別小説

ガラスの靴45

 ←キャラしりとり15「お婿にもらって」 →121「とんでも理論」
「ガラスの靴」

     45・夢見

 似てるんじゃない? ということで紹介してもらった男の子は、僕よりは背が高いが身体も大きくはなく、細身で可愛い顔をしている。二十一歳だというから僕よりもふたつ年下の彼は、科夢と名乗った。

「カムくん?」
「そう、科学の夢」
「鉄腕アトムみたいだね」
「なにそれ?」

 アトムって知らないのかな、僕が古いのかな、と思ったので説明はせず、カムくんとふたりでゆっくり話せる場所に移動した。
 彼は高卒フリーター、アイドルになったらいいのにと女友達にそそのかされてオーディションを受けにいき、彼女と知り合ったのだと、隅っこに移るまでの間に聞き出した。

「彼女、いるんだね」
「うん。そのアイドルオーディションの仕事をしていた、僕よりも十一歳年上のプロデューサーなんだ。トーコちゃんっていうんだけど、彼女、僕がほしくてオーディションに不合格にしたんじゃないかと思うんだよね。僕がアイドルになっちゃったら手が届かなくなるでしょ」

 年上の彼女がいるところが、僕と似ているのか。僕はアイドルになろうなんて考えたこともなく、そんなしんどそうなのはいやだと思う怠け者だが、顔が可愛いのだからとテレビに出たがる男女はよくいるものなのだ。

 時たまアンヌに連れてきてもらう、音楽業界のパーティ。東の子、と書いてトーコさんと読むというカムの彼女も音楽業界人だ。カムと僕は小さい控室に入り込み、中から鍵をかけた。

「僕の奥さんも七つ年上で、ロックミュージシャンなんだよ」
「笙くんも食われちゃったの?」
「……食われたっていえば近いのかもしれないけど、僕はアンヌが好きだから」
「僕だってトーコちゃんは好きさ」

 オーディションには不合格になり、その場合は通知も届かないからがっかりしていたカムくんのもとに、音楽プロダクションから電話がかかってきたのだそうだ。

「カムインとか、カモンとかのカム? ユニークな名前よね。キミの名前の由来って?」
「由来?」
「まあいいわ。お話があるの。会わない?」
「なんの話?」
「悪い話じゃないから、出てらっしゃいよ」

 その電話をかけてきたのがトーコさん。暇だったのもあって、カムは彼女に指定された店に出かけていった。
 夜中のクラブ。トーコさんはセクシーなドレスをまとっていて、カムはどきっとした。な、なんの話? と問いかけた声が上ずっていたらしい。

「キミは敬語も使えないの? 私はキミよりも十も年上だよ。ですますで喋りなさい」
「……なんの話? 仕事をくれるの?」
「敬語を使いなさいって言ってるのが聞けないの?」
「うるせえな」
 
 初対面同然のときから叱りつけられて、カムは反抗的になった。トーコさんは怖い顔になり、ちょっと来なさい、と言ってカムの手を引き、どこかへ連れていった。

「この部屋みたいな狭い控室だったよ。トーコさんはそのクラブの常連だから、飲みすぎたりしたときには貸してもらうんだってあとから聞いた。だけど、そのときには知らないだろ。なんだか怖くて、そんなところでね……」
「なになに?」

 誰かが入ってくるかもしれないスリルもあって、カムはどきどきそわそわ。トーコさんのほうは落ち着いていて、カムをソファに押し倒した。

「トーコさんってでかい女? 力持ち?」
「特にでかくはないよ。僕と同じくらいの身長かな」
「そしたら女性としてはでかいほうだね。アンヌもそんなもんかな」

 細身なのもカムと変わらなくて、さして力持ちでもないトーコさんに簡単に押し倒されたのは、カムもいやではなかったからだ。覆いかぶさってきたトーコさんにくちびるを奪われ、服を脱がされて全裸にされ、全身くまなく愛撫された。

「中学のときにも高校のときにも、女の子と幼稚なセックスはしたんだよ。そんなもん、あれってほんと、ガキの遊び? ってほどに……もうっ、最高!!」
「へぇぇ」

 すると、彼は僕よりは進んでいるわけだ。僕は十八歳でのアンヌとのセックスが初体験で、アンヌ以外の女性とはベッドに入る寸前まではいっても逃げてしまった。僕はアンヌひとすじ貞夫の鑑なのである。

「僕はもう、それでトーコちゃんのとりこさ。あたしのものになりなさい、って言われて……じゃあ、トーコちゃんも僕のものになって……って答えて、あたしは誰のものでもないよ、馬鹿、って言われて……そんなつきあいをしていたんだ。そうしているうちには僕はトーコちゃん以外の女なんかどうでもよくなった。僕だってもてるんだけど、トーコちゃんはもっともてる。トーコちゃんを僕ひとりのものにするにはって……」

