ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS天空物語「宇宙のファンタジー」

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フォレストシンガーズ


「宇宙のファンタジー」

 
 大ベテランシンガーの野添竜平氏は、フォークシンガーとしてデビューしたのだそうだ。内外のポピュラーミュージックにもすこぶる詳しい彼にはいっぱい教えてもらっていて、たまにはラジオの仕事なども一緒にさせてもらっていた。

「本橋くんはこういうの、好きだよね。これ、観る? 奥さんと行けば?」
「ウルトラマン・宇宙大戦争、ですか。古い映画ですか?」
「古い映画ふうに作った、新しい映画だよ」

 チケットを二枚、野添さんからもらった。ミニシアターと名づけるにも規模が小さすぎる、個人の趣味でやっている映画館で上映されるのだそうだ。野添さんの友人所有の映画館だと聞いて、俺は尋ねた。

「子どもを連れていってもかまいませんかね」
「かまわないよ。子どもも喜びそうな映画だもんな。あれ、きみ、隠し子がいた?」
「いませんよ。シゲの子です」
「ああ、本庄くんのね」

 その映画が上映される日は、シゲの妻、恭子さんが友人の結婚式に出席するとシゲに聞いていた。その日は俺は休みだが、シゲは仕事だ。シゲの息子である広大と壮介はベビーシッターに面倒を見てもらうと言っていた。

 赤ん坊の壮介は俺の手には余るだろうが、三歳の広大だったらなんとかなるのではないか。シゲのマンションに遊びにいったり、シゲの一家が我が家に来たり、恭子さんがスタジオに連れてきたりもするので、広大とはわりに頻繁に会っている。

 帰宅して相談すると、美江子は苦笑した。

「三歳になったんだし、そろそろいいかなぁって? 広大を洗脳しようとしてるでしょ?」
「洗脳は言いすぎだけど、俺だって三歳ぐらいからヒーローに目覚めたんだ。広大も嫌いじゃないんだろ」
「まだよくはわかってないみたいだけど、テレビでアニメやヒーローものは観てるって、恭子さんは言ってたよ」

 ほんの赤ん坊のころから、美江子は恭子さんと広大の三人で動物園に行ったりもしていた。フォレストシンガーズの他四名と美江子、ヒデや実松や瀬戸内泉水といった、準身内のような存在は壮介も広大も自然に呼び捨てにして、親たちも当然だと思っているようだ。

「おまえが行くか?」
「私はその日は仕事だし、別に観たくないな。恭子さんもシゲくんも了解して、広大が行きたいと言ったらいいんじゃないの?」

 美江子がそう言うのなら、ということで、翌日にはシゲに話し、広大も行きたがったので、俺と広大のふたりきりでの初外出になった。
 甥や姪をどこかに連れていってやった経験はあるが、三歳児とふたりきりは俺もはじめてだ。シゲが連れてきた広大は、俺が手を取ると心細そうな顔をした。

「広大、おじさんの言うことをよく聞いて、いい子にしてるんだよ」
「パパは?」
「パパはお仕事。ママはお出かけだって言っただろ。おじさんは広大に面白いものを見せてくれるんだ。おまえも楽しみにしてただろ?」

「シゲ……」
「あ、すみません。おじさんって……」
「三歳から見たら俺はおじさん以外のなにものでもないからいいんだけど、広大は大丈夫かな」
「大丈夫だよな?」

 幼児ではなくても二十代以下から見れば、俺はおじさんだろう。シゲが広大に問い質し、広大はけなげにもこっくりうなずき、俺は彼を抱き上げた。
 よろしくお願いします、と俺に頭を下げて、シゲは行ってしまう。広大がパパに手を振る。俺は広大を抱いて歩き出した。

「あのね、おじちゃん」
「うん?」
「抱っこって言ったらいけないの」
「あ? そうか。ひとりで歩くのか」
「えとね、ママがね、おじちゃんに抱っこって言ったらダメって」
「よし、わかった。歩け」

 疲れたからって抱っこだなんて、駄々をこねてはいけないと、恭子さんが言い聞かせたのだろう。三歳児の言うことは言葉足らずなので、俺も察しよくならなくてはいけない。
 歩くとはいってもこんなのを連れて歩いていけるはずもないので、タクシーに乗る。三歳児を乗せるためのチャイルドシートはつけていないから、俺の車は使えない。タクシーの運転手は本橋真次郎は知らないようで、広大に言った。

「パパとお出かけ?」
「ううん、おじちゃん」
「おじちゃんとお出かけか。いいね」
「うん、ウルトラマン観るの」
「そりゃあいいね」

 ふと思うに、ここで広大が変なことを言ったりしたら、俺は誘拐犯扱いされる恐れもあるのだった。広大が俺を見てにっこりし、もしかしたら疑っていたのかもしれない運転手が車を出す。近頃はよその子を連れておいそれと外出もできやしない。

 タクシーの中では、広大はもうひとつわけのわからない話をしていた。母親に似てお喋りな広大の声は可愛らしい。生まれたばかりのころには父親そっくりと言われていた顔も、やや細面になってきた。広大はけっこう美少年になるんじゃないの? と美江子が嬉しがっていた。

