ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS形容詞物語「ださい」

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フォレストシンガーズ

形容詞シリーズ

「ださい」

 妖しげなムードは店が客たちの気分を盛り上げて、一夜の恋のゲームの後押しを演出してくれているもの。なのだから、客の僕も応えてあげるべきだ。僕は見慣れぬ男女に近づいていった。

「うまそう、ちょうだい」
「……ちょっと、なにすんのよ」
「失礼な……なに、きみ?」

 そろって目つきをとがらせる男と女。恋人同士なのだろうか。細身の女と筋肉質の男は、服装もファッショナブルだ。

「うまそうだからちょうだいって言ったんだよ。あなたが持ってるカナッペも、それから、あなたも」
「彼女は俺の連れだよ」
「あなたでもいいよ」
「俺? きみ……」

 このシチュエーションで若い男が近づいてきて、あなたがうまそう、なんて言ったら、女性をナンパしたいのだと思うだろう。というか、男がそばにいるってのにあつかましい奴、とばかりに男が怒るか。喧嘩でも売られたら? どうかわそうかな。僕がこの男とまともに殴り合って勝てるわけもないし。

「……どこかで会ったこと、あるかな?」
「美麗でとか? あなた、そんな趣味?」
「美麗って女装できる店だよね。サムちゃんってそんな趣味だったの?」
「ちがうよ」
「……私もキミに会ったことあるみたい。田野倉さんの息子さんだったかな?」
「ある部分は息子みたいなものだね」

 未成年だったころの僕にはあったものが、二十歳になると消え失せた。僕は田野倉ケイさんの愛人、哲司、だと名乗るのがへっちゃらになったのは、未成年だとケイさんが犯罪者になりかねないからか? 羞恥心がなくなったからか。

 そんなのどっちでもいいけれど、男はサム、女はアミとかいうらしい。ふたりともに僕よりは五つ、六つ年上に見えた。

「ああ、田野倉さんの……ってことは……」
「息子じゃなくて……あ、そっち? そっちだったらサムちゃんをナンパしたいの? いいよ、貸してあげる」
「おいおい、アミちゃん、それはないでしょ。ナンパしたいんだったらアミちゃんを連れてって」
「ひっどーい。私を守ってくれる気ないの?」
「アミちゃんこそ。俺のために闘ってよ」

 仲良くいちゃついてから、サムが僕に向かって言った。

「哲司くんだよね? 噂には聞いたことがあるよ。きみってナンパが趣味なんだって?」
「三沢幸生じゃないんだから、ナンパが趣味ではないよ。そのあとにすることが趣味なんだ。ナンパはするよりもされるほうが好きだな」
「そのあとって、なにがしたいの?」
「あなたたちも今夜、するんでしょ」

 作、編曲家としてけっこう売れてきているとはいえ、ケイさんは音楽業界では裏方ともいっていい。そんなケイさんを知っていて、僕のことも多少は知っているということは、音楽関係なのだろうか。あの業界の人間は上から下まで、自称も含めればいやになるほどいるから、僕だってその仲間といってもさしつかえないはずだ。

「そんなにしたいんだ」
「……へぇぇ、哲司くんって十代でしょ」
「十代のほうがむしろ飢えてるのかな。まだ珍しさもある年頃だよね」
「やったこともなくてもやりたくないって子も、十代にもいるらしいよ」
「二十歳もすぎると飽きちゃうもんね」
「飽きるほどやるってのも暑苦しいね」
「人は好き好きだけどさ」

 軽侮のまなざしと口調。僕は二十歳だが、十七、八に見えるらしいから訂正はしないでおいた。

「サムちゃんは飽きるほどしたの?」
「そこまでやる気になんないよ」
「私もだな。うちの姉なんかはもういい、飽きたって言ってるけど、私はそこまで行きたくないの」
「気が合うよね。そしたら結婚しようか」
「いやだよ」
「俺もいやだ」
「いやだって言うとわかっててプロポーズしたんだよね。性格わるっ」

 あははと声をそろえて笑ってから、アミが言った。

「時代は絶食なんだよ」
「食ってるじゃん」
「そっちじゃなくて……哲司くんみたいにがっついてるのはみっともないって話。自分からナンパしてまでやりたいなんて、値打がなくなっちゃうよ。キミは綺麗な顔してるんだから、そんな子はセックスなんかしたくないって言ってるほうが素敵なのよ」
「ふーん」

 そうそう、と首を縦に振ってから、サムも言った。

「安売りするってのもみっともないけど、なんて言うのかなぁ。あれってよく考えたら汚らしいでしょ? アミちゃんみたいな美人だって美しくもないのに、ブス女だったら……まして男なんて……想像しただけでげげげっだよ」
「値打って言い方は変かもね。人間、もっと静かに生きたいって思わない?」
「あんなことは楽しくもないだろ。面白いことは他にいっぱいあるもんね」

 自分を大切にすべきだとか、病気もらうよ、だとか、妊娠でもさせたらどうするの? だとか、そういう方面から説教したがる善意の大人はいる。ケイさんは、夜遊びするな、クスリはやるな、とか言って僕を叱る。

 けれど、若い男女がこんなことを言う時代になったんだね。僕はやっぱり田舎者ってことか。彼らの仕事がちらっと気になったけど、質問するのはやめにした。

「清潔な生き方ってかっこいいよね。無菌培養純粋培養、黴菌には弱い若者たち。僕はバイキンみたいなものだから、退散するよ」

 なに言ってんの? 馬鹿? などと笑っている彼らに背を向けた。時代がどうあったって、僕は僕のやりたいようにやるさ、ってのはアナクロなんだろうか。アナクロなんて言葉を使うそれだけでも、僕はナウい若者じゃないのかな。ナウいだって、ださっ、と自分を笑ってみた。

END






 
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