番外編

貴志駅のたまちゃんに捧ぐ

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フォレストシンガーズ番外の番外

貴志駅名誉永久駅長「たま」大明神に捧ぐ

「天国の駅」

 鼻がぐじゅぐじゅしてものの匂いがわからなくなって、大好きなごはんもおやつのかにかまも食べられなくなった。ずーっとしんどくてお仕事にも行かず、寝てばっかりの数日。ふっと目が覚めたらふっと身体が軽くなっていて、たまは起き上がって伸びをした。

「あれぇ? どこ行くんやろ」

 春には十六歳のバースディを祝ってもらった。あのころから多少具合はよくなかったのだが、だんだんひどくなって入院したものだから、たまは寂しかった。

「これでまた駅に行ける……よね? あれれ、でも……」

 軽くなった身体がそのまま、高みへと上っていく。たまは高いところは大好きだが、ここまで高いところに来たことはない。こんなに高いとジャンプしても降りられなさそうだが、不安感はまったくなかった。

「たま!!」
「うにゃっ!!」
「会いたかったんだよぉ。やっと会えたね」
「うにゃ?」

 唐突にあらわれた人間の男がたまを抱き上げ、ミケ柄の毛皮に顔を埋めた。

「DVDも写真集も見たよ。ネットや新聞でたまの記事も散々読んだ。俺も生のたまに会いたくて会いたくて、恋焦がれていたんだ。だけど、ただでさえたまは人気者で、海外からもきみに会いにくるんだろ? たま電車ってのにも乗ってみたかったけど、多摩モノレールで我慢しておいたんだ。だって、人気者のたまのところに人気者の俺が行ったら、ホームも周辺も人だらけになってどうにもこうにもならなくなるもんな」
「あんた、誰?」

 人の言葉が口から出て、たまは自分でびっくりした。

「びっくり顔のたま、可愛い。だって、これは俺の夢だもん。きっとたまに会いたくて、夢に出てきてほしいと願っているファンはいっぱいいるはずだ。でも、俺の想いがその中でもいっとう強かったんだよ。だからたまは俺んとこに来てくれたの」
「ふーん、で、あんた誰?」

 人間の大人、男性、にすれば小さめの身体の彼は、たまをしっかり抱いて鼻に鼻をくっつけた。

「フォレストシンガーズの三沢幸生。フォレストシンガーズを知ってる人たちの中では、俺の猫好きは有名なんだぜ。正直、俺を知ってる日本人は、たまを知ってる日本人より少ないだろうけどね……かなうことならば俺は、たまを抱いて歌えるCMに出たかったな。ユキちゃんって呼んで」
「うん、ユキちゃん。あんたは私のファンやねんな。ありがとう」
「俺のほうこそ、俺の夢に出てきてくれてありがとう」

 もしかしたらポチが俺の夢をかなえてくれたのかな、などとひとりごとを言ってから、幸生はたまの背中に顔をすりつける。猫みたいな奴だ。

「たまって十六歳だったんだよね。十六歳ってのは娘盛りだよ。うん、綺麗な毛並みだ。大切にしてもらっていたんだね」
「大事にしてもろてたよ」
「駅長さんやってて楽しかった?」
「ようわからんけど、みんながたまちゃん、たまちゃんって可愛がってくれるのは嬉しかったよ」
「たまは人間が好きなんだよね」
「時々は嫌いな奴もおったけど、たいていは好きやったよ。ユキちゃんも好き」

 きゃああ、ウレピィッ!! と子どもみたいに叫ぶ幸生に、たまは尋ねた。

「ほんで、私はどないなったん?」
「あ、ああ、うん、たまはみーこって覚えてる?」
「お母ちゃん」
「そうそう。ちびって友達もいただろ。たまが駅長で、ちびとみーこは助役だったんだよね」

 忘れてしまっていた想い出がよみがえってくる。三匹でいたころは本当に楽しかった。

「みーことちびが天国でたまを待ってるよ。俺は思うんだ。ありきたりの発想なのかもしれないけど、今ごろは神さまがみーことちびに頼んでるんだよ。もうじき駅長としては最高な猫がやってくるから、天国にも猫の駅を作ろう。そしたら昔みたいに、たまが駅長、みーことちびは助役でがんばってくれよって。たま、また駅長をやってくれる?」
「うん、ええよ」

