ショートストーリィ(しりとり小説)

120「ルームメイト」

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しりとり小説120

「ルームメイト」


 アメリカかぶれで若いころにはアメリカを旅行しまくって、当地で知り合って結婚したという両親がいる。聡も両親にアメリカの話を聞かされ、子どものときには親に連れていかれ、高校生にもなるとバイトで貯めた資金で貧乏旅行をした。

 なので、聡自身もアメリカかぶれしているのは否めない。欧米の安宿などは大部屋をカーテンで仕切っただけで、男女をごた混ぜにして詰め込んだりもするのだから、男女がルームシェアするのも同じだと信じていた。

 高校を卒業すれば独立するのが当たり前。その感覚もアメリカかぶれの両親には当たり前だったのだろう。大学には行きたくないと言ったら、好きにしなさい、との答えだったのも、日本人の親としては特異なほうだったのかもしれない。高校を卒業した聡は小さなアパートでひとり暮らしをして、旅行をしたり勉強したりして生きてきた。資金はアルバイトで稼ぎ、ひとり暮らしはなんとかなっていた。

「だけどやっぱり狭いし、風呂もないんだよね。もうすこしいいところに引っ越したいんだけど、金がないからな」
「そうねぇ。私の住んでるアパートも狭くてぼろいから、もうすこしましなところに替わりたいな」
「そしたら一緒に住まない?」
「え?」
「純粋に。ルームメイトとしてだよ」
「あ、あっ、ああ、そうね」

 バイト先の食器店で親しくしている、同じアルバイトの実緒を誘ったら、彼女は迷った末にうなずいてくれた。だが、ルームメイトになってしばらくしてから、実緒が言ったのだった。

「このごろ人の目が気になるんだよね」
「うちの店の人たち?」
「そうなの。聡くんも言われなかった?」
「言われるけどね」

 え? 聡くんと実緒さんは一緒に住んでるの? つきあってるんだっけ?
 隠す必要はないと思っているので誰かに話すと、決まってそんな反応がある。お金がないならルームシェアっていいかもね、と両親は言ったが、他人がこぞって反対するのである。

 反対したみんなは、男と女が一緒に住むなんて同棲とどうちがうの? ルームメイトだなんて通らないよ、だらしない、ふしだらだなどと言ったのだが、聡にはまったくピンと来ていなかったのだ。
 当人同士がいいんだからいいじゃないか。実緒さんはごく普通に受け入れてくれたのに、どうして無関係な他人があれこれ言うんだ?

「だから私、転職しようと思うんだ」
「そう? 仕事は見つかったの?」
「派遣の登録をしていた会社に紹介してもらったから……」
「だったらよかったね」
「聡くんもアルバイトじゃなくて、正社員の仕事を探したら?」

 よけいなお世話だ、と思ったが、口論はしたくないので曖昧に微笑んだ。

「だって、聡くんだってもう四十歳近いでしょ。いつまでも若くないんだから、いつまでもふらふらフリーターってよくないよ」
「僕はまだ、自分が本当にしたいことを見つけてないんだよね」
「一生、見つからないかもしれなくない? そんなふうにもみんなに言われない?」

 親切ごかしに忠告や説教をしたがる者はほうぼうにいる。聡の人生なんだから聡の思うように生きろ、と親は言うと話すと、なんと無責任な、と赤の他人が呆れるのだった。

「そんな一生だったらそれでもいいよ。実緒さんも自分の思うように生きればいいんじゃない?」
「……聡くんって、結婚したいとは思わないの?」
「思わないよ」
「全然?」
「うん、ゼロ」
「そう……子どももほしくないの?」
「僕が子どもみたいなもんだから」
「……そうだね」

 呟いて、実緒は黙ってしまった。

「聡くん、こんばんは、お邪魔してます」
「ああ、いらっしゃい」

 翌日には実緒は店長に退職届けを出したようで、事務所にこもってふたりで話していた。話し合いが終わると実緒は帰宅してしまい、店長が変な目で聡を見ていた。その夜、聡がマンションに帰ると、実緒との共有スペースである小さなダイニングキッチンに女性客が来ていた。実緒の友人の待子だ。

「ちょっと話さない?」
「僕と? だったら着替えてくるよ」
「うん、お茶を淹れるね」

 着替えてダイニングテーブルにつき、聡はふたりの女と向き合う。待子が口を開いた。

「聡くん、そんな生き方してたら将来は野垂れ死にかもよ」
「そうかもしれないね」
「それでもいいの?」
「それもいいかもしれない」

 はぁ、と女性たちはため息をつき、待子は言った。

「聡くんは変わってるんだよね。実緒もそんな男を好きになるんだから、変わってる。変人同士で案外お似合いだと私は思うよ」
「実緒ちゃんが僕を好き?」
「今さら確認するわけ?」

 ぶるぶるっと聡は頭を横に振った。

「好きだからこそ、聡くんに一緒に住もうって言われてOKしたんじゃないのよ。聡くんって変人の上に女心をちーっともわかってないけど、日本の女は好きでもない男と一緒には住まないの」
「そりゃあ、嫌いなひととは一緒に住まないだろうけど……」
 
 好き、にはいくつもの種類があるではないか。聡だって実緒が好きだから、ルームメイトとしてともに住もうと決めたのだ。

「遠回しな告白だと思ったんだよね、実緒は。聡くんも実緒も三十代後半になって、一緒に住もうってことは結婚前提で、改めて言わなくてもそういうことだってわかるだろ、って意味だと実緒は思った。私にもわかるよ。恋人同士としてつきあってはいなかったかもしれないけど、友達から一足飛びに結婚ってことだって、このトシなんだからおかしくもない。そうだよね」
「そうかな」

 まったく、ひとっかけらも聡にはそんな気持ちはなかったので、当惑するばかりだった。

「なのに、聡くんは実緒に手も出してこない」
「あ、当たり前でしょ」
「どうして? 一緒に住んでるのにそんなのって、女は寂しいもんだよ」
「実緒さんと僕はセフレじゃないんだから」
「結婚するまでは大切にしたいって意味? それもいいけど、だったら、男の聡くんが正社員になりたくないとか、結婚願望はないとかって、愕然としちゃうよ」

 こっちのほうこそ、手を出してこない、などと女友達に喋る実緒に愕然としてしまっていた。

「聡くん、どういうつもり? 実緒は泣いてたんだよ」
「待子、そこまで言わなくていいってば」
「私がちゃんと話してあげるから、実緒は黙ってな。私は実緒を見かねて、お節介を焼いてるんだからね」
「……ううう……」
「聡くん、はっきりしなさいよ。男でしょ」

 性別を意識しないでつきあえて、ルームシェアもできる女友達。実緒は貴重な存在だと思っていた。けれど、結局のところは「男と女」だと意識していたのか。

 日本の女がこんなのばかりだとは思いたくないが、よりによってこんなのと一緒に暮らしてしまったのがまちがいだった。聡の心はその事実についての後悔と、どうやってこのルームシェアを解消するかを算段しなくては、との思いだけで占められていた。

次は「と」です。







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