forestsingers

FS俳句・短歌・超ショートストーリィ2015/8

 ←小説384(Sister Awake) →FS形容詞物語「ださい」
2015/8 超ショートストーリィ

 この住所は乾さんのアパートの近くだ。印刷屋の社員に手渡されたメモを見て、ちょっとだけ楽しみになってきた。
 夏休みなのだから当然真夏で、アルバイト先の印刷屋の配達はなかなかハードである。乾さんのアパート近くに行けるなんてのは、だからなんなんだよ? なのかもしれないが、そんなことでも楽しみにはなる。

 古い大きな自転車の荷台に荷物を積んで、バイトしている会社から取引先への届け物。乾さんのアパートはけっこう遠いから、取引先も遠い。えっちらおっちら自転車を漕いだ。

「大丈夫だよ……俺は体力あるんだもの。体力があって力持ちなのがシゲのとりえだもんな……う、脱水症状を起こしたらいけないから水を飲もう……わ、ぬるっ、まずっ。いやいや、まずくても水分補給はしなくっちゃな。うんうん。ああ、でも、音楽聴きたいな。自分で歌おうかな。歌うと体力消耗するかな……なんのこれしき、シゲ、がんばれ」

 自転車を漕いでいると、声に出してひとりごとを言っているのか、心の中で言っているのかわからなくなる。ペダルが重い。汗がしたたる。仕事だ仕事だ、がんばれ、シゲ!!

「おーい、シゲ!!」
「あ、乾さん!!」
「バイトか?」
「はいっ!!」
「がんばれよ」
「はいっ!!」

 自分で自分にがんばれと言うよりも、先輩に激励してもらうほうが数倍力が出る。

 今年のはじめに大学の先輩と、同輩と後輩とで結成したフォレストシンガーズの、乾さんは先輩のひとりだ。今春に本橋さんと乾さんは大学を卒業してフリーターになり、あとの三人はまだ大学生。乾さんはバイトは休みなのか、アパートの窓を開けてなにかしていたらしく、俺に気づいてくれた。

「おまえは人力車を漕いでるんじゃないけどさ……」
「なんですか?」
 
 ひらひらっと、乾さんが窓から紙片を投げる。俺はそれをキャッチする。紙片にはこんな短歌が綴られていた。

「夏よ夏よ鳳仙花ちらし走りゆく人力車夫にしばしかがやけ」北原白秋

 さすが乾さん。粋だね。


SHIGE/ 21歳の盛夏に


CIMG1759.jpg

鳳仙花ではないけれど、夏の花の代表ですよね。








スポンサーサイト



【小説384(Sister Awake)】へ  【FS形容詞物語「ださい」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

シゲちゃん、大学生の夏ですね。
いいなあ、シゲちゃんはむかしっから純朴で、頑張り屋さん。
乾君に憧れていたんですね。
しかし、自分をいつも励ましながら頑張ってるところ、なんか・・・やっぱりシゲちゃん。
乾くんはそんなシゲちゃんを、ちゃんと見ているんですね。
応援の仕方も粋だ。
一緒に仕事できるようになって、良かったね、シゲちゃん。

limeさんへ

いつもコメントありがとうございます。

居酒屋だの飲食店だのじゃなくて、印刷屋さんで力仕事をしていたのがシゲらしいなぁ、と、書いてる当方も思っております。

もひとつシゲらしいのは、純粋に単純に、乾先輩を尊敬しているところですね。

ユキはちょっとよこしまですし(え?)。
シンはライバル心がありますし。
章は、えーかっこしいのかっこつけのうるさい先輩だと思ってますし。

ほんとに、シゲだけなんですよ。乾さん、かっこいい、なんて本気で思っているのは。
隆也、シゲを大切にしなさいね、ですよね。

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【小説384(Sister Awake)】へ
  • 【FS形容詞物語「ださい」】へ