ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「も」

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フォレストシンガーズ

「ももいろ気分」

 聞き間違い? 社長の言い間違い?
 事務所に呼ばれて社長の言葉を聞いた俺は、そうとしか思えなくて咄嗟には返事のしようもなかった。

「本庄、いやなのか?」
「いやというか……いえ、もういっぺん言って下さい」
「もういっぺん言えって、喧嘩を売ってるみたいだな」
「そういう意味ではありませんが……」

 上機嫌なのだから、社長はジョークを言っているつもりなのだろう。
 我々が所属する音楽事務所の社長である山崎敦夫氏は、時として悪いジョークを口にする。もっとも強烈だったのは、俺たちが若くて全員独身だったころ。

「本庄、山田が退職するらしいぞ」
「えっ?! そんな急に? なにかあったんですか?」
「結婚するんだってさ」

 大ショックを受けた俺は、フォレストシンガーズの残り四人に電話をしてすがった。みんなしてショックを受けて、受けすぎて美江子さんにつめたく接して怒らせ、結果、判明したのは……。

「昨日はエイプリルフールだろ」
「……昨日はメイディです。五月一日です」
「あ、まちがえた」

 という、間抜けな結末だった。
 その調子で、今日もエイプリルフールのつもりか? 今日は四月一日ではないが、またもやまちがえているのか。いずれにしてもなにかのまちがいだとしか思えなかった。

 全員でだったらまだわかる。乾さんだったらわかる。だけど、だけど、俺がひとりで? あり得ない。俺は社長の顔をじーっと見据え、低い声で念を押した。

「嘘ではないんですよね」
「なんだって私が、きみに嘘を言わなきゃならん?」
「昔、社長は俺に嘘をつきましたよ」
「いつ?」

 忘れているのかとぼけているのか、面倒なので追及するのはやめておいた。

「私は嘘なんてものは、一生に一度もついたことはない」
「幸生みたいに言わないで下さい。嘘じゃないんですね」
「嘘じゃないよ」
「なにかのまちがいでもないんですね?」
「ちがうよ。きちんと確認して、私は了解した。あとはきみが受けるかどうか決めるだけだ。本橋や乾や山田に相談するか? 奥さんに相談するか」
「すこし……考えさせて下さい」
「いいよ」

 おい、本庄、それでな……と社長がなにか言いかけているのを聞かずに、俺は彼に頭を下げて事務所から出ていった。頭の中にももいろの靄がかかっているような気分だったから、それ以上は社長の話を聞いていられなかったのだ。

 嘘でも冗談でもまちがいでもないんだったらそれでいい。俺が……この俺が? 乾さんじゃなくてこの俺が?
 生きていればそんなこともあるんだなぁ。今日はこのまま家に帰って、恭子に話そう。そう決めて実行に移した。

「シゲちゃんが?」
「そうだよ」
「ほんと?」
「本当だよ。社長に言われて、嘘でもまちがいでもないって確認した。社長は明言したんだから、これで嘘や冗談だったら俺は怒るぞ」
「シゲちゃんが本気で怒ったらどんなだろ。ちょっと怖いかも」

 くすっと笑ってから、恭子は絵を描いている長男の広大に言った。

「パパねぇ、雑誌の表紙になるんだって。ほら、そこに置いてあるママの雑誌。そんな雑誌の表紙にパパの写真が載るんだよ。かっこいいね」
「うん、パパ、かっこいい!!」

 三歳の広大にはしっかりとはわかっていないのだろうが、かっこいいと言ってもらえると単純に嬉しかった。

「で、女性向きの雑誌ってなに?」
「なにって……来春に創刊される女性向けの雑誌だって言ってたから、そこらへんにある、恭子が言ってるようなそんな雑誌じゃないのか?」
「はっきり聞いてないの?」
「あ、そういえば……」

 事務所を出ていこうとしていた俺の背中に、社長が言いかけていたのはそれだったのかもしれない。しまった、続きを聞くべきだった。女性向け雑誌の表紙に俺の写真が……という前代未聞、空前絶後の情報に舞い上がってしまって、桃色気分になってしまっていた。

「女性向け雑誌ったっていろいろあるよ。社長に電話してみたら?」
「そうだな」

 ももいろ一色の気分がすこし色褪せる。けれど、俺の写真が女性向け雑誌の表紙を飾るという事実は揺らがないはずだ。たとえば老人世代女性向けだったとしても、俺は嬉しい。

 恭子に言われた通りに社長に電話をしてみようとしていたら、当の社長からメールが届いた。こういった機器には疎い我々だが、三十代のシンガーがいつまでもガラケーってのもな、と本橋さんが言って、最近一斉にスマホにしたばかりだ。

 慣れないスマホの操作に手間取っていたら、恭子がメールを開いてくれた。読んでいい? と問われてうなずくと、恭子は社長からのメールを一読して、ふふっと笑った。

「言いかけてたのに聞いてなかっただろ。その雑誌ってのはな……って文面よ。シゲちゃんはなんだと思う?」
「女性雑誌っていうとファッション雑誌だとしか考えられなかったんだけど、俺がそのたぐいの雑誌の表紙になるわけないよな。ファッション系だったらおばあさん向けとか?」
「ちがいます」
「じゃあ、主婦向け節約雑誌」
「ちがうよ。うーん、なんかちょっと妬けるかな」

 妬ける? 恭子が妬けるような雑誌とはなんだろう。妻に妬かれる……色っぽい雑誌か? 昨今は女性向けポルノなどもあるようだから、まさかその手の? うろたえそうになっていると、恭子がようやくメールを見せてくれた。

「来春創刊される、女性向けマラソン雑誌だよ。最近は女性ランナーも増えてるんだそうだな。幅広い年齢層の女性に向けてのマラソン雑誌。創刊号の表紙はきみと、現役女性マラソン選手だ。受けるんだろ? 私も楽しみにしているよ」

 ああ、そっか。それだったらあり得なくもない。納得して、むしろ安心もした俺に恭子が微笑みかける。女性マラソン選手とツーショットだなんて妬けるわ、という意味だったのか。

 まあ、そりゃそうだ。乾さんじゃないんだから、俺が女性ファッション雑誌の表紙になるわけがない。そんな雑誌、誰も買うもんか。早とちりで舞い上がってしまったが、俺としてはランナー雑誌のほうがいい。お受けしますよ、と社長に返信しよう。

END








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~ Comment ~

NoTitle

ついにシゲちゃんが雑誌の表紙に!
そりゃあ、嬉しいけど戸惑いますよね。
何の雑誌かまず初めに訊かない辺りは、彼らしいな。

最初は、イクメン雑誌かなと思ったけど、そこまでイクメンではないのかもしれないし。
いまはいろんな雑誌がありますからね。そっか、女性マラソン愛好者向け。
うう、走るどころか、歩くのも苦手な私は手に取りそうにない雑誌だけど^^
シゲちゃん、よかったねえ。
でも表紙で売り上げが代わるっていうし、ここは責任重大かな?と、ビビらせる。

NoTitle

うお!?シゲちゃんが!?
私はマラソンしないですが、シゲちゃん表紙だったら買いますよ!

シゲちゃんが表紙を飾る雑誌って言われて、なぜかメガネ、浴衣、髭剃りが浮かびました(笑)シゲちゃんメガネかけてなかったはずなのに(^_^;)
シゲちゃんスポーツ系の女性にモテるのかな?
なにより雑誌デビューおめでとうですヽ(=´▽`=)ノ

limeさんへ

いつもありがとうございます。
おっしゃる通り、シゲはそれほどイクメンではありません。
ほんとは育児もしたいのですが、仕事柄無理ってところですね。

え? 表紙で売り上げが変わるんですか~?
責任重大なんですか~?
うわー、どうしよう、恭子、断ったほうがいいかな?

とシゲがうろたえ、奥さんに笑い飛ばされています。

私も走るのは苦手で、ウォーキングだったらやっていますので、そっちにしてほしいんですけどね。
でも、マラソンは人気がありますから、シゲがんぱれ。

たおるさんへ

いつもありがとうございます。

シゲは奥さんがアスリートですし、彼も走るのが好きなのは知っている人は知っていますので、創刊号だしちょっと変わった人に表紙を……ということで選ばれたのだと思います、たぶん。

この雑誌「フェミラン」って言うんですよ。フェミニンランニングです。ぜひ買ってやって下さいね~。
アマゾンにあるかしら(^o^)

メガネ……浴衣、髭剃り、浴衣の着流しで眼鏡をかけて、髭を剃ってるシゲですか? シゲは髭は濃いほうですので、剃り残しがないように眼鏡をかけて注意深くやってるんですかね。
いいですねぇ、そのイメージのイラスト、見たいでーす。

NoTitle

ちょwwあかねさんwwwでもあかねさんがおっしゃるなら頑張ります(笑)

書けなかったらボツということでよろしくお願いしますm(__)m

たおるさんへ

きゃああ、無理なお願いをしてしまいました?
たおるさんのご負担にならないようでしたら、描いて下さると最高に嬉しいですが。。。。

無理にとは申しませんので……ごめんなさい、軽い気持ちで発言してしまって。

真夏の夕方、マンションのベランダに出したカウチ。
ラジオから流れるナイター。
お父さんがラジオを聴きながら、眼鏡をかけて浴衣姿で髭剃りをしていた。
夜になったらお父さんは仕事で出かけるから、髭を剃ってるんだ。

シゲの長男の広大の、幼いころの記憶。
そんな感じでぱーっと光景が浮かんだのでした。
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