別小説

ガラスの靴43

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「ガラスの靴」

     43・迷惑

 告白しなよ、しなしな、しなってば、と女性たちが誰かを焚きつけている。告白といえば恋愛がらみだろうか。シュフの常として僕も他人の色恋沙汰には興味津々なので、部屋を覗いてみた。

 妻のアンヌはロックヴォーカリスト、超有名人ではないが、彼女のバンド「桃源郷」はまあまあ売れているので、専業主夫である夫の僕と、三歳のひとり息子、胡弓もいい暮らしをさせてもらっている。住んでいるマンションも広くて部屋数もたくさんある。

 広い家に住んでいるのもあり、アンヌの交友関係が広いのもあり、僕がパーティ好きなのもあって、時々ホームパーティをやる。そんなときには胡弓はたいていは、僕の母に預かってもらっていた。

 今夜も胡弓はおばあちゃんちにお泊りだ。彼はおじいちゃんとおばあちゃんが大好きで、お泊りもいやがらない。おじいちゃんとおばあちゃんも孫が大好きで、今や胡弓が生き甲斐になっている。僕としても大人の時間が持てるわけなのだから、一石三鳥なのである。

 半分ほどは音楽関係者のパーティに、そうではない人種も加わっている。アンヌと彼女の友達、詳しく説明すればただの友達と呼ぶには複雑なのだが、簡単に言ってしまえば「アンヌの友達」の知可子さんや真澄さんやほのかさんが囲んで焚きつけているのは、やや太目の女性だった。

 彼女は勝子さんとかいう、テレビ局のADだったはず。最近はテレビCMの音楽制作仕事もよく入ってくるようになって、桃源郷もテレビと関わりができている。誰とでもすぐに親しくなるアンヌにも、テレビ関係者の友人が増えてきていた。

 仕事帰りにやってきた勝子さんは、カジュアルな服装でほぼすっぴん。特に美人ではないけれど若々しくて初々しくて、流行の最先端を走りたがる音楽業界人たちの中にいると学生みたいに見えた。

「ええー、私なんかじゃ……」
「私なんかって卑屈になったらいけないのよ」
「そうよ。勝子ちゃんは若いんだもの。女は若いってだけでも値打があるんだよ」
「そしたらあたしには値打はないのか」
「知可子さんのことは言ってないでしょ」

 わいわい喋っている女性たちの輪から、勝子さんが抜け出した。
 誰に告白するんだろ。勝子さんを焚きつけていた女性たちもわくわくしているようで、僕も気になってそーっと勝子さんについていってみた。

「こんばんは」
「あ? ああ、勝子さん、来てたの」
「来てました。あの、お話ししてもいいですか」
「いいけどね」

 相手はスーツにネクタイのサラリーマンのベーシックファッションを、微妙に着崩した男だ。テレビ局関係サラリーマンだろうか。勝子さんは二十歳そこそこで、彼は三十そこそこに見えた。

「あのね、前から言いたくて……」
「なに?」
「言ってもいいですか」
「……なにが言いたいのかな。まさかとは思うけど、山本さんが好きってのはないよね。まさかね。きみはそれほど身の程知らずじゃないよね」
「……そ、そうですか。そうですよね」

 この男は山本さんというらしい。僕が注目しているせいもあって、ふたりだけが周囲から浮き上がっているようだ。

「まさかね。僕がきみとたまには食事をしたり、仕事帰りにばったり会ったらお茶を飲んだりしたのは……なんていうのかな。ボランティア精神みたいなものだって、はっきり言っておいたほうがいいのかな。そんなつもりじゃないよね。まさかだよね」
「……いえ……」
「そのつもりだったわけ? やめてくれよな。きみの目、不愉快だよ。ものすごく腹が立ってきた」

 どんな目で彼を見つめたのか、僕の立ち位置からは勝子さんの表情は見えないが、冷めた口調で言い捨てられて席を立たれた勝子さんは、きっとがっくりうなだれたのだろう。
 あちこちでアンヌや真澄さん、知可子さんやほのかさんもあのシーンを見ていたはずだ。僕は勝子さんにはかける言葉も見つからなくて、山本くんが立っていったほうへと行ってみた。

「女に告白されて、なんだよ、あの反応は」
「……女ったって、あの女じゃ迷惑なんだよ」
「なにさまだよ、てめえは」
「僕には彼女はいるんだよ」
「いたっていいじゃないか。勝子はおまえを好きだって言ってる。結婚したいとまでは考えてないんだろうから、一回だけ抱いてやったらいいじゃないか」

 おいおい、アンヌ、勝子さんの望みってそれ? 僕としては突っ込みたくなったのだが、立ち聞きしているのだから黙っていた。

「いやだよ、あんな女。僕が穢れる」
「そこまで言うか」
「言うよ。アンヌさんから見たってそう思わない? 僕は高級な男。あの女は低級な社会の底辺で蠢く女だろ。ルックスがどうこう言ってるわけじゃないんだ。K大院卒の僕がなにを好き好んで、大学中退、しかも名もない田舎の大学、って女とつきあわなくちゃならないんだよ。僕は学歴のない女は絶対にお断りなんだから」
「ああ、そっちね」

 大学中退ってのはアンヌと同じだが、高校を卒業して専門学校に入学した僕は、大学受験を突破したというだけでも尊敬してしまう。そっか、大学中退って学歴ないことになるのか。

「僕には彼女はいるんだけど、その彼女も院卒ではないんだ。だから深くつきあうのを躊躇してしまうんだよ」
「私は********大学卒業よ。私と結婚する?」

 ********の部分は外国語らしく、僕には聞き取れなかったが、ほのかさんが言い、山本くんは彼女を見つめた。

「あなたは? ああ、そうなのか。*********って……あなたの告白だったら考えてみてもいいな。僕はあなたが誰なのか知らないけど、僕と釣り合う感じだ。僕よりはすこし年上なんだろうけど、あなたのことだったらもっと知りたいよ」
「……私は独身主義だから」
「……いや、それでもいいよ」
「私、子どもが三人いるのよ」
「は?」

 うっすら笑って山本くんをじっと見返してから、ほのかさんはきびすを返した。

「今どきの男って、女を学歴で差別するんだ」
「アンヌ、知らなかったの? そんなの珍しくもないよ」
「だったら山本は、とびきりぶすの五十のおばさんでも、東大医学部卒だったりしたらそっちを選ぶのかな」
「どうなの、山本くん?」

 知可子さんに問いかけられた山本くんは、口の中でもごもご呟いた。

「あたしは○○短大卒だから、駄目よね」
「あたしも大学中退だし」
「真澄はどこだっけ?」
「あたし、八街国際大学」
「そんな大学ってあるの?」
「洋裁学校だよ」

 洋裁学校が国際大学とはシャレがきつい、などと笑いながら、アンヌと真澄、知可子の三名も去っていった。山本くんは口をとがらせて、やや離れた場所で見ていた僕に目を止めた。

「ほのかさんって女性の大学はほんと?」
「そうみたいだね」
「……僕はそしたら、ほのかさんだったら……」
「あ、無理無理。あのひとは山本さんのテコになんか合わないよ。きみに告白されたら、ほのかさんが迷惑がるよ」
「それはどういう意味で……三人も子どもがいるなんて、嘘なんだろ」
「きみに説明するのってめんどくさいから、もういいよ」

 ほんのちょっとだけだったら、勝子さんの仕返しをしてやれただろうか。ほのかさんが自らやってくれたほうがいいのか。僕には女心はわからないし、普段は学歴なんてまったく気にしていないので、学歴差別が腹立たしいというのもわからないが。

 だけど、僕は主夫だ。シュフってのは通常は女だし、アンヌはいつだって女の味方だと言っているのだから、僕も一部を除く女性の味方だ。一部ってのはまあ、あんな女とかこんな女とか、ね。

つづく




 



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