 結婚するしかない。カムはトーコさんにプロポーズし、キミが女にプロポーズって、十年早いよ、馬鹿、と罵られたのだそうだ。

「そんなら子どもつくろうよ」
「いらないよ、子どもなんか」
「だけどさ、トーコちゃんはもう三十すぎたんでしょ。いい女は結婚してて当たり前だよ。独身なんてかっこ悪いよ」

 苦し紛れのカムの台詞に、トーコさんは揺らいだらしい。

「最近のいい女ってのは、旦那なんかよりずーっと稼ぎが良くて、器も大きいんだ。旦那は適当にやってりゃいいのよ、なんだったらあたしが養うからって、僕の知ってるかっこいい女はみんなそうだよ。トーコちゃんだってそうなりたくない?」
「……別にキミを養いたくなんかないけど、結婚ってのは悪くないかもね。あたしは浮名を流しすぎてるから、つきあうだけだったらいいけど、結婚となると……って二の足を踏む男ばっかりなのよ。カムとだったらいいかも」

 浮名ってなんだろ? とは思ったのだが、どうでもいいので、カムは押しまくった。トーコさんは揺れ、揺れて揺れて、ついに今度はカムがトーコさんを押し倒したのだった。

「そうなんだ。だからきみたちと僕たちが似てるって言われたんだね」
「ねえねえ、笙くんとアンヌさんの結婚式ってどうだったの?」
「僕ら、でき婚だし、式は挙げてないんだ」
「そっかぁ、僕は盛大に豪華にやりたいな」

 うっとりした顔になって、カムは言った。

「真っ白なタキシードに花をいーっぱいつけたのを着たいんだ。お色直しでは紋付き袴と、赤いスーツもいいかな。南の島の花婿みたいな花柄のシャツなんかもいいかな。僕は花が大好きだから、花いっぱいの衣装で花いっぱいの結婚式をしたいんだ。トーコちゃんがいやがるからできないけど、いいって言ってもらえたら、ウェディングドレスも着てみたいな。花柄のドレスなんかもいいな」
「……きみ、女装趣味があるの?」
「笙くんは着てみたくない?」
「ないよ」

 その趣味は僕にはない。

「ずるいと思わない? 女のひとは綺麗なドレスを着て、ヘアスタイルもごてごてっとさせて、髪にまで花を飾ったりするんだよ。男はそういうことができないんだもん。つまんないよ」
「普通、結婚式では花嫁が主役だからね」
「そんなのずるいよぉ。僕も綺麗な服を着て、綺麗なお婿さんになりたいよぉ」
「……うーん。そうだねぇ。トーコさんにお願いしてみたら?」
「聞いてくれないもん。トーコちゃんってすぐ怒るんだよ。結婚したらお小遣いは十万円でいいよって言ったら、キミの小遣い分はキミが働きなさいねって言うんだ」
「専業主夫になるの?」
「当然だよ」

 そこもまた、僕らと似ているところだ。

「トーコちゃんが好きで、僕ひとりのものにしたくて結婚してもらうんだけど、冷静になって考えてみたら、僕は結婚してまで働きたくはない。トーコちゃんだったら収入がいいから、お手伝いさんも雇ってくれるんじゃないかなって思ったんだけど、言ったら怒られそうだから、結婚してからだんだんお願いしようかなって。それにさ、なんたってトーコちゃんは女で、料理もできなくはないから、そこらへんの男よりはましだもんね」
「で、きみはなにをするの?」
「なにしようかなぁ。おしゃれとか? 楽しみだなぁ」

 金持ちと結婚して専業主婦になった女性には、カムみたいなひとがいなくもない。彼女たちの主な仕事は社交だと聞いた。夫がそれでいいのならそれでいいのだから、カムだってトーコさんが許せばそれでいいのだろう。

 うっとりした顔をして夢を語る結婚式直前の若いひと。カムという名の女の子だったら、それほど奇異でもないのだろうが。

「結婚式、結婚式だけが不満なんだよね。なんとかして僕もトーコちゃんに勝つくらいの綺麗なお婿さんになる方法ない? だいたいからして、僕のほうが若いんだもん。綺麗にしたらトーコちゃんには負けないよね」
「う、うん、そうだね」

 結婚式なんか面倒だ、興味ないから挙げたくない、という男性はいる。女性も同意し、親もそれでいいと言って結婚式なしの夫婦は、我が家をはじめとして時々はある。
 男性はそう思っていても、女性がやりたがる場合は多い。親に押し切られて仕方なく、といったケースも耳にする。

 が、美しい花婿になって花嫁にビジュアルで勝ちたいという男ははじめて見た。ふーん、へぇぇ、すげぇなぁ、としか思えない僕は、もはや現代の若者ではなくなっているのだろうか。カムくんが一般的だとは僕には考えられない。そんな話、他には聞いたことがないから、普通じゃないはずだけど。

つづく







スポンサーサイト



【キャラしりとり15「お婿にもらって」】へ  【121「とんでも理論」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【キャラしりとり15「お婿にもらって」】へ
  • 【121「とんでも理論」】へ