ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS形容詞物語「甘い」

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フォレストシンガーズ

形容詞物語

「甘い」


 都会にこんな店が? 足が止まり、そっと覗いてみる。悪いことをしているわけでもないのに、いたずらでもしているような気分になって、うしろめたさも感じていた。

 夜にはライヴがあって、リハーサルを済ませたつかの間の自由時間だ。仲間たちも各々好きなことをしているのだろう。地方に来ると必ずするように、シゲは恭子さんのためのお土産を捜しにいき、章はライヴハウスを発掘にいき、本橋は鉄道に、幸生は猫と触れ合いに、あたりかもしれない。

 地方とはいっても私鉄やライヴハウスもある規模の都市だ。俺は古道でもないかとなんとなく歩いていただけだった。

 金沢にもこんな店があったな。俺が子どものころだから、もう三十年近くも前だ。当時は今ほどには子どもがひとりで遊んでいても危険ではなかったし、金沢にはのんびりした空気があったから、俺も幼稚園児くらいになったらひとりで外に出た。

 それ以下の年頃だと家の庭で遊んでいることが多かった。祖母に勉強をさせられている時間も長かった。勉強といってもさまざまあって、花の絵を見てこの花は漢字でどう書く、だとか、百人一首を覚えるだとか、墨をするだとか、同年代の子どもはあまりしないようなこともやらされていた。

 すこし大きくなるとそんな祖母の前から逃亡して、ひとりで遊びに出かけた。
 最初は祖母に見つかって叱られて連れ戻されたり、時には蔵に放り込まれたりもしたのだが、徐々に認めてもらえるようになった。

 認めてもらえる範囲はごく狭くて、小遣いも持たせてもらっていなかった幼児の俺は、こんな店の前に群がる子どもたちを羨ましく眺めていたっけ。

「ばあちゃん、花屋さんの隣のおばあさんの店、知ってる?」
「吉田さんの駄菓子屋さんだね。あそこのおばあさんは私よりも年上じゃないかな」
「年なんかどうでもいいけど、一度、買い物したいな」
「あんな店のお菓子なんかとんでもないよ。隆也にはお父さんのお店のお菓子があるでしょ」
「あんなの飽きたよ」
「贅沢を言うんじゃありません。人間は小さいころからまともなものを食べなくちゃいけないんだよ。つつましくてもいいから変な色や甘みはつけていない、まっとうな食べ物がいいの。変な駄菓子を食べると舌が馬鹿になっちまうよ」

 駄菓子屋の店先に並んだ飴やおもちゃやせんべいは、幼児には魅力的で誘惑的だった。
 ほしくてほしくて、ひとつだけ失敬したらいけないかな、と思ったこともある。今だったらおばあちゃんは見てないし、ひとつくらいもらってもわからないんじゃ? ひとつだけ……。

 いけない!! 駄目だよっ!! 無断でもらったら泥棒だ!! 神さまはいつでもどこでも見てらっしゃるんだから、悪いことをしたら神罰が下るんだって、ばあちゃんが言ってたじゃないか。
 祖母の教えを思い出して自らを戒めたあのころ。やらなくてよかった。

 そんな店が現代の都会にもある。お約束のように店にいるのはおばあさんだが、茶髪でワンピースを着た若々しいファッションの方だ。俺の祖母は憎まれっ子のわりには世にはばからなくて、女性の平均寿命よりはかなり若い年齢でみまかった。生きていればあのおばあさんと変わらない年頃だろうか。あのおばあさん、いくつくらいかな。

 ファッションは若々しくても立ち居振る舞いからすると、八十代にはなっていると思える。老婦人を見るとどうしたって祖母を想い出す俺は、店先に立ち止まって中を見続けていたものだから、彼女に見とがめられてしまった。

「なにかご用?」
「あ、いえ、なつかしくて……」
「なつかしい? このへんに住んでらしたの? あら、もしかして……」

 不審者だと思われたようで、険しかった彼女の表情がゆるんだ。

「私もあなたがなつかしいような気がするわ。このへんに住んでいらしたのね。何年前かしら。見れば二十七、八歳くらい? もうちょっと若い? 三十にはなってない感じよね。ちょっと待って。想い出すから。店は暇なのよ。入りません? なにか召し上がる?」
「あ、え、えーと、では、そのキャラメルを」
「キャラメル? そういえばあなた、このキャラメルが好きでいつも買ってくれていのよね。ここまで来てるのに名前が出てこないわ」