 じゃあ、行け!! 幸生が言って、たまを抱きしめていた腕をゆるめた。
 腕をゆるめられても落ちたりはせず、たまはいっそう高みへと上っていく。ふわーっと上っていったたまを、むこうからゆっくり走ってきた電車が迎えてくれた。

 なにが起きたのかたまにはよくわからないけれど、これから行く先にはお母ちゃんと友達が待っていてくれて、昔と同じに三匹で楽しくすごせるのだとは理解した。

「たまーっ!! ずーっと見守っていてね。そのうちには俺がたまの歌を作るからねっ!!」
「うん、ユキちゃん、バイバイっ!!」

 電車の窓から下界を見下ろすと、人間がたくさん、こちらを見上げていた。みんな泣きながら手を振っている。たまの大好きな人もいる。知らない顔もある。猫の鳴き声も聞こえる。あ、あれはたまの部下のニタマだ。ニタマは泣いているのではなく鳴いているのだが、人間は泣いていた。

 なんで泣くの? 泣かなくてもええやん、たまはこれから天国っていうところの駅長さんになるんやから!! みんなが来たら、たまが天国の駅で迎えてあげるからねっ!!

END

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……う、う、う、書いてて泣けました。
意味不明だとおっしゃる方、どうもすみません。

近頃は頭の中が「たまたま」しっぱなしでしたので、こんなものを書いてみました。
たまちゃん、天国ではもっとのんびりゆったり、駅長さんをやってね。

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たま本猫のツィッターによりますと、神道でお葬式をしたので天国にはいかないのだそうですが、これはフィクションですので、天国のようなところ、ということで、よろしくお願いします。

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幸生「そっかー、ママはたまに会ってるんだよね。いいないいな」
著者「二回、会ったけどね。ユキちゃんも会わせてあげたかったな」
幸生「俺だって人気者だから……って、俺に言わせんなよ」
著者「あんたやったら言うでしょうが」

幸生「……ん、まあね。ほんとはそこまで人気者じゃないけどさ。ところで、たまって大阪弁なの?」
著者「人間語を話すなら和歌山弁かと思えますが、現代和歌山言葉は大阪弁と近いですので、ま、こんな感じってことで」
幸生「無責任な著者ですので、俺からもお詫び申し上げます。なにはともあれ、最後にたまに会えて嬉しかったよ」

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またのお越しをお待ちしています。



















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~ Comment ~

NoTitle

ユキちゃん、最後にたま駅長に会えてよかったですね。
たまちゃん本人(本猫)は、なんで泣くの?くらいにサバサバしてるのかもしれないけど^^
あかねさんは二回も会いに行かれたんですね。いいなあ~。
本当に、こんなに多くの人に愛された猫ってちょっと他に知りません。
ローカル線を救ったというだけでなく、きっと何か特別なオーラを持ってたのかもしれませんね。
海外からもお葬式に掛けつけるファンがいるくらいなんですもん。
居なくなってとても寂しいけれど、きっと世界一幸せな猫だったのだろうなって、勝手にそう思います。

おぉ

泣けました。そうそう、私は会いに行ったことはなかったのですが、いつもニュースで微笑ましく思っていました。
本当に、たまちゃんはすごい仕事をしてのけたんですよね。そして、最後までみんなに愛されて、素敵なにゃん生だったと思います。沢山の人を癒してくれたんですね。
天国でも駅長を! 本当です。私もそのうち訪ねていくよ!!
素敵な掌編、ありがとうございました。猫好きユキちゃん、夢で逢えたら……良かったですね。これからは二代目を応援しなくちゃ!

limeさんへ

いつもありがとうございます。

たまちゃんの訃報を聞いてからというもの、頭の中がたまたましていまして、雑記ブログのほうにもたまネタを書きました。

動画を見たり、お葬式の様子を見たり、本を読み返したり、我が家にあるグッズを見てたまを偲んだり。
そうしているうちに、物語を書きたくなりました。

幸生は絶対、たまに会いたがるだろうなぁ。
和歌山にだって仕事では行ってるんだけど、でもね、一応は幸生も有名人だから、行きにくいかな、ってことで、こうしてみました。

