ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS形容詞物語「儚い」

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フォレストシンガーズ

形容詞シリーズ

「儚い」

 うつろいやすいものの代表、それは「恋心」。なのだから、俺が心配するようなことでもないのかもしれないが、気がかりではある。
 うちのリーダーとマネージャーの夫婦の、ともに横恋慕されているのである。

 昔から美江子さんはもてていた。

「美江子さんって彼氏いるんでしょ?」
「幸生くんは?」

 質問に質問で返してはぐらかす、美江子さんの得意技。

「リーダーはもてるんですか?」
「当たり前だろ。もてるさ」

 直球の質問にこう返ってきたこともあれば、俺がもてるわけないだろ、俺はシゲ以上にもてないんだよ、とへこんだ表情になったこともある本橋さん。

 若いころの俺は、リーダーは言うことがころころ変わって信じられないと思っていたが、もしかしたらあれは、そのときの気分次第での返答だったのかもしれない。
 気分がいいときには、俺はもてるんだ。
 へこみ気分のときには、俺なんかがもてるはずない。シゲ以下だ。

 って、あのね、シゲさんに失礼でしょうが。
 というのは置いておいて。

 いずれにしてもこの夫婦は、ともに恋多き過去をすごしたもてる男女だ。本橋さんはなんたってシンガーなのだし、美江子さんは三十五歳現在、昔以上に魅力的な女性になっている。

「もしも本橋さんが浮気したら……」

 そんなときにタイムリーな質問をしたのは、フルーツパフェのモモちゃんだった。
 事務所の後輩デュオである、栗原準と栗原桃恵は若い夫婦だ。社長が命名した正式名称は、クリとモモだからフルーツパフェ。俺が命名した愛称は、同じ意味でモモクリ。モモクリのほうが言いやすいので、いまや通称になっていた。

「どうします?」
「殴る」
「ええ? 三沢さんが? 木村さんは?」
「軽蔑するよ」
「シゲさんは?」
「坊主になってもらいましょうかね」

 おいおい、なんでそんな話題に……と当の本人は複雑な表情になっていて、モモちゃんは乾さんの顔を見た。

「……さあね。どうするかな。これからじっくり考えるよ」
「乾さんがいちばん怖そう」
「モモちゃん、知らないの? 怒るといちばん怖いのは乾さんだよ」
「はい、知ってます」

 不気味に微笑む乾さん、苦々しい顔の本橋さん、既婚なのだから「浮気」というものが実感しやすいらしいシゲさん。シゲさんにはたまさか、奥さんに浮気疑惑を持たれて詰られるという事件があった。章と俺がそこに加担して、乾さんに叱り飛ばされたこともあった。

 独身の場合は恋愛は自由なのだから、浮気だって……とは公言はできないが、数々のうしろ暗い過去を持つ仲間である章を見やりつつ、俺は考えた。

 相川カズヤという二十一、二歳のアイドルが、美江子さんに恋をしているとおおっぴらに言っている。彼は本橋さんをライバル視しているので、さすがの鈍感真次郎もなんとなくは気づいている。

 客来と書いてキャラと読むお笑い界の人気者女性が、本橋さんに恋をしている。彼女もまた美江子さんをライバル視というか、勝手に憎んでいるので、周囲の者も知っている。
 世間的にも堂々と発言しているこの二ケース以外にも、本橋夫婦に横恋慕している男女はいるのだろう。本橋さんに恋をしている男もいるし。

「そうなんだ、みんな。嬉しいわ」
「美江子さん……」

 奥に美江子さんがいたとはモモちゃんは知らなかったらしいが、俺だって知らなかった。他のみんなも知らなかったようで、本橋さんはいっそう苦い顔になり、美江子さんはにこにこ顔をしていた。

「三沢さんはなんだか浮かない顔?」
「そうなんだよ。モモちゃんも結婚してるんだから、恋愛とは無縁になったんだろうけど……」
「そんなことないですよ」

 スタジオの裏に出て煙草に火をつけていると、モモちゃんも出てきて俺の横に立った。

「モモちゃんには好きなひとがいーっぱいいるの。本橋さんも好きだし、ダイモスのユーヤさんも好きだし。ああいうたくましい男性、大好き」
「なのになんでクリと結婚したんだよ」
「なんででしょうね」

