ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「真」物語「真っさら」

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フォレストシンガーズ

真・物語

「真っさら」

 頭を同じ位置にすると、小柄な女は俺たちの膝のあたりまでしか足先が届かない。それをいいことに、女には気づかれないように俺の足を蹴る兄貴。

「……いてぇな」
「なに? アキラくん、どうしたの?」
「なんでもねえよ。アキラ、さっさと寝ろ」
「俺が寝たら兄貴とサチコさんは……」

 うるせぇ、寝ろ、と兄貴は俺の足をおおっぴらに蹴る。なにじゃれてんのよ、とサチコさんは笑う。俺はこのポーズは居心地がよくないのだが、しようがないので女を真ん中にはさんで男ふたり、女ひとりでベッドに横たわっているのだった。

 十代のころにアイドルだった俺、麻田洋介はフォレストシンガーズのお兄さんたちになつきにいっていた。本橋真次郎、乾隆也、本庄繁之、三沢幸生、木村章。俺よりは十歳以上年上の五人と、俺のいたグループの五人が雑誌の対談をしたのが、知り合ったきっかけだった。

 なんやかやとあって俺たちのグループは解散し、俺はシンガーソングライターになるつもりで修業を始めた。が、才能がないと皆に言われて、アクション俳優に方向転換することにした。

 そんなころ、DVDで見たのが「傷だらけの天使」。主役はコグレ・オサム、通称「兄貴」。相棒はイヌイ・アキラ、あだなはストレートにアキラ。
 かっこいいドラマだったからはまったのもあるが、イヌイアキラって……これってただの偶然? 偶然なんだろうけど、運命を感じる。いつか俺はこのアキラを演じたい。

 寂しいおいたちの不良少年アキラは、練馬の鑑別所ってところを出てからもいかがわしい仕事をしていて、後に兄貴と慕うようになる修と知り合う。それからずーっと腐れ縁。バイキンみたいな奴、ついてくんな、しっしっ!! と邪険にされつつも兄貴にどこまでもついていく。

 古い古い、乾さんたちも生まれていなかったころのドラマだ。古いけどかっこいい。俺はすっかり夢中になった。

「やりたいな、アキラの役がやりたいよ」
「俺はオサムがいいな」
「そうなの? イッセイさんも傷だらけの天使が好き? 気が合うね」
「うんうん、乾杯しよう。って、洋介はウーロン茶かよ」
「俺、酒は嫌いだもん」

 酒が嫌いなのに酒場に出入りしているのは、友達を求めているからかもしれない。友達というよりも人脈か。誰かと知り合ったらいいことがあるかもしれない。さもしい根性だと乾さんには怒られるだろうか。

 音楽や演劇をやっている売れない奴らが集まるバーでは、知り合いも何人もできた。そのうちのひとりが劇団ぽぽろの役者、イッセイ。ぽぽろの看板役者だったイッコウさんの二代目ということで、イッセイという芸名をつけたのだそうだ。

「イッコウさんは引き抜かれたような形で、あれよあれよとスターになっちまったんだよな。だからぽぽろは退団して、イッコウさんのかわりに俺が二枚目を張るようになったんだよ。イッコウさんがたまに客演で出てくれるとき以外は、ぽぽろはあいかわらずあまり人気はない。けど、イッコウさんとのつながりはあるから、ちょっとした仕事は紹介してもらえるんだ。フォレストシンガーズのDVDに出たりとかさ」

 本人がそう言っていたから、俺も言った。

「俺もフォレストシンガーズのお兄さんたちとは仲良くしてもらってるんだよ」
「おまえはもとはラヴラヴボーイズのポンだったんだよな」
「そうだよ。でも、もうそれはいいんだ。イッセイさんってDVDに出たの? フォレストシンガーズの? なんの役?」
「ヒデさんって知ってるか」
「知ってるよ」

