ショートストーリィ(しりとり小説)

121「とんでも理論」

 ←ガラスの靴45 →花物語2015/六月「きみはサンダーソニア」
しりとり小説121

「とんでも理論」


 伝統的に合唱部は年功序列だ。女子部は男子部ほどではないらしいが、先輩にはさからいにくい空気があった。

「昨日、すごいものを見ちゃったんだ」
「すごいものってなんですか?」

 一年生の木山朝陽は、二年生の阿部睦に問い返した。
 入梅直後は意外に雨が降らないようだが、今日も陰鬱な曇り空。それでもべたっとした屋内よりは外のほうが気持ちがいいので、朝陽がキャンパスで弁当を食べていると、睦が寄ってきたのだった。

 自然にふたりで昼食となる。友達できた? 合唱部は楽しい? 学部はなんだっけ? との話題になる。朝陽が先輩に対しているのだからと礼儀正しく答え、一区切りついたところで睦が言い出したのだ。

「昨日はアルバイトで真夜中近くにうちに帰ってたのね。十一時すぎだった。そんな時間に外を歩いていたら、夜空でなにかが光ったのよ。昨日もこんなふうな曇天で、月も星もなかったでしょ」
「そうでしたね」
「だから、飛行機なのかと思った。だけど、ちがうんだな。変な動きをするの。じぐざぐ飛行っていうんだろか。おかしな飛び方をして、すーっと一直線に落下したのよ。落ちた場所は近くの神社みたいだから見にいったの」

 夜中にひとりで神社に行くなんて危険じゃないかとも思ったのだが、朝陽はおとなしく続きを聞いた。

「そこには自転車が落ちていたの」
「自転車?」
「正確には自転車型UFOかな」
「UFO?」

 重々しくうなずいて、どういうわけだか横目でちらっと木陰のほうを見てから、睦は大真面目に続けた。

「あんな変な飛び方をして落ちてきたんだよ。UFOに決まってるじゃない」
「そ、そうですか」
「なんていうのかな、自転車に乗ってた男性は……なんていうんだろ。レーシングスーツみたいな? そんなふうな服を着てたよ。レーシングスーツって宇宙服を参考にして作ったのかしらね」
「……はあ」

 っていうか、それって本当にレーシングスーツでは? 男性が自転車の練習をしていたのではないのだろうか。

「私、じーっと彼を見てしまった。話しかけたかったんだけど、日本語は通じないかもしれないじゃない? 彼は自転車型UFOの整備をしていたみたいなんだけど、私が見てたものだからむこうから話しかけてきたの。案の定、言葉がわからなかったんだよ」
「何語ですか?」
「宇宙語」
「はあ」
「だって、英語だったらだいたいはわかるじゃない。韓国語や中国語やフランス語、ドイツ語やイタリア語やスペイン語だったりしても、なんとなくは見当がつくでしょ。だけど、彼の言葉はなにひとつ、まったくまったくわからなかったの。宇宙語だよ」

 地球にはその言語を学んでいない人間にはまるで理解不能な言葉があるはずだが、宇宙語って……朝陽としてははあ、としか反応できなかった。

「その男性、困ってるみたいでなんだかんだ話しかけてくるんだけど、私にはわからない。彼も諦めたみたいで、がんばって自転車……自転車じゃなくてUFOだね。それを修理していたの。私は横で黙って見守っていた。そうしていると心が通い合ってくるみたいだったのよ」
「……はあ」

 はあ、と朝陽。睦もはぁっ、と言ったが、そちらは切ない吐息のようだった。

「だけど、言葉の通じない人間同士じゃない。彼は自転車を修理し終えて、私に手を挙げたわ。さよならって意味だね」
「宇宙人もさよならの挨拶は同じなんですね」
「そりゃそうよ」

 皮肉のつもりは聞き流された。

「彼、私にキスしたかったんだろうな。キスくらいだったらよかったのにね」
「宇宙人とキスして……」

 本当に宇宙人だったらロマンティックかもしれない。あるいは、未知の病原体を持っていて、それが睦に感染し、地球全土に広がるとも考えられる。どちらの見解も口にせず、朝陽は残っていた弁当を食べ、睦ははあ、はあ、とため息をついていた。

 その日はそれでおしまいだったのだが、数日後に朝陽が睦に会ったとき、彼女は合唱部の男性部員とあの日のベンチに並んで腰かけて話をしていた。
 
「だったら、あの落ちていった光は?」
「別ものだろ。偶然、きみはなにかの光が落ちるのを目撃した。自転車はまったく別のルートでそこにいた。どうして結びつけるんだ?」
「結びつくんだもの」

