ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS形容詞物語「みにくい」

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フォレストシンガーズ

形容詞物語

「みにくい」

 完成したフォレストシンガーズ写真集……写真集と呼ぶには仰々しいので、DVDのおまけのブックレットと名付けたほうが正しいだろう。

 メジャーデビュー十周年は、不遇だった当時からは想像もできないほどに華々しく祝った。アイドルや超人気グループと比較すれば、というよりも、アイドルグループが十年も保つのは稀かもしれないが、そういうのとは比較しなくていい、俺たちは地味だなんて。

 地味なのは最初からわかっている。地味は地味なりにここまでやってこられたのだから、俺だって満足だ。そして、今年は十一周年記念のDVDを出した。目の前にあるのはそのDVDの付録だ。
 一応は写真集なのだが、一部イラストページがある。描いてくれたのは我々の古いファンで、本職は会社員だが、美々しいイラストを描くひとだ。

「……え、シエルさんって……」
「はい、僕です」

 今から思えば我々がまったくの無名から脱しかけていた時期だった。ラジオ番組を担当するようになって、番組内でフォレストシンガーズ情報も流し、徐々にファンを獲得していっていた。

 ファンのみなさまとバスツアーをやろうとの企画が通り、ラジオで希望者を募った。俺たち五人とファンの女性五人がひとりずつカップルになって、一日だけ恋人同士みたいにすごそうと決定したのである。

 木村章さんのファンです、と書いて応募してくれていた女性たちの中に、俺は木下紫絵琉さんの名を発見した。彼女は俺が病気で入院したときにも、俺を思いっきり美化してロックスターみたいに描いたイラストを送ってくれた。ファンレターにも、木村さんのファンです、といつも書き添えてくれていた。

 迷うことなく彼女を選び、当日、あらわれたのは……あんたが? 男じゃないかよっ、だったのだ。

 どことなくシゲさんに似た、四角いいかつい感じの若い男。確認しなかった俺が悪い。女性限定で募集しなかったこっちが悪い。それにしたって他の四人は女性とカップルになっているってのに、俺だけ男と? 落胆のあまり怒りそうになったものだ。

 気を取り直して彼と話していて、ロック好きが共通していると知った。彼の絵はとても俺の趣味に合っていたから、そのときの参加者の集合イラストを描いてもらったりもした。

「俺も絵ってか、イラストや似顔絵を描くのはわりと好きなんだ」
「木村さんの絵、見たいな」
「ファンクラブの会報に載せてもらうよ」

 あれからも時々は、シエルさんとはメールのやりとりをしている。熱烈男性ファンは貴重なので、ありがたいといえる存在だ。

「この絵、いいですね。どなたが描かれたんですか」
「ああ、それ。俺の大ファンだっていう、アマチュア絵描きの男性ですよ」
「写真集の中で使わせてもらったら面白いかもしれませんね」

 写真集の編集をお願いしている会社の人間の提案があり、シエルさんに打診してみたら大喜び、熱烈大歓迎だったので実現した、木下紫琉画のイラストだ。

「イラストはシエルさんが美化しまくってるから、シゲさんでさえ美青年だよな」
「シゲさんでさえって……あのね、章?」
「本当のことだろ。リアルのシゲさんは美青年かよ?」
「うん、彼には美の要素はない。うちで美青年に近いのは俺だけだもんな」
「勝手に言ってろ」
「だから、近いって言ってるじゃん。おまえは美青年だと言ってほしいのか、章?」

 うるさい幸生を無視して、写真集をめくる。全員が映っている写真も多数ある。誰かに照準が合っていたり、全体が映っていたりの写真の数々の中、どうしてもシゲさんは存在感が薄い。

「やっぱシゲさんって控えめなのかな。自己主張してないよな」
「他の四人がしすぎなんだろ。特におまえだ」
「おまえって章?」
「おまえだよ、幸生」

 カメラを意識して立ち止まり、べろべろばーっとやっていたり、招き猫ポーズを取っていたり、五人で議論している中でただひとり、カメラ目線になっていたり、ちびのくせに幸生がもっとも目立っていた。

「この写真なんかみにくいよな。シゲさんはいるにはいるけど、みにくいんだよ」
「章ったら、そこまで言う?」
「そこまでってほどのこと、言ってるか?」
「言ってるじゃん。ひどいわっ!!」

 はて? 頭の中を疑問符でいっぱいにしていると、通りかかった乾さんが笑った。

「そのスマホで、みにくい、を変換してみろ」
「はあ」

 言われた通りにしてみると、「醜い」が真っ先に出た。

「みにくい……そんな意味で言ってねえんだよっ!! 俺は見づらいって意味で言ったんだよっ!!」
「ね、乾さん、章ってばひどいですよね」
「まあ、それはいいとして……やさしいにも二種類あるだろ。あなたの文章は優しいですね、だったらいいけど、易しいですね、だと取りようによっては馬鹿にしているようにも思えるんだよな」

 そんなことはどうでもいいのだ。乾さんは俺の意図にも幸生のいやがらせにも気づいているようだが。

 曲解するのも幸生の得意技なのだから、こうなったらなにを言っても無駄だ。シゲさんに言いつけられる前に、俺が言い訳しておくべきだろうか。

END






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~ Comment ~

NoTitle

見にくい、醜い・・・確かに違いますね。
言葉の問題ですね。
みにくい、と言う言葉も意味が違ってきますね。
日本語は難しいじぇ。。。

LandMさんへ2

こちらもありがとうございます。

ミニクイを変換すると醜いになりますので、それだけのことでこんなストーリィを書いてしまいました。

以前にどこかにコメントをしたとき、あなたの文章は優しいですよね、と書いたつもりが「易しいですね」と書いてしまっていて、慌てて削除したことがあります。

易しい文書だと言われると……ですよねぇ?
ありがちだけど面白い、と言われたこともあって、こういうことはよくあるよね、という意味なのでしょうけど、「ありがち」と言われると嬉しくなかったりもしました。

ほんと、日本語はむずかしいですね。

NoTitle

もう、シゲちゃんめちゃくちゃ言われてますねw
気の毒すぎる~。そこまで酷くないですよね、きっと。表紙になるくらいですから。

それにしても、シエルさんが男だったと気づいた時の章の顔が目に浮かぶ。
だけど抽選なのだから、他の4人の女性だって、オカメだったりおばちゃんだったりしたかもしれないですよね^^

でもそんな企画、夢のようですね。
もしも抽選に選ばれたら、その日から眠れなくなりそう。
他のファンからは嫉妬されそうだし。

やっぱりファンとは、少し距離を置いたイベントの方がいいですよ。うん。

limeさんへ

いつもありがとうございます。

章は自分がちょっと顔がいいからって、ひどいですよねー。

フォレストシンガーズがまったく売れていなかったころ、こんな企画があったのです。
幸生のお相手は彼が自ら選んだおばあさん。
あれはうらやましくないな、と章は言っておりました。

売れていないころだったからよかったんですけど、ある程度人気が出てくると、たしかに、選ばれたら他のファンに嫉妬されそうですよね。
嫉妬されるのも嬉しい、なんてくらいだったらいいですが、危害を加えられたりしたら大変ですし。

やっぱり売れてないころのほうが書きやすかったな、と母である私は思うのでした。

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