 フォレストシンガーズがアマチュアだったころのメンバー、小笠原英彦だ。現フォレストシンガーズの五人は顔はもひとつで、俺のほうがかっこいいもんね、とか言っては殴られたものだが、本当のことなんだから仕方ない。

 ただし、俺も紹介してもらったヒデさんだけは顔がいい。なのだから、イッセイさんがヒデ役だというのは似合っていた。

 そんなつながりでイッセイさんとは親しくなって、古いドラマの話もするようになった。「傷だらけの天使」の話を熱心にしていたら、声をかけてきた男がいた。

「きみら、フォレストシンガーズとも知り合いなんだね。俺はフォレストシンガーズの大学の後輩で、乾さんを主役にしたショートフィルムを撮らせてもらったこともあるんだよ。俺の会社はアニメのほうだから、フォレストシンガーズをアニメにもさせてもらったことがあるんだ」

 ややずんぐりした三十代らしき男がくれた名刺には、香川厚樹との名前があった。

「ポン……そういえば……なつかしいな。イッセイくんもそういえば、FSのDVDで見たよ。ヒデさん役のイッセイくんだ。傷だらけの天使は俺も好きなんだよ。混ぜて」

 三人がそろうと「傷だらけの天使」の話をするようになった。

「イッセイがオサムで洋介がアキラか。ぴったりだな。あいつらは昭和の時代のヤバイ仕事をやってるチンピラだろ。崩れた感じに作ったら、きみらははまるはずだよ。俺、脚本も書くんだ。買ってくれるところがあるかどうかはわからないけど、書きたくなってきたな」

 遊びみたいなものだけど、と言っていたその「リメイク・傷だらけの天使」の脚本を、映画にしたいと言ったひとがいたらしい。

 金にはならないけど、やってみないか、と香川さんに言われて、イッセイさんも俺も大喜びした。金にならない仕事なんか慣れている。生活費はバイトで稼ぐし、アイドル時代の貯金もまだ残っているから大丈夫。やりたいことがやれるのが一番うれしかった。

 実年齢はイッセイさんが二十八、俺は二十三なので、すこしだけ設定を変えたリメイク版でもその通りにしてある。昭和のファッションをしたオサムとアキラは、やばい仕事をしていて何人もの女と出会う。今回はサチコという名のやばい女と出会って、三人で行動するようになっていた。

 売れていないのは俺たちと同じ、サチコ役も無名の女優だ。パンプ、妖婦、香川さんはサチコがそんなタイプだと言っていた。三十歳くらいだろうか。この役を演じるためか、芸名もサチコだそうだ。

「疲れたわ。眠くなっちゃった」
「そしたらサチコは帰れよ。おまえはアパートがあるんだろ」
「オサムくんとアキラくんは?」
「俺たちは今はねぐらには帰れないから、野宿でもするさ。な、アキラ?」
「俺は兄貴のいるところだったらどこでもいいよ」

 だったら、あたしんちにおいでよ、と誘われて、俺たちはのこのこサチコについていく。小さなアパートには小さいベッドがあって、オサムはその気になり、アキラに囁いた。

「おまえがいるとサチコは俺に抱かれるのが恥ずかしいだろ。台所にでも隠れてろ」
「あんな狭いところに?」
「そしたら外に出てろ」
「やだよ、寒いよ」
「寒くなんかねえだろうが。さっさとどっか行けよ」

 もめていると、サチコさんが言った。ふたりともおいでよ。
 舌うちはしたものの、おまえは来るなとは兄貴は言わなかったので、アキラも一緒にベッドに入った。狭いアパートの狭いシングルベッドに、細いけれど背の高い男がふたり、小柄だけど胸や尻の大きな女がひとり。撮影だとわかっていても俺はうずいてしまう。

「はい、カット」

 監督の香川さんから声がかかると、サチコさんが笑った。

「洋介、勃ってるでしょ」
「いや……あの……」
「こんなんでいちいち勃たせてたら、仕事にならないだろ」
「そんなんじゃないって。休憩していいですか? えと……頭を冷やしてきます」