 あの話であるらしい。
 男子部は女子部とは別なので、一年生の朝陽は彼が何者なのかは知らない。顔は見たことがあるな、程度だった。その男性と睦は熱心に話し込んでいる。朝陽も気になって近くのベンチにすわって聞き耳を立てる。男性は朝陽などはまったく意識していない様子だったが、睦は気づいているようだ。

「そもそも、そんな夜中に女の子が神社に行くのがよくないだろ」
「永田さんだったら行かない?」
「うーん……気にはなるから行くかもな」
「もしも今度目撃したら……」
「そうだな。そんなことがあるとも思えないけど、あったとしたらからくりを暴いてやるよ。一度、そのUFOが落ちたって場所に連れてってくれる?」
「そうだね、行ってみよっか」

 楽しそうに笑ってから、睦が朝陽に目配せしたような気がした。もしかしたら……と朝陽は思う。
 朝陽が睦にUFOの話を聞いたとき、睦は木陰を気にしていた。あそこに彼、永田というらしき男性がいたのではないか。永田は睦の意中の男性で、UFO話などは大好物。それで、永田に聞かせるために朝陽にあんな話を?

 うがちすぎかもしれないが、現に永田はそれを話題にし、その場所に連れていくという約束までできているではないか。
 あんな変な話を展開する先輩には近づかないほうがいいかとも思ったが、そのための作り話だったらかまわない。その程度のかけひきは可愛いものではないか。

 どっちだかわからないが、永田の気を引きたいがために朝陽にそんな話をした、そう考えておいたほうが、朝陽の精神衛生上はよさそうだった。

次は「ろん」です。

 朝陽、永田、睦、はフォレストシンガーズとはちょこっとだけ関係のある男女で、このブログの他の小説にもちらちらっと登場します。もしも読んで下さった方がいらしたとしても、記憶にない、のが当然程度の登場でした。








スポンサーサイト



【ガラスの靴45】へ  【花物語2015/六月「きみはサンダーソニア」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

なるほど~。
いったいこの睦って子は、なんでこんな話をするんだろう、電波系? なんて思っていましたが、 朝陽君の推測で、納得しました。
なかなかの策士ですね。
でも、こんなに頑張ってるんだから、デートの一回くらい、もらってもいいかな。
恋が実るかどうかは、ちょっと妖しいけど・・・。

limeさんへ

コメントありがとうございます。
こういう策士は若い子だったら許せます、よね?

彼女、電波系も入っているかもしれませんが、彼もちょっと入っていたりしたらお似合い……かな?

趣味の合うカップルはやっぱりつきあっていて楽しいでしょうから、深く考えなかったらお似合いなのだということにしておきます。
うんうん、そうしましょう(^^)/

あかねさんへ!!♪

おばんです!
先ほど軽い地震がありました。最近は多いですねー。
大阪は雨でしょうか!今日も虎が勝つ様に祈っています。!
明日は循環器の定期検査ですので節酒の好影響が出ることを期待しています・・・笑)
私、S40年代大正区に住んで北浜に通っていたのですよ・・・
大阪大隙・・・なんですね~~!☆!!

荒野鷹虎さんへ

コメントありがとうございます。
大坂でも先日、軽い地震がありましたが、軽すぎて気づきませんでした。
北海道も多いのですか?
以前の大震災を思い出すと怖いですよねぇ。災害はやってこないでほしいです。

大阪はそれほどひどい雨ではなかったのですが、甲子園は山の近くですから、激しかったのかもしれませんね。中止でした。
残念ですけど、無理にやって怪我などすると大変ですから、しようがないですよね。

去年は甲子園のオールスターに行きまして、生藤浪と生大谷を見ました。ふたりとも、調子よくなかったような……というよりも、オールスターなんだから本気では投げてない(昔、巨人の斎藤投手、現コーチの彼なんかはあきらかにオールスターだと手を抜いてましたよね)んだったりしたら、大物ですよねぇ。

大阪は嫌いだとおっしゃる方もけっこういらっしゃるようですが、住んだこともあったうえで好きだと言ってもらえると嬉しいです。
ぜひ、甲子園でトラの応援をして、大阪でお好み焼きでも食べて下さいませ。

私は北海道が大好きです。一年くらい暮らしてみたいです。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ガラスの靴45】へ
  • 【花物語2015/六月「きみはサンダーソニア」】へ