ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「真」物語「真っ只中」

 ←いろはの「せ」 →ひげそりシゲ/たおるさんのイラストによせて
フォレストシンガーズ

「真っ只中」

1・真次郎

 貧しかったから携帯電話を持つのも遅かった。俺の学生時代にはケータイが普及しはじめていたのだが、俺はそんなものに興味がなかったから持たなかった。大学を卒業してフリーターになり、フォレストシンガーズがデビューしてからも、携帯もパソコンも持っていなかった。

「それは不便だよな。よし、買ってやろう」
「携帯電話って月々のお金がかかるんですよね。社長、経費も支払ってもらえるんですか?」
「ああ、そうか」

 マネージャーの山田美江子に突っ込まれた社長は、熟考の末、山田とリーダーの俺にだけケータイを持たせた。

 雪深い土地で立ち往生して、ケータイがないから宿舎に連絡もできなかったり。
 誰かが誰かとはぐれても、同じく連絡がつかなかったり。
 こんなときにケータイがあったらなぁ、と思うことは頻繁だったのだが、なに、ケータイなんて昔はなかったのだ。

 が、昔は公衆電話があった。はたと気づくと街から公衆電話が消えていっていて、ケータイを持たない者には不便さが際立っていったのだった。

 若者たちはケータイで電話し、メールして交流を深める。メールが届いたら即座に返さなくてはならないなんて、めんどくさがりの俺には苦行だぜ、と思うのだから、俺は若いころにはケータイを持ってなくてよかったと本気で考えている。

 プライベートでだったらよいけれど、仕事では不便なのは困る。
 すこし稼げるようになると、個々にケータイ電話を持つようになった。パソコンも個人的に買った。章なんぞはパソコンソフトで作曲をしているらしい。

 そしてまた時代は進み、いまやスマートフォンだ。メールじゃなくてFacebook だのlineだの、俺にはついていけなーい!! とじいさんみたいなことを言っていてはいけないのである。


2・隆也

 リーダー命令により、フォレストシンガーズも全員、ガラケーをスマホに買い替えることになった。我々はおおむねIT系には弱い。

 シゲは歴史系、俺は文学系、このふたりは文系だ。章はカンペキ音楽系、幸生は文系と音楽系の混合系。唯一本橋のみが理系なのだが、彼はITに興味がないので詳しくはない。誰ひとりとしてブログもやっていないし、フォレストシンガーズ公式サイト運営はスタッフまかせだ。

 友人知人にはその系統に詳しい者も多々いるが、スマホなんて中高年だって使いこなしてるんだから、三十代の我々にもなんとかなるさ、で臨むことにした。

「便利でしょ? もっと早くスマホにすればよかったのに」
「おじさんってのは頑固だったりするんだよ」
「乾さんは頑固だけど、おじさんじゃないよ」

 どうにか基本操作はマスターしたころになると、ほうぼうからSNSのお誘いがかかる。俺になついている女の子たちからの誘いもひきもきらず、全部応じるのは無理があるので、全部を断ると決めた。

「駄目なの?」
「これで俺も忙しいんでね」
「忙しい彼氏とだって、みんなやってるよ。そっか。千鶴は乾さんの彼女じゃないもんね。諦めるから怒らないで」
「怒ってはいないよ」

 こういうのが面倒なんだよなぁ、と俺はため息をつく。俺はスマホを持ってないから、で断れたころには化石扱いもされたが、すべてがそれで通っていた。

「乾さん、僕とlineしよ」
「断る」
「男とも駄目なの?」
「男の子とだったらやるのか、差別だ、って女の子たちが言うんだよ」
「ふーん」

 ふふふと笑った哲司も瑛斗も、上から見下ろすような目で俺を見たユーヤも洋介も、その他の男たちも異口同音にほざきやがった。

「もてる男はつらいね」


3・繁之

 もてる男はつらいのであるが、もてない男はつらくない。こんな俺にもlineの誘いはあるのだが、じゃあ、帰って恭子にやってもらうよ、と応じると、そんならいい、と白けられる。

 まだスマホを持っていなかったころ、我々の所属事務所であるオフィス・ヤマザキに新入社員がやってきた。フォレストシンガーズが売れなかった時代には貧しい事務所だったので、社長と事務員の露口玲奈ちゃん、あとは所属ミュージシャンのマネージャーたちがいる程度で、事務仕事は外注していたそうなのだが、徐々に事務系の社員も増えてきていた。

「シゲさんはご結婚なさってるんですし、子どもさんもいらっしゃって人生経験が豊富ですよね。
 そんな男性だからこそ、悩みを聞いてほしいんです。
 お時間がおありでしたら読んで下さいな。

 私には彼氏がいます。四つ年下の普通のサラリーマンで、私が前の職場で働いていたときに知り合いました。うまく行っていたんですけど、四つも年下のせいか、彼って結婚願望がないんですよね。
 私は三十三だから、結婚したい。私のほうからプロポーズするように仕向けていこうとしていて、彼にうんざりされたみたいで、最近はうまく行かなくなってきたんです。

 だからって別れるのはいや。彼と結婚したいんです。
 どうしたらいいんですか? シゲさん、悩める亜矢子にアドバイスを下さい」

 そんな事務員さんの藤崎亜矢子さんからメールをもらい、俺は恭子にケータイを見せた。

「こんな相談、されてるんだよ」

 こんなのは玲奈ちゃんにすればいいのに。玲奈ちゃんだって結婚してるのに。美江子さんにだって聞いてもらえるだろうに、と戸惑って恭子に相談したのだった。

「緊急の用事があるかもしれないから、玲奈ちゃんもみんなのメールアドレスは知ってるよ。今はlineとかSNSとかもあるけど、俺たちってそういうの、あんまりやらないだろ。だからメールなんだ。藤崎さんも教えてもらったんだろうな」

「で、シゲちゃんはどうするの?」
「どうしたらいいかわからないから、きみに相談してるんだろ」
「私だって知らない。関係ないもん」
「恭子、怒ってるのか?」

 いくら俺はもてないと力説しても、恭子はどこかしら疑っている。俺もやきもち妬きのほうなので、その感覚はわかる。

「愛してるからだよ」
「え?」
「シゲちゃんを愛してるから、嫉妬するの」
「あ、ああ、嫉妬? 俺は藤崎さんと浮気してるわけじゃないよ」
「知ってるけど……そうだ、私が藤崎さんの相談に乗ってあげるってどう?」
「そうしてくれると助かるよ」

 安心して恭子におまかせすると、彼女は藤崎さんにこんなメールを打った。

「はじめまして、本庄繁之の妻の恭子です。
 ごぞんじの通り、本庄は多忙な身です。その上に彼は恋愛相談なんてものは大の苦手で、藤崎さんからメールをいただいて困惑しているみたいですよ。
 よろしかったら私がお話、聞きますけど、いかが?」

 藤崎さんは俺に言った。

「本庄さんがもてないって言う理由、よくわかりました……野暮ですね」
「あ、そうですか」

 その言葉についても報告すると、恭子は言った。

「正解だったかも」
「……なんだかよくわからないんだけど……」
「いいのよ、いいの」

 恭子がいいんだったらいい。
 なににしたってこういうことは家庭争議のもとらしいから、俺もSNSなんてやりたくない。恭子とだけだったらlineくらいしてもいいだろうか。広大や壮介が大きくなったら家族line。それだったらいいかもしれない。


4・章

 若いころにスマホがあったとしたら。
 面倒だっただろうなとも思う。便利だっただろうなとも思う。SNSなんてものは俺もめんどくさいほうだが、スマホは小さなパソコンだ。使いこなせば素晴らしい存在になる。

 うちでは俺がいちばんのめんどくさがりのはずだが、パソコン関係は俺がもっとも詳しい。というのも他の四人が疎すぎるせいで、較べる相手がまちがっているのだが。

「スマホには作曲アプリってないのか?」
「ありますよ」

 周囲の者の中では、大学の後輩の酒巻がさらにパソコン関係には精通している。彼が俺のスマホを操作して作曲アプリを表示してくれた。

「木村さんはタブレットは持っておられないんですよね」
「自宅にパソコンはあるから、そのうちにはスマホにしたら必要ないかと思って、ipadなんかは持ってないよ」
「ですよね。そしたら、外で作曲するときにはこれは便利ですよ」
「うん」

 無料アプリだとこんなものですが、木村さんだったら有料アプリを……などと酒巻が言っている。俺もアプリを使ってみる。作曲したい意欲が湧いてきた。

「酒巻、作詞しろよ」
「作詞は三沢さんか乾さんに……それで、木村さん、木村さん?」

 もはや酒巻の声なんか聞こえない。
 いっぱい恋をしていっぱい女の子とつきあっていた若いころ、そのころにスマホがあったら……の気分が曲になって、俺の頭の中に大波みたいに押し寄せてきていた。


5・幸生

 これに詞をつけろ、と章が言って、スマホを差し出した。作詞アプリというものもあるらしいが、詞はノートに書けばいい。スマホで章の作曲したメロディを聴いていると、十八歳だった章の姿が見えてきた。

 稚内生まれの木村章と、横須賀生まれの三沢幸生が東京の大学の合唱部で出会ったころ。章と俺には似たところもあったのだが、今となれば認めよう。顔だけは章のほうがずっと整っていた。当時の俺は章に俺以上の部分があるとは認めたくなくて、美少年同士だよね、とか言っては、章に鼻でせせら笑われていた。

 十代の顔なんてどうでもいいのだ。男の顔は履歴書。三十代になった章と俺を較べたら、俺のほうがいい顔してるもんね。

「客観的に見ると章は鋭くて、若く見えるとはいえ年齢なりの渋味も加わってきてるよ。大人らしい顔になってきてる。その点おまえはなぁ……」
「ユキちゃんってそんなに可愛い?」
「三十すぎた男が可愛くてどうすんだよ」
「人には可愛げは大切ですよ」
「……若干、意味がちがってるな」

 乾さんの客観的意見はこうなのだが、俺は章よりも顔も性格も可愛いのはまちがいない。
 
 最初にぽっと頭に浮かんだ、十八歳の章。十九歳から二十歳までは離れていて、二十一歳で再会してからはいやになるほど一緒にいる。女好きなところも似ていて、若干異なった種類ではあるがもてるところも似ていた。

 ガキの章がスマホを手に、女の子とのデートコースを検討している。俺たちが十代だったころはスマホなんてなかったけどな。

「はっ……そか、そういう曲だ」
「そういう曲って?」

 はっ!! と気づいたそのひらめきをも声にして、俺は章の書いた曲に乗せて歌った。

「そんなものはなかった時代に
 僕らは恋をしていた。

 スマホなんて詩にも絵にもならないんだもの。
 なかったほうがよかったかな?
 
 きっとあのころとは恋そのものが変わってきている。
 それでも僕はきみに恋をする。
 きみは僕に恋をする」

 神妙な顔をして聞いていた章は言った。

「即興で作ったのか?」
「おまえの曲につける詞として、合ってるだろ」
「……うん」

 さすが、と呟いてから、なんでもない、言ってない、と章は否定したが、たしかに聞いた。
 そりゃそうさ。おまえと俺とは何年つきあってるんだよ? 音楽的な事柄には特に、以心伝心じゃん。スマホのなかった時代も、あるようになったこれからも、アキとユキは最高のコンビだよ。

END







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