ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「愛想笑い」

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フォレストシンガーズ

「愛想笑い」


 不意に思い出したのは、二十一歳の美江子さんだ。あのころ、俺は十九歳で、フォレストシンガーズを結成したばかりだった。

「美江子さんの好きな男のタイプってどんなの? 背は高いほうがいいんでしょ。俺が小さいからって気を遣わなくてもいいから、純粋に好みを言って下さい。男の理想身長は?」
「そうね、百八十センチ以上」
「むむむ……」

 高校生ぐらいの年ごろの俺の夢は、身長が百八十センチ以上になることだった。親父は百七十センチほどはあるのだから、息子が十センチ高くなるのはよくある話だ。だが、俺は小柄な母に似た。妹たちも母に似て小さい。
 おそらくはあの強い母の遺伝子は父よりも強く、息子も娘も母親似になってしまったのだと思える。お喋りなところも声が黄色いところも、妹たちも俺もおふくろそっくりなのだから。

「気を使うなって言ったの、幸生くんじゃないの」
「そうですね。はいはい、どうぞ続けて」

 毒食らわば皿までと言う。俺は自虐的な気分になって、美江子さんの理想の男性像を聞いていた。
 背が高くて筋肉質で、彫りの深い顔をした美男子。そんな奴、どこにいるんだよ、俺とは正反対のルックスじゃん。体格的には本橋さんは近いけど、顔が遠すぎる。俺は美江子さんに恋をしてはいないが、こうまで俺とは真逆のタイプを並べられるとむすっとしたくなった。

 むすっとしたくなっても女性の先輩の前ではそんな顔はしないのが俺だ。俺が女の子だったらそんな男に惚れるだろうな、なんて相槌を打っていた。

「性格は? 中身は? ねぇ、美江子さん、中身ってなんなんだろうね? 性格がいいっていうのはどんなの?」
「幸生くんの性格はどんなの? 私はまだ、キミの中身のすべてはつかんでないよ」
「俺は性格はいいですよ。ルックスもいいでしょ」

 うんうん、そうだね、と笑ってくれてから、美江子さんは言った。

「性格や中身のよさっていうのは、自分に合うか合わないかもあるよね。私の好きなタイプの男性っていうのは……」

 二十一歳の美江子さんは、男の外見には確固たる好みがあっても中身はこうとは断言できなかったのかもしれない。ふたりして街を歩き、見つけたカフェに入ってから彼女は言った。

「私は女のくせにって言われるとむっとするんだけど、言っちゃうときはあるのよね。男でしょ、しっかりしなさいよ、って。乾くんだと恐縮したふりをする、本橋くんだと、ああ、悪かったな、俺は男のくせにだらしねえんだよっ、って悔しそうな顔をするの」
「つまり、美江子さんは男らしい男が好きだと?」

「そうは言ってないよ。男らしいってなんなのよ?」
「俺は男らしくないから……えと、だから、俺と正反対の男とか?」
「幸生くんとは反対のタイプっていうんだったら好みかも」
「ちぇっ」

 声に出して舌打ちする俺を、美江子さんはお姉さんのまなざしで見て微笑んでくれた。
 甘党ではない彼女と俺は、ハムエッグ添えパンケーキなんてものをオーダーして、コーヒーを飲んでお喋りした。

「男らしいっていうのは口にしたくないけど、男っぽいっていうのはタイプだよ。背が高くてがっしりしてて私がもたれかかっても微動だにしないっていうか、もたれかかるつもりはないけど、たまにはちょっとだけ……なんての、あるものね。そんなときに焦ったりしないで、余裕で受け止めてくれる。ごくたまでいいから、甘い恋人たちになりたいときに乗ってくれる。大きな優しさを持ったひと。それでいてちょっとだけワルっぽいのも好き」

 まったくもって俺には無理なことばっかり言ってくれちゃってから、最後に美江子さんは言った。

「幸生くんは男っぽくもないから、こんな会話がスムーズにできるんだよね。女友達と話してる気分になっちゃった。ここはおごるからね」
「……ごちそうさまでしたぁ」
「はいはい、どう致しまして」

 その後、俺は知った。
 あのときに美江子さんが持ち出した「理想の男」は、美江子さんが大学一年生のときの彼氏だと。彼は当時大学四年生で、卒業前に美江子さんと別れた。

 フォレストシンガーズがデビューしてから、その彼と再会した。美江子さんと同い年の本橋さんや乾さんは彼を知っていたが、シゲさんも章も俺も、美江子さんが一年生のときには高校生なのだから、彼女の恋は知らなかった。

 彼、星さんと会って七人で酒を飲んだのだから、そういうことには疎いシゲさんだってなにかしらは感づいただろう。乾さんは意味深な発言をしていたし、美江子さんは切なそうな瞳で星さんを見ていた。

 そんなひとときがあってから、星さんとはプライベートでごくたまに会うようになった。
 年齢は俺よりも六つ上。身長は二十センチは上。彼は合唱部ではキャプテンではなかったらしいので、思い出した美江子さんとのひとときも考えつつ、質問してみた。

「俺はキャプテンなんて器じゃなかったよ」
「高倉さんがいたからっていうのもあるんですか」
「高倉さんがいなかったとしても、俺にキャプテンをやらせようって奴はいなかったんじゃないかな」

 高倉さんは本橋さんと乾さんが合唱部に入部した年の男子部キャプテンだ。彼が本橋さんと乾さんを抜擢してくれたからこそ、フォレストシンガーズの下地ができた。レコード会社のプロデューサーになっている高倉さんには、現在も仕事の面でお世話になっている。

「器だなんて言われると、だったら俺は……となりますけどね」
「ああ、おまえもキャプテンだったんだよな。人間の器はおまえのほうが大きいんだろ」
「……星さんよりも?」
「人は見かけによらないもんな」

 お世辞なのか、深い意味があるのか。しかし、俺はポジティヴユキだ。褒められたのだと解釈して星さんのグラスにウィスキーの水割りを作ってさしあげた。
 ここは「向日葵」。マスターの言によると、合唱部の大先輩が通うようになり、先輩が後輩を連れてきて口コミで広がっていった。俺の母校の卒業生たちは向日葵の上得意さまなのだそうだ。

「ありがとうございます。素直に受け止めます」
 ふふっと笑った星さんがグラスを口に運ぶ。酒の飲み方までがさまになっていて、見とれてしまう。若いころだって、三十代になった現在だってもてるんだろうなぁ。

 男を見ると、こいつ、もてるのかな? まず俺の頭にはそれが浮かぶ。どっちともはかりかねる男もいるが、星さんはまちがいなくもてる。あの美江子さんが……美江子さんは今でも時として、大好きだったあのひとが……などと言葉にしては口を閉ざし、ううん、なんでもないのよ、と笑う。その顔はたまらなく色っぽくて、俺の妄想がかきたてられるのだ。

「星さんはどう……」
「ん?」
「いえ、いいんです」

 たった今の星さんの心には、山田美江子はどんなふうに残っているのだろう。大勢いるモトカノのひとりにすぎないのか。俺が詮索するのはいらぬお節介だろう。
 あなただって美江子さんを愛していたんでしょ? あなたの愛したひとが、あなたのよく知っている男と結婚したって、どんな気分なんですか? 訊いてみたいけど訊けなくて、俺も水割りを飲んだ。

「そろそろ……」
「あ、俺も仕事なんで、出ますよ」
「そっか。じゃ、一緒に」

 電機メーカーのオーディオ部門勤務の星さんは、エリートビジネスマンだ。俺より収入は多いのかな? そこんところは謎だが、先輩がおごってくれると言うのだから、先輩に恥をかかせてはいけないのだから、俺の分までカードで払ってくれている星さんのうしろでかしこまっていた。

「ごちそうさまでした」
「うん、出ようか」

 しかし、失敗した。俺はあとから出るべきだった。
 うちの先輩たちにしたって俺よりは背が高い。俺より低いのは章だけだ。だが、本橋さんも乾さんも見慣れているし、並んで歩くと小さくて可愛い後輩気分になれて別に悪い気はしない。シゲさんとだとさほどに背丈の差もないし、今さら気にもならない。

 それに、正直、本橋さんも乾さんも星さんほどにはかっこよくない。けど……ええん、星さんとは並んで歩きたくないよぉ。

「どうしたんだ?」
「いえ、では……」

 あのさ、俺、これでも……いやいや、俺はミュージシャンだからだなんて、なんの根拠もない。一般ビジネスマンの星さんとは生まれつきがちがうのだから、彼のほうがかっこいいのはしようがない。だけど、腐るよねぇ。

 怪訝そうに、どうした? と再び言った星さんを見上げ、なんでもありませーんっ!! と答えた俺の顔には、ぎこちない笑みが張り付いていたはずだ。
 よけいなお節介に気を回さなくてすむんだから、身長のことばっかり考えてるほうがいいのかもしれないけど。

end




 
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~ Comment ~

身長かあ

男の人に取っては、やっぱり身長も気になるところでしょうね。
ユキちゃんは、気にし過ぎ(笑)170なかったんだっけ?
確かに背の高い男って、ポイント高いですよね。でも、そこだけに惚れる女はそんなにいないわけだし、大丈夫よユキちゃん、と、励ましたくなりますね。
「どんな人がタイプ?」って聞かれると、昔は面白くて優しい人、とか、曖昧に答えていたんだけど、何に惹かれるかっていうのは、結局恋してみないと分りませんもんね。
私が高校の時に好きになった先生も、就職して好きになった人も、みんな冷たくてクールで、いけずな感じの人でしたもん^^;

limeさんへ

いつもありがとうございます。

ユキは163センチ、章が161センチ。
後輩の酒巻が158センチ。フォレストシンガーズシリーズミニトリオです。

そんなの気にならないという男性もいるのでしょうけど、小柄だとたいてい、実は気にしてますよね。
「誰か紹介して~俺よりも背の低い女がいい~」と言っていたとある男性も背が低かった。

でも、もちろん身長だけで選ぶわけではありませんので、好きになった相手の背が低くても許してしまいますよね。

ほぉほぉ、limeさんは冷たくてクールでいけずな男が好き……と? あれ、たまたまそういう男性を好きになってしまっただけですね。

私も若いころにはわりとそんなタイプが好きでしたが、ある程度の年齢になると、あたたかくて思いやりのある男がいいと思うようになりました。
今は、話していて気楽で楽しい男性が一番です。


あかね さんへ!!♪

今日は心強いコメント有り難うございました。!
運動会の前夜のごとくそわそわして待っています。笑)
虎は優しい男の集団ですので可愛がっていきましょうね~~笑)

荒野鷹虎さんへ

コメントありがとうございます。

ほんと、虎さん優しいですね。
巨人の新外国人に自信をつけさせてあげたり、虎キラーにさせてあげて勝ち星をつけてあげたり。

広島の救世主に勝ちをつけてあげたり、連敗チームの負けを止めてあげたり。etcetc。

そんな虎が私は好きですが、完投負け二度目の藤浪くん、かわいそう。彼こそ虎を嫌いにならないでほしいものです。

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