ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS形容詞物語「切ない」

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フォレストシンガーズ

形容詞物語

「切ない」

 
 甲子園にも秋風が吹いて、今年も寂しくなったな、とため息つきつき家路をたどる。ヒデとの約束は夜だったので、西宮でデイゲームを観戦した帰り道だ。否、家路ではなくて、今夜はこれから約束があるのだった。

「……こんばんは。えーと……」
「ああ、本庄さん、いらっしゃい」

 閑散としたバーで、迎えてくれたのはマスターだ。フォレストシンガーズの面々も神戸のこのバー、「Drunken sea gull」には、個別にだったり全員でだったりして時おり訪ねている。全員にヒデも加わっての飲み会だったら、マスターが貸し切りにしてくれるのだが、今夜はヒデと俺ともうひとり来る予定だけなのに、他のお客はいなかった。

 もうひとりというのが神戸あたりでだったらいちばんの有名人だから、マスターが配慮してくれたのか。俺はマスターにウィスキーの水割りを頼み、この店ではうまいと評判のチーズを肴に飲んでいた。

 血は争えぬということか、彼の息子はロックバンドをやっている。その青年の彼女が我々をひっかきまわしたりもして、ヒデもマスター自身について探りを入れたりしていたが、彼の正体は依然不明だ。バーの初老のマスターが何者であろうとも、犯罪者でもないのだったら俺はなんてこともないが。

 髭をたくわえた渋い容貌のマスターは、ひょろっとした身体で声も渋い。愛想はかけらもないのだが、これでも女性客にはちょっとだけ優しくなるのだそうで。相当に上手な彼のギター演奏を所望すると、そしたら歌ってくれとでも言われるのかな、と思って、俺も黙って飲んでいた。

「こんばんは。本庄さんですよね」
「目加田さん、いらっしゃい」
「あ、こんばんは、はじめまして……」

 この店でヒデが知り合いになったと聞いた、関西在住プロ野球投手だ。彼はフォレストシンガーズの本庄繁之とは比較にならないほど、関西では著名なはずだ。彼のためにマスターが他の客をシャットアウトしたのだとも考えられる。

「プロ野球のピッチャーに、テーマソングを作ってほしいと頼まれたよ」
「タイガースのピッチャーか?」
「いや」
 
 パ・リーグの選手だったが、ヒデが口にした目加田投手の名は俺も知っていた。
 HIDEブログを読んで「Drunken sea gull」がヒデの行きつけの店だと知り、そこだったらわかる、と目加田さんはこのバーを訪ねてきた。その夜にたまたまヒデもやってきていて、チャンス到来とばかりに目加田さんが作曲依頼をしたのだそうだ。

 大学の先輩で、現レコード会社のプロデューサーである高倉さんは無類の野球好きのせいもあって、プロ野球選手に人脈を持っている。高倉さんの紹介で何人かのプロ野球選手と会ったが、俺に作曲依頼してきたひとはいない。もっとも依頼されても俺にはできないのでされなくていいのだが。

「俺も水割りお願いします」
「う」

 いつだってマスターの返事は、う、あ、だとヒデが言っていた。これでも目加田さんや俺には挨拶もしたが、店に入っていったヒデにはいらっしゃいとも言わないらしい。つまり、常連として認められているわけだ。

 目加田さんと俺とは挨拶をかわし、水割りを飲みながらプロ野球の話をした。彼はプロだし、俺も大好きだから、話はいくらでもあった。

「目加田さんは高校野球で甲子園に行ったんですか」
「出ましたよ。俺は九州の……」
「ああ、あの高校、知ってます」
「惜しくも準決勝敗退だったんですけどね」

 三十四歳のヒデや俺よりはやや年下だそうだから、彼が甲子園大会に出場したのは十五年近く前か。われらがタイガースの暗黒時代だ。

「ドラフトにはかかったんですよ。それほどの選手でもなかったんだけど、タイガースが四位指名してきましてね。だけど、俺はタイガースは大嫌いだった。あそこにだけは行きたくなかったから蹴って、大学進学を選んだんです。ヒデさんはタイガースファンだそうですから、内緒にして下さいね」
「ええ」

 苦笑いしただけで、俺もタイガースファンですとは言わなかった。

「あんな弱いチーム、お断りですよ。で、大学四年の年にもう一度ドラフトにかかった。ほんとはジャイアンツ志望だったんですけど、指名してもらえずに今のチームにね。関西は好きじゃなかったから行きたくなかったんだけど、タイガースじゃないだけましかなって。浪人してジャイアンツに指名してもらえるほどの選手じゃないから、諦めて今のチームに入ったんですよ」
「そうですか」

 えらく正直だと言うべきか、オフレコだとの前提のもとで赤裸々に話してくれているのか。俺としてはあまりいい気分ではなかった。

 若い二軍の選手と焼き肉を食って、彼の将来を楽しみにしていたこともある。彼はタイガースの二軍でしばらくは修行していたのだが、いつしか自由契約になったらしい。高倉さんの知人の息子だと聞いたが、彼はどこでどうしているのか。

 本橋さんが高倉さんに紹介してもらったカープのピッチャーも、自由契約になってサラリーマンになっていると聞いた。

 実力次第の世界だ。そこには運だってつきまとう。どれほど素晴らしい才能を持っていても、故障して涙を呑む選手だっている。怪我をしなくても、ちょっとしたタイミングの悪さで活躍できないままにクビになる選手もいる。

 歌手は実力以上に運や、世の中に吹く風の方向に左右される稼業だが、スポーツ選手にも似通ったところはある。若くて不遇な選手と知り合うと、本橋さんは言葉で励ましてやり、俺はせめて腹いっぱい食わせてやりたいとごちそうした。

