので、一年生になる直前の三月に六歳になったのでした








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~ Comment ~

NoTitle

おお==。
6周年~~~。
おめでとうございます。
6年は長いですね。
そこまで続いたのが素晴らしいですね。
これからもよろしくお願いしますです。
(*^-^*)

LandMさんへ

いつも本当にありがとうございます。

六年は長いですよね。
誕生した赤ちゃんが小学校に行く年齢になるわけですから、それでこんなストーリィを書いてみました。

ブログをはじめたばかりのころには、自分のブログのことしか考えていませんでした。
一年くらいたってから他の方と交流していただけるようになったのですけど、当時から続けてらっしゃる方は、私が知ってる限りでは四、五名です。
ブログは短命なことも多いですよね。

LandMさんもこれからも長く続けていって下さいね。
私もがんばりますので、末永くよろしくお願いします。

おめでとうございます!

6周年ですか~ 何だかあかねさんはものすご~く長く書いていらっしゃるイメージなので、6年と聞くと、長いような短いような、不思議な感じがします。でもたくさんのラインナップ、さすがあかねさん! といつも思いつつご訪問させていただいています(*^_^*)

そうか! みんな3月生まれでしたね。男の子は6歳になったところで小学校って、うちの周りの子どもたちでも「大丈夫か?? 君は」って思うけれど、少しずつ世間にもまれていって3年ほどしたらみんなに追いついていくんですよね(体格はともかく)。
みんなそれぞれの就学前の季節、なるほどね~って思いながら拝読しました。個人的には幸生のファーストキスがツボ(*^_^*) 隆也の妙に大人びた感じもさすが!って思いました。

長く続けていくことって大変ですよね。でも、あかねさんのように一歩一歩を進めておられる方を見ると、私もできる限り頑張ろうっと!って思います。
6周年、改めましておめでとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします!!

おめでとうございます~!

すっかりお祝いが遅くなっちゃってごめんなさい!
そうですよ、あかねさんも6周年何ですよね^^
おめでとうございます!!
きっと小説を書きはじめたのは、もっともっと早かったと思うから、あかねさんは、物書きの大先輩なんですが。

本当に、数えられないほどたくさんのSSを、常に生み出してらっしゃるあかねさんのバイタリティがすごいです。
書くって、ほんとうに体力と気力が要ることなのに、この執筆量はすごい。
もうきっと書くことがあかねさんの一部なんでしょうね。

この6周年の記事は、フォレストのみんなの6歳のお誕生日エピソードなのですね。
そうか、入学式前といえば、やっぱりランドセルや小学校のことですね。
でもやっぱり個性が出てる^^
ユキちゃんはやっぱり淡い恋のような思いが漂ってるし。
あれ、意外にシゲちゃんも、初恋の思い出?

大人になってこのころを振り返るのも、なんだか甘酸っぱくていいですね^^

大海彩洋さんへ

コメントありがとうございます。

大海さんももの書きキャリアは長いんですよね。
ブログをはじめられたのは私よりは後のようですが、いろんなシリーズも書いておられますし、わりに私と似た感じのもの書きさんというか、勝手にそんな印象を抱いています。

幼稚園の年長児はわりとしっかりして見えるのに、一年生になると途端に赤ちゃんみたいに見えてしまう。周りの子どもたちとの対比もあるのでしょうね。

美江子だけは二月ですが、そう、全員三月生まれ、ご都合主義です(^o^)

私のファーストキスは小学校二年生のときなんですよ。無邪気なようでいて、相手は「男の子だ」と意識していたような気もします。
おませユキだったら、幼稚園でしっかり意識していますよね。

隆也は「僕のおばあちゃんはいくつなんだろ? 百歳くらい?」と本人に知られたら口をつねりあげられそうなことを考えています。
実際は六十代くらいのはずですが、かわいそうなさな子ばあちゃんです。

limeさんへ

コメントありがとうございます。

ブログをはじめたのはlimeさんとほぼ同時期なんですよね。
limeさんはもの書き歴は意外と短いと知ったときにはびっくりしました。私は高校生のときから書いていますが、limeさんのほうがずーっと円熟していると言いますか、やっぱりこれは生まれつきの才能がものを言いますよねぇ。

だいたいからしてクオリティが低いからなのか、私はそんなには「書く」ことにはエネルギーを多く必要としないようなのですが、もちろん書けないときもあります。細々とでも長く書き続けていきたいです。

六歳児の世界に住んでいるのは、親ときょうだいと友達と、幼稚園の先生、近所のおばちゃん、くらいですよねぇ。
その中でももっとも重要なのは、まだ友達よりも親兄弟かな。

幸生はおませですので恋の記憶ですが、他の六人はやはり、「家族」です。シゲは意外に……ほんとに、意外ですよね。先生への初恋だったりします。

六歳……一年生、私の場合は真っ先に、私の名前を馬鹿にした担任の先生が浮かんできます。(^^;)

NoTitle

6周年、おめでとうございます!^^
ずっとずっと書き続けていらっしゃるあかねさんは本当にすごいです。
こうして出会えて、読ませていただけるのはすごくラッキーだと思っています。

6歳のみんな、かわいいです^^
それぞれがすでに性格できていて、読み手としてはニマニマしてしまいます^^
ランドセル姿を妄想すると、もう、いけません^^

これからもメンバーのみんなのことを書き続けていってくださいね。

けいさんへ

フォレストシンガーズのみんなを愛して下さって、本当にありがとうございます。
ランドセルしょった五人……想像してみて下さいね。
まあ、この年頃だったら可愛いですよね。たとえ章だって←なんで「章だって」? だと本人が怒っておりますが。

私はわりと熱しにくいのですが、ひとたび熱すると凝りまくります。
そして、醒めると一気に熱が弾いて見向きもしなくなる。

そういうことが多々あったのですが、小説を書くことだけは醒めません。なぜなんでしょうね?
音楽は一時、聴かなくなっていた時期もあったのですが、何年か前から熱が復活しています。音楽は作れませんけど、このふたつは私の趣味の両輪なのでしょうね。

けいさんが読んで下さる限り、フォレストシンガーズを書き続けます。
また遊びにいらして下さいね。

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