たまのお母ちゃんのみーこは、たま以上に人なつっこい子だったそうですね。
そんなみーこが産んだ四匹の子猫の中で、いちばんおとなしかった三毛猫。きょうだいに蹴られたり踏まれたりしていたのを見た後の飼い主さんが、この子は私が面倒見るんやわ、と思ったのだとか。

ってことはやはり、たまはそういう運命のもとに生まれてきたんですよね。

駅長なんかやらせてストレスをためていたとか、寿命を縮めたとか責めるひともいるようですが、そんなことはないと私も思いたいです。

本当にいやだったら猫は、隠れるなり怒るなりすねるなりしてやりませんもの。
たまはきっと楽しんでいたんだと、みんなに愛されて幸せだったんだと、私もそう思いたいです。

大海彩洋さんへ

いつもありがとうございます。

私がたまに会ったのは、二年前の夏と冬でした。
近いうちに引退するんじゃないかと思っていましたので、もう一度会いにいきたいなぁ……あらぁ、逝ってしまったの? そんなぁ……でしたよ。

ニタマにも同じ日に会っていますが、あの子はたまに較べれば若くてやんちゃですので、長続きするかどうか、ちょっと心配ですね。

たまとニタマが同席している動画で、どっちかがしゃーしゃー怒ってるのもあって、やっぱり猫だなぁと、そんなシーンまでが微笑ましいです。

こんな殺伐とした世の中で、そこにいるだけでみんなを和ませる猫。たまはその代表として、現代日本に贈られてきたのですよね、きっと。

「たま、お帰り。ご苦労さん」
って、神さまが天国で迎えてくれているかもしれません。


NoTitle

「また一緒に遊ぼうにゃ~」からきました。
たまちゃんはたま駅長さんのことだったんですね。
あかねさん会いに行ったんですね。いいなぁー(>_<)可愛かったですか??
テレビで亡くなったと聞いてびっくりしてました。
海外からも人がお葬式にきたと報道されてて、たくさんの人に愛されていたんだなぁと思いました。
きっとたまちゃんもみんなに見送られて幸せだったと思います(T_T)

たまちゃんのご冥福をお祈りします(ー人ー)

たまちゃんのご冥福をお祈りします(ー人ー)

たおるさんへ

コメントありがとうございます。
こっちも読んでいただいて嬉しいです。

そのニュースが公表された夜、「たまちゃんが死んだんやって」と知人が知らせてくれまして、しばらくたってから実感がじわじわーと湧いてきました。

二年前の夏と秋(大海さんへのお返事には冬と書いてますが、秋です)、たまはすでにおばあさんでしたから寝てばっかりでしたが、起きてる時間もあったなぁ。
悠然としてる感じでしたよ。

下から二番目の写真がそのときに撮ったものです。

駅長なんて人間でもむずかしいんですから、どの猫にでもやれるものではない。

度胸があってひとなつっこくて、穏やかな性格でないといけませんよね。
その点、たまは三拍子そろっていたようです。
やっぱりたまは特別だったんですね。
和歌山電鉄では後継猫にけっこう苦労しているようですし。

NoTitle

うぅぅ、涙が……。
そうだよね、たまもきっと夢の中では人とお話ししたりしてたよね。
うまく話せないからニャーになってるだけだよね。

とても泣けてくるお話です。
たまは幸せだったんだろうなぁ。
猫はあまり構われるのが好きじゃないと聞くけれど、
それでも笑顔でたくさんの人が好きだと言っている姿は、
たまにとっても嬉しいものだったと思いたいです。

今もにゃんごにゃんご言ってるかなぁ。

ハルさんへ

コメントありがとうございます。

つくづくつくづく、たまは特別な猫だったのではないかと思うのですよ。
ニタマが貴志駅の二代目になったのだそうで、ニタマもたまと一緒にツィッターに参加して「にゃんごニー」って呟いています。
ニタマも可愛いというか、ふてぶてしくて面白い猫ですが、たまちゃんにはかなわないんじゃないでしょうか。

貴志駅にはまだ、たまを偲んでのお客さんがたくさん訪れているそうですが、二代目を作っておかないとだんだん寂れてきそうですものね。

天国でのんびり駅長をやって、いらっしゃーい、にゃんご!! って呟いているといいですよね。
そんな気持ちで書いたこのショートストーリィ、読んでいただいてとても嬉しかったです。
たまはきっと、幸せな猫生でしたよね。

(=^・^=)
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