ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「真」物語「真っ黄色」

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フォレストシンガーズ

真っ黄色

 北海道の中では人口もそう少なくはない町とはいえ、俺の故郷、稚内は狭いエリアだ。幼稚園から高校までの先生だって比較的近所に住んでいて、幼稚園の先生に言われたことがあった。

「章くんは女の子にもてたのよね。幼稚園に入ってはじめての、次の年には女の子にバレンタインのチョコをもらったでしょ」
「ああ、そうだった……かな」
「それからだって女の子には人気があったけど、私の印象に残っているのは卒園色の日よ。章くんはお母さんにしがみついて、帰ろうよって駄々をこねていたの。そしたら女の子たちがそばに寄ってきて、まだ帰ったらいけないんだよ、なんて言って、教室に連れて入ったの。覚えてる?」
「なんとなくは」

 証人もいるわけで、俺は幼稚園児のころからもてたのだ。
 幼児だったらちびでも問題ない。俺は顔がいいからもてたらしく、ガキのころの写真を見ればたしかに、整った可愛い顔をしている。

 小学生のときには女の子に道端で告白された。
 中学生のときには彼女がいた。
 高校生になるとキスもしたし、何人もの女の子をとっかえひっかえして、章はプレイボーイだなどと男友達に言われた。

 が、意外にも初体験は遅かった。

 あれは十八、大学生になった美少年は、東京の年上の女にレイプされて蕾を散らされた。断固拒否はしなかったのだから、いくぶんかは楽しんで……いいや、楽しんではいない。

 純真な心が残っていたのも踏みにじられ、好きになった女の子には無視され、そうこうしているうちに大学を中退してロックバンドのヴォーカリストになり、そんな人生を歩んで二十歳になった俺には、純な心はひとかけらほどしか残っていない。

 ちびだけど顔は綺麗なのは昔から変わらず、ロックファンの女の子には小さくて細くて鋭くて美形、といった男はそこそこ人気がある。バンドマンは不細工でもなんでもそれなりにもてるのだから、俺ほどだと最強だ。

 大学をやめてからは、恋ではなくて女と遊んでばかりいる。
 二十歳までの人生で、俺は恋なんかしたことがあったのかな。もてる男って案外、真面目に恋はしないのか。案外、じゃないのか。

 だって、そうだろ。若干二十歳のフリーター。バンドマンとはいってもアマチュアで、お先は真っ暗なのか明るいのかもわからない。
 そんな男が将来を見据えた真面目な恋愛なんかできるはずがない。真面目な恋愛ってのは結婚につながるのだから、くるくるパーで顔だけいい女と、なんにも考えてなくて顔だけいい男がそんなつきあいをするはずもない。むこうもその程度にしか考えていないのだろうから、適当に楽しんでいればいいのだ。

 四人の女の子が楽器を担当し、俺がヴォーカルの変則ガールズロックバンド、「ジギー」。ジギーにはなぜか女のファンが多くて、その過半数はベースのスーとギターのミミを支持しているようだ。スーとミミに次ぐのはドラムのローザとキーボードのマリ。男のファンは少なく、メンバーたちのファンにしてもほぼ女ばかりだ。

 実力のあるバンドには男のファンがつくという。ジギーは下手ではないつもりだが、男のファンを熱狂させるにはガキっぽいのか。俺のファンにしても女ばかりで、その上にメンバー中では最小数。その上に、彼女たちは俺の身体が目当てだ。

「章、どれにするの?」
「……むこうから近寄ってきたら、適当なのにするよ」
「あいかわらず盛んだよね」
「おまえこそ、ローザはどれにするんだ?」
「あたしはそんな遊びはしないもん。ロッカーにしたら品行方正だって言われるんだから」

 そうじゃないだろ、男が少ないからだろ、と俺は小声で言った。
 昨夜はファンもまじえてのジギーの飲み会だった。大半が女ばっかりで、俺はぐったりしてきたので、こっちから積極的に女の子に寄っていくつもりもなかった。

 ローザはホラを吹いている。マリには彼氏がいるのだそうで、ちょっかいを出してきた男に肘鉄をくらわしていた。ミミとスーはいつの間にやら消えていて、誰かとどこかに行ったのか、そうではなかったのかもわからなかった。