 人違いであろう。俺はこの店にはじめて来たのだから。
 まだ小学校も授業中なのか、子どもの姿は周囲にない。人通りも途絶えている。ぽつりぽつりと花や野菜を作っている畑のある住宅地だ。俺は勧められるままに店の中に入り、小さめの椅子にかけてキャラメルを手にした。

 キャラメルくらいだったら祖母がおやつに出してくれたのだから、もっと「駄」な菓子を買えばよかったか。大人になった俺は甘いものには興味がなくて、子どものための駄菓子には食指をそそられないのだが、ラムネだとか薄荷玉だとか、豆板だとか、そんなものにすればよかったかな。

 うわぁ、甘いな。子どもってこんな味が好きなのか。俺も小さいころにはキャラメルだって好きだった。なつかしくも歯にしみそうなキャラメルをなめている俺の横で、おばあさんは首をひねっていた。

「二十年ほど前よね。っていうと、私は六十くらいか……孫が生まれたころだわ。この店をお母さんから引き継いで、お菓子屋のおばあちゃんって呼ばれて、おばあちゃんじゃなくておばちゃんよ、って言っても誰も聞いてくれなくて、そんな中にひとり、律儀な男の子がいたのよね。あの子だわ、おばあちゃんって呼んだらいけないんだ、おばちゃんだよ、って友達にも言ってくれたの。タカちゃん、そうでしょ」
「は、はい」

 偶然にもタカだったら俺と同じだ。思わずうなずいてしまった。

「そうよそうよ、タカちゃんだわ。今はなにをしてるの? サラリーマン?」
「ええ、まあ」
「どこに住んでるの?」
「東京です」
「そうなのね。結婚はしたの?」
「いえ、まだ」

「まだ若いものね。だけど、恋人はいるんでしょ」
「はあ、まあ」
「まだ若いって言ってる間にすぐに三十をすぎちゃうのよ。恋人がいるんだったら早く結婚しなさいね」
「はい、努力します」
「まあ、ほんとになつかしいわね。面影が残ってるからじきにわかったわ」

 まだ若いと思ってもらえるのはありがたいが、俺は本当は三十五歳だ。若く見えるのは頭が悪いから、と実の祖母に笑われている気がした。

「お仕事で来てるのね。想い出して尋ねてくれたなんて嬉しいわ。おばあさまはお元気?」
「祖母は亡くなりました」
「そう……お母さまとお父さまは?」
「両親は元気にしております」
「それはなによりね。タカちゃんってひとりっ子だったでしょ」
「よく覚えてらっしゃいますね」
「そりゃそうよ。私は結婚するまでは小学校の先生だったんだから、記憶力はいいのよ」

 妙に偶然が重なるものだが、日本中に祖母のいるひとりっ子タカという男は山ほどいるだろう。

「少子化とかいって、このあたりも子どもが減ったのよね。私ももう年だし、そろそろ店をたたもうかと思っていたところ。タカちゃんが訪ねてきてくれてよかったわ。もうすこし遅かったら引退していたから」
「そうですか」
「なんだか……こんなおばあさんに言われても迷惑だろうけど、タカちゃん、いい男になったわね」
「ありがとうございます」

 そのタカと俺は人違いですよ、と訂正するのはたやすいが、そういうことにしておこう。
 たとえおばあさんであろうとも、誰とまちがえられているのだとしても、女性にいい男になったと言ってもらえるのは嬉しい。口の中のキャラメルも、ゆきずりの老婦人の言葉も、ただ甘くノスタルジックな味がした。

END











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~ Comment ~

NoTitle

子どもの頃より駄菓子屋がなくなったな~~~。
・・・と年齢を感じる。。。
( 一一)

景色が変わり。自分も変わる。
変わっていくのが時代と分かっていますが。
それでも時代を感じますね。
それが歳か。。。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
大阪ではたまに駄菓子屋を見かけますが、ほんとに少なくなりましたよね。
今どきの「意識高い系」(とかいうそうで……)母だったら、駄菓子屋のお菓子なんて絶対に我が子には与えないでしょうし。

景色も変わり人も変わり、自分も変わる。
ですよね。

ところで、LandMさんのお住まいのほうでは台風はいかがでしたか?
大阪も一部では土砂崩れ警報みたいなのが出ていました。いまだしつこく雨が降り続いています。スピードの遅い台風はものすごく迷惑ですよね。

NoTitle

これはなんとも不思議な雰囲気のお話ですね。
乾君だからかな^^
この駄菓子屋のおばあちゃんは、本当に勘違いなのか、それとも乾君が勘違いしてるのか。
どちらにしても、やさしいノスタルジーですね。

駄菓子って、健康志向の人にしたらあまり上等のお菓子ではないんだろうけど、子供心をくすぐりますよね。乾少年の気持ち、わかるなあ~。
駄菓子はやっぱり子供に食べてもらうのが一番。
大人になって食べたら、わあ、甘い~ってなっちゃってw
でもその感覚の差が、また面白いんですけどね。

limeさんへ

コメントありがとうございます。

このおばあちゃん、どうなんでしょう?
読んで下さった方があれこれ想像して下さる、それに勝る喜びはありません。

大阪でもちょっとディープな場所、ここにも書いたような花や野菜の畑もあるような場所を歩いていたら、駄菓子屋さんを見つけたのです。
わぁ、こんなのまだあるんだ、って。

昔とは売ってるものもちがうんでしょうけど、子どもにはあの駄菓子って魅力的なんですよね。
ほんとに、今食べてもちーっともおいしいと思わないのでしょうけど、子どもの味覚にはあれがおいしかった。
ノスタルジーに彩られて美化しているせいもありますよね。

うん

なんかこれ、わかるわぁ。というのか、おばちゃんの方も実は確信無くしゃべっているかも、って気がしました。そう、なんてのか、この子かどうか放蕩は分からないけれど、思い出が蘇っちゃって、で、乾君の方も話を合わせてくれちゃったから、どんどん話が進んでいって。
でも、強引だけれど微笑ましいひと時ですよね。旅のなかのいい時間。
ツアー中、下手にみんなで行動していないところがグループのよさ。いつもみんなでべたべたせずに、それぞれが自分らしくすごいしている時間の切れ端、良かったです(*^_^*)

このところ何故かPCくんが急に鈍くなって、コメを書いても飛ばしちゃったりして……拍手逃げになっていてすみません(>_<)
それで、何度か送りそこなったコメなんですけれど、オリキャラオフ会、ぜひともご参加ください。はい。主催は私です! あ、違う。マコトです!
limeさんがもう解説してくださったので、もうあまり言うことはないのですけれど、別に知らないキャラさんと絡む必要はありませんので、誰か知っているキャラと(マコトでもOK)絡む、もしくは目撃するので十分なのです。
お約束ごとはhttp://oomisayo.blog.fc2.com/blog-entry-611.htmlに書いてありますので、お気軽にお越しください! 北海道へ!
お待ちしておりますね(*^_^*)

大海彩洋さんへ

コメントありがとうございます。

わかるわぁ、と言っていただけて嬉しいです。

フォレストシンガーズも若いころはツアー先でも団体行動をしていたのですが、すこし売れてくると複数でいると目立ちますし、歌以外の趣味はばらばらですし。

大人になるといつもつるんでるってわけにはいかなくなりますよね。

拍手いただけるのもとーっても嬉しいのですが、PCくん……にはどんなお名前が? そのPCくん、調子悪いのですか?
うちはPCというよりもインターネットエクスプローラーの調子がおかしくて、先祖返りしています。つまり、時々再起動してやらないといけない状態で。

それはそうと、オリキャラオフ会のお誘い、まことにありがとうございます。
以前にたおるさんが描いて下さったイラストのように、幸生の肩にマコちゃんがのっかっているシーンが浮かぶのですが、最近どうも以前以上に頭がぼけていますので、まとまるかどうか。

もしもちょっとだけでも書けたら、飛び入り参加させてもらうってことでもいいですか?
それでもよろしいようでしたら、混ぜてやって下さいね。

「よしてー」って、やめてという意味ではなく、混ぜてという意味の「よして」、大海さんも子どものころに言ってらっしゃいました?
そんな古い関西言葉を、ふと思い出しました。近頃は使いませんね。

ということで、よろしくお願いします。

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