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小説383(Bodytalk)

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フォレストシンガーズストーリィ383

注:R18です。精神的によくないストーリィですので(苦笑)


「Body Talk」

1

 心のありようは性差以上に個人差が大きいのかもしれない。女特有、男特有の考え方もあるのだろうが、男だからどう、女だからこう、ではないと僕は思う。
 女の友情はあり得ない? 男だって「友情」なんてあり得ないよ。僕は「親友」なんていらない。気持ち悪い。
 口から出る言葉には、女だったら裏がある場合もあるが、男の言葉には裏が少ない? そんなこと言ってる奴、世間知らずなんじゃないの? 笑っちゃうね。
 嫉妬深いのは女? 男の嫉妬も怖いぞ。
 男はさっぱりしていて、女はねちねちしている。なのだから、さばさばしていると自称する女は、男友達とつきあっているほうが楽だと言う。僕は男だけど、相当ねちねちしてるよ。
 ことほどさように、「男」だから、「女」だから、と言い募るのは馬鹿らしいと僕は思う。性格なんてものは人の数だけあるんだから。
 身体のほうは、男と女ではあきらかにちがう。宇宙に向かって発信する「地球人」というものの図の中にヌードの人間が描かれていて、こっちが男、こっちが女だとは、地球人だったら三つの幼児でも指させるようになっている。
 むろん身体だって、男なのに女っぽいとか、女なのに男っぽいとかはあるのだろうが、裸になれば男か女かはわかる。僕は細いけど、着衣の状態だって誰にでも、あいつは男だな、と思わせる身体つきをしている。
 なんにしたって心は容易には見えない。だから僕は、表面だけのつきあいには中身など求めない。僕が興味を持つのは、相手が女の場合は特に身体だ。ボディだ。

「I don't like feelin'
Mixed up in the city
Showdown
Slow down
You're not foolin' me
You live your life, I'll live mine
Underground

Body talk
I see your body talk
You make my body talk
When you're next to me

Body talk
I know your body talk
You make my body talk
When you're next to me」

 昔ながらのディスコという呼び名が似合う店で、かったるいメロディに乗って踊る。
新しい雰囲気の店ではないせいで、懐古趣味やら、むしろ古いのが新鮮だと思う人種やらが集っていて、中年客も多い。踊りながらフロアを泳いで、僕は今夜の相手を探していた。
「こんばんは」
「あら、こんばんは」
 これにしようかな。年上の美人。三十代だろうか。ほっそりした身体にフィットしたドレスを着ているので、ボディラインがよくわかる。顔よりも胸とお尻が大きいのが気に入って、僕は挨拶をかわした彼女に抱きついた。
「なにするのよ、いきなり」
「色っぽいお尻だね」
「さわらないで」
「さわらせて」
「こらこらっ」 
 胸と胸が密着しているので、お尻をさわるしかない。僕は両手で彼女の豊満な尻を包み、彼女はもがいて逃れようとする。パンプスのヒールが高めなせいで、彼女は僕と同じくらいの背丈になっている。彼女のほうも手を伸ばして僕の尻をつねったので、ドレスの裾をたくし上げてやった。
「やめてよ」
「ふたりだけになってやる?」
「とにかくまあ、すわりましょ」
 失せろとは言われなかったので、僕は彼女と抱き合ったままでテーブルのほうへと歩いていった。
「子どものくせに、衆人環視のもとでよくやるよね」
「子どもだから許せるんじゃないの?」
「あなた、いくつ?」
「十五」
 えええ、嘘でしょ? という顔になった彼女に、正直に言った。
「僕は哲司。二十歳だよ」
「ほんと?」
「免許証でも見せようか? 十五の男の子と寝たら、あなたが罪になるんだもんね」
「寝るつもりなの?」 
 困ったような嬉しいような、彼女の頬がゆるんでいる。近づいてきたウェイターに、僕がワインクーラーをふたつ、とオーダーした。
「あなたの名前は?」
「……私、結婚してるのよ」
「それはまた好都合だな。僕は誰かの一番になりたくはないんだ」
 一番になりたい相手はひとりだけでいい。
「今夜だけ、あなたの二番目の男にしてくれたらいいんだよ」
「遊び?」
「遊びかどうか確認しなくちゃいけないの? 僕の彼氏は今夜は留守だから、僕は今夜は女のひとの裸が見たくて、女のひとに抱かれたい気分だから、あなたをナンパしたんだよ。それだけのことさ」
「……どこまで本当なんだか」
 それを言うならこっちも同じだ。結婚してるって本当? 左手の薬指にはまったリングなんて、既婚者の証明にもなりはしない。こんな時間にこんなところで踊ってるくせに、意外に常識的な考え方をする女なのか。
 けれど、僕のような美少年にナンパされて、気分が悪いわけでもなさそうだ。彼女ならば顔もボディもいいのだから、他にも誘ってくる男はいるのだろうが、遅い時間になって疲れてきたのか。このへんで手を打とうと考えているのか。表情に射す青い翳りも魅力的だった。
「彼氏って、あなたはゲイなの?」
「バイだよ。女のひとも好きだから」
「……そういう男とは寝たことないな」
「ないの? 遅れてるね」
 バイと寝るのは珍しい経験だからなのか、僕がそうだということが決め手になったらしくて、彼女は結局はうなずいた。僕も人妻と寝るのは珍しい経験で、そのスリルで、今夜は特別燃えそうな予感がしていた。


