ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「京」

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フォレストシンガーズ

「京都慕情」

 夕方にはライヴハウスで仕事をするという一柳のおじさんにくっついて、京都までやってきた。一柳さんの本職はスタジオミュージシャン、ドラマーだが、遊び半分でおじさんロックバンドをやっている。「defective boys」という名のバンドには決まったヴォーカリストがいなくて、ライヴをやるためにあたしが選ばれた。

「なんでそんなおっさんと、京都に行くんだよ? おっさんは結婚してないのか?」
「してるよ。奥さんと息子がいるって言ってた」
「不倫かよ」
「そんな仲じゃないって。お父さんみたいなもんだよ」
「やめろよ、そんなおっさんと旅行するの」
「だったらあんたが行く?」
「俺は行けないって言ってるだろ」

 自分は行けないくせに、瑠璃も行くなと言いたがる勝手な奴。あたしは京都に行きたくて、ひとりで行くよりは連れがいたほうがいいと思って一柳さんに便乗しただけ。お父さんみたいなおじさんなのだから、お金もだいぶ出してくれるだろうとの打算もあった。

 彼氏を振り切って出てきたのだから、もうおしまいかもしれない。それでもいい、と思う程度にしか、彼氏には執着はなかった。

「好きな男、いたんだけどね、つきあったんだけどね、今度もまたふられちゃったよ」
「瑠璃をふる男なんて、馬鹿だよ」
「そしたらさ、一柳さんの息子、紹介してくれる?」
「いや、あいつらふたりとも、普通のサラリーマンだからださいぞ」

「一柳さんの奥さん、美人じゃん。息子は奥さんに似てるって言ってなかった?」
「顔は悪くもないんだけど、瑠璃から見たら普通すぎてださいって」
「なーんて言って。あたしみたいな尻軽には紹介したくないんでしょ」
「そうは言ってないよ」

 タクシーの中でそんな会話をしたのも、あいつとは別れるだろうと決めてしまっていたからだ。ライヴハウスに行かなくてはいけない時間までは間があるからと、大原にやってきた。あたしの目当てのお寺は閉まっていたから、一柳さんと腕を組んで歩いた。

「この坂、あたしが勝手に名前をつけたの。瑠璃光院に近いから、瑠璃坂」
「瑠璃いろ坂のほうがいいんじゃないか」
「瑠璃の坂でいいの」

 むこうはどう思っているのか知らない。瑠璃は俺の娘みたいなもんだ、手を出すな、なんて、周りの若い男には言うけれど、下心もあるのかもしれない。タクシー代や食事代を出してくれるお礼に、一回くらいだったら寝てあげてもいい。

 でも、あたしには本当にお父さんみたいにしか思えない。おじさんとだったら腕を組んで歩いていても、心が波立たないのはいいことだった。

「小鳥が鳴いてるね」
「ルリビタキなんじゃないかな」
「瑠璃の坂を瑠璃と腕を組んで歩いていたら、ルリビタキが鳴いてる。ルリルリしてるんだ」
「ルリルリね」
「奥さんにはあたしと一緒に行くって言ったの?」
「言わないよ」
「妬かれる?」
「さあねぇ、どうだろうね」

 孫のいそうな年頃の夫婦でも、嫉妬し合ったりするのだろうか。夫はミュージシャンだからこの年になってももてる。一柳さんは年の割にはかっこいいおじさんだから、奥さんはやきもきしているのかもしれない。

「亭主元気で留守がいいんだろうけど、瑠璃みたいな若い美人と京都に行くって言ったら、どうして私とじゃないの? 誰かを連れてってもいいんだったら私とでしょ? って怒るかもな」
「旦那と一緒に出掛けたいってのは、嫌われてない証拠だね」
「嫌われてはいないけどな」

 他愛もない話をしながら、京都の道を歩く。その昔、アンノン族ってのがいてな……などと一柳さんが話してくれた。

「アンアン、ノンノって雑誌を抱えて、ディスカバージャパンとか言って、観光地を旅する女の子たちだよ。瑠璃も京都は好きなんだな」
「好きだよ」
「瑠璃は横須賀出身だよな」
「うん」
「関東の人間は京都に憧れるんだよな」

 十代のころ、フォレストシンガーズが横浜のホールでライヴをやった。あたしはロックのほうが好きだったが、当時の彼氏のヒロがフォレストシンガーズに憧れていて、将来は俺もあんなグループで歌いたいと言っていた。

 出待ちをしていたファンのうしろのほうで、ヒロとあたしもフォレストシンガーズが出てくるのを待っていた。そのとき、出てきてくれたのが乾さん。ヒロは声が乾さんに似ていたのもあり、特に彼に憧れていたから、出待ちのファンをかきわけて前に行こうとした。

「そこの坊や、他のみなさんは女性ばかりなんだから、乱暴するな」

 乾さんに叱られて、言うことを聞かなかったからガードマンにつまみ出されたヒロ。そのあとで喧嘩になって、ヒロにはふられてしまった。
 あれからあたしはずーっとずっと、男にふられてばかりの人生だ。

 好きになったらあたしのほうから告白して、たいていの男は受け入れる。若くて美人で、それなりには名の売れたロックシンガーなのだから、寝るだけだったら男は大喜びだ。
 そして、いつだってむこうから去っていく。

 恋をしてるのか? と尋ねた一柳さんに、あんなふうに答えたから、彼は気にしているのか。瑠璃、元気出せよ、と言ってくれた。

「元気だよ。おなか減っちゃったな」
「よし。じゃあ、早めにメシにしようか」
「おごってくれるの?」
「当然だろ」
「どうやってお礼をしたらいい?」
「ありがとう、でいいんだよ」

 下心は隠してお父さんらしくふるまうのが、一柳さんのダンディズムってやつなのか。あたしだって別におじさんと寝たいわけではないのだから、無邪気なふりをしておいた。

「あの人の姿懐しい
 黄昏の 河原町
 恋は 恋は 弱い女を
 どうして泣かせるの

 苦しめないで ああ責めないで
 別れのつらさ 知りながら
 あの人の言葉想い出す
 夕焼けの高瀬川」

 京都らしいおいしいものをごちそうしてもらってから、ライヴハウスに入った。一柳さんは知り合いのおじさんたちとともに演奏して、あたしは客席で聴いている。年配のお客の多い客席から、リクエストされた曲は、もとは歌謡曲だそうだが、ジャズっぽいアレンジがされていた。

 こんな曲って皮肉? 一柳さんったら、瑠璃のためにも……なんて思ってる? センチメンタルな歌詞が変にしみてきて、涙が出そうになった。

END










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~ Comment ~

NoTitle

・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・。
私はあまり寝るのは好きな方ではなく。
その過程を好むほうですからね。
欲望や打算で寝ることはできますが、
それには浪漫がない。
それを男は分かっているから、男は離れるんだと思います。

LandMさんへ2

寝るの、好きじゃないんですか~?
え? 寝不足には気を付けて下さいね。

と、大ボケにボケてしまいましたが。
(^o^)
いやいや、こちらにもありがとうございます。

女はよく「男に遊ばれた」と言いますよね。
お互いに遊んだんでしょうが、と私は思います。

でも、その果てに結婚を夢見るのは、やはり女性のほうら多いのかもしれません。

結婚ってものはしてもしなくてもしんどいんですよね。
そもそも人生ってそういうものですものね。
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