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FS「真」物語「真っ盛り」

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フォレストシンガーズ

真・物語

「真っ盛り」


「武蔵、待ちかねたぞ」

 重々しい声を発したのは、容姿も重々しい男だ。俺は彼の隣にすわって笑ってみせた。

「それは俺の台詞でしょ」
「いやいや、今夜はおまえさんが俺を待たせたんだから、こっちの台詞だよ。ってか、小次郎、待ちかねたぞ、かな?」
「はい、すみません」

 去年の年末特別テレビ時代劇で、俺は佐々木小次郎を演じた。主役の宮本武蔵を演じたのが、顔も体格も重々しいこの男、権藤重蔵だった。

 宮本武蔵は生没年がわかっているので、佐々木小次郎と巌流島で決闘をしたときの年齢もおよそはわかっている。だが、佐々木小次郎はまったくわからない。そのとき、小次郎は青年だったのか老年だったのか、歴史研究家の永遠のテーマなのかもしれない。

 しかし、佐々木小次郎はたいてい、若い設定になっている。俺が演じた佐々木小次郎も青年だ。当方は若くもないのだが、武蔵を演じた時代劇の重鎮、権藤さんと比較すればかなり若い。四十代に突入した俺も、権藤さんと一緒にいれば青二才だ。

「桜田くんは顔が小さいなぁ。平成生まれの若者はみんなそうだね」
「俺は昭和生まれですが……」
「あ、そう? 背が高いのに顔が小さくて、脚が長いんだよね。俺だって昭和生まれだけど、かろうじて二ケタになった年だもんな。昭和五十年代生まれとだと異人種でもしようがないか」
「いえ、俺は四十年代生まれですが……」
「桜田くん、いくつ?」
「もうじき四十二歳になります」

 撮影が行われたのは去年のはじめで、初対面だった権藤さんに正直に年齢を告げると、椅子から落っこちそうなほどにびっくりされた。

「男がそんなに若く見えるのはいかんだろ」
「いかんのですか。すみません」
「いや、きみが悪いわけではないけど、四十すぎてるにしちゃ重みが足りなさすぎるな」
「はい、権藤さんを見習って重くなるようにします。手始めに体重を増やしましょうか」
「いやいや……きみ、とぼけてるなぁ。面白い奴だな」

 説教したがる権藤さんを適当にかわしていたら、気に入られてしまった。長年のつきあいのロクさんあたりには、権藤さんってホモなんじゃないか? 気をつけろよ、とからかわれたが、そうだとしてもかわすすべは身につけている。撮影が終了して仕事のつきあいはなくなっても、時々こうして権藤さんと飲むのだった。

「ロクさんってのはプロデューサーだよな? 彼はきみよりはだいぶ年上だろ」
「ロクさんは五十すぎですから、権藤さんと俺の中間の年頃ですね」
「ロクさんってのは昔は、ダーティエンジェルズにいたんだよな。あそこのリーダーのやっさんとは、俺も親しいんだよ」
「そうなんですか」
「つまり、きみももとは歌手で、歌手仲間もいるわけだ」

 歌手だけしかやらない、ドラマには出ないという者もいる。役者一本の者もいる。お笑い系の者もいて、芸能人といってもさまざまだ。
 その中には俺のように、歌手と役者の二足のわらじを履いている者も多々いる。やっさんは歌手しかやらない人種だが、人脈は広いのだ。

 彼らが二十代のころ、というと俺は富山で高校に通っていたころ、ダーティエンジェルスがデビューして人気を博した。俺たちは忠弘とはちがって、売れない悲哀は経験したことないなぁと、ロクさんもやっさんも言う。

 そのころ、権藤さんは三十代で、二枚目時代劇スターの地位を確立していた。彼もまた売れない役者だった時期はないそうだ。

 デビューして間もなくスターになった人間もいる。スターの座を維持している者も、転落してしまった者もいる。芸能界から引退した者もいる。結婚退職した女の子の中には、主婦なんてつまんないのよぉ、忠弘くん、抱いて、なんて迫ってきた奴もいた。

 その昔、共演したことのあるもとアイドル。いささか所帯じみてきていたのも面白くて、彼女の誘惑に乗ってみた。というのは余談だが。

 そして、俺のように長く下積み生活をして、あるときブレイクした者もいる。俺は十年ばかりはスターと呼ばれる位置にいるが、一寸先は闇。俺がいるのはそんな世界だ。権藤さんとダーティエンジェルスの話などしながら飲んでいると、俺がこんな大役者となぁ……と不思議に思えたりもした。

「あ、おはようございます」

 真夜中だというのに、おはようございますと挨拶しているのは誰だ? 芸能人が出没する店なので、誰と会ってもおかしくもないが……と見やると、アイドルの相川カズヤだった。

「彼だったら本物の平成生まれですよ。権藤さん、ちょっと俺と見比べてみて下さい。カズヤ、こっち来い」
「嬉しいな。桜田さんと……権藤さん? そんなすごい人たちに混ぜてもらえるんですか」

 時代劇の大スターを彼はよくは知らないとみえるが、かまわず呼ぶと、権藤さんと俺の間にすわった。権藤さんもアイドルには興味がなかったようなので俺が改めて紹介すると、ほおほお、と言って彼はカズヤの肩や腕に触れた。

「きみはいくつだね?」
「二十一です」
「そうすると、この三人だと祖父さんと親父とその息子の男三代ってとこか」
「二十歳ずつくらいちがいますから、あり得なくもないですね」
「そうなんですか? じゃあ、お父さん、おじいちゃんって呼んでいいですか」

 調子のいいアイドルは、まあまあ、おじいちゃんどうぞ、などと言って権藤さんに酌をした。

「そのくらいの若造だったらしようがないんだろうけど、か細いよな。背だって桜田くんのほうがずっと高いだろ。若い娘はカズヤくんのほうがいいって言うのか?」
「そんなことないですよ。僕は桜田さんの足元にも及びませんから」
「そうか、そうだろうな。きみは頼りなさすぎだ」
「はい、もっとがんばります」

 先輩を前にすると俺にもへりくだる癖がついているが、近頃の若い奴らも如才がない。カズヤなんぞは誰にでも愛想もよく、腰が低いと言われて評判もよい。作っているのならばなかなかのものだ。

 一般人の若者のほうが、おっさんやじいさんとなど飲みたくもないのではないか。近頃の新入社員は職場の飲み会も断る、慰安旅行やバーベキュー大会などもいやがると聞いたし、ドラマでそんな若者に手を焼く上司の役をやったこともあった。

 けれど、カズヤは権藤さんに酌をしたり、俺が煙草をくわえるとすかさず火をつけたくれたりして、気配りも満点だ。酔いが回るにつれてぐだぐだしてきた権藤さんの説教も真面目に拝聴している。

「おまえ、大物になるぞ」
「は? 僕がですか? 桜田さん、どういう意味で?」
「いやいや、いいんだよ」

 売り出し中真っ盛りの若者は、怪訝な面持ちで俺を見返す。権藤さんはひとりごとのように、がんばれよ、そうだ、カズヤくん、出世しろよ、などと言っていた。
 一寸先は闇、だけど、闇の中を上手にすり抜けて明るい日差しの中に出ていける奴もいる。どうなるかわからないからこそ、この世界は面白いのだ。

END







 
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~ Comment ~

NoTitle

役者というのも大変ですよね。
私はやったことがないのでアレなのですが。
誰かになりきるというのも、考えてみると大変なものですね。

LandMさんへ2

こちらにもありがとうございます。

役者となんとかは、三日やったらやめられない、そうですよね。
なんとかはともかく、自己顕示欲旺盛な人間は、役者として注目されて喝采を浴びたら、たしかにやめられないのだろうとうなずけます。

もの書きも似たところはありますよね。
生身の自分ではなく、自分の書いたなにか。
考えてみたら怖いものがありますよね。
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