 ひょろりと頼りない、草食系というよりもかすみ草系みたいな栗原準が、モモちゃんみたいな外見は純情可憐、中身は中途半端豪傑女性と結婚したのは、不思議でもないのかもしれない。

「三沢さんには好きな女性はいないんですか?」
「いないんだよね、これが」
「好きな男性はいないの?」
「それは一度もいなかったな」
「乾さんは?」
「乾さんに恋してるなんて俺が言うのは、冗談だからね」

 あれぇ? と可愛くも意地悪っぽくも見える目で俺を見て、モモちゃんは笑った。

「乾さんには好きなひとは? って聞きたかったのに、そっちに持ってくって三沢さんはやっぱり……」
「その話はいいからさ」
「そお?」

 女の子はこういう話題が好きなものだが、モモちゃんはまた特別だ。俺はそのたぐいに嫌悪感は持たないが、モモちゃんと話しているとどこへ到達するかもわからないので避けておいた。

「モモちゃんに恋してる男もいるんだろうな」
「そりゃあいるでしょうね」

 けろっと応じて笑っているモモちゃんは、美江子さんとは別種の魅力にあふれている。既婚者ばっかりもてて、独身の俺にはどうして恋が訪れないの?
 恋愛は面倒だ気分もわずかにはあるが、作詞もする者としては、儚くも美しい恋に身をまかせてみたい。本橋さんと美江子さんへの心配から到達したのは、その見地なのであった。

END






 
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~ Comment ~

NoTitle

恋愛って面倒です。
そして、嫌になる時もあります。
それでも触れ合って生きていくのが享楽であると思います。
共感できる部分も多いですね。
それはもともとか。

LandMさんへ2

いつもありがとうございます。

恋愛には面倒な側面もあるけれど、それでも人は恋をする。
ですね。

私なんかはもはやリタイヤしていますので、想像しただけで恋愛なんてめんどくさい!! としか思いませんが、それがきっと、若くはないってことなのでしょうね。

若いっていいなぁ。

NoTitle

みんなモテモテですね♪うらやましい!
不倫するにも浮気するにも相手がいないと出来ませんから、それだけ魅力があるということです( ´∀`)bグッ!

そして、シゲちゃんの扱いが(笑)
いやいや、シゲちゃんはいい男だと思いますよ!いいパパですし!
クリちゃんはかすみ草系男子なんですね(笑)いますよねそういう男の子(笑)女の子よりも乙女な雰囲気の(^_^)
モモちゃんは外見は純情可憐、中身は中途半端豪傑女性かふむふむφ(..)メモメモ
相性よさそうな夫婦ですね♪、

またモモクリちゃんのお話あさりにきます♪

たおるさんへ

いつもありがとうございます。
やっぱり歌手ってもてますよね。

不倫、浮気は相手が必要、おっしゃる通りです。
そんなことしてると浮気されるよ、という脅し文句を見ると、そんなに簡単に浮気ってできるのか? と思います。

シゲはパパとして、人間としてはいい人だと思うのですが「男の色気」ってやつがないんでしょうか? 男の色気ってなにかな、たぶん、乾隆也にはあるのだと思われます。

かすみ草系男子と、それほど強いわけでもないのだけれど、夫がこうだから強くならざるを得ない女。どこかにいそうな夫婦ですよね。

クリ、162センチ、45キロ。
長めのふわっとした髪をした、なよなよ気弱な男の子。

モモ、156センチ、45キロ。
ツインテールの一見はアニメキャラみたいな美少女ふう。中身は腐女子……という感じで書いています。

このふたり、ほんと、相性はいいのだと思われます。
デビューしたときには二十代前半で、今はもうちょっと大人になりましたが、若くて可愛いデュオではあります。

モモのほうがクリよりひとつ年下。
という設定です。


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