ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS天空物語「星のプリンス」

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フォレストシンガーズ

「星のプリンス」

 見上げた夜空には満天の星。星、星、星……星野という名前が浮かび、前髪にひと筋、かっこよく残した白髪も浮かぶ。いや、今は野球ではないのだ。息子に星の話をしてやらねば。

「パパ、お星さまの歌ってある?」
「あるよ」

 こんな夜中に父親とふたり、浜辺を散歩するのも得難い経験だろう。妻は次男を寝かしつけていて、俺は長男の広大を連れて外に出てきていた。お兄ちゃんになって、ママを独占できなくなって子どもなりに我慢している息子を、俺が目いっぱい甘やかしてやるつもりだった。

 普段は家事も育児も妻にまかせっぱなしだ。子どもがいないころは妻も働いていてもよかったが、俺の仕事柄、家にいられる日だって不規則で、妊娠したから仕事は休んでいい? と妻が言ってくれたときにはほっとした。

 テニス選手なのだから、妊娠中には練習もできない。出産してからは妻はトレーニングだったらしているようだが、専業主婦になって仕事は引退した。次男も産まれて家事と育児に専念して、シゲちゃんのおかげよ、と笑ってくれる妻が愛しい。

 妻の愛しさと息子の可愛さは別ものなんだなぁ、と親父になった俺は実感している。生まれたばかりのころには、シゲさんそっくり!! と誰もが異口同音に言った広大は、最近では妻にも似てきて、将来のイケメンの片鱗を感じさせなくなくもなく……親馬鹿である。

 日常生活の中では息子たちと入浴するのが楽しみなのだが、こうして旅行に出るとちがった楽しみもある。次男の壮介は乳児なのでまだなんにもわかってはいないのだろうが、広大は日々、いろんないろんなことを吸収して成長している年ごろだ。

 なのだから、星野、野球、ではない。星の話をしてやろう。星の歌を歌ってやろう。子どものための星の歌もあるのだが……横浜ベイスターズ、サザンオールスターズ、ちがうちがう。夏の星座ってなんだったかな? あの星はなんだったか。本橋さん、乾さん、助けて下さいよ。

「そうだ、星のプリンス」
「プリンスってなに?」

 幸生の大好きなグループサウンズの歌だが、浮気なプリンセスの歌詞だったような……子どもにはふさわしくない。俺は広大を膝に抱いて砂浜にすわり、おとぎ話をしてやろうとこころみた。

「広大っていう名の男の子がいたんだよ。広大にはパパとママと弟がいて、四人で仲良く暮らしていた。
 弟の壮介とふたりで夜の空を見ていたら、流れ星が見えたんだ。
 あ、ほら」
「……あ、お星さまが……」

 グッドタイミングに星が流れた。

「そのお星さまにすぅっと吸い込まれて、広大と壮介はお空に上っていったんだ。
 ついたところは荒涼たる大地……って、意味わかんないか。なんにもない黒い土ばかりの土地だったんだよ。
 その星には王さまがいて、広大は王様にお願いされた。
 「あなたたちのような若い人を待っていたんだ。この土地に木を植えたりお米を植えたりして働いて、豊かな星にしてほしい」ってね」

 きらきら星の輝きを受けて、広大の瞳もきらきらしていた。

「広大も壮介も今よりはお兄さんになっているから、ふたりでがんばって働いたんだよ。
 がんばったから木もすくすく育って果物が実った。お米も採れて食べるものがいーっぱいになって、星が豊かになった。
「ありがとう。これでお姫さまをこの星に呼べるよ。広大くんはお姫さまと結婚してこの星の王子さまになってくれませんか」
 王さまにお願いされたんだけど、広大だったらどうする?」

 口をとがらせて、広大は言った。

「やだ」
「いやか?」
「だって、パパやママはいないんでしょ? やだ」
「そうだな。広大はパパやママがいないと寂しいんだよな。パパだって広大がいなくなったら寂しいから、やだって言ってくれて嬉しいよ」

 物語を作るなんて大の苦手な俺は、ありふれているんだかなんだか、おとぎ話というよりも、日本昔話の宇宙版みたいなストーリィしか作れなかった。
 
 たったの四歳の広大はそれでいいんだよ。今はまだおまえの世界にはパパとママと自分と弟だけがいる。おまえが外へと羽ばたいていくまでが、俺たち家族の蜜月なのかもしれない。だからパパは、そう言ってくれるおまえが嬉しいよ。

「パパのお話、面白かったか?」
「やだ、そんなのいや。お歌がいい」
「うん、歌おうな」

 どれがさそり座でどれがオリオンかも知らない父親は、息子のために歌った。

「あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだまの 小いぬ
 ひかりのへびの とぐろ

 オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす
 アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち

大ぐまのあしを きたに
 五つのばした  ところ
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて」

 小さな小さな家庭という星の中のプリンス。今はまだ、広大はそれでいい。大人になって広い星の海に漕ぎ出していく息子の背中を想像すると、それだって嬉しい。
 
「この歌を作ったひとは宮沢賢治っていってね、星が好きだったのかな。銀河鉄道とかってのも考えたんだよ。すごいよね」
「パパだってすごいよ」
「あ? いや……ありがとう」

 宮沢賢治と比較して、パパもすごいと言ってくれるのは息子だけだろう。照れるのも大人げないのかもしれないが、全身で愉快になって声を立てて笑い出した。俺が笑うと息子も笑い、夜空にふたつの笑い声が広がっていくかのようだった。

END

 







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