「酔っちゃった。章、送って」
「……おまえんち、どこ?」

 名前は知らないが、顔は知っている。ノーギャラで演奏させてもらっているジギーのライヴに、毎回といっていいほど来ている女だ。人の姿がまばらになった居酒屋で、彼女は俺に近づいてきた。
 可愛いってほどでもないけど、許容範囲かな。こんなのしか残ってないんだったらしようがないな、俺は半ば億劫がりながらも、ひとりで帰るのもつまらないから妥協しようかと思っていた。

 なのに、そこに別の女が割り込んできた。
 その子だったら名前も知っている。純菜という名のスリムな美人。俺は細くて小柄な美人がモロタイプだから、マリアンだとか名乗ったもうひとりは適当にあしらって、純菜を送っていくことにした。

「ああん、章、ずるい。純菜もずるーい」
「しようがないじゃん。マリアンよりあたしのほうが美女だもんね」
「ま、いえてる」

 うしろできーきー怒っているマリアンを置き去りに、純菜とふたりで外に出た。

「純菜って性格悪いな」
「性格の悪い美人と、性格のいいブスのどっちが好き?」
「純菜のほうがいいよ」
「だよね。ブスってほんとは性格もよくないんだよ。あたしみたいな綺麗な子の性格の悪さって可愛いでしょ」
「おまえは顔だけは可愛いよ」

 じゃれながら純菜のアパートに帰ったのは明け方近くで、抱き合うことに夢中で一睡もしなかった。今日は夕方から居酒屋のバイトだ。うちに帰ってメシを食ってシャワーを浴びて……めんどくさいな、バイトなんかさぼりたいな、とは思うのだが、稼がないと家賃も払えない。

 親父に勘当されて仕送りも止められている身だ。学生じゃないんだから仕送りなんかなくても当然なのかもしれない。いいんだ、俺は近いうちにロックで食えるようになるんだから、それまでの辛抱さ。

 今日は休みだと言っていた純菜は、ベッドの中から寝ぼけ顔で見送ってくれた。性格は悪いが顔も身体もよくて、相性もよかった。男遊びし慣れている女は、一夜限りで満足して執着はしないから気楽でもある。ばいばーい、と言っている純菜に手を振って、俺は彼女のアパートから出ていった。

「……う?」

 どこかから視線を感じる。そおっと見回してみると、建物の陰で人影が動いた。あの身体つきはマリアン? マリアンなんてのは偽名に決まっているが、あいつは俺たちを尾行してきて、あそこで六時間ばかり張っていたのか? そうと想像するとぞくぞくっとした。

 けれど、マリアンは俺には声をかけず、そひやかに消えていった。俺はあいつに恨まれるようなことはしていない。いや、ちょっとくらいしたかもしれないが、悪いのは純菜だし。

 責任転嫁しつつ、空を見上げる。ちょうど正午ごろか。太陽は中天に上り詰めている。
 情事の翌朝は太陽が真っ黄色に見えるって言わなかったっけ? けだるい気分でこうして女の部屋から出ていった経験は何度も何度もあるけれど、今夜はそこにマリアンというスパイスが加わって、サスペンス気分にまでなっていた。

AKIRA/20歳/END








 
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NoTitle

お。「真」物語・・・新しい企画ですかね。
第一弾はアキ。モテモテだねえ。
てか、若いねえ20歳。遊び盛り(?)

このころきっと、むちゃくちゃな経験をたくさんしているのでしょうね。
この時代があってこそ、いまの章・・・?

けいさんへ

コメントありがとうございます。

FSショートストーリィでは「なんとか物語」というのをシリーズ化していまして、「真」は真次郎の「真」。そして、真っなんとか、真っ黄色みたいな感じのストーリィを書いています。

以前にフォレストシンガーズを読んで下さっている方に、幸生も章もこんなことばかりしていたら地獄に落ちるぞー、と言われたことがあります。
幸生も章も無茶苦茶な経験を現在にいかしているのか……どうなんでしょうね? 落ちるとしたらなに地獄? 愛欲地獄ってありましたっけ?
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