2

 ゆきずりの男や女は時には僕の誘いにうなずく。時にはむこうが僕を誘ってきて、気が向いたら寝てやる。
 しかし、知り合いの人種は僕を避ける。
 顔もいいし、背丈は足りないとはいえプロポーションだっていいし、しつこくしない性格だっていいのに、どうして僕は知人からはベッドインを避けられるのだろう。長身、筋肉質の男っぽい男が好きなゲイやら女やら以外は、美少年の哲司が嫌いじゃないはずなのに。
 やっぱりケイさんのせいか? この間、ディスコでナンパした彼女みたいに、田野倉ケイって誰? 知らないわ、っていうような女でないと駄目なのか。
 ともあれ、過去の女に執着する気はない。浮気相手とは一度で十分。僕が何度も何度も抱かれたいのもケイさんだけなのだから。
「すわっていい?」
 今夜の僕はバーにいる。先日のディスコでは僕は客の中で最年少だったようだが、この店はそこまで年齢層は高くない。二十歳以上、五十歳未満ってところか。若く見える老人だっているのかもしれない。ひとりで飲んでいる僕に声をかけてきたのは、二十歳ちょいくらいに見える女の子だった。
「いいよ」
 ありがと、と呟いて僕の隣にすわった彼女は、まじまじ、まじまじと僕を見る。僕は言ってやった。
「ありがとう。きみだって綺麗だよ」
「私、なにも言ってないじゃない」
「視線が言ってるもの。僕は綺麗だろ。もっとこう、線の太い感じが好みだって言う奴じゃなかったら、たいていの人間は僕を綺麗だと言うよ」
「私も綺麗だって言われるけど……なんて名前?」
「哲司」
 わたしはマヤっていうの、と名乗った彼女はたしかに綺麗だ。シャツとジーンズの無造作な服装が似合っている。僕は彼女の肩を抱き寄せて、胸に手を入れた。
「ちょ、ちょっと……」
「胸は小さ目だな。お尻もちっちゃいだろ」
「痩せてるんだから小さいけど、お尻なんか小さいほうがいいじゃない。胸はそんなに小さくないよ」
「脱いでみせて。パンツも脱いで」
「ここで? 馬鹿じゃないの?」
「脱がせてあげようか。先に僕が脱ごうか」
「……あんた、変態?」
「そうだよ」
 はっきり言ってやると、マヤはちょっと身を引いた。
「ドン引き」
「そういう流行語を使うんだから、頭の中身は綺麗じゃないんだね。この間の美人も頭はよくもなかったけど、身体はきみよりも女っぽくて素敵だったな」
「……太った女が好きなの?」
「太ったのも嫌いじゃないよ。この前の美女の身体つきはね……」
 直近に寝たあの彼女のことならば、まだ覚えている。彼女の身体のラインを克明に描写していたのは、ここにいるマヤへのいやがらせだ。今夜はなぜだか、マヤとホテルに行く気にならない。むっとした顔になっているマヤになおも喋っていたら、店に女の子のグループが入ってきた。
「ちょっと失礼」
 マヤが帰ってしまってもいいつもりで席を立つ。ちらっと見ると、マヤは気に食わない顔で僕を睨んでいる。マヤにウィンクしてから、僕は女性グループに近づいていった。
「そこのきみ、気に入っちゃった。なんて名前?」
「え? え? 私?」
 指さされた当人は目をぱちくりさせ、彼女の友達らしき女の子たちもびっくり顔で僕と彼女を見比べている。僕は彼女の手を引っ張った。
「このバーに来るひとは、ナンパしたりされたりするのが目的なんだよ。あなたたちだって知ってて入ってきたんでしょ。古い言い方だとハントバーっていうんだよね。僕はまだるっこしいのは嫌いだから、気に入ったら即刻口説く主義なんだ。行こうよ、なんて名前?」
「え……だって……」
 変な趣味、とグループのうちのひとりが呟いている。変な趣味っていうよりも、これもマヤへのいやがらせだ。どこがどうってわけでもないが、僕はマヤは気に入らない。
 あいつに比べれば小太りでブサイクな顔をして、服装のセンスもよくないきみのほうが好きだよ。僕はその彼女を熱っぽく見つめ、名前を教えて、と繰り返す。つかんだ手を引き寄せて抱き寄せて、スカート越しに横にばかり大きなお尻を撫でても拒まず、彼女は小さな声で答えた。
「アヤカ……」
「可愛い名前だね。優しくしてあげるよ。行こう、ね?」
「う、うん、じゃあすこしだけ……」
 怒らせたりしなかったら、僕は本当に優しくしてあげる。グループの中でいちばん醜い女の子を選んで、マヤにあてつけただなんて罪ほろぼしだよ。真っ赤な顔をしている、名前だけは可愛い彼女の手を引いて、ぽかーんとしている客たちの間を歩いていった。


