ショートストーリィ(しりとり小説)

123「いとをかし」

 ←FS形容詞物語「儚い」 →小説383(Bodytalk)
しりとり小説123

「いとをかし」

「結婚するときには主人は、親とは絶対に同居はしないと言いました。
 あれから十年がたち、子どももふたりできて幸せに暮らしていました。
 義母は意地悪ではありますが、同居していないんだからたまのことだったら我慢できると思っていました。

 ところが、義父が亡くなったのです。
 事情が変わったんだ。母さんが寂しがってるんだから、同居してやりたいと主人は言います。
 私はいやだけど、いやだと言ったら主人が怒ります。同居するしかないのでしょうか」

「あなたね、なにを言ってるわけ?
 十年もご主人のご両親と同居しなくてよかったんでしょ?
 十年も好き勝手やってきたんでしょ?

 お義父さまが亡くなられてひとりぼっちになられたお義母さまと、同居するのは当然です。
 昔だったら最初から同居だったのよ。
 ご主人、親孝行でいい方ね。
 そんないい方に捨てられないように、あなたも一緒に親孝行なさい。
 バチ当たりなことを言うものじゃないわよ」

「義妹が離婚して主人の実家に帰ってきました。
 子どもはいないので独身時代に返ったみたいに、親に甘えて好き放題しています。
 義親に甘えているのはまだいいんだけど、義妹は主人にまで甘えてきます。

 お兄ちゃん、デートしようよって誘われて、主人はでれでれ。
 見ていて苛々するんですよね。
 デートしたいんだったら新しい彼氏を見つけなさいって言ってやってもいいでしょうか」

「あなたね、なにを言ってるわけ?
 優しいご主人に養ってもらってのうのうと生きてきたあなたとちがって、義妹さんは苦労したんでしょ。だから離婚したのよね。

 やっと離婚できたんだから、肉親に甘えたくなるのは当たり前じゃないの。
 あなたはご主人のご両親とも同居していないのでしょ? いい身分よね。
 昔だったら義妹が出戻ってきたら、あなたたちと同居して面倒を見てあげないといけないのよ。

 ご主人が妹とデートしてなにが悪いの?
 いい歳をしてやきもち焼いてるんじゃないわよ。
 身のほどをわきまえなさいな」

「友達が結婚します。
 彼女、四十九歳なんですよね。五十になるまでになんとかって焦って、ぎりぎり四十代でゴールイン。
 ま、めでたいんだけど、結婚式をするんですって。

 五十歳目前の中年女のウェディングドレス姿なんて見たくない。
 せめて和装にしたら、って言ってあげようかな。
 角の立たないアドバイスの仕方、教えて下さい」

「あなたね、なにを言ってるわけ?
 お友達がその年齢でお嫁にもらってもらえるんだから、友達としては喜んであげるのが当たり前じゃないの。

 それをなに?
 嫉妬?
 どうして五十前でウェディングドレスを着たらいけないの?
 彼女はずっと独身だったんだったら、あなたよりも綺麗で若いんでしょ? だから妬いてるのね。みっともない。
 反省して祝ってあげなさい」

「独身生活四十七年、ようやく結婚が決まりました。
 彼は九歳年下なのもあり、お互いに初婚なのもあって、結婚式をしたいのです。
 彼は披露宴で素敵なドレスを着てほしいと言います。

 だけど、この年なんだからためらってしまいます。
 四十七歳の花嫁に似合う披露宴のドレスってどんなのがいいでしょうか」

「あなたね、なにを言ってるの? 恥ずかしくないの?
 誰も四十七歳の花嫁衣裳なんか見たくないわよ。こっちが恥ずかしいわよ。

 九歳年下の彼ってほんと? 
 ほんとなんだったとしたら、まぁ、おめでたいわね。
 その彼だって、あなたの花嫁衣裳なんていう無駄なものにお金を使いたくないでしょうよ。
 友達にも親戚にも笑われるわよ。
 彼のご両親なんかは目を背けたがるんじゃないかしら。
 中年太りのおばさん嫁に似合うドレスなんてあるわけないんだから、地味に地味にお金をかけずにやりなさいね」

「親が嫌いです。
 父も母も嫌い。もう離れたい。
 私は三十歳。もう独立してもいいでしょう? 独り暮らしがしたいのです。
 だけど、ここまで育ててやったんだから、親孝行しろと言われます。
 説得するにはどうすればいいのでしょうか」

「あなたね、なにを言ってるの? 誰のおかげで三十歳まで育ててもらったのよ。
 この親不孝者。

 女の子はひとり暮らしなんかしなくていいんです。
 昔だったらひとり暮らしの女なんて、なにをやってるかわかったもんじゃないって後ろ指さされたわよ。自宅から通える女の子でないと、まともに就職もできなかったのよ。
 
 三十歳で独身?
 ひとり暮らしだなんてくだらないことを考えてないで、嫁の貰い手を探しなさい。
 結婚して孫を作ってあげるのが、いちばんの親孝行よ」

 退職金で買ったパソコン。
 最初のうちは使いこなせそうになくて途方に暮れたのだが、姪が教えてくれておっかなびっくり、インターネットの世界に足を踏み入れた。

 趣味といっても特にはないので、いっときはまった韓流ドラマのサイトを見て、あら、この俳優も老けたわね、と思ったり、思い切って韓国旅行をしようかな、だけど、お金がもったいないし、億劫だし、などと考えたりしていた。