 イッセイさんにも笑われて、俺は外に出ていった。狭いアパートのセットだ。外に出ると煙草が吸いたくなってきた。

「あ、乾さん、煙草ちょうだい」
「なんだよ、挨拶もなしか。禁煙したんじゃなかったっけ?」
「禁煙なんかしたくないんだけど、煙草は値上がりばっかするから節約のためだよ。こんにちは、乾さん、煙草下さい」

 一時は本橋さんの弟子だと勝手に名乗っていたから、あのころは本橋さんにも乾さんにも叱られてばかりだった。本橋さんの説教がうざくて、ぶん殴ってしまったこともある。乾さんにお願いして一緒にあやまりに行ってもらったっけ。

 年長者には敬語を使え、なんて言われてもじきに忘れてしまうけど、煙草をもらうのだから下さいと言ってみた。乾さんは苦笑いして、煙草を箱ごとくれた。

「香川さんの撮影だから見にきたの? イッセイさんとも知り合いでしょ? 乾さんでよかったな。煙草を持ってるもんね」
「幸生も煙草は持ってるぞ」
「三沢さんはうるさいから。いや、乾さんもうるさいんだけど別の意味だからね」
「うん、イッセイくんも香川も、洋介も知ってる男なんだから、ちょっと見せてもらいにきたんだよ」
「仕事は?」

 休憩時間だよ、と応じた乾さんと、セットの外で並んで煙草を吸った。

「サチコさんみたいのに惚れられたらどうする? 乾さんってもてるんだよね」
「おまえほどじゃないだろ。それに、サチコさんみたいって言われても、俺はそのひとを知らないよ」
「色っぽいんだ。パンプってなに?」
「ヴァンプか……婀娜っぽい女、蓮っ葉とかあばずれとか」
「ビッチかな?」
「似たような意味だね」

 だからね、俺ね、と股間を示すと、乾さんに頭をこつんとやられた。

「修行が足りないって笑われたんだよね」
「おまえ、昔もドラマに出てただろ。はじめてってわけでもないだろうに」
「そうなんだけど、あのころとは気分がちがうんだな」

 仕事なんだからドラマにだって映画にだって出るけど、俺はシンガーだぞ。歌うほうがいいな、と思っていたあのころ。役作りなんてものもしてみたりはしたけれど、真剣でもなかった。

 女の子と抱き合ったり、キスしたりって場面もあったが、ラヴラヴボーイズのポンの相手役はぱっと見は清純そうな若い女の子。この子よりも俺のほうが格が上だし、この子はポンと共演できて嬉しいみたいだけど、俺にはメリットないな、なんて思っていた。

 傲慢だったんだね、俺は。
 ほとんど無名に戻り、昔のことを思い出されるのはいやだと感じるようになった俺は、役者としてはまっさら気分だ。だからサチコさんにそそられたりするのかな? 

「なんだっていいけど、俺、がんばるよ。乾さんも見てね」
「ああ」

 その調子だと言いたげにうなずく乾さんが激励してくれるのは、ほんとにほんとに嬉しかった。

END






 
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~ Comment ~

NoTitle

シンガーソングライターからアクション俳優に転向するのもものすごい難しいような気もしますが・・。。。まあ、それで役者ができるのであればGOODですね。しかし、それもやっぱりどちらも選ばれた仕事という感じがしますね。
芸能人。芸のある人間はやっぱり違うのか。。。

LandMさんへ2

こちらもありがとうございます。

この主人公はなんたって、キムタクですから。
若きキムタクが不運な道に迷い込んで、麻田洋介になったって感じです。

私は別にキムタクのファンではなく、特に嫌いでもなく、興味ないほうなのですが、勝手にもてあそぶ題材としてはぴったりでした。
彼はまあ、華はありますものね。
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