ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS天空物語「天の川」

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フォレストシンガーズ


「天の川」

 正座から立ち上がってよろめきそうになっていると、幸生が俺の脚にタックルしてきた。本橋さんとシゲさんもしかめっ面になっているが、乾さんだけは涼しい顔で立ち上がって、俺にちょっかいをかけている幸生の襟首をつかんでぶらさげた。

「きゃああーっ!! 隆也さんったらご無体なっ!!」
「足がしびれている章にいたずらをするほうが無体だろ、ユキ?」
「あらん、きゃん、きゃきゃっ……きゃっ!!」

 そのまんまで運ばれていった幸生の派手な悲鳴が轟き渡り、やっとまともに歩けるようになった俺も見にいってみた。隣の部屋には座布団がたくさんたくさん置いてあって、乾さんはそこに幸生を放り投げたようだ。幸生は浴衣のすそを乱して騒いでいた。

「ひどいわっ、なんてはしたない。こんなしどけないポーズにさせられちゃって、ユキちゃん、もうお嫁に行けないわ」
「おまえはもとから、お婿にだったら行けても嫁には行けないよ」
「隆也さんったら、またそんなこと言って苛める」
「それに、この時代なんだから、嫁に行くなんて感覚は捨てなさい」
「いやいや、ユキは隆也さんのお嫁さんにもらってほしいの」

 これはもしかしたら、スタッフの女の子たちへのサービスなのだろうか。それが証拠に女どもは大喜び、若い子はもちろん、いい歳のおばさんスタッフにまで大受けだ。

 隣室のドアのところにはスタッフが鈴なり。シゲさんと本橋さんと俺も見物している。そのへんにしておけよ、と本橋さんに言われて、乾さんだけが出てきた。

「いやーん、もっとやって」
「乾さん、続きはどうなるんですか」
「ユキちゃん、助けてほしい?」
「助けてあげたら恨まれるんじゃない?」
「いやいや、隆也さん、捨てないで」

 好き勝手に言っている女の子たちの中に、女もどきの声も入り混じってえらい騒ぎだ。俺は頭痛を覚えてきた。
 頭痛をまぎらわせるためと、女の声から逃れるために外に出る。花火大会イベントに出演させてもらうのでやってきた、川べりの町だ。イベントの前に写真撮影があって、五人ともに浴衣で正座という難行をこなしていたのだ。

 大きな川のほとりに建つ古い旅館が写真の舞台になる。十年以上も歌のグループをやっていると、川、浴衣、旅館、イベント、次々につながってエピソードが思い出されてきた。

 夜空を見上げると天の川。正座……星座、だなんて、幸生お得意のシャレも浮かぶ。

 デビューしたのは初秋で、はじめての大きな仕事はオフィス・ヤマザキ主催のジョイントライヴと、全国FM放送局挨拶めぐりだった。社長命令でセッションした同期のジャパンダックス、あいつらは先に解散してしまって、どうしているんだろ。女の子メンバーが妊娠したと聞いたけど、ターコだったかルッチだったか、ごっちゃになってしまっている。俺にとっての十年前はそれほど遠い過去だ。

 FM放送めぐりやら、その後の自由時間にライヴハウスに出かけて知り合ったDJ、ミュージシャン、高校生、女の子、みんな、どうしているんだろ。十年前には若かった女の子たちも、おばさんになったかな。

 翌年の夏には七夕まつりイベントもあった。 
 大きな笹に五色の短冊。五人のシンボルカラーのようにして、本橋さんが赤、乾さんは青、シゲさんが緑、幸生がピンク、俺が黄色の短冊に願い事を書いたっけ。
 
 力持ちの本橋さんが持ち上げた笹の木に揺れていた、短冊。なにを書いたんだったかな。成功しますように、フォレストシンガーズが大きくなれますように、ヒット曲が出ますように、いい歌が書けますように、そんな中に一枚「世界平和」と書かれたのが混ざっていたのも、幸生のシャレだった。

 乾さんのお母さんが縫ってくれた浴衣を着て、美江子さんも含めて六人で、プライベートで金沢の花火大会にも行った。

 北国で小川のほとりを歩いていたら、子どもが落っこちたのを目撃したこともある。咄嗟に川に飛び込んだ俺は、あまりの浅さにこっちが怪我をしそうになったっけ。浅くても寒い時期だったから、びしょ濡れになった俺のためにみんながたき火をしてくれたり、着替えを借りにいってくれたりした。

「章、おまえにもいいところがあるんだな」
「……シゲさん、俺にはいいところなんかないと思ってました?」
「うん、実は……いや、そうでもないけどさ」

 時として悪魔のような鋭い毒舌を吐くシゲさんが、あのときには褒めてくれた。なのだから、怪我の功名といってもいいのかもしれない。

 あのあと、旅館に帰ってみんなで風呂に入って、想い出話をした。
 旅館といえば、売れないころの宿舎はひどいものだった。公民館の一室で、なんだよ、俺たちは災害から避難してきた民かよ、とぼやいて、章、うまい!! と幸生に拍手されたり……うまくても嬉しくないっての。

 男湯と女湯に分かれた浴室などないのが当たり前。美江子さんまでが大部屋の相部屋で、どこかの大学生集団と同室になって、本橋さんがきりきりしていたり。ああいうことになると本橋さんがいちばんとがっていたのは、あのころから美江子さんに特別な感情を持っていたのか。本人は否定するが、そうなのかもしれない。

「あれ?」

 花火大会は明日のはずだが、予行演習なのか、夜空に小さめの花が咲いた。
きゃあ、素敵、という女の声が聞こえる。あの声は幸生ではなく本物の女だ。幸生はたまさか女声を出して電話をしてくるので、たまたま女が遊びにきていて疑われたこともあるが、俺にはわかる。女の声が聞こえるって? と見回すと、うしろ側に旅館の窓があるのだった。

 消えた花火の名残の煙と、別の煙も漂っている。静かになった浜辺に聴こえてくるのは綺麗な女の声。ひとりごとを言っているのではないのだったら、相手は誰だろう?

「こんなところにいらしたんですね」
「煙草を吸うと他の方に迷惑でしょ」
「乾さんはどこに行かれたのかって、探してるひともいましたよ。会えてラッキーでした」
「そう? あなたはスタッフのひと?」
「はい、アルバイトです」

 ああ、そういうことね。ちぇっ、と呟いてから、俺は続きを聞いた。

「七夕の次の日に、こんな願い事がかなうなんて嬉しいな」
「願い事って?」
「昨日、短冊に書いたんですよ。明日は仕事で乾さんと会える。会えるとはいっても私はその他大勢のスタッフのひとり、しかもアルバイトだから絶対にそんなことはないけど、一対一で会えるといいな、ひとことでもお話できるといいなって」
「……そうですか。ありがとう」
「そんなぁ……」
「おっと、泣かないで」

 くそくそ、この色男、うらやましいぜっ!! とシャウトしてやろうかとも思ったのだが、別にうらやましくはない顔をした女の子なのかもしれない。声は若くて可愛いが、太ったおばさんかもしれないではないか。
 涙ぐむほどに乾さんとふたりきりになれて嬉しい女の、邪魔はしないでおいてやろう。そのほうが乾さんは困ったりして?

 意地悪なことを考えつつ、砂浜に寝そべった。もう女の声も乾さんの声も聞こえてこない。
 とりあえずは売れてきて、フォレストシンガーズの名前も知られるようになってきた我々の、次なる願い事はなんだろう。天の川を見上げて、朝までじっくり考えようか。

END





 

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