「んでね、そうすけが……」
「壮介がどうした?」
「んとね、泣いたの」
「なんで?」
「わかんない」

 まぁ、三歳児はこんなものだ。彼の十一倍以上を生きている俺はいまだ短気なので、こういう時間も精神修養には有益だろうと考えているうちに、タクシーが目的地に到着した。

「おじちゃん、ありがとう」
「おまえ、行儀がいいな」

 礼を言った相手はタクシーの運転手だ。にこにこと、はいはい、こちらこそありがとう、と言っている運転手に金を払い、先に降りた俺は手を伸ばした。

「さ、おいで。あ、ひとりで歩くんだったな」
「うん」

 抱き下ろしてやった広大と手をつないで歩く。身長の差がありすぎるので抱いて歩いたほうが楽なのだが、自立心は尊重してやらないといけない。
 エレベータもない古いビルの二階へ上がる。ついこの間生まれたばかりのように思えるのに、広大も小さな足で階段を上がっていく。一、二、三、と数えてまでいる。ただし、自分が三歳だからなのか、三までしか数えられないようだった。

 ビルの一室が私設映画館のようになっている。間もなく上映時間になるということで、室内は暗い。スクリーンには漆黒の星の海が映し出されていた。

「宇宙だよ。地球が見える。あの星の上におまえも俺も生きてるんだ」
「……?」
「むずかしいか。ま、いいさ。おまえはこれを見てどう思う?」
「んんとね……んんと……ママの目……」
「ほぉ、詩的だな」

 やがて、宇宙のむこうからなにかがこっちに向かって飛んでくるような映像が映し出される。広大は俺の手をぎゅっと握って、ひゃっ、というような声を出した。
 飛んできたのは隕石だ。地球のどこかに墜落した隕石が割れて、中から異様な生物が出てくる。異星から飛来した怪獣たち、俺もわくわくしてきた。

 そこからはもう、俺も夢中になってしまって、時々広大の様子を見るだけだった。広大はそれこそ食い入るようにスクリーンを見つめている。広大、息をしてるか? とつつくと、うんうん、とうなずく。彼は映画を観ること自体が初だそうだから、刺激が強すぎやしないかな、とも思ったのだが。

 宇宙から飛来した怪獣たちと、ウルトラマンファミリーの戦い。俺はガキのころを思い出して感無量になる。大きくなったらウルトラマンになるんだと決めていた六歳のとき、兄貴にウルトラマンの必殺技、空中体当たりを仕掛けようとして、逆にウルトラスゥイングで投げ飛ばされたっけ。

 兄貴だったらいいんだけど、広大、帰ってから弟に変な技をかけるなよ、そんな心配もつかの間、俺はじきにスクリーンに引き戻される。広大も夢中になって映画を観ているようで、何度か手を握られたりもした。

 女の子と映画を観にいって、手を握りたくても握れなかった中学生のころも思い出す。星の海原をバックに闘うウルトラマンファミリーは、俺のガキのころの最高のファンタジーだった。

 映画が終わってからも、俺はしばらく放心していた。ストーリィそのものは他愛もなかったのだが、ノスタルジーをかきたてられたのと、映像が美しかったのもあって夢中になってしまったのだ。映画を観にきていたのは中年男が多く、彼らに連れられた子どもも数人いる。中年男の連れの女性も、家族連れらしいグループも適当に席を立って出ていった。

「面白かったか」
「うんっ!!」
「どこがどう面白かったかなんて、まだわかんないだろうけど、面白かったんだったらよかったよ。このあと、なんか食って……食べて帰ろうか。なにがいい?」
「んんとね、んんと……」

 頬が赤くなって、目がきらきらしている。やや興奮状態にあるらしき広大を抱き上げて、落ち着け、落ち着け、と言い聞かせながら、俺も外に出ていった。

「食べたいもの、あるか? 夜にはママが帰ってくるんだそうで、夕食の時間までにはおまえをおうちに送り届ける約束なんだ。だから、今から食べるんだったらおやつだな。なにがいい?」
「えーっとえっと……シュワッチ!!」
「は?」

 それは食い物ではなく、ウルトラマンの攻撃の掛け声だ。映画でもしばしば叫んでいたから、覚えてしまったのだろう。恭子さんにお願いして、シュワッチという名の料理を考案してもらわなくてはいけない。

「広大、シュワッチは食えないよ。おい、広大? おーおー、寝たか」

 寝てしまうとずっしり重くなった小さな身体を抱いて、俺は歩いていく。こうなったらおやつはやめて、シゲのマンションに連れて帰るべきだろう。
 タクシーを止めて広大を抱いたまま、後部座席にもたれて目を閉じる。星々がきらめく大宇宙を飛んでいく、ウルトラマンの勇姿が浮かぶ。俺もけっこう疲れたのか、こうしているとうとうとしてしまった。

 ウルトラマンに続いて宇宙を飛んでいくのは、小さな男の子たち、広大、壮介? 他にもいるよ。おまえたちが大きくなるころには、こうやって生身の姿で宇宙を飛べるようには……二十年後ではまだちょっと無理かな。だけど、できるものだったら俺もおまえたちと一緒に飛びたいよ。

END







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NoTitle

私の姉の子育てはNHKしか見させていない。。。ということもありますけどねえ。まあ、その影響で、姉も私もずっとNHKなのですが。
ヒーローごっこもいいと思いますけどね。そこは子育ての方針でしょうね。
子どもねえ。。。
あまり私にはまだイメージがつかん。。。
( 一一)

LandMさんへ2

こちらもどうも、ありがとうございます。

我が家はむしろ、NHKってあまり見ませんでした。
うちの親は庶民そのもので、テレビは娯楽だと思っていたのでしょうね。
家庭の教育方針はさまざまですから、それもこれもアリかもしれません。

秋が近づいてきているせいで、人恋しいと申しますか。家庭のぬくもりも恋しいと申しますか。
そのせいでなんとなく、子どもがよく出てきているのですよね。
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