 そうしているうちに知った、身の上相談サイト。ここにはさまざまな境遇の女たちが集い、さまざまな相談ごとを書き込み、それに対する返答も書き込まれている。

 暇な人間が多いんだなぁ。他人の相談にこんなに親身になってあげるなんて、私にはできないわ、リキ子としては傍観者のつもりだったのだが、あるとき、興味をひかれた相談ごとがあった。

「姉が韓流ドラマ好きになって、韓国に行きたいと言い出しています。
 韓国語の勉強をして話せるようになったので、短期留学したいんですって。
 私は結婚しているのですが、姉は独身。
 短期とはいっても留学なんかしていたら、仕事に役立つわけでもない遊びの留学なんかしていたら、婚期を逃してしまう。
 なんと言って止めたらいいですか」

 そこにはすでにいくつかのお節介なレスがついていた。勝手にさせておけば? やら、あなたも一緒に行けば? やら、遊びにいくだけにしたら? やら、ごく真面目に、こう言って説得してやめさせるべきだ、との返答やら。

「あなたね、なにを言ってるの?
 あなたは結婚していて自由には動けない。
 独身の姉さんは勝手に韓国に行けていいなぁ。そんな嫉妬でしょ?
 みっともないわよ。
 姉さんのことを本当に考えているんだったら、協力してあげるのが妹じゃないの」

 花影のひと、というハンドルネームで、リキ子はそんなレスを付けた。

「花影のひと、素敵なお名前ですね。
 嫉妬……それもあったのかもしれません。気づかせてもらってありがとうございました」

 レスのレスがついて、リキ子は感激した。
 私って慧眼じゃないの。本人も気づいていなかった嫉妬の感情に、文章だけで気がついたのよ。やっぱり私って頭いい。
 それからはこのサイトに熱心に出入りするようになって、頻繁に回答もするようになり、リキ子の最大の趣味となったのだった。

 たいていはレスのレスなんてものはつかず、さらりと流れていくだけなのだが、相談者の心に残っているはずだと思うとリキ子は満足だ。今日もいいネタがないかと探していると、二日ほど前にアドバイスをしてやった記事に目が留まった。

「花影のひと様

 ご回答ありがとうございます。
 花影のひと様はいろんな相談にレスをつけておられますよね。いつも花影のひと様の快刀乱麻を断つような回答を読んで感じ入っております。

 さぞや人生経験豊富な女性なんだろうな。
 というのか、この人って一般人じゃないよね。一般の女性がこんなにバキッと、自分の発言は絶対に正しいとの自信をみなぎらせた文章が書けるわけがない。

 もしかしたらこの人、テレビにも出ている精神科医のH先生じゃないの? 
 それとも、女性問題の研究をしていると聞く、皇族のK様かしら。
 この完璧な上から目線って、高貴な方の匂いがするわ。きっと皇族よね。

 なーんて、私は推理してみたのですけど、いかがでしょうか。
 今どきだったら皇族だってネットを見てらっしゃいますよね。
 まぁ、そうだとしてもそうよとは答えられないでしょうから、私はひとりで推理しています」

 精神科医のH先生? 花のつく名前のあの中年美人か。そういえばH先生の語調はリキ子の文章と似ているかもしれない。
 皇族のK様? 名前に影という文字のつく、あの理知的な女性か。私、H先生やK子さまに似てる? 文章からはそんな香りがするってことなのね。

「よーし」

 近頃は辛口批評も受けるのだし、叱られたい、活を入れてほしい、という人もけっこういるのだからして、リキ子の方針はまちがっていなかったのだ。

 これはますます張り切らなくては。
 世の中には迷える子羊みたいな悩み多き女が累々といる。そんな女たちを励まし、叱り、導くために、「花影のひと」は日夜がんばるのだ。

 鼻歌が出てきそうないい気分で、リキ子はパソコンのキーボードに向かった。

次は「し」です。



 



スポンサーサイト



【FS形容詞物語「儚い」】へ  【小説383(Bodytalk)】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

今はいろんな生き方がありますからねえ。。。
私も実家暮らしですけど、好き勝手生きております。
親不孝者ですよ。。。( ̄д ̄)

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
ああ、ご実家暮らしなんですね。
ちょっとだけ意外でした。

だとしますと、早く結婚しろ~とか言われていません?

NoTitle

うおおお、なんか、ものすごく怖いです。
なんだかここに書き込みを入れる人、それを読む人、それぞれの内面の殺伐さが見えてきて・・・。
私はこういう女の嫉妬心や勘違いが大嫌いで、常に目をそむけながら生きているんですが、あかねさん、こんな人間(女)の内側を書かせたら本当にうまい。
実際に、こんな事に喜びを感じる人たちって、いるのでしょうね。
レスにレスをつける人もまた、怖い・・・><

limeさんへ

ものすごく怖いと言っていただけますと嬉しいです。
ありがとうございます。

私の場合、なにが嫌いって「上から目線」なんですよね。
こういう相談ごとサイトってのはいくつかありまして、私も怖いもの見たさで覗いてみたりするのですが、よく知りもしないネットだけの知り合いにこんなにえらそうな口をきくって……? と不思議です。

叱られたいとか活を入れてほしいとか、本気で言ってるんでしょうか?
私は叱られるのは大嫌いです(^o^)

誰かの悪口と自慢のオンパレードっていうのも、人のサガなんでしょうね。
そんなのを話のタネにしている私も同類ですが。

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【FS形容詞物語「儚い」】へ
  • 【小説383(Bodytalk)】へ