番外編

FS超ショートストーリィ・四季のうた・夏・真次郎

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フォレストシンガーズ・超ショートストーリィ・四季のうた

「夏の食」

 強い日差しのもとで、民宿のおばあちゃんに頼まれた仕事をこなす。宿泊客なのだから真次郎がやる必要はないようなものだが、身体を動かすのは嫌いではない。老人に力仕事をさせるくらいならば俺が、と真次郎は考える性質だった。

「あの花が向日葵ですよね」
「そうそう。あれは朝顔、あっちはカンナ、そっちは立葵だよ」
「花ってひとつひとつに名前がついてるんだなぁ」
「……そりゃそうだよ」

 当たり前だろ、と言いたげに、ばあちゃんは陽に灼けた顔をほころばせる。乾だったらこのばあちゃんと花の話で盛り上がるのかな、乾とあいつのばあちゃんの会話もこうだったのかな、と真次郎は想像する。

「ばあちゃん、西瓜、持ってきたよ」
「ありがとうよ。早速切ろうか」

 庭先に入ってきたのは、ばあちゃんの孫だと聞いている若い女の子だ。昨日、初対面の真次郎に、夜這いをかけてこない? などと誘った大胆な娘。本気ではなかったのだろうと真次郎は解釈しておいたが、またまた出会うとどきっとする。彼女のほうは素知らぬ顔で、真次郎に大きな西瓜をどんっと渡した。

「うわ、でかいな」
「井戸で冷やしておいたから、食べごろだよ。ばあちゃん、包丁を持ってきて」
「はいよ」

 大きな西瓜、大きな包丁、ばあちゃんが西瓜を切ると赤い果汁がほとばしる。琴美という名の娘が笑った。

「鬼婆みたいだね」
「なんてことを言うんだろうね、この子は」
「痩せた小さいばあちゃんが、そうやって包丁を振り回してるとそう見えるんだもん。人の首を切ってるみたい」
「琴美ちゃん、食欲が失せるようなことを言うなよ」

 口ではそう言っても、食欲は失せたりしない。大きな西瓜を大きく切ったものに、真次郎はかぶりついた。うまい!! シゲにも食わせてやりたいな。シゲだったらひとりでこれ全部、食うんじゃないのかな。

「あとでアイスクリームも食べる?」
「はい、喜んで」
「本橋さんってよく食べるよね。そういう男は好きだよ」
「……あ、ああ、どうも」
「私も本橋さんみたいな男、好きだよ」
「さすがに祖母と孫、男の趣味も似てるんだ」

 夜はソーメン、冷たいものばっかりでもお腹は平気かね、とばあちゃんが心配しているが、真次郎は生まれてこのかた、一度も腹などこわしたことはない。

 孫の言う通り、ばあちゃんはちっちゃくてか細いが、その腕は意外に強靭そうだ。孫のほうは大柄でグラマラスで、襲われたら真次郎にだってそうたやすくは撃退できそうにない力強さを持っている。
 近くには包丁がころがっているから、真次郎は物騒な想像をしていた。

 比喩ではあるが、あの包丁で女に料理されて、男が食われちまうんだよな。自分たちが食ってしまう前に、うまいものを食わせて油断させるのか、ガチョウでも太らせるように太らせて懐柔するのか……男の人生ってそんなもんかな。でも、ま、うまいものを食わせてもらえるんだからいいか。

 水をまいたせいか、強烈な日差しがわずかに和らいで感じられる。風も心地よい。西瓜をたらふく食って満腹したせいもあって、眠くなってきた。夢の中では俺は……西瓜になっていたりして。


SHIN/25歳/END







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