 最近はたまに、有名な選手、功成り名を遂げた選手とも知り合う。いい奴だと思える男もむろんいるが、なんだかなぁ、の奴もいるわけで。目加田さんの話を聞いていると、俺の想いはかつて知り合った野球選手たちにさまよっていっていた。

「すみません、仕事が長引いて……」
「ああ、ヒデさん、もういいんですか」
「なんとかね。マスター、俺にも水割り」

 目加田さんには詫び、マスターには注文し、俺にはにやっとしてみせてから、ヒデが目加田さんのとなりに腰を下ろした。たしかに、マスターはヒデには挨拶をしなかった。

「いい曲できました?」
「帆影を連想するような、勇壮な曲ですよね。むずかしいな」
「むずかしいですか。シゲさんのアドバイスを求めたくて来てもらったとか?」
「うん、多少はね」

 いやいやいや、と俺は焦って手を振った。

「俺は作詞も作曲もできませんから、アドバイスなんてとんでもない」
「そうなんですか。フォレストシンガーズの……本庄繁之作曲って歌、ありません?」
「作曲一曲、作詞一曲だけありますよ」

 とはいっても、乾さんに補作してもらったり、ヒデにインスピレーションを与えてもらったりしたからできたにすぎない。

「それでもアドバイスはできるんですよ」
「そういうもんですか。いやぁ、そうですよね。うん、フォレストシンガーズの中ではね……」

 とりなしてくれようとするヒデに、俺は苦笑いを向ける。目加田さんはなんだか意味ありげに俺を見つめ、小声で言った。

「そっか。やっぱりいるんだな」
「なにがいるんですか?」
「なんてのかな。失礼な言い方だろうから言わないほうがいいのかな」
「失礼なこと?」
「ヒデ、いいからさ」
 
 ヒデの目つきがとんがり、俺はヒデを止めた。

「失礼なこととは? 言ってもいいですよ」
「そんな……怖いなぁ、ヒデさん。いやね、いるじゃないですか。ゴマメってかみそっかすってか。シゲさんってフォレストシンガーズではそんなふうなのかなあと。いやいや、失礼」
「ヒデ、いいから」

 止めないとこの気の荒い男が目加田さんに、おもてへ出ろ、と言いかねない。こんな言い方をされれば、フォレストシンガーズの誰だって、ヒデみたいになるだろう。本橋さんは身体を張って、乾さんは言葉で、幸生はジョークまみれで、無礼な相手に対抗してくれた。章だけはむしろ、俺の背中に隠れたがったが。

 そんな仲間がいて俺は幸せだ。ヒデも俺のために怒ってくれている。目加田さんは自分で言っておいて気まずい表情になり、マスターがぼそっと言った。

「ヒデさんの作る曲の調子は、プロ野球にはあんまり合わん気もするけどな」
「ほんならマスター、作ったりぃや」
「俺にはできんて言うとるやろ」

 とぼけた口調でヒデとやりとりをし、マスターがギターを抱える。耳を澄ましてみると……喧嘩はやめて、ふたりを止めて、私のために争わないで、もうこれ以上? 昔のアイドルソングではないか。幸生が本橋さんと乾さんの喧嘩を止めようとして、この歌を歌っていた。

「なんちゅう歌を……マスター、気持ち悪いわ」
「歌ってるんとちゃうからええやろが」
「なんですか、その曲は?」

 いぶかしげに尋ねる目加田さんには、誰も返事をしない。俺はなにやら切なかった。
 一芸に秀でた者が人格者だとは限らない。一流の野球選手にだってさまざまな人間がいる。歌手にだって俺みたいな人間がいるように。

END










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~ Comment ~

NoTitle

これは切ない・・・を通り越して、腹立たしいですよね。
名声をもった人たちって、どうしても他人を上から目線で評価しちゃんでしょうね。
きっとこの目加田さん、鼻つまみもんなんじゃないかなあ。
シゲさんよりよっぽど、味噌っかす。あ、シゲさんはちがいます!
今回のヒデさんは、今までで一番かっこよかったなあ。
やっぱりシゲさんの気持ち、分かるんだろうな。

そういえば一昨日、うちの旦那が仕事がらみで、元タイガースの掛布さんと新地で飲んだそうです。
なんだかすっかりぽっちゃりのおじさんだったけどw
楽しい人だったそうです。
でもやっぱりホスト側は気を使わなきゃいけない空気感で、けっこう大変みたいですね^^。

limeさんへ

シゲのために腹を立てて下さってありがとうございます。
きっとシゲを想ってくれる人のほうが怒るシチュエーションなのでしょうけど、本人は怒るんじゃなくて、俺ってそうなのかもな、切ないな、と感じるタチなのです。

今回、ご感想をいただいてふと思いました。
はっ、私、最近章じゃなくてシゲをいぢめてるかも。。。。
それだけシゲを愛するようになってきたからなのですね。(^^)/

掛布さんといえば、何年か前に甲子園の近くでファンに囲まれていたのを目撃して、私もそばに寄っていって近くで見ました。見ただけ……見世物みたいに。

ほんとに、髪の毛の薄い人のよさそうな太目のおじさんに見えますよね。
だけど、あの方はほんとに野球が好きなんですよね。二軍の特別コーチかなんかやってるようですが、まだ大成していない若い子には特に、思い入れたっぷり。愛が伝わってきます。

こら、阪神二軍の若者。
キモチワルッって言うなよ。

limeさんのご夫君が一緒に飲まれたとのこと。
うらやましい~です。
シゲも掛布さんほどの大物とは触れ合うチャンスはないでしょうから、うらやましいなぁ、いいなぁ、と言っております。
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