 どうして私? おどおどした様子でアヤカは尋ね、一晩だけ、きみを好きになったから、と僕は応じた。半信半疑だったのか、アヤカは終始おどおどした様子を崩さず、謙虚に僕に身をゆだねていた。
 受け身のほうが好きだけど、能動的なセックスだってできなくもない。贅肉のたっぷりついたアヤカのボディは、新鮮すぎる肉を使ったポークステーキみたいだ。はじめてだったのだろう。苦痛に眉根を寄せる表情が、僕の中にもあるらしきS心をくすぐった。
 たまにはゲテものもいい。中学生のときに女との初体験をすませた僕には処女は珍しくもないものの、東京に来てから処女と接するのは二度目で、ちょっと面白くはあった。
「哲司くん……また……」
「またはナシ。じゃあね」
 ホテルのベッドにアヤカを残し、出て行こうとしていると、彼女が追ってきた。
「電話番号ぐらい教えて」
「初回は無料にしてあげたけど、次からは高いよ」
「……?」
 なにを言われているのかわからない、そんな顔でアヤカが僕を見つめる。これ以上そばにいると残忍な本音を吐いてしまいそうだから、僕はそのまま部屋から出ていった。
「優しくしてやっただろ」
 口直ししたい気分もあるけれど、こんな経験をしたのは僕が悪いんだから、我慢しておこう。マヤにもアヤカにも罪ほろぼししなくちゃね。


