ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS形容詞物語「美しい」

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フォレストシンガーズ

形容詞物語

「美しい」

 クラシック音楽は好きだ。六歳のときからピアノを習っていて、十八になった今でも練習はしている。本橋がピアノ? 似合わねぇっ!! と友達に大笑いされた経験は多々あり、自分でも似合わないと思うのだが、好きなものは好きだ。

 他にも趣味はたくさんあるので、近頃はピアノもないがしろにしている傾向はあるが、嫌いではない。高校生のころからジャズも好きになって、兄貴たちには、音楽なんて軟弱な、スポーツをやれ、と言われつつも聴いている。

 なのだから、大学ではクラシックのサークルに入ろうか。けど、俺には似合わないってほんとだしな。上品な人種に混じったらやりにくそうだし、どうしようか。

 悩みながら学校のキャンパスを歩いている。俺たち新入生を迎えた春。キャンパスでは各サークルの新人勧誘パフォーマンスが盛んで、アニメソングやら、運動部の連中らしいどでかい男の声やらが鳴り響いていた。

「あ……アヴェ・マリアだ」

 そんな中なのだから、細くて高い女声コーラスはかそけき音でしかない。俺の好きな曲だから聞き取れたのかもしれなかった。

 綺麗な女の声で歌う「アヴェ・マリア」。これはなんだろう。女声合唱サークルだろうか。歌ってのもいいな。歌を聴くのもいいし、俺が歌うのでもいい。こんなに綺麗な声の女性たちのいるサークルには、男はいないのかもしれないが。

 歌っていたのは姿も優雅な女性の先輩たちで、合唱部の勧誘活動だった。そばにいた合唱部の女性に教わって男子部の部室に行き、入部手続きをしてもらった。

 それが普通なのかどうかは知らないが、うちの学校の合唱部は男女別だ。互いの交流は頻繁で飲み会などもやっているが、部室も別。キャプテンもそれぞれにいて、男子部のキャプテンは高倉さん。後に知ったところでは、高倉誠氏は三浪していて、そのせいで他の学生たちよりもオヤジじみているのであった。

「高倉さんはたしかに、ちょっと老けてる感じだよね」
「大きな声じゃ言えないけど、ってか、高倉さんは気にしていないみたいだからいいんだけどな」
「現役で大学に入学した先輩たちだって、大人だよね。二十歳をすぎると私たちとは全然ちがうの」
「私たちって誰だよ? 俺は大人だぜ」

 へっ、と本当に声に出して笑った奴は山田美江子。同い年の合唱部仲間で、戸籍上の性別は女、ぱっと見も女だが、中身は男だと俺は思う。
 もっとも、女っぽくないからつきあいやすいのもあるのだが、そう思うのは俺だけなのか? こいつは他の男には、女っぽくないとは思われていないようだ。

「おまえはガキっぽいけど、たしかにな。女子部の先輩は大人っぽくて綺麗だよ」
「本橋くんは好きな女性ができたの? 先輩とか?」
「いや」
「彼女はいるの?」
「いねえよ。おまえに関係ねえだろ」
「関係ねえよっだ」

 鼻の頭に皺を寄せて舌を出す山田は、俺が魅せられたコーラスをしていた女子の先輩たちとはえらいちがいだ。

 小憎たらしい女ではあるが、俺としても気を遣わなくていいのでやりやすい。山田と乾と三人でグループみたいになって、連れだって飲みに行ったり昼メシを食ったりもしていた。
 
「おまえには山田は女に見えるのか?」
「女じゃなかったらなんなんだ?」
「うーん。男ってんでもないんだよな。男女か。いてっ!!」
「失礼なことを言うな」
「この野郎、不意打ちは卑怯だぞ」

 殴ってやろうとしてもやすやすとかわすのだから、乾は身が軽いのだろう。背丈は俺とそうちがわないが、へなちょこした細い身体つきをしている。そのくせ、失礼だと怒った顔をして俺の足を踏んづけやがった。

「そういう卑怯な姑息な陰険な真似をしてないで、正々堂々と勝負しろ」
「卑怯、陰険、姑息、それ以外のヴォキャブラリーは、本橋くん?」
「うるせぇ、卑怯者!!」
「勝負だったら口でしようよ」
「いやだ」
「なぜ?」

 口ではおまえに負けるからに決まってるだろっ、心で言いつつ立ち上がる。部室近くのベンチにすわって話していたのだから、立たないと喧嘩ができない。乾はのほほんと笑って、いい天気だなぁ、などとほざいていた。

「立て、乾」
「まあまあ、落ち着いて。なにを怒ってるのかよく考えてみろよ」
「なんだっていいんだよ。たまにはバトルをやろうぜ」
「いやだ」
「どうしていやなんだ?」
「おまえと同じ理由で、だよ」
 
 なるほど、わかる気はする。気が抜けそうになって、俺は近くのポプラの枝に飛びついた。

「枝を折るなよ。おまえ、何キロ?」
「七十キロはあるかな」
「百八十はないんだろ。七十キロだと太りすぎじゃないのか」
「馬鹿言え。筋肉だ。おまえは何キロだ?」
「知らないよ」

 筋肉だって俺の圧勝だ。銭湯に行こうか? 俺の裸が見たいのか? バカヤロー、銭湯の体重計に乗るんだよ、ひとり暮らしの乾のアパートには体重計はないだろ? 実に下らないやりとりを続けていると、乾がふっと黙った。

 どうした?
 あれ? なんだかいい香りの風が……俺も乾と同じ方向を見た。そこには山田美江子がいる。山田が手を振っている相手は乾と俺ではなく、さらに遠くから近づいてくる男だ。

「星さん……」
「山田は星さんとつきあってるんだってな。あんないい男がよくも、あんな男みたいでガキっぽい女を選んだもんだよな。星さんって意外と趣味はよくないのか」

 この口数の多い乾が、黙って山田を見ている。俺も山田に視線を移す、初夏の日差しの中、四年生の星さんが山田に大股で歩み寄っていく。山田のポニーテールが風に揺れる。俺に対しては憎まれ口しかきかない山田の顔に、満面の笑みが広がる。あ、ほんとに、こいつ、女なんだ。

「美しいな」
「……」

 同意の言葉は口にしなかったが、俺も心でうなずいた。俺が生まれてはじめて、山田美江子を美しいと感じた瞬間だった。

 
SHIN/18歳/END







 


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