ショートストーリィ(しりとり小説)

118「つっこみ」

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しりとり小説168

「つっこみ」


 わりと会社からは近いのに、すこし複雑に入り組んだ場所に建っているので常連しか訪れないカフェ。るり子が謙太に教えてやって、ふたりともにカフェの常連になっていた。
 会社の人たちは来ないから、内緒の相談もできる。五年後輩とはいえ、るり子には気安い口をきく謙太が、迷った末に口を開いた。

「彼女が距離を置こうって……」
「彼女って……彼女だよね。ミヤちゃん?」
「そうだよ」
「距離を置こうってどういう意味?」

 二年ほど前にも、ここでるり子は謙太に相談された。好きな女の子がいるんだ、食事に誘って告白しようかな、と言うから、告白は三度ほど会ってからのほうがよくない? 早まると後悔するかもよ、とアドバイスしてやった。
 アドバイスに従って手順を踏んでから謙太はミヤに告白し、恋人同士になった。

「忙しいんだって。彼女はほら、デパート勤めだろ」
「デパートは十二月が繁忙期だよね。でも、ミヤちゃんって繁忙期は関係ない売り場じゃなかった?」
「忙しい部署の手伝いに行くとか言ってたよ」
「だったらしようがないんじゃない?」

 趣味のサークルで謙太と知り合ったというミヤは、時計売り場で販売員をしていると聞いた。クリスマスプレゼントに時計を選ぶひともいるだろうが、デパートの品物は高級品なのでそうそう売れるものでもないらしく、ミヤの売り場はいつも暇なほうなのだと謙太が言っていた。

 デパート勤務の仕事は漠然としかわからないが、よその応援に行くことなんてあるの? ほんと? 嘘つかれてない? るり子がまず思ったのはそれだった。

「だから、十二月は会えないっていうんだよね。忙しくて疲れててデートする気にもなんないって」
「寂しい?」
「まあね。俺、ミヤちゃん大好きだもん」
「かわいそうだね。そしたら私が遊んであげるよ」
「るりちゃん、まだ彼氏できないの?」
「できない。ほっといて」

 屈託もなく笑っている謙太は、五年後輩とはいえ大卒なので、短大卒のるり子よりは三つ年下なだけだ。謙太はただいま二十七歳。ミヤは二十四歳だそうで、写真でしか見たことはないがお似合いのカップルだった。

 彼女のいる男とは同僚としてランチに行ったり、会社帰りにカフェに寄ってお喋りしたり程度しかできない。謙太にもるり子にも恋人がいない時期にはふたりで飲みにいったりもしていたが、どちらかに恋人ができると夜にはふたりきりでどこかには行かないという節度は守っていた。

 五年ほど前からの謙太とるり子のつきあいは、同僚でもあり友達でもあるものだ。謙太の彼女は知り合ってからふたり目。るり子にも一年ほどは彼氏がいたが、喧嘩別れしてしまった。

「十一月中は会えるんでしょ?」
「今からけっこう忙しいらしいよ」
「ったって、来年にはデートできるじゃない」
「そうだね。でも、待ち遠しいよ」

 臆面もなくのろけてみせる謙太に、るり子は呆れてため息をついたものだ。
 
「あけましておめでとうございます。暮れの休みには彼女と会えた?」
「暮れは大忙しだったんだから、会えるはずないよ」
「お正月は?」
「それがさ……」

 会社は同じでも部署は別々なので、新年の初出勤務が終了してから、謙太とるり子はいつものカフェで待ち合わせた。謙太は表情を曇らせていた。

「デパートは二日から開店するんだよな。福袋ってのが流行ってるだろ」
「そうそう。私も洋服屋さんの福袋、買ったよ」

 ほしかったスカートが福袋に入っていたの!! るり子としては嬉しかったのだが、謙太にしてみればまったくどうでもいいことだろう。そんな報告に生返事をしてから、謙太は言った。

「そっちの手伝いに駆り出されて、元旦から仕事だったんだって。三日までは福袋の販売やら片づけやらで、一週間ほど休んでないんだそうだ。四日にやっと休みが取れたけどくったくったで、初詣にも行けないって。五日の今日には俺が仕事だろ。もう一ヶ月半ほど会ってないんだよ」

 時計売り場の店員がアクセサリー売り場に手伝いに行く。絶対にないとはるり子には言えないが、怪しい気もした。

「デパートってハードなんだな。時間も規則的だとはいえないし、そうやってミヤちゃんが有能なところを見せちまったから、アクセサリーのほうに異動しないかって話も出てるらしいんだ。暇な時計売り場だったらまだいいんだけど、そっちに替わると結婚してやっていけるんだろか」
「結婚するの? プロポーズしたの?」
「まだだけど、するつもりだよ」
「ちょっと早くない?」
「二年もつきあってるんだよ」

 早いというのは交際期間ではなく、年齢だ。二十七歳と二十四歳で結婚するなんてもったいない、と三十歳のるり子は言いたいのだった。

「女はやっぱ早く結婚したほうがいいんだよ。男だって遅いよりは早いほうがいいんだ。二十代だと遊びたいとか仕事が楽しいとかで、結婚なんてずうっと先だって考えがちだよね。でも、そんなことを言ってるとあっという間に三十代になるんだよ」
「……だよね」

 その三十代がここにいるのに、おまえはそんなふうに言うのか? 口には出しにくくて、るり子の気分は鬱屈してきた。

「女は三十をすぎると妊娠出産に支障が出るんだろ。男だって子どもをつくるのは早いほうがいい。あまり早すぎても未熟だけど、俺たちは二十代半ば前後のベストの年頃だよ。なんの問題もないんだけど、ただ、ミヤちゃんの仕事がなぁ……」
「やめて専業主婦にならせれば?」
「ミヤちゃんは子どもが産まれても働きたいって言ってたよ」
「結婚してからの話はしたの?」
「一般論みたいにだったらしたけど、ほんとは今年の正月に、初詣に行ってその帰りに……そう予定していたんだけどな」

 なぜか胸がざわめく。悩ましげな吐息をついている謙太に、るり子は言った。

「ひとりで先走ってるだけじゃないの?」
「そっかな」
「距離を置こうっていわれたんでしょ」
「そうだけど、あれはミヤちゃんが忙しくて、デートできないからって意味だよ」

 その場合、距離を置こうとの言葉は適切ではない。忙しくてしばらく会えないの、ごめんね、がふさわしいのではなかろうか。るり子がそう言うと、謙太は一笑に付した。

「ミヤちゃんは言葉遣いはあまり得意じゃないんだよ。同じ意味だから」
「そうかなぁ。それは謙太くんの希望的観測ってやつじゃないの? ミヤちゃんのほうは謙太くんに飽きたとか、他に好きな男ができたとかで別れたくなってきたの。謙太くんが結婚したがってるのを察したのかもしれない。謙太くんは勝手に先走って盛り上がってるけど、若いミヤちゃんは結婚なんて考えられないのかもしれない」

 そんなことは……と呟いた謙太の表情が険しくなっていく。るり子はなおも言った。

「そんなときにデパートの繁忙期になった。ミヤちゃんがほんとに忙しい売り場の応援に行かされたのかどうかは知らないけど、口実にはうってつけだもんね。それを使って謙太くんとは会わないように仕向けて、徐々にフェイドアウトっていうのかな。その可能性が高いなぁ」
「それはないって」
「どうしてそう言い切れるの? 謙太くん、空気読めよって思われてるかもよ。私は別れたいのにしつこいんだから、どうしたらいいんだろ、って、ミヤちゃん、今ごろ別の男に相談してるかもね」
「……そんなことは……」

 ひょっとしたら思い当るフシがあるのだろうか。謙太は黙りこくってしまい、るり子は笑いたくなりそうなのをこらえていた。
 そのままどのくらいの時間が経過しただろうか。無言でいるのが気づまりになってきたころになって、謙太はスマホを取り出した。

「メールでもするつもり? やめたほうがよくない? 未練たらしいのってみっともないよ」
「いや、着信があったから」

 スマホを開いてメールを読んでいた謙太の表情が、徐々に明るくなっていく。愁眉を開いたかのように、謙太はメールの一部を声に出して読んだ。

「今日はやっと平常業務に戻ったよ。まだ疲れていたんだけど、そんなときこそ謙太さんに会ったら癒してもらえるのかなぁって思ってます。甘えていい? 来てくれる? だって。俺、行ってくるよ」
「別れ話かもね」
「……るりちゃん……いや、いいよ」

 悪いけど、と言い置いて、自分のコーヒー代をテーブルに置いて、同情のまなざし? とも読めなくもない目でるり子を見て、謙太は行ってしまった。

「……というような話があったのよ。
 意地悪のつもりはなかったんだけど、私の考え方ってまちがってる? 謙太くん、どこに行ったのかな。彼女のマンションかな?
 仲直りするのかな。結婚するのかな。
 それとも、私の推理が当たってて、その通りの展開になるのかな。そうなったら謙太くんは私を見直すかな。女の勘って鋭いんだなって」

 謙太が彼女に会えなくなったいきさつからはじめたメールを打って、女友達に送信した。るり子も席を立って店を出て、とっぷり暮れた道を歩いていたら、友達から返信があった。

「そういうの、うがった見方っていうんだろうね。意地悪っていうよりも、なんだろ。もしかしたらるり子、ほんとは謙太くんが好きだとか?」
「同僚としてっていうか、年下だから弟みたいでもあり、友達でもあるだけだよ」
「深層心理にはそういうの、ありそう。それから謙太くんと彼女がどうなるのかは知らないけど、謙太くんには、るり子って性格悪いなとは思われただろうね。るり子、まずいことしたかもよ」

 文章の語尾に「嘲笑」とついていそうな語調だった。
 意地悪といえばあんたが一番じゃないの、るり子は自分を棚に上げて友達を罵ってみた。

次は「み」です。



 


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~ Comment ~

NoTitle

女性としてはやはり結婚は早目というのは考えるのかな。
・・・まあ、子どもが欲しいとなるとやはり・・・。
色々と大変ですよね。考えることがあって。

LandMさんへ2

こちらもありがとうございます。

人によるのでしょうけど、私の世代はけっこう独身女性が多いですよ。
そんな先輩世代を見ている若い女性たちは、最近はまた早く結婚したがるとか?

結婚も善し悪しですけど、独身も善し悪しですから、人生ってのは結局しんどいものなのかもしれません。

あかねさんへ!!

いかがお暮らしですか?笑)
今日は虎が1点先取しましたよ・・・!
行楽にもいけないので応援しています。!!笑)☆!!

荒野鷹虎さんへ

阪神の話のできる方があまりいませんので、荒野さんのコメント、とっても嬉しいです。ありがとうございます。

外出していて出先でプロ野球速報を見たら、七対三で負けてました。
結果は十対三でしたね。
能美くんったら、完封勝ちの次はこうですよね、笑うしかありませんよね。
その前の日に三点取れよぉ(/_;)

トラはほんと、やっぱり優しいです。
巨人の高木くんの連勝記録を止めては一大事ですもの。
あーあ、つまんない二日間でした(笑)

と、ぼやいてばかりいますが、また阪神ネタ、荒野さんのブログでも読ませて下さいね。楽しみにしています。

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