3


 ここはスポーツバーというのだろうか。大きなスクリーンではアメリカのバスケットボールが中継されていて、ビールを飲みながら観戦している客がいっぱいいる。
 スポーツに興味のない僕がなぜ、こんなところにいるのかといえば、ランが入っていったからだ。長身で骨太で、肉はついていないのにたくましくなくもないランはベーシスト。若いころはロックバンドにいたらしいが、脱退してからはスタジオミュージシャンをして食っている。
「俺はバイだよ」
 自己申告が本当なのどうか、僕としては確信は持てない。女の恋人も男の恋人もいない彼には僕は好奇心もあり、好みのタイプでもあって見かければかまってもらいにいっていた。
 本名はランダとかいうらしいが、姓なのだろうか。ランは「乱」に通じて、ランには似合いの名前だと思う。ランは僕のケイさんとも親しくて、彼と寝たりしたらケイさんがどんな反応を示すか知りたくて、一度はお相手願いたい。
 バーに入っていってランの横にすわり、ねぇ、抱いてよ、と言っても無視されて、うだうだ言っていたらランが応じた。 
「浮気なんて面白いか」
「面白いよ。ランはしないの?」
「俺には決まった相手はいないんだから、浮気なんてしたくてもできないんだよ」
「決まった相手って持ったことはないの?」
「どうだったかな」
「ミルキーは?」
 ふん、と鼻先であしらったのは、シンガーのミルキーとはそんなんじゃないからか、実は都合の悪いことがあるのか。ランはどことなしミステリアスで、僕の好奇心をかき立てるのだ。
「俺には彼女はいないけど、むこうが俺を彼氏だと思ってるであろう女だったら、三人ぐらいいるな、ってさ、ハードボイルドな台詞?」
「ふん」
「ランってすげぇかっこつけだろ」
「そうかもな」
 嫌いな奴も何人もいるが、僕には好きな男も何人もいる。女だったら胸が大きくて可愛かったらそれでいい。可愛いというのにも種々あって、僕が可愛いと思えばそれでいい。女は裸を見せてくれて、胸や尻をさわらせてくれて、時々はベッドに入れたらそれでいい。多くは求めない。
 たまには、こいつ、嫌いだ、と思う女もいて、そういう女はイジメてやりたくなってくるのだが、深く関わろうとも思わない。
 同じバイでもランは女好きバイ、僕は男好きバイなのだろう。似ているようでちがうのもあり、彼の外見がケイさんに似ているのもあって、僕はランに尽きせぬ興味を抱くのだ。
 他に好きな男といえば。
 フォレストシンガーズの乾さんと本橋さんとシゲさん。あとのふたり、三沢さんと木村さんはガキっぽいから興味なし。
 大きくて強そうで、僕がバイだと知っているゆえに、やや腰が引けてる感がなくもないところが可愛くなくもない本橋真次郎。本橋さん以上に素朴で、ゲイやバイなんて人種がこの世にいるのも信じられないのではないかと思える、ニッポンのお父さん、本庄繁之。
 このふたりは可愛いのだが、乾隆也はまるっきり可愛くない。優しそうな顔をしているくせに、僕にキスもしてくれないくせに、叱ったり叩いたりはする憎らしい男。なのに好きなんだから、僕は根がMなのだろう。
 もうひとり、もとフォレストシンガーズのヒデさんもいる。彼も荒っぽいので僕はたびたび殴られて、ああいうワイルドな男はいいなぁ、なんて思っているわけだ。
 シンガーならば金子将一も桜田忠弘も好き。ミュージシャンにはレイや泉沢さんやランがいる。どれにしようかな、と神さまに聞いてみては、そのときどきで二番目に好きな男を決めるのだった。
「ねぇねぇ、ラン、いっぺんでいいから寝ようよ」
 甘く言ってしなだれかかってみると、ランは煙草に火をつけた。
「ケイさんは留守なのか?」
「留守じゃなかったら、ばれたら怖いの?」
「そうかもな……おまえを貸してくれって言ったことはあるんだけど……」
 思い出し笑いをしているランの言葉の続きが聞きたかったのに、ランは言ってくれなかった。
「僕がほしかったんでしょ? 抱かれてあげるよ」
「今夜はその気分じゃないな」
「やっばさぁ、僕がケイさんのものだと知ってる男が僕を抱いてくれないのは、ケイさんがいるから?」
 かねてからの疑問を口にすると、ランはうなずいた。
「それはあるだろうな」
「勇気ないね。僕のために闘ってくれないんだ」
「おまえは傾国の美少年ってほどでもないもんな」
「その台詞、むかつくぞ」
 怒らせようとしてるんだろうか。こんなときには怒ったほうがいいのだろうか。怒って殴りかかったらランが僕の手を止めて、抱き寄せてキス……月並みだな。
「ふられたのか、坊や? 俺が抱いてやろうか」
 太い声に振り向くと、知らない男が立っていた。
「そうだね。あんたで妥協するよ。ラン、バイバイ」
 ああ、とランがぼそっと呟き、鋭い目つきで男を見た。男はランを一瞥して僕の肩を抱く。かなり背が高くて、軽度肥満体。僕は女の乳房やふっくらした腹や、クッションのいい尻は大好きだが、男の太鼓腹は嫌いだ。男のでかい尻も脂肪の乗った胸も嫌いだ。男はやっぱりケイさんや乾さんやランみたいな、引き締まった身体つきでなくちゃ。
「おじさん、なんて名前?」
「おじさん? まあ、そう呼んでもいいよ」
 有名人なんだろうか。改めて見上げた顔に見覚えはなかったが、なにやらぞわぞわしてきた。
 生理的嫌悪感ってものは女には抱かない。男には抱く場合もあるが、そんなものは無視して抱かれるってことはできる。僕の二度目の男は、たしか気持ちの悪い腹の出た奴だった。
 なのだから、このおじさんにだって抱かれるのは可能だ。だけど、ラン、ほっとくの? そんな気持ちで店から出ぎわに振り向くと、ランの鋭い視線と視線がぶつかった。
「おじさんは田野倉ケイって知ってる?」
「知らないけど、何者?」
「僕の所有者」
「ふーん。で、なにが言いたいんだ?」
「なにも言いたくないけどね」
 田野倉ケイの名前に動じないのならば、音楽関係者ではないのかもしれない。とぼけているのかもしれない。


 世界でいちばん好きなひとは男なのだから、僕が女と寝るのは厳密には浮気ではない。だからケイさんは、僕が女と遊んでも怒らないのか。男とだったら浮気になるのに、それも怒らない。怒ると僕の思うツボだから?
「ケイさんが留守の間に、三人と寝たよ」
 ああ、そうか、と言いたいのか、どうだっていいのか、内心は波立っているのか。彼は僕の気持ちを見抜くけど、僕には忖度くらいしかできやしない。そんなところも憎くて愛しいケイさんは、返事もしてくれずに着替えをしていた。
「ひとりは人妻。お尻が色っぽくてベッドテクニックも上々で、いいひとときだったよ」
 この家にさらわれてきてから間もないころだったら、怒ったじゃないか。あれは怒ったふり? 僕へのサービスだったの? 釣った魚に餌はやらないって心理?
「もうひとりはブスの小太り小娘。ゲテものを食うのもたまには悪くないよね」
「堅気の女に手を出すなと言ったはずだぞ」
 クールに言って、ケイさんは僕のほっぺたを叩いた。
「いてぇなぁ、ケイさんはそっちで怒るんだよね。僕はケイさんの……いいよ。それからね、三人目は男。そいつもゲテもののほうだったけど、上手だったよ」
「メシ、食いにいくか」
「僕は穢れちゃったから、抱いてくれないの?」
 ほーっと息を吐いて、着替えを終えたケイさんが出ていってしまった。追っていけば連れていってくれるのだろうが、ふてくされた気分になって僕はすわり込んだ。
「……どうしてケイさんに告げ口してくれなかったの?」
 ケータイでかけた電話に、はい、とぼそっとした口調でランが出た。
「僕は全身でランにお願いしてたのに、聞き入れてくれなかったんだ」
「俺はおまえのなんなんだよ」
 甘えるなって意味か。ランは電話を切ってしまい、次にはフォレストシンガーズの乾さんに電話をかけた。こっちは留守電になっている。レイも泉沢さんも電話に出てくれないから、好きでもない三沢さんにもかけてみた。
「忙しいんだよ。なんなんだよ」
「……だったら出るな」
 今度はこっちから切ってやって、ベッドに寝そべる。仕事の忙しいひとはいいね。僕なんかはこんな時間にすることもなくて、ようやく帰ってきたケイさんにも疎まれて、電話で話してくれるひともいない。ひたすらにふてくされていたら、千鶴から電話がかかってきた。
「僕はおまえには用はないよ」
「……なにをすねてるの? ケイさんに叱られた?」
「叱ってもくれないよ」
 女優の卵の佐田千鶴。こいつは乾さんに恋をしているから、僕から見ればライバルだ。異性愛者の乾さんから見れば、千鶴のほうが恋の対象にはなりやすいのだろうが、彼のほうには恋愛感情はないみたいだから、立場は近いのだった。
 好きで好きでたまらない乾さんには妹のようにしか接してもらえず、自棄になった千鶴は処女を捨てる相手に僕を選んだ。馬鹿な女と馬鹿な男は、今夜も馬鹿げた話をしていた。
「僕んちに来て裸を見せて」
「僕んちじゃなくて、ケイさんちでしょ」
「ここは僕んちだよ。おまえと僕が裸で抱き合ってたら、ケイさんはなんて思うんだろ」
「そんなことのために使われるなんていやだ」
「大丈夫だよ、ケイさんは女の裸に興味ないから」
「哲司は前に言ってたじゃない。ケイさんってほんとに女に興味ないのかな、って。確認したいんじゃないの?」
 ばれていたか。
「僕が見たいからだよ。僕が千鶴のおっぱいやケツを見て触れて、気持よくなりたいからだよ」
「乾さんに言いつけるからね」
「言いつけろよ」
 ひとを怒らせるのは好きだけど、今は千鶴には怒ってほしくない。困った奴、と言いたげに、それでもつきあってくれる千鶴に、僕はまちがいなく甘えている。言ってやらないけど、血のつながりもない女の中では、千鶴だけは特別なのだろう。

END

 



 


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