番外編

FS超ショートストーリィ・四季のうた・夏・繁之

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フォレストシンガーズ・超ショートストーリィ・四季のうた

「夏の川」

 教養がないから、なにかを見るとたちどころに短歌や俳句が出てくる乾さんのようにはいかない、と繁之は嘆きたくなる。先日も川べりを歩いていて歌が浮かんだと思ったら、「川の流れのように」という流行歌だった。美空ひばりではないか。

「また句会をするとか言ってたしな……」

 夏の川、題材としてはぴったりだ。丈高く繁った草の上に腰を下ろした繁之は、俳句が出てこないかと目を閉じる。短歌は長すぎる……俳句は短すぎる。だったら俺はなにを詠めばいいのだ? よむ……読む、詠む、息子に絵本を読んでやるほうがいいな。

「乾さん、短歌って英語でなんて言うんですか」
「短歌はタンカ、俳句はハイク、カラオケだのカミカゼだのモエだのもそうらしいけど、日本語がそのまま通じるらしいよ」

 学生時代からの尊敬する先輩で、ともに仕事をするようになってからも尊敬している本橋真次郎と乾隆也、それぞれ別の意味で尊敬しているのだが、俺はこのふたりについてこられてよかったと、繁之は心から思っている。

 文系は隆也、理系は真次郎、音楽的には後輩の幸生や章も教えてくれるから、俺は社会人としてやっていけてるんだな、と繁之は常々フォレストシンガーズのみんなに感謝しているのだった。

「ここは大阪じゃないけど……あ、この歌、好きだな」

 浮かんだのはやはり「歌」だ。ソングの歌。タンカもハイクも今は無理だから歌おう。

「大阪ビッグリバーブルース
 もうそんなに泣いたらつらいさかい
 大阪ビッグリバーブルース
 なぁ おまえの涙を止めてくれへんか
 スィートハート」

 目を閉じて歌っていると、背後に人の気配を感じた。

「わ……」
「あらあら、すみません」
「いえいえ、こちらこそすみません。真昼間にこんなところで歌う歌ではありませんでしたね」

 振り向くとそこには小さな男の子が立っていて、目を丸くして繁之を見ていた。昨今は大人の男が見知らぬ子どもに接触すると、声をかけただけでも変質者扱いされる恐れもある。繁之だってたまさか息子の広大を公園に連れていき、中年男がいたりすると避けたくなるのだから、その風潮も無理はないかと思っていた。

 子どもがひとりでいたら困るところだったが、彼にはおばあさんがついていた。こんな歌、夜のブルースハウスで歌うものだよな、と思っている繁之に、おばあさんが言った。

「いいお声……あなたもね……そうね、生きてるといろいろあるんでしょうけど、そんなに歌がお上手なんですもの。きっといいこともありますよ。あら、失礼、行こうか」
「はい、ありがとうございます」

 孫であるらしき子どもの手を引いて遠ざかっていく、おばあさんの細い背中。繁之は礼を言ったものの、首を傾げた。

 あのおばあさん、当然フォレストシンガーズなんて知らないんだろうけど、俺を何者だと思ったのかな。不遇な労働者だとでも? こんな暗い歌が悪かったのかな。幸生や章に話したら大笑いされるだろうな。
 あはっと笑って、繁之はひとりごちた。

「でも、いい歌だよな」

 周囲には誰もいなくなったと確認してから、繁之は夏の川に向かって続きを歌った。こうしていればひょこっと、俳句のかけらでも降ってこないだろうか、と願って。

END







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