番外編

FS超ショートストーリィ・四季のうた・晩夏・五人

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フォレストシンガーズ・超ショートストーリィ・四季のうた

「四季の祭(まつり)」

 徹夜明けのスタジオ、ついにこらえかねた章は、デスクに突っ伏してしまった。みんな、睡眠不足には強いんだよな。俺は駄目だ。乾さんと幸生は睡眠時間が短くても平気なのは知ってるけど、本橋さんとシゲさんは大丈夫? やたらテンション高くて、俺は疲れるんだよ。

 昨夜からの議題は、近々に迫ってきている「歌まつり」についてだった。フォレストシンガーズはシンガーズなのだから、歌手たちが集合するお祭りだ。

 祭りかぁ、ガキのころを思い出すな……う、駄目だ、寝る。
 
 すーっすーっと寝息を立てはじめた章を見やりつつ、真次郎は思う。ひとまず話し合いはまとまったんだから、章は寝かせておいてやろう。俺も眠たいけど、リーダーが寝るわけにはいかないよな。祭りかぁ……世間は夏祭りのシーズンだから、そっちの祭りにも行きたいな。

 兄貴に肩車されて、近所の神社の縁日に行った幼い日。あんなノリで歌まつりもやりたい。小柄な若い奴を俺が肩車して、縁日のセットの中を歩くって趣向もいいかもな。

「シゲ、広大を……いや、広大だと若すぎるかな」
「若すぎるってか。なんですか?」
「祭りってんで思い出したんだよ。おまえでもいいし、俺でもいいから、祭りのセットの中を広大を肩車してさ……そのために夜に来てもらうには、広大は若すぎるだろ」
「ああ、そういう意味ですか」

 面白そうだけど、夜ですからね、と繁之は首をかしげる。繁之の長男、広大はまだ三歳だ。子役芸能人でも「歌まつり」の時間帯には出演できないだろう。

「昼間だったらいいんですけどね……」
「野外歌まつり、昼の部ってのだったらいいよね。そういう企画もいいかも? シゲさんもちっちゃいころに、お父さんに肩車してもらって祭りに行った?」
「うちは酒屋だから、祭りったらかきいれどきだよ。でも……なくもないかな」
「俺もあるよ。おふくろが妹たちと手をつないで、俺はちょこまかするからって親父につかまえられて肩車されて、俺は自由に動けないから不満だったけどね」

 それでも、あの追憶は甘い。子どものころを思い出した幸生が話題を振り、真次郎と繁之も盛り上がる。ハイテンションは続いているのだが、章はすっかり夢の中に入っていってしまっている様子だ。

 父や兄に肩車されて祭りに出かけた想い出は、俺たちの年頃だったら珍しくもないんだろうな、と隆也は思う。章だって稚内の夏祭りに連れていってもらったのだろう。章は十二歳年下の弟が生まれるまではひとりっ子だったのだから、自分で言うよりははるかに親に可愛がられていたはずだ。

 本物のひとりっ子隆也には、そんな想い出はない。祭りにいくのは祖母とだった。
 ごく幼いころにだったら、祖母におんぶされたことだったらある。父や母とは遊びに連れていってもらった記憶もないが、かわりに祖母がいた。

 春、桜まつりの金沢城。
 夏、花火大会、犀川のほとり。
 秋、紅葉まつりは兼六園。
 冬、雪の舞い散る中を、逆に祖母を背負って歩いた高校生のころ。

 観光地で生まれて育ったのだから、隆也には「まつり」の追憶はふんだんにある。シンガーになってからは歌のまつりも加わって、これからもずっとずっと……ああ、日本人だなぁ、と隆也は微笑む。耳元に聴こえるのは章の寝息ではなく、追憶の中の祭囃子だ。

END









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~ Comment ~

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みんなそれぞれに祭りの思い出ってあるんですね。
世界にはいろんなお祭りがあるけど、やっぱり日本人だから、日本のお祭りがいいですねえ~。
縁日の金魚すくいとかヨーヨー釣りとか。
乾君はそれこそ観光地だったから、いろいろあるんだろうなあ。
芸能人や歌手になったら、何とか祭って、いろいろあるけど・・・。あれもまあ、お祭りですね^^章はなんだか練習(?)で、めっちゃ疲れてるっぽいけど。
今度はお祭りの主役級になるんんですね。
それもまた、いいな。

limeさんへ

近頃さびれっぱなしのブログに、コメントありがとうございます。

私はあまり大きなお祭りを見たことがないんですけど、地元のちっちゃいお祭り、夜店なんかもいいものですよねぇ。

五人五様の幼い日の想い出と、歌手になってからの祭りと、そういうのを書いてみました。

観光地っぽいお祭りも、おばあちゃんに手を引かれて縁日でも覗きにいったのも、隆也にとってもいい思い出です。
このごろは私もお祭りにはいかなくなったのですけど、子どものころの想い出ってやっぱりありますよね